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17章 逃亡の冬

17-10 温泉

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 アスア王国の宰相からの手紙のせいで、ノーレンさんがククーと連絡を取った。
 わざと宗教国バルトにあの新英雄ロイを渡してみないか?というご提案をノーレンさんが神聖国グルシアにしてしまった。
 今ならロイは喜んで宗教国バルトに行くのかなー?

 アスア王国の王城にある玉座の下にいたが、今は宰相の机の上にある塔の置き物のミニミニダンジョンが、誰宛であろうとも咥えてしまえば、書かれている情報は俺に筒抜け。。。改竄するわけにもいかないのでそのまま届けたが、届けなかった方が良かっただろうか。
 俺がいちいちチェックしていたら面倒だから、自動転送されているので止めようはないけど。
 とは言っても自動転送されるのは、神聖国グルシアの教会宛ならばミニミニダンジョンを持っているククーへと、俺の人形に数か所への転送機能をつけたノーレンさん宛のみだ。
 他の宛先を書いても宰相のところのミニミニダンジョンは咥えているだけである。
 情報だけが俺に伝わる鬼畜仕様。。。
 英雄ザット・ノーレン宛と書いてもその手紙は俺には届かないぞー、宰相。
 宰相としては俺に情報が伝わっていればいいのか。。。その情報はしっかり俺に伝わっているな。。。ある意味で正解か。。。
 たまに俺宛を咥えさせて反応を見るな。変わらないぞ。


 その宰相はあまりにも汚かった塔の置き物を布で拭いた。
 そりゃ、誰も管理しない埃まみれの玉座の下の空間に長い期間いたら汚れる。
 ミニミニダンジョンは非常に嬉しかったらしく、俺に喜びの声を伝えてくれた。
 何か御礼してーと言う気持ちとともに。
 というわけで、俺のダンジョン産のお酒を贈っておきました。
 好評だったら定期的に宰相に送ろう。
 俺好みの酒のファンを増やすのだ。
 ノーレンさんも定期的に送ってほしいと言ってくれたし、徐々に増やしていくぞー。

 グレイシアさんには高値で売っているけど。
 贈った後、鬼気迫る勢いで買いたいと家に乗り込んできた人には、次からは売ることにした。怖いから。
 それでもかなりの本数を買っていく。一日寝る前小さいグラス一杯の用法用量を守ってお飲みください。守ってね、グレイシアさん。
 それは小さいグラスとは言わんよ。あのエーフィルでさえ呆れた目を向けているじゃないか。
 次の注文のときは小さいグラスと共に酒を送ろう。

 俺のダンジョンにいる角ウサギや、遊びに来るククーもうちの酒は飲み放題だ。
 ククーはまだまだ人間だから、たくさん飲ませよう。
 もうしばらくすると、魔道具がなくとも本人待望の攻撃魔法も使えるようになるんじゃないかな?

 五十四号はダンジョンコアの角ウサギ、あの酒を飲んでも多少しか酔わない。
 が、あの酒に弱いのは、元人間の角ウサギたちだ。度数が度数だからな。酒の泉によっては多少低いものもあるが、魔力を消費するための泉なのでかなり度数が高くなる。慣れてないモノたちは割って飲む方が安全だ。なのに、五十四号は樽であの街に持って行く。
 翌日に酒が残らないと言っても、あの街で朝まで踊り明かすのはやめてほしい。祭りならば朝まで騒ぐのもいいが、完全にただの超酔っ払い集団なので、五十四号には彼らとの酒の飲み方を教えてやらねばならない。角ウサギになっていれば急性アルコール中毒とかにはならないが、適度な酒の飲み方を知らなければ。
 小さい子供たちが白い目で、騒ぐ大人たちを見ているぞ。

 とは言っても、アスア王国の王族の角ウサギは、広大な農地を開拓している。この人たちは国民のために自分たちだけで酒は飲めないと節制しているので、いつかアスア王国の国民が飢えから救われたら皆で飲もうを意気込みに畑で頑張っている。
 俺のダンジョンは魔力が豊富だ。ダンジョンだけで育つ魔力が必要な薬草と違い、普通の作物の種を植えるとかなりのスピードで育つ。肥料も魔力で補うので、特にいらない。畑をきちんと耕し、水をやり、世話すると、不思議なくらい早く育つ。
 それらを同じ階層の街で角ウサギになっているエルク教国の商人の名前を貸してもらい、アスア王国に南方の都市に送る。
 国民の飢えを解消するために畑で頑張るアスア王国の王族たち。
 国王よ、見習ってはどうか?
 王都の王城の隠し部屋にのんびりと佇んでいないでさ。
 国王の失政の尻拭いを必死にやってるよ。




 さて、最凶級ダンジョンが大量発生しているが、各国の普通のダンジョンも通常営業している。
 
「我が王、たまにはうちにも遊びに来てください」

 忘れていたわけじゃないけどね。
 シアリーの街の北にあるダンジョンのダンジョンコアである北の執事が呼んでもないのに悲しそうな表情で現れた。

「角ウサギたちにかまうのが忙しくて」

「我が王、、、ダンジョンマスターである前に冒険者であることを忘れないでください」

 ここは俺のダンジョン内にある家のククーの執務室。
 ソファで角ウサギたちをなでなでしている最中だ。角ウサギたちもこの頃は密集しないで順番にやってくる。偉いなー。ダンジョンの仕事は仕事としてしっかりやってくれる。
 冒険者であることは忘れてない。シアリーの街の冒険者ギルドと薬師ギルドに週一通っている。

「この頃、北のダンジョンに行くこともないからなー」

「うう、、、我が王」

「私がその脆弱なダンジョンを殲滅してきましょうか」

 こらこら、怖いことを言うな。
 期待を込めた眼差しで、なでなでされている角ウサギが見ている。
 命令を待つな。

「ダメだぞー。俺の知恵袋を滅ぼしたら」

「残念ですー」

 俺も、ここにいるダンジョンコアの角ウサギたちも、ダンジョンコアの常識なんか知らないからなー。
 長年生きているダンジョンコアの知識は重要なものだ。相談にのってもらわなければならないことは山ほどある。
 湯水のように湧き出る酒の泉の出し方も教えてもらったものである。

「はっ、温泉っ」

 しょんぼりとした角ウサギを横に置いて、ついつい湯水のよう、で思い出してしまった物を口に出す。

「、、、まさか、我が王、温泉と言いながらも、お酒の温泉に入りたいとか思っておりません?」

「いやーさすが、北の執事ー、わかってるねー」

「お酒風呂というのは少量のお酒しか入ってませんよ?我が王の酒の泉のような高いアルコール度数の風呂なんてありませんよ?」

「じゃあ、ちょっぴり酒を混ぜた温泉を作りたい」

 妥協案。
 北の執事はほんの少し憂いた表情を見せたが、すぐに元に戻った。

「では、どちらの階層で作りますか?酒の泉の酒を混ぜるのなら近い階層の方が楽だと思いますが」

「うーん、酒の泉の階層で温泉作ると、それはそれで衛生上微妙な雰囲気がするな。とすると、入る客が多いと思われる酒造りの街の階層でいいか」

 温泉を作っても誰も入ってくれないと寂しいからな。

「、、、レン、とりあえず言っておく。エルク教国は風呂に入浴する習慣はないぞ。冬でもわりと暖かい国だからシャワーや湯をかける程度の国だぞ」

 今まで沈黙を貫いていたククーがようやく口を開いた。
 俺がこの書斎にいるのは、基本的にククーが来ているときだからな。

「でも、今はアスア王国の王族たちもいる。彼らは風呂が大好きだから、その習慣をエルク教国の皆にも教えてあげれば良い」

「、、、それはそうだが。温泉は高い度数の酒で作るんじゃないぞ。元人間の角ウサギはそこの角ウサギより丈夫じゃないぞ」

「丈夫じゃないから、労うんじゃないか。あ、角ウサギたちも混浴は恥ずかしいか?男女別、混浴と作るか。俺も入りたいからな。ククーも一緒に入ろうな」

「ぐほぉっ、げほぉおっ」

 唾液でも器官に入ったのか?ククーがひどくむせた。
 角ウサギがククーの背中をさすっていた。
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