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16章 滅びの季節

16-1 国民

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 外は冷たい風が吹いている。
 だが、アスア王国の王都にある王城の内部は温かい。

 この二人の行為はさらにベッドで熱くなっていた。

「あ、ロイ様」

「たまには俺の上で動いてみろ」

 仰向けになったロイの上に、王女アリシアは股がっている。
 ロイの指示通りにゆっくりと王女は腰を上下に動かす。

「あっ、」

 快楽が己の身を貫く。
 動けば動くほど、己の欲望に忠実になっていく。

「王女様、うまいじゃないか。もっと激しく動いてみろ」

 強く奥まで。
 二人でほぼ同時にイった。
 そう、奥まで入ったまま。




「キザス、」

 ロイは彼の名を呼んだ。
 王女アリシアの相手の後、必ず彼を呼ぶ。
 ベッドで横になりながら、キザスはロイに触れる。
 ロイがアリシアに使った同じ薬を、キザスもロイに使う。

「ロイ、今日は少し満足げだね」

「ようやく王女様が動くようになった。少しずつ教え込んでいけば、いい女になるかもな」

 ロイにとって都合のいい女に。

「でも、王女にはこっちに挿れてもらうことはできないよね」

 キザスはグリグリとロイの中に指を突っ込む。

「ああ、そうだな。今日は俺も挿れたままイっちまった」

「そう。まだ結婚式は先だけど」

 心配そうに見るキザスにロイが気づいた。

「大丈夫だろ。一回か二回中出ししたくらいで妊娠するか。結婚した後なら、こんなこと気にしなくても良くなるんだが」

「反対に子供はまだかーってあの国王にせっつかれるかもね」

「ゲェ、それなら結婚後は日々励んで、さっさと産んでもらった方が良いな」

「ソレはソレで寂しいな」

「寂しがるなよ、キザス。お前は俺に必要だ。さっさと俺のなかに挿れろ」

 二人は口づけを交わす。キザスがロイの中に触れる。
 ロイと王女アリシアのときよりも、深く濃く落ちていく。




 アスア王国の王城にいる護衛も従者等も国民である。
 新英雄ロイを守るために日々動いているが、訓練でも成果を表さないロイを段々に疑わしい目で見始めていた。
 ただ、新英雄ロイは王女アリシアの婚約者でもある。王族になる人間に逆らえる人間はいない。
 それでも、感情は正直だ。

 国民を守らない英雄は英雄ではない。

「アレを英雄として王女アリシアと結婚させていいのか?」

 前宰相が息子の現宰相に聞いた。
 音が漏れない個室で。

「あの国王が突っ走ったものです。父上、私に止められるとでも?」

「、、、まだ無理か。あの国王も英雄に関しては歯止めが利かないからな。せめてもう数年後だったら」

「他のことならまだ冷静ですが、英雄がいない時期の不遇をもう一度味わいたくない気持ちが強すぎます」

「あのぐらいならまだまだ不遇とは言えないのだが、英雄が現れたときの落差が大き過ぎた。英雄ザット・ノーレンが現れたときの各国の手のひらの返しようといったら。。。しかし、そうはいっても英雄でもない平民を王族にする価値はないだろう」

 前宰相も国民である。
 彼もすでに新英雄ロイは英雄ではないという結論に達してしまった。
 国王に頼まれているから仕事は仕事として、新英雄ロイを訓練や勉学に励まさせているという感じになってしまっている。直接教えることも少なくなった。部下に押しつけていることも多い。

 宰相は父の考えもわからなくもないが、国として一大発表した手前、新英雄ロイを放り出すことはできない。そもそも、国王がロイを逃さないだろう。

 どうにか軟着陸できないか、と宰相は考える。

「それとお前、わざわざ聖教国エルバノーンまで行って、噂を確かめに行ったのだろう。ジニールまで連れて。似ているという冒険者はどのくらい英雄と似ていた?ギフトまで聞き出せたのか」

 父親がその冒険者を利用しようとしているのは明らかだった。

「直接会ったのはジニールですが、あまりにもガッカリした様子だったのでそこまで似ていなかったのでしょう。ギフトはないようですし、英雄の実力には遠く及ばないようです」

「それはそうだ。我が国の英雄に簡単に肩を並べられたらそれこそ問題だ。ただ、冒険者として多少の実力があるのなら、最凶級ダンジョン閉鎖に力を貸してもらうのも一つの案だろう」

「父上、それは案以外のなにものでもないですよ。我が国には上級冒険者を呼ぶための高い報酬を出せる余力がありません。それならば、国民のために少なくても食料を手に入れる策を考えるべきです」

 アスア王国は英雄ザット・ノーレンに高い報酬を払っていたと思っていた。
 だが、それは間違いだった。
 もし最凶級ダンジョンを閉鎖するならば、複数の上級冒険者にかかる報酬の他に、彼らを支える者たちを用意し、一つ閉鎖するのに一か月から二か月もかかる滞在費等の費用も持たなければならない。その金額はたった一つの最凶級ダンジョンを閉鎖するだけでかなりのものだ。
 英雄は一日、二日で最凶級ダンジョンを閉鎖した。
 その意味を我々はまったく自覚していなかった。
 英雄に払っていた報酬など、安いものだ。彼が閉鎖した最凶級ダンジョンの数を考えれば相当格安だったと言える。

 他の国々は上級冒険者を育てるために、様々なことをしている。
 上級冒険者以上はおいそれと国家間を移動しない。
 なぜならば国に育てられているからだ。国が他国に恩を売るために上級冒険者を動かすのでなければ、それを忘れて移動できる者は何かがおかしいと見るべきだ。
 アスア王国は英雄ザット・ノーレン一強の国だった。他の追随を許さない。
 英雄が現れたから、それ以降冒険者も育てていない。
 英雄におんぶに抱っこの国だったと言っても良い。

 それは国として異常だ。
 たった一人に責任を負わせ過ぎている。
 新英雄に代わった今となって改めて、愕然とする。父上は何をしていたんだと。
 宰相になってから他の仕事も山積みだった。英雄本人からも何の苦情も言われなかったため、特に問題のなかった英雄関係は放置状態だった。ただ前の体制を維持させていただけだった。
 あのとき気づいていれば、と後悔しかない。

 あのとき気づいていても遅かったかもしれないが、英雄が殺されるのは防げたはずだ。
 国王は英雄からカンカネールを遠ざけた。
 英雄にロイ、キザス、ジニールの三人の仲間をつけた。

 宰相はそのことに対して良い返事をしなかったが、それだけだ。ロイ、キザス、ジニールの三人はどうにかして英雄の仲間から外すこともできたはずだ。漫然と放置したためこのザマだった。

 アスア王国が生き残る道はあるのだろうか。
 英雄にさえ見捨てられたこの国が。
 宰相は一つの選択肢を知っている。
 このままだと、国民がいつか選択してしまうだろう。
 国王と新英雄を排除すること。
 その後に誰が国王になるんだとか問題は山積みなのだが、手っ取り早い方法はあの二人を排除することだ。

「いや、」

 一人になった宰相はポツリと呟く。
 アスア王国は一度滅びた方が良い。国を変えて再出発した方が良い。
 この国は英雄に頼り過ぎた。
 アスア王国という枠組みが英雄頼みなのなら、アスア王国という国自体一度なくならなければいけない。
 どこの国もたった一人に頼ることなどしていないのだから。
 シルエット聖国の聖女だって、ほんの少し治癒魔術が使える女性なだけだし、聖教国エルバノーンの神の代理人も、今やただのお飾り国王だ。国の象徴と呼べる聖女や神の代理人だって、その程度なのだ。
 アスア王国の英雄だって、本当ならお飾り程度の役職であるべきだった。
 国民を守るのは騎士や兵士の役割だ。
 どうしてこうも形骸化してしまったのだろう。

 宰相は思い出す。
 聖教国エルバノーンの王都で会った、英雄ザット・ノーレンを。
 そして、神聖国グルシアにいるノーレン前公爵への手紙に封をする。
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