172 / 236
16章 滅びの季節
16-10 指輪 ※ククー視点
しおりを挟む
◆ククー視点◆
夕方、アスア王国の外壁のある街に着き、宿を取った。
一人一室ずつ。
鍵の一つを新英雄ロイに渡すと怪訝な表情で見ている。
「何だ?」
「言いたいことはたくさんあるんだが、俺がお前たちに何も言わずにどこかに行ってしまうと考えないのか?」
監視されたいのか?
俺のギフトがあるから、同じ部屋にいなくとも監視はできるのだが。
アスア王国の国民にバレたら命がないのは新英雄ロイだから、俺たちは逃げられても特に問題はない。うちの国だって勝手に死んでくれるのならソレでいい。逃げ延びて幸せに暮らされるとムカつくだけで。だから、宗教国バルトには渡さない。英雄のギフトの容器としての役割しかないが、コイツはキザスがいれば幸せに暮らせてしまうだろう。
「自分から消えてくれるなら、俺たちも一番楽なんだが」
「エ、エースにうるさく言われないのか」
「お前が勝手に逃げたのなら、俺たちにとやかく言える立場にはない」
「そうだよ。俺たちの方が身分は上だからねー。アイツが何か言えるわけがない」
カイマが横から口を出した。
神聖国グルシアは神官至上主義。神聖国グルシア内で神官に文句を言えるのも、俺が知っている範囲ではレンぐらいだ。レンは大神官長であっても喧嘩を売るからな。結局、レンは英雄という職を離れても、意外と正義の人なのである。そうでなければ、カイマを救った理由がない。
「そういう情報はわざわざ教えてやる必要はない。俺たちは上から言われたことをやるだけだ」
「はいはいー」
「それと、もう少し速く馬車を走らせれば、夜には次の街には着けたはずだ。こんなゆっくり馬車を走らせて」
ロイはさっさとアスア王国からおさらばしたいらしい。他国に逃げても、新英雄ロイは針の筵だと気づかないのだろうか。アスア王国の国民より周辺の宗教国家の方がアスア王国の英雄に対する恨みは大きい。英雄だからとチヤホヤされる国はアスア王国だけだ。チヤホヤされていると見るのは他人ばかりで、当の本人には苦労しかなかったようだが。
他国でも持てはやされる英雄ザット・ノーレンは例外中の例外だ。
ロイは神聖国グルシアのシアリーの街での英雄の歓迎ぶりを見ている。アスア王国の英雄すべてにあんな歓迎をすると思ったら大間違いだ。
ロイは神聖国グルシアでも英雄として歓迎されると勘違いしている。
「おかげで魔物には出会わなかっただろう。お前が一対一で戦いたいのなら、そのように調整するが?」
「うわー、鬼畜なこと言うねー」
カイマはこの新英雄ロイは一対一でも死ぬと考えている。実際その通りだが。
「まだ一対複数と言わないだけ優しさがあるというものだが。一匹だけで現れる魔物を探すのも、このアスア王国では大変だ」
「その優しさは言われないとわからない優しさだなー。アスア王国は今や魔物大国だから、確かに一匹だけ逸れている魔物を探す方が難しいか」
カイマが納得した。
ロイはものすごく嫌そうな顔をしている。
ようやく宗教国バルトもロイを探し始めた。
アスア王国の王城が国民に襲撃されたが、新英雄ロイは別の小さい部屋で隠れているとキザスは安心し切っていた。王城が落ち着いてから、こっそりとキザスがその部屋に迎えに行ったが、そこには誰もいなかった。
魔術で監視していたはずのキザスが出し抜かれた。
ようやく他の宗教国家が介入していることに宗教国バルトも気づいたのだ。
他の国々が自分の国のことで精一杯だと思い込んでいた。
アスア王国ともそこまで仲は良くないが、基本的に宗教国家同士はどこも仲が悪い。
宗教国バルトはまだ俺たちの糸口さえつかめていない。新英雄ロイがどこに向かったかさえ、まだ王都にいるのかさえ判断がついていない。
俺たちは問題なく神聖国グルシアには辿り着けるだろう。
そう、神聖国グルシアの聖都までは新英雄ロイも無事だ。
ただ、我々についてきても新英雄ロイには地獄しか待っていない。
ふと思う。
レンには『魔王』のギフトのペンダントがある。
英雄のギフトもそういうことはできないだろうか。
英雄のギフトを持たないロイがどうなろうと、神聖国グルシアは知ったことではない。
英雄のギフトがなくなれば、宗教国バルトもロイが必要なくなるだろう。
宿屋の部屋に入ると、ぷくぷくほっぺのレンがいきなり現れた。
あー、可愛い。
「ここはまだアスア王国だぞ」
俺はさっさと部屋の扉を閉める。
「伯爵領だから良いんだっ」
何が?
理由がよくわからないが、潰したいと思っていたぷくぷくほっぺを両手でぷにぷに潰す。
良い弾力だ。堪能する。
俺はもう重症だと自覚している。レンの潰れた顔でも可愛いとしか思えない。
レンは腕組みをして、俺に自由にさせてくれている。
「何でククーがアイツを迎えに行っているんだっ」
「他に安全に運べる奴がいないからだろ。進んで自殺したいと考える神官はいない」
アスア王国は危険地帯だ。神聖国グルシア方面はまだまだ最凶級ダンジョンは少ないとはいえ、アスア王国の他の地方より少ないだけだ。魔物は辺り一面にいる。そこを潜り抜けられる神官は少ない。
「ククーがアイツを抱いたら殺すぞ」
それって嫉妬ですかね?嫉妬だったら嬉しいんですけど。
「何で俺が、、、」
と言って気づく。そうそうあの新英雄ロイは毎日キザスと王女アリシアとヤりまくっていたんでした。
ヤられたいと思ったら、可愛いカイマではなく身長の高い俺の方に来るな、きっと。
「そういうときのために僕が呼ばれているんだから安心しなよ」
扉をほんの少し開けて、カイマがボソッと呟いた。
すぐに扉は閉められた。
やはり、部屋の扉を俺が閉める前に、中に現れたレンの姿を見られたな。
うん、カイマもちょっと素直になった方が良いんじゃないか?
レンにお礼を言いたいなら、言った方が楽になるんじゃないか?
カイマは一生、レンに対してそういうぶっきらぼうな態度を取り続けるの?苦労じゃない?
一生素直になれない人種なのかな?
「ふーん、そうなの」
レンは笑顔ではない。カイマのおかげでぷくぷくほっぺは沈静化してしまったが、不機嫌の域にいる。
それでも、レンは俺の左手を取り、薬指に口づけをする。
「今日は大人しく帰るけど、俺を抱かないのに他の奴を抱くなよ。じゃあな」
レンは言い残すとあっさりとこの部屋から消えた。
余韻は手に残っているが。。。
うう、洗いたくない。
そう、俺の薬指の指輪はレンとの結婚指輪である。レンの左手薬指にも同じ指輪がはまっている。
誰もが言いたいことが山ほどあるだろうが、これはレンの策略にはまったせい。。。
あの日、レンはダンジョンの家の書斎で、自分の遺品整理していた。自分の遺品って何だよ、って思うが、カンカネールが返してくれた英雄の遺品だ。
俺は机で魔石研究を続けていたが、レンがソファのテーブルに遺品を広げていた。角ウサギたちもフキンを持って貴金属を磨き上げていた。
で、俺は見てしまった。
英雄とカンカネールの結婚指輪を。二つが一つの箱に入って返却されていた。
角ウサギがそれらも綺麗に拭いていた。
俺はものすごくそれが欲しかった。
自分に贈られた結婚指輪ではないしサイズも合わないだろうが、英雄が用意した結婚指輪はその一対しかない。
ヴィンセントすら手に入れることができない代物だ。
手に入れることができれば、至上の喜びだろう。
とか考えていたら、レンがテーブルにそれを置き忘れて帰っていった。
収納鞄にそれだけ入れ忘れるだろうか。角ウサギも我が王が置き忘れていたら声を掛けるんじゃないか?
絶対にワザとだ、罠だ、と思いつつもソファに移動している自分がいる。
箱を開けて、二つの指輪を見る。
?
微妙な違和感が頭を支配する。
だが、うまく説明できない。
これは英雄とカンカネールの結婚指輪のはずなのだが。
とりあえず、疑問は置いておこう。
今は英雄の結婚指輪を堪能しよう。
指輪の細いラインはつけるのに邪魔にならない。
シンプルなデザインは英雄らしい。
大きい方の指輪を手にする。こちらが英雄の指にはまるはずだった指輪だ。カンカネールの女性用の小さい方はさすがに俺には小指でもはめることすらできないだろう。
英雄の指のサイズだと俺には緩いだろうが、左手の薬指に指輪をはめてみた。
なぜか俺にピッタリ。
「、、、」
「、、、」
扉の方を見ると、ほんの隙間が開いていて、レンと角ウサギたちが覗いていた。
「結婚指輪はめてくれたー」
嬉しそうな声でレンが言って、書斎に入ってきた。
結婚指輪だが、結婚指輪だぞ?
「ククー、俺の指にもはめてー」
ついついレンの要望通りに、もう一つの指輪を手に取ってレンの左手の薬指にはめてしまった。
本当なら女性ものの指輪だ。さすがに今のレンにも小さいサイズのはずだ。
それなのに、あつらえたかのようにジャストサイズだ。
少々頭を抱える。
言わずともわかるだろう。
この指輪は完全に俺とレンの薬指のサイズで作り直されたものだ。
「だって、ククーが俺との結婚指輪が欲しいって思っていたからー。本当は新しいの作っても良かったんだけど、カンカネールとの指輪で作り直したのは、俺の用意した結婚指輪がこの一対で、これを残しておいてククーとの結婚指輪を作ってしまうと二対あることになるから、ククーはそれが気に入らないかなーと思ってー」
確かにその通りだが。
英雄の一対しかない結婚指輪を欲しがっていたのは、紛れもなくこの俺だが。
レンに言いたいことはあるのだが、まずこれだけは言っておこう。
「レン、ありがとう。大切にする」
けれど、レン、そんなことを勝手にして、ヴィンセントに怒られないのか?
後日、俺が行商人役で行ったときに、お揃いの指輪をしているのを、ヴィンセントと王子にバレた。レンが指輪を左手薬指にはめ始めたときからヴィンセントは怪しいと思っていたらしい。
予想通りヴィンセントはキレたが、俺の指を切り落とそうとまでしたが、レンはヴィンセントとの結婚指輪も俺との結婚指輪も一緒に左手薬指にはめるつもりだったらしい。
「ヴィンセントは俺と先に婚前交渉をしたのだから、ククーとの結婚指輪を広い心で許してくれてもいいだろう」
まあ、ヴィンセントがどう転んでもレンに口で敵うわけもない。レンにこの後、軽ーく丸め込まれていた。
二つの指輪をはめるという案は、ヴィンセントの兄クレッセが提案したことだが、本当ならヴィンセントとの結婚指輪を二つはめるという意味合いで言ったものだ。決して、別の二人の結婚指輪を二つはめるという意味合いで言ったものではない。
レンにそういう手もあるね、と思わせてしまったら終わりなんだ、クレッセ。
夕方、アスア王国の外壁のある街に着き、宿を取った。
一人一室ずつ。
鍵の一つを新英雄ロイに渡すと怪訝な表情で見ている。
「何だ?」
「言いたいことはたくさんあるんだが、俺がお前たちに何も言わずにどこかに行ってしまうと考えないのか?」
監視されたいのか?
俺のギフトがあるから、同じ部屋にいなくとも監視はできるのだが。
アスア王国の国民にバレたら命がないのは新英雄ロイだから、俺たちは逃げられても特に問題はない。うちの国だって勝手に死んでくれるのならソレでいい。逃げ延びて幸せに暮らされるとムカつくだけで。だから、宗教国バルトには渡さない。英雄のギフトの容器としての役割しかないが、コイツはキザスがいれば幸せに暮らせてしまうだろう。
「自分から消えてくれるなら、俺たちも一番楽なんだが」
「エ、エースにうるさく言われないのか」
「お前が勝手に逃げたのなら、俺たちにとやかく言える立場にはない」
「そうだよ。俺たちの方が身分は上だからねー。アイツが何か言えるわけがない」
カイマが横から口を出した。
神聖国グルシアは神官至上主義。神聖国グルシア内で神官に文句を言えるのも、俺が知っている範囲ではレンぐらいだ。レンは大神官長であっても喧嘩を売るからな。結局、レンは英雄という職を離れても、意外と正義の人なのである。そうでなければ、カイマを救った理由がない。
「そういう情報はわざわざ教えてやる必要はない。俺たちは上から言われたことをやるだけだ」
「はいはいー」
「それと、もう少し速く馬車を走らせれば、夜には次の街には着けたはずだ。こんなゆっくり馬車を走らせて」
ロイはさっさとアスア王国からおさらばしたいらしい。他国に逃げても、新英雄ロイは針の筵だと気づかないのだろうか。アスア王国の国民より周辺の宗教国家の方がアスア王国の英雄に対する恨みは大きい。英雄だからとチヤホヤされる国はアスア王国だけだ。チヤホヤされていると見るのは他人ばかりで、当の本人には苦労しかなかったようだが。
他国でも持てはやされる英雄ザット・ノーレンは例外中の例外だ。
ロイは神聖国グルシアのシアリーの街での英雄の歓迎ぶりを見ている。アスア王国の英雄すべてにあんな歓迎をすると思ったら大間違いだ。
ロイは神聖国グルシアでも英雄として歓迎されると勘違いしている。
「おかげで魔物には出会わなかっただろう。お前が一対一で戦いたいのなら、そのように調整するが?」
「うわー、鬼畜なこと言うねー」
カイマはこの新英雄ロイは一対一でも死ぬと考えている。実際その通りだが。
「まだ一対複数と言わないだけ優しさがあるというものだが。一匹だけで現れる魔物を探すのも、このアスア王国では大変だ」
「その優しさは言われないとわからない優しさだなー。アスア王国は今や魔物大国だから、確かに一匹だけ逸れている魔物を探す方が難しいか」
カイマが納得した。
ロイはものすごく嫌そうな顔をしている。
ようやく宗教国バルトもロイを探し始めた。
アスア王国の王城が国民に襲撃されたが、新英雄ロイは別の小さい部屋で隠れているとキザスは安心し切っていた。王城が落ち着いてから、こっそりとキザスがその部屋に迎えに行ったが、そこには誰もいなかった。
魔術で監視していたはずのキザスが出し抜かれた。
ようやく他の宗教国家が介入していることに宗教国バルトも気づいたのだ。
他の国々が自分の国のことで精一杯だと思い込んでいた。
アスア王国ともそこまで仲は良くないが、基本的に宗教国家同士はどこも仲が悪い。
宗教国バルトはまだ俺たちの糸口さえつかめていない。新英雄ロイがどこに向かったかさえ、まだ王都にいるのかさえ判断がついていない。
俺たちは問題なく神聖国グルシアには辿り着けるだろう。
そう、神聖国グルシアの聖都までは新英雄ロイも無事だ。
ただ、我々についてきても新英雄ロイには地獄しか待っていない。
ふと思う。
レンには『魔王』のギフトのペンダントがある。
英雄のギフトもそういうことはできないだろうか。
英雄のギフトを持たないロイがどうなろうと、神聖国グルシアは知ったことではない。
英雄のギフトがなくなれば、宗教国バルトもロイが必要なくなるだろう。
宿屋の部屋に入ると、ぷくぷくほっぺのレンがいきなり現れた。
あー、可愛い。
「ここはまだアスア王国だぞ」
俺はさっさと部屋の扉を閉める。
「伯爵領だから良いんだっ」
何が?
理由がよくわからないが、潰したいと思っていたぷくぷくほっぺを両手でぷにぷに潰す。
良い弾力だ。堪能する。
俺はもう重症だと自覚している。レンの潰れた顔でも可愛いとしか思えない。
レンは腕組みをして、俺に自由にさせてくれている。
「何でククーがアイツを迎えに行っているんだっ」
「他に安全に運べる奴がいないからだろ。進んで自殺したいと考える神官はいない」
アスア王国は危険地帯だ。神聖国グルシア方面はまだまだ最凶級ダンジョンは少ないとはいえ、アスア王国の他の地方より少ないだけだ。魔物は辺り一面にいる。そこを潜り抜けられる神官は少ない。
「ククーがアイツを抱いたら殺すぞ」
それって嫉妬ですかね?嫉妬だったら嬉しいんですけど。
「何で俺が、、、」
と言って気づく。そうそうあの新英雄ロイは毎日キザスと王女アリシアとヤりまくっていたんでした。
ヤられたいと思ったら、可愛いカイマではなく身長の高い俺の方に来るな、きっと。
「そういうときのために僕が呼ばれているんだから安心しなよ」
扉をほんの少し開けて、カイマがボソッと呟いた。
すぐに扉は閉められた。
やはり、部屋の扉を俺が閉める前に、中に現れたレンの姿を見られたな。
うん、カイマもちょっと素直になった方が良いんじゃないか?
レンにお礼を言いたいなら、言った方が楽になるんじゃないか?
カイマは一生、レンに対してそういうぶっきらぼうな態度を取り続けるの?苦労じゃない?
一生素直になれない人種なのかな?
「ふーん、そうなの」
レンは笑顔ではない。カイマのおかげでぷくぷくほっぺは沈静化してしまったが、不機嫌の域にいる。
それでも、レンは俺の左手を取り、薬指に口づけをする。
「今日は大人しく帰るけど、俺を抱かないのに他の奴を抱くなよ。じゃあな」
レンは言い残すとあっさりとこの部屋から消えた。
余韻は手に残っているが。。。
うう、洗いたくない。
そう、俺の薬指の指輪はレンとの結婚指輪である。レンの左手薬指にも同じ指輪がはまっている。
誰もが言いたいことが山ほどあるだろうが、これはレンの策略にはまったせい。。。
あの日、レンはダンジョンの家の書斎で、自分の遺品整理していた。自分の遺品って何だよ、って思うが、カンカネールが返してくれた英雄の遺品だ。
俺は机で魔石研究を続けていたが、レンがソファのテーブルに遺品を広げていた。角ウサギたちもフキンを持って貴金属を磨き上げていた。
で、俺は見てしまった。
英雄とカンカネールの結婚指輪を。二つが一つの箱に入って返却されていた。
角ウサギがそれらも綺麗に拭いていた。
俺はものすごくそれが欲しかった。
自分に贈られた結婚指輪ではないしサイズも合わないだろうが、英雄が用意した結婚指輪はその一対しかない。
ヴィンセントすら手に入れることができない代物だ。
手に入れることができれば、至上の喜びだろう。
とか考えていたら、レンがテーブルにそれを置き忘れて帰っていった。
収納鞄にそれだけ入れ忘れるだろうか。角ウサギも我が王が置き忘れていたら声を掛けるんじゃないか?
絶対にワザとだ、罠だ、と思いつつもソファに移動している自分がいる。
箱を開けて、二つの指輪を見る。
?
微妙な違和感が頭を支配する。
だが、うまく説明できない。
これは英雄とカンカネールの結婚指輪のはずなのだが。
とりあえず、疑問は置いておこう。
今は英雄の結婚指輪を堪能しよう。
指輪の細いラインはつけるのに邪魔にならない。
シンプルなデザインは英雄らしい。
大きい方の指輪を手にする。こちらが英雄の指にはまるはずだった指輪だ。カンカネールの女性用の小さい方はさすがに俺には小指でもはめることすらできないだろう。
英雄の指のサイズだと俺には緩いだろうが、左手の薬指に指輪をはめてみた。
なぜか俺にピッタリ。
「、、、」
「、、、」
扉の方を見ると、ほんの隙間が開いていて、レンと角ウサギたちが覗いていた。
「結婚指輪はめてくれたー」
嬉しそうな声でレンが言って、書斎に入ってきた。
結婚指輪だが、結婚指輪だぞ?
「ククー、俺の指にもはめてー」
ついついレンの要望通りに、もう一つの指輪を手に取ってレンの左手の薬指にはめてしまった。
本当なら女性ものの指輪だ。さすがに今のレンにも小さいサイズのはずだ。
それなのに、あつらえたかのようにジャストサイズだ。
少々頭を抱える。
言わずともわかるだろう。
この指輪は完全に俺とレンの薬指のサイズで作り直されたものだ。
「だって、ククーが俺との結婚指輪が欲しいって思っていたからー。本当は新しいの作っても良かったんだけど、カンカネールとの指輪で作り直したのは、俺の用意した結婚指輪がこの一対で、これを残しておいてククーとの結婚指輪を作ってしまうと二対あることになるから、ククーはそれが気に入らないかなーと思ってー」
確かにその通りだが。
英雄の一対しかない結婚指輪を欲しがっていたのは、紛れもなくこの俺だが。
レンに言いたいことはあるのだが、まずこれだけは言っておこう。
「レン、ありがとう。大切にする」
けれど、レン、そんなことを勝手にして、ヴィンセントに怒られないのか?
後日、俺が行商人役で行ったときに、お揃いの指輪をしているのを、ヴィンセントと王子にバレた。レンが指輪を左手薬指にはめ始めたときからヴィンセントは怪しいと思っていたらしい。
予想通りヴィンセントはキレたが、俺の指を切り落とそうとまでしたが、レンはヴィンセントとの結婚指輪も俺との結婚指輪も一緒に左手薬指にはめるつもりだったらしい。
「ヴィンセントは俺と先に婚前交渉をしたのだから、ククーとの結婚指輪を広い心で許してくれてもいいだろう」
まあ、ヴィンセントがどう転んでもレンに口で敵うわけもない。レンにこの後、軽ーく丸め込まれていた。
二つの指輪をはめるという案は、ヴィンセントの兄クレッセが提案したことだが、本当ならヴィンセントとの結婚指輪を二つはめるという意味合いで言ったものだ。決して、別の二人の結婚指輪を二つはめるという意味合いで言ったものではない。
レンにそういう手もあるね、と思わせてしまったら終わりなんだ、クレッセ。
応援ありがとうございます!
11
お気に入りに追加
263
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる