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17章 逃亡の冬

17-7 許せない ※ククー視点

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◆ククー視点◆

 レンのダンジョンにある家の階層は穏やかな気温だ。
 外は真冬で大雪だが、ここでは柔らかな日差しに包まれている。

 今日の休日もここで魔石の研究をしようと思って来た。
 書斎で机に向かっていると、およそ一時間後にレンが書斎にやって来た。

「おはよー、早いなー、ククー」

 朝食後にゆるゆると来たのだろうが、眠そうだ。白いマントをコート掛けにかけている。

「そんなに眠いのなら、転移で来ればいいのに」

「いいんだ。散歩がてら王子と一緒に来たから」

 と、レンは言っているが、王子はこの階層には来ていない。
 王子の身代わりが横たわる花畑の階層にタレタと共に行っている。
 オレオと合流した。オレオは時間があるとそこにいつもいて、身代わりの世話をしている。
 世話といっても、レンが魔法をかけているから汚れないし清潔なのだが、カラダを拭いたり服を着替えさせたり髪を整えたり甲斐甲斐しく世話をしている。
 この五匹の角ウサギはレンに似ているということなのだが、面倒なことが嫌いなレンにもそういう面があるのだろうか。。。ああ、あるんだろうな、英雄だから。

 このダンジョンにダンジョンコアの角ウサギが増えてから、レンを主と呼ぶ最初の五匹は時間ができた。
 残念ながら、レンにかまう時間が増えたモノはいない。というわけで、淋しい想いをしているレンはこの書斎にやって来る角ウサギたちを代わる代わる撫でる。

「ロイは快楽と苦痛を繰り返している。快楽は本当に短時間だが、アンタは拷問にも精通しているのか?」

 痛さというのは慣れてしまう。
 だから、拷問でも苦痛だけを与えるより、途中で快適さを味わってしまう方が後の苦痛が耐えられなくなる。

「ククー、お前らがロイを連れて来たからだろうが。俺はアスア王国で勝手に国民たちがロイを魔物の前に放り出せばそれで終わる話だったんだ」

「一瞬で苦痛が終わるなんてズルいだろ。アンタにあんなことをしていて、死んだだけで許されると思ったら大間違いだ」

 おおっと、真剣な表情過ぎると、レンが引いてしまうな。
 俺の方が英雄よりロイを許せてない。
 英雄のギフトを奪った上に、英雄を殺そうとしながらもトドメを刺さず、苦しめようとしたアイツらが許せない。
 今、生きていてそばにいられて幸せ、と思えたとしても、アイツらを許せたものではない。

「ククーが連れてきておきながら、そこまで怒るのもズルいだろ。ククーも俺を抱かないクセに」

 抱いて良いのか?

「アンタにはヴィンセントがいるだろ」

「いるけどさー、俺はククーも欲しいんだよー。強欲だからさー」

 そこで撫でている角ウサギにぎゅむーッと抱きつくな。ダンジョンコアの角ウサギだから喜んでいるが、その力で締めたら完全に中身が出るだろ。俺は死ぬだろ。

「はいはい。ただ、アンタがアイツには人形の罰で良いんじゃないかと言ったときには、アンタの真意がまったくわからなかった」

 今の新英雄ロイには人形の罰はご褒美に他ならないように思えたからだ。

「せっかくお膳立てしてくれたのなら、最高の罰を味わう必要があるだろ」

 そう、快楽大好きなロイにとっては最悪だ。快楽と感じていた行為がすべて苦痛に変わるのだから。
 そして、苦痛に慣れてきたと思ったら、ごく稀に快楽に変わる。短時間だけ濃い快楽に襲われる。
 心が壊れてもおかしくないのに、レンの匙加減が絶妙だ。ロイは教会で心が壊れない程度に長く苦しんでくれるだろう。
 人形の印があるから、もう逃げ出そうとすらしない。
 完全に神官たちの玩具だ。
 レンの魔法も人形の印に一緒に焼き付けている。完全に自動制御で、快楽出現は多少のランダム設定がある。レンはこんなときも面倒なことは嫌いなのである。
 復讐に燃える鬼になっているわけでもないからな。。。

「王都からの馬車の旅ではすでにカイマに塗り薬だけでなく、飲み薬でも盛られていたし、ロイが教会から逃げる術はないだろ」

「そういう薬の効果で、キザスが宗教国バルトの人間だと薄々感づいていたのだから、微妙だなー」

 だからこそ、あっさりとロイはエースや俺たちの言葉を信じた。
 レンはため息を吐く。本日の角ウサギへのなでなでは抱き締めに変わっている気がする。元人間の角ウサギは間違っても今日のレンに近づくな。内臓が出るぞ。無事ではすまない。

「そんなに違うもんかね?この手の薬の効果は」

「ロイにとって違うらしいなー。アスア王国の物は全然ダメだって。キザスは自分が信頼している宗教国バルトの物ばかり使用しているからロイも気づいた感じだ。ククー、俺で違いを試してみるか?」

 わー、その笑顔、どういう意図なの?
 試してみたいけど。

「アンタはヴィンセントに試してもらえば良いじゃないか」

「ヴィンセントとは特に必要ない」

 ヴィンセントのはおっきいから滑らかに挿れる薬は必要ですけどね。快楽も与える術をヴィンセントが知ってますからね。そういう強い薬はまったくいらないだろう。

「俺とヤるんだったら必要だということか?」

「誘い文句だよ。ククーが素直に挿れてくれるのなら本当は必要ないが、使えるなら試してみたいと思ってもらえるのならそれでもいい。それで、俺の虜になってくれれば尚更良い」

 いや、もう俺はレンの虜なんですけど。
 レンにはヴィンセントがいるから素直には挿れませんが。レンが相手だったら、二股だろうと浮気をされても何でもいいんだが、レンが悲しむことはしたくない。
 ヴィンセントも独占欲の塊だから、俺がレンに手を出したら絶対に衝突するだろ。
 二人の板挟みになるのは、レンである。手を出していない今も衝突しているんだから。。。

「ククーなら薬がなくとも、俺が感じるところを熟知しているんだろ」

 あー、レンの表情がエロい。
 手を出したくなるが、ここは我慢のしどころだ。
 俺のギフトで知ってはいるので、否定はしないけど。

「ククー、お菓子持って来たよー。皆で食べよー」

 王子が元気よくタレタを頭にのせて、オレオを引き連れて書斎にやって来た。
 ナイスなタイミングだ、王子。
 あのまま会話が続けば、ここには角ウサギも何匹もいるというのにヤバかった。

 王子はテーブルに籠を置く。
 角ウサギたちも興味を持って籠を覗いている。

「重いから俺が持って行くって言ったんだけど、自分で朝から作ったから王子が持って行くって聞かなかったんだ」

「美味しそうに焼けたんだから皆で食べるのー。ヴィンセントの分はきちんと家に置いてきたから」

 王子は良い子だな。このまま育ってほしいな。
 小さめの焼き菓子が籠にたくさん入っている。
 このダンジョンにいる角ウサギの分も焼いてきたのかな?

 お茶をいれてこようかと思ったら、ツノがティーセットを持って来た。
 この子たちも良くできた従魔だ。
 本当にこの五匹、王子についていく気がする。

≪ついてかないわよー。私は快適職場のここにいるわよー≫

 タレタの光の文字が俺の目の前に浮かぶ。

「、、、面倒だから?」

≪そうそう、ってなんでやねんっ。必要ならついていくかもしれないけど、成人した王子なら私たちの手助けは必要ないわよ。そもそも、主と私たちは似ているのー。ナルシストでもなければ、自分自身のことを大好きだとは思わないわよー≫

 タレタのノリツッコミは珍しいなー。文字で突っ込まれると不思議な感覚に陥る。
 レンと角ウサギ五匹はそれぞれ似通いすぎているから、まったく違う王子の方が好きだということなのだろうか。

≪主が自分自身のこと、あまり好きじゃあないようにねー≫

 はい、タレター、爆弾を投下しないでー。
 それだと、レンも角ウサギ五匹も自分のこと好きじゃないというようにしか受け取れない。

 嫌いとまではいかないけれど、好きにもなれない。
 俺もその感情をわかる。わかってしまう。
 けれど、レンには。
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