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15章 冷たい風に吹かれて
15-1 冬眠したい
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寒くなって来た。
冷たい風が吹くようになった。
布団から出るのが嫌になる季節だ。
ヴィンセントにくっつくと、どうも誘っているように感じるらしい。
まあ、お互い裸だからな。
太ももも絡ませたら、確かにそう思うよな。。。
ヴィンセントはスベスベお肌で、肌触りが良い。
うーん、スケベオヤジのような感想を言ってしまう。若いって良いなー。
ヴィンセントは今日も朝から元気だ。
「もう少し寝てていいよ、レン」
優しい声でヴィンセントが言う。
「うーん、朝食の準備が、、、」
「私がやっておくから、大丈夫」
甘い声だ。
朝に激しくすると、ヴィンセントは非常に優しい。
俺のカラダを労わってくれる。
うん、俺、十歳も年上だからな。疲労は疲労としてたまるのよ。快楽は大好きだけど、その行為のツケはきちんとカラダに響く。英雄のギフトがあれば、ある程度までなら疲れ知らずだったのにねー。魔物退治で三徹ぐらいは平気でこなしていた。今は無理。
「うん、ありがと」
「朝食ができたら、呼びに来るから」
俺の額に口づけを落として、ヴィンセントは部屋を出ていった。
朝食だから、特に問題はない、はずだ。
パンやスープを温め、サラダ用の野菜をちぎり、目玉焼きかオムレツを焼くという朝の定番。
王子と角ウサギがいるので、塩味だけにはならないだろう。ケチャップとかドレッシングとか、きっと。。。
布団に丸くなる。
ヴィンセントの温かさがなくなるのは寂しい。
それでも、布団から出られない自分がいる。
ぬくぬく。
甘やかされるとダメ人間が製造されるな、これは。
うとうとうと。
「レンー、朝ごはんが冷めちゃうよー」
可愛い声が聞こえた。
目をこじ開けると、可愛い王子が覗き込んでいる。
「んー?」
ヴィンセントが起こしに来るはずが。。。
「ヴィンセントは、レンが可愛いから起こしたくないってー」
一度は起こしに来たのかな?
ヴィンセントの意志が果てしなく弱い。俺が寝たいのなら寝かせておこうってことか?
もぞもぞと動き出す。
「着替えたらいくから先に食べててー」
「うん、わかったー。レン、この頃お寝坊さんだねー」
「寝坊できる幸せー」
布団にくるまって芋虫、いや蓑虫状態で何を言っているんだか。寝ぼけているようにしか思えない。
王子が手でポンポンと蓑虫を優しく叩く。
「そうだねー。レンに休みがないのがおかしいよね。今まで毎朝、というか毎食作ってくれていたから」
俺が出かけたりして作れないことも多いけど、食事はできるだけ作り置きとか、角ウサギが対処してくれたりとかしてやりくりしていた。
「ヴィンセントに言ってくるねー」
って何を?
パタパタと王子は行ってしまった。
俺はのそのそとベッドから這い出る。
寒くなってくると布団が恋しくなるのも知らなかった。
英雄時代は最凶級ダンジョンが発生すると、即座に飛んでいったからなー。
布団と仲良しってことなんて皆無だった。ベッドというのは、ただ寝るための場所だった。
こんなに仲良くなってしまうとは。。。
今の俺は怠惰一直線。
暖かい地方に行けば改善されるかな?
食堂に行くと、ヴィンセントが食事に手をつけずに待っていた。
俺を待っていたというより、唸っていた。
「ヴィンセント?」
「王子に言われるまで、レンに無理をさせていたのに気づかなかったとは。。。」
無理とは?
「王子、ヴィンセントに何を言ったの?」
「レンにはお休みがないなーと思って。冒険者でシアリーの街にも行くし、ダンジョンにも行くのに、家事も毎日しているから」
ああ、無理とはカラダの方じゃなくて、いや、どっちもカラダのことだけど、夜の生活の無理ではなく、昼の家事のことか。
ヴィンセントが清掃を担当しているから、お互い共稼ぎでの上で、しっかり家事分担をしてないかな?俺には角ウサギの支えがあるんだし。
そういや、ヴィンセントは良いとこの坊ちゃまだった。なぜかすぐ忘れる。
本来なら家事は全部、他の人がやってくれちゃったりする家だった。家事全般はお金を払ってやってもらう上流階級。神官なので多少はできるが、神官といえども上流階級の出の人間は、ほとんどやらない。
しかも、ヴィンセントは食事にも何もかも、さほど興味がなかった人間なので、適当な食事でも作れれば問題がなかった。王子も治療で来ている身なので、それに対して何も言わなかった。。。
「でも、俺、英雄時代は休日どころか休憩時間も取れないことも多かったし、今の生活は」
「ダメだよっ、レンっ。今はブラックな英雄稼業じゃないんだから。たまにはしっかり休まないと、体調崩しちゃうよ」
王子が俺のために。ホロリ。いい子や。
この子が言う英雄は超人という意味なのかもしれないけど。
英雄時代には誰も英雄に休めなんて言う人はいなかった。
いつも走っていたような気がした。
今、英雄扱いされているロイは、アスア王国の王城から動いていない。多少の訓練や勉学の時間があるにせよ、キザスや王女と遊ぶ時間も多い。
羨ましいと思わないわけがない。
なぜロイにはその生活が許されて、自分は許されなかったのか。
英雄のギフトを持っている点では同じだろう。
俺は孤児の貧しい生活から、英雄になった。
一般的な生活というのは、他人事だ。貴族だろうと、庶民だろうと。
英雄のギフトで知っているだけに過ぎない。
休日もなく、遊ぶ時間もなく、自由になる時間など寝る前のひとときあれば良い方だった。
英雄だからソレが当たり前と言うのなら、ロイは何なんだ。
アスア王国は彼を英雄と称しているのだから、英雄として扱えばいいのに。
ヴィンセントと王子と普通と言える範囲の生活に浸ると、あの生活の異常さをさらに自覚する。
アスア王国の国民は英雄に高望みしすぎだ。
英雄は人間である。心もカラダも。
たとえ、英雄のギフトがあったとしても。
「そうだねー、英雄のギフトがないから、そこまで無理はできないねー。徹夜なんかもうできないからねー」
「本当は人を雇うのが一番なんだけど、この家ではできないから、聖都に行くまで何とか自分たちでやりくりしよう。私も魔術でできるだけ家事を手伝うから」
ヴィンセントが俺の手を握って言った。
「その気持ちだけで充分だよ、ヴィンセント」
≪ククーにおかしなことになっているから行ってくれ、って言われて来たけど。。。食べないなら、食べちゃうわよー≫
角ウサギのタレタが食堂のテーブルにのった。光の文字が浮かんでいる。
実際、テーブルにのるのは行儀が悪いことなのだが、椅子に座らせるとテーブルに届かないし、反対に床で食べさせる方が微妙である。彼らはペットではないので。
「つまみ食いは許してないぞー、タレタ」
≪はいはい、冗談よー。ダンジョンに角ウサギも増えたから、この家に来る手伝いの回数を増やしても大丈夫よー。それならツノも賛成するでしょ≫
「お前たちはお庭当番が減るのが嫌だったから、角ウサギの頭数を増やしたくなかったんだろ。ダンジョンの方は来てくれた角ウサギたちに任せて、お前たちも多少は自由に行動して良いんだぞ」
≪そんなこと言うとー、冬の間、冬眠するわよー≫
「あー、俺も冬眠したい。。。ククーはこっちに来させた人選を間違ったなー。タレタはそういう面では俺ソックリだからな」
人選ではないか。角ウサギ選?どっちでもいいか。
冷めてしまったけれど、朝食を食べ始める。
あっさり塩味が中心となっている。
「そういや、今日のお庭当番は?タレタじゃないよな」
≪オレオよー。毎朝、王子の身代わりくんのカラダを拭くから、今日はちょっと遅くなっているみたいねー≫
「ああ、そうか。身代わりを甲斐甲斐しく世話しているのはオレオだからな。お庭当番を二匹体制にすればオレオも慌てないで済むか。俺の当番も必要だけど、ダンジョンの方は他の角ウサギが増えているから大丈夫だろうし」
タレタは王子からサラダの野菜をもらっている。
美味しそうに食べている。
うん、タレタは何のために来たんだっけ?
寒い時期の俺たちは、朝が特に弱い。頭が回らん。
冷たい風が吹くようになった。
布団から出るのが嫌になる季節だ。
ヴィンセントにくっつくと、どうも誘っているように感じるらしい。
まあ、お互い裸だからな。
太ももも絡ませたら、確かにそう思うよな。。。
ヴィンセントはスベスベお肌で、肌触りが良い。
うーん、スケベオヤジのような感想を言ってしまう。若いって良いなー。
ヴィンセントは今日も朝から元気だ。
「もう少し寝てていいよ、レン」
優しい声でヴィンセントが言う。
「うーん、朝食の準備が、、、」
「私がやっておくから、大丈夫」
甘い声だ。
朝に激しくすると、ヴィンセントは非常に優しい。
俺のカラダを労わってくれる。
うん、俺、十歳も年上だからな。疲労は疲労としてたまるのよ。快楽は大好きだけど、その行為のツケはきちんとカラダに響く。英雄のギフトがあれば、ある程度までなら疲れ知らずだったのにねー。魔物退治で三徹ぐらいは平気でこなしていた。今は無理。
「うん、ありがと」
「朝食ができたら、呼びに来るから」
俺の額に口づけを落として、ヴィンセントは部屋を出ていった。
朝食だから、特に問題はない、はずだ。
パンやスープを温め、サラダ用の野菜をちぎり、目玉焼きかオムレツを焼くという朝の定番。
王子と角ウサギがいるので、塩味だけにはならないだろう。ケチャップとかドレッシングとか、きっと。。。
布団に丸くなる。
ヴィンセントの温かさがなくなるのは寂しい。
それでも、布団から出られない自分がいる。
ぬくぬく。
甘やかされるとダメ人間が製造されるな、これは。
うとうとうと。
「レンー、朝ごはんが冷めちゃうよー」
可愛い声が聞こえた。
目をこじ開けると、可愛い王子が覗き込んでいる。
「んー?」
ヴィンセントが起こしに来るはずが。。。
「ヴィンセントは、レンが可愛いから起こしたくないってー」
一度は起こしに来たのかな?
ヴィンセントの意志が果てしなく弱い。俺が寝たいのなら寝かせておこうってことか?
もぞもぞと動き出す。
「着替えたらいくから先に食べててー」
「うん、わかったー。レン、この頃お寝坊さんだねー」
「寝坊できる幸せー」
布団にくるまって芋虫、いや蓑虫状態で何を言っているんだか。寝ぼけているようにしか思えない。
王子が手でポンポンと蓑虫を優しく叩く。
「そうだねー。レンに休みがないのがおかしいよね。今まで毎朝、というか毎食作ってくれていたから」
俺が出かけたりして作れないことも多いけど、食事はできるだけ作り置きとか、角ウサギが対処してくれたりとかしてやりくりしていた。
「ヴィンセントに言ってくるねー」
って何を?
パタパタと王子は行ってしまった。
俺はのそのそとベッドから這い出る。
寒くなってくると布団が恋しくなるのも知らなかった。
英雄時代は最凶級ダンジョンが発生すると、即座に飛んでいったからなー。
布団と仲良しってことなんて皆無だった。ベッドというのは、ただ寝るための場所だった。
こんなに仲良くなってしまうとは。。。
今の俺は怠惰一直線。
暖かい地方に行けば改善されるかな?
食堂に行くと、ヴィンセントが食事に手をつけずに待っていた。
俺を待っていたというより、唸っていた。
「ヴィンセント?」
「王子に言われるまで、レンに無理をさせていたのに気づかなかったとは。。。」
無理とは?
「王子、ヴィンセントに何を言ったの?」
「レンにはお休みがないなーと思って。冒険者でシアリーの街にも行くし、ダンジョンにも行くのに、家事も毎日しているから」
ああ、無理とはカラダの方じゃなくて、いや、どっちもカラダのことだけど、夜の生活の無理ではなく、昼の家事のことか。
ヴィンセントが清掃を担当しているから、お互い共稼ぎでの上で、しっかり家事分担をしてないかな?俺には角ウサギの支えがあるんだし。
そういや、ヴィンセントは良いとこの坊ちゃまだった。なぜかすぐ忘れる。
本来なら家事は全部、他の人がやってくれちゃったりする家だった。家事全般はお金を払ってやってもらう上流階級。神官なので多少はできるが、神官といえども上流階級の出の人間は、ほとんどやらない。
しかも、ヴィンセントは食事にも何もかも、さほど興味がなかった人間なので、適当な食事でも作れれば問題がなかった。王子も治療で来ている身なので、それに対して何も言わなかった。。。
「でも、俺、英雄時代は休日どころか休憩時間も取れないことも多かったし、今の生活は」
「ダメだよっ、レンっ。今はブラックな英雄稼業じゃないんだから。たまにはしっかり休まないと、体調崩しちゃうよ」
王子が俺のために。ホロリ。いい子や。
この子が言う英雄は超人という意味なのかもしれないけど。
英雄時代には誰も英雄に休めなんて言う人はいなかった。
いつも走っていたような気がした。
今、英雄扱いされているロイは、アスア王国の王城から動いていない。多少の訓練や勉学の時間があるにせよ、キザスや王女と遊ぶ時間も多い。
羨ましいと思わないわけがない。
なぜロイにはその生活が許されて、自分は許されなかったのか。
英雄のギフトを持っている点では同じだろう。
俺は孤児の貧しい生活から、英雄になった。
一般的な生活というのは、他人事だ。貴族だろうと、庶民だろうと。
英雄のギフトで知っているだけに過ぎない。
休日もなく、遊ぶ時間もなく、自由になる時間など寝る前のひとときあれば良い方だった。
英雄だからソレが当たり前と言うのなら、ロイは何なんだ。
アスア王国は彼を英雄と称しているのだから、英雄として扱えばいいのに。
ヴィンセントと王子と普通と言える範囲の生活に浸ると、あの生活の異常さをさらに自覚する。
アスア王国の国民は英雄に高望みしすぎだ。
英雄は人間である。心もカラダも。
たとえ、英雄のギフトがあったとしても。
「そうだねー、英雄のギフトがないから、そこまで無理はできないねー。徹夜なんかもうできないからねー」
「本当は人を雇うのが一番なんだけど、この家ではできないから、聖都に行くまで何とか自分たちでやりくりしよう。私も魔術でできるだけ家事を手伝うから」
ヴィンセントが俺の手を握って言った。
「その気持ちだけで充分だよ、ヴィンセント」
≪ククーにおかしなことになっているから行ってくれ、って言われて来たけど。。。食べないなら、食べちゃうわよー≫
角ウサギのタレタが食堂のテーブルにのった。光の文字が浮かんでいる。
実際、テーブルにのるのは行儀が悪いことなのだが、椅子に座らせるとテーブルに届かないし、反対に床で食べさせる方が微妙である。彼らはペットではないので。
「つまみ食いは許してないぞー、タレタ」
≪はいはい、冗談よー。ダンジョンに角ウサギも増えたから、この家に来る手伝いの回数を増やしても大丈夫よー。それならツノも賛成するでしょ≫
「お前たちはお庭当番が減るのが嫌だったから、角ウサギの頭数を増やしたくなかったんだろ。ダンジョンの方は来てくれた角ウサギたちに任せて、お前たちも多少は自由に行動して良いんだぞ」
≪そんなこと言うとー、冬の間、冬眠するわよー≫
「あー、俺も冬眠したい。。。ククーはこっちに来させた人選を間違ったなー。タレタはそういう面では俺ソックリだからな」
人選ではないか。角ウサギ選?どっちでもいいか。
冷めてしまったけれど、朝食を食べ始める。
あっさり塩味が中心となっている。
「そういや、今日のお庭当番は?タレタじゃないよな」
≪オレオよー。毎朝、王子の身代わりくんのカラダを拭くから、今日はちょっと遅くなっているみたいねー≫
「ああ、そうか。身代わりを甲斐甲斐しく世話しているのはオレオだからな。お庭当番を二匹体制にすればオレオも慌てないで済むか。俺の当番も必要だけど、ダンジョンの方は他の角ウサギが増えているから大丈夫だろうし」
タレタは王子からサラダの野菜をもらっている。
美味しそうに食べている。
うん、タレタは何のために来たんだっけ?
寒い時期の俺たちは、朝が特に弱い。頭が回らん。
応援ありがとうございます!
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