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14章 もの思いにふける秋

14-1 ある平和な一日

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「俺のククーへの誕生日プレゼント、何にしようかな」

 と、ヴィンセントに相談したら、嫌な顔をされた。
 もうそろそろ秋風が吹く。神聖国グルシアはアスア王国より少々北に位置するので、ほんの少し夏の終わりが早い。

「あの巨大な石柱をあげればいいんじゃない?喜ぶよ、きっと」

「今年の分はすでにあげちゃったからなあ。来年から一本ずつあげる約束もしているから、今年はもういらない気がする」

 俺のダンジョンでニョキニョキ生えている魔石の話である。俺の色の魔石なら後から後から生えてくるのであげられるのだが、前に贈った魔石もダンジョンの書斎に飾られたままだ。ククーは小さな魔石で研究を進めている。遠慮しなくていいのに。

 ヴィンセントは嫌そうな顔で俺の問いに答えてくれたが、俺の答えに余計に嫌そうな顔になっていた。

「レン、俺は家族で祝ったときしか、ククーの誕生日を祝ったことはないからな」

 まったく祝ったことがないと言わないところがヴィンセント。家族ぐるみのお付き合い、年上の幼馴染みだからな。
 ヴィンセントが個人的にククーの誕生日を祝うかというと、祝わないだろう。特に成長してからは、二人はお互いに断絶していた。ククーが行商人役になったのだって偶然だ。

「ククーには世話になっているからなあ。意外性のあるモノを贈りたい」

「、、、ノーレン前公爵のときも意外性のある引っ越し祝いだったけど、俺のときは意外性を追求してないよね?」

 ヴィンセントが手首につけている腕輪を見る。彼の目には普通の腕輪に見えていたらしい。

「ソノウデワニ、イガイセイナンカ、ツイキュウシテナイヨー」

「なぜカタコトにっ。何したの?この腕輪に」

「ゴクゴクフツウノウデワダヨー」

「わーっ、言われれば言われるほど怪しいっ」

≪お二人さん、イチャつくのは百歩譲って許すけど、こっちを忘れないで≫

 タレタも主の扱いが雑になってきたなあ。
 ククーの誕生日プレゼントを準備していたのは、王子だ。
 俺が俺の人形を作らないので、王子が俺のぬいぐるみ人形をククーに作っているらしい。偉いなー。
 ククーとのことは決着をつけた王子だが、ククーの誕生日は祝いたい。
 が、顔が難しいと。

「ルルリより可愛く作れていると思うけどなー」

≪アレと比べたら、王子が可哀想よ≫

 タレタも言うなあ。
 ルルリは毛玉は可愛く作れるのに、犬とか熊とかの動物や人やらのぬいぐるみを作ろうとすると崩壊する。母親の血が受け継がれているのか?ルルリの母親が作る人形のカタチは綺麗だけど、、、顔が不気味になる。本当になぜなんだろう。

「レンが前に作った人形見せてもらったけど、全然似てないー」

 王子が嘆いている。これでも可愛いと思うけど。まあ、俺かと言われると、、、どうだろう。白い髪に臙脂色の目だから、白マントを羽織らせたら雰囲気が似ると思う。

≪はい、主≫

 タレタが裁縫道具を俺に渡してくる。グイグイと押しつけてくる。

「せっかく王子が一生懸命作ったのに、俺が手直ししたら台無しじゃん」

「台無しだと思っているのはレンだけだから。レンに似ている方が、ククーも嬉しいよー」

 そう?そうかな?顔をちょちょいと直しておこう。
 あー、でも、ククーが俺よりも人形を可愛がったら嫌だなー。

≪主、何で人形の表情がだんだん微妙になっていくの?≫

「俺をかまえーという意志表示をついつい」

 ついついついつい。
 ちと不機嫌そうな顔に仕上げてしまった。

 王子が微妙な表情をしている。

「そりゃあ、僕が縫った顔よりレンに似ているけど。。。この表情でククー喜ぶかな。。。」

「ククーなら喜ぶ、喜ぶ。大喜びだ」

 コレを言ったのはヴィンセントだ。

「そうかなー?」

「ククーを甘く見るんじゃない。レンの顔ならどんな表情でも大喜びだ。不機嫌なレンそっくりじゃないか」

 ヴィンセント、、、違った意味でこの表情微妙だな。
 でも、直さないけど。俺自身をかまえーと念を人形に込めておこう。

「で、話は戻るけど、俺はククーのプレゼント何にしようかなー」

≪ククーとサシで飲んだら喜ぶんじゃない?エルク教国の酒で≫

「それは俺が嬉しいことじゃないのか」

「ククーと飲むことが嬉しいのか、エルク教国の酒を飲むのが嬉しいのか、どちらもなのか、私は突っ込まないぞー」

「俺にいいことしかないのに、それがククーへのプレゼントと言ったら迷惑だろう」

 ヴィンセント、王子、タレタが一斉に首を傾げた。
 迷惑の基準がおかしい、と顔に書くのはやめよう。

≪ククー、ククー、主と一緒に飲むエルク教国の酒の会が誕生日プレゼントで嬉しいわよねー≫

「あ、そんなこと聞くんじゃない、タレタ。そんな聞き方じゃ、嬉しくなくても気を遣って嬉しいと答えてしまうだろー」

「非常に嬉しいです」

 非常に、がついた。嬉しいことは嬉しいのか。

「え、そうなの?それでいいの?じゃあ、ククーの誕生日は樽を持ってそっちに行くよー」

「樽、、、」

 おや、ヴィンセントと王子のこの表情、どこかで違う誰かさんで見た気がするなー。
 ククーが行商人役でコチラに来るときに、ククーの誕生日会はしてしまうけど、その後に来る本当の誕生日に酒で祝うことにする。
 この間は俺が照れて赤くさせられたが、今度はククーが赤くなっている。手で隠しているが、赤くなってる。本当に嬉しいらしい。良かった、良かった。たくさん飲もう。

「あ、でも、門限は守ってね、レン」

 ヴィンセントがにこやかに言い放った。
 一緒に飲むのは許すけど、夜通し飲むのは許さない、朝帰りなど言語道断、とな。
 残念やなー。でも、嬉しい。

「ヴィンセント、ありがとー」

「どういたしまして?」

 ヴィンセントが複雑な表情を浮かべていた。




 ククーが行商人役でこの家を訪れて、ククーの誕生日会をした。
 一月に一度しか来ないので、王子が祝えるのはこの日しかない。
 ククーは王子の作った人形を嬉しそうにもらっていた。しっかり抱いて撫でていた。人形を撫でるくらいなら、俺を撫でろ。お、人形と表情がソックリになってしまった。

 王子にヴィンセントが、ほら言っただろ、ククーは喜ぶって、と耳打ちしていた。

 誕生日会はささやかながら、ゆるやかに。
 そして、いつもの反対に、王子がククーに絵本を読むそうだ。ここまで音読できるというのを示したいようだ。うちの角ウサギたちに教えを乞うているのだから、ハイスペック王子と化しているので、緊張さえしなければ平気だぞ。

 いつもと同じなようで、いつもと違う日々。

 こんな日々が続けば良いのにと願ってしまう。
 だから、その願いが叶わぬように。
 俺が彼らの成長を心から祝えるように。








「ククー、邪魔するぞー」

「いらっしゃい、レン」

 ククーに迎えられた。
 俺のダンジョンの家からククーの隠し部屋の扉を開けると、ククーが待っていた。
 まだ真昼間である。門限があるので昼食からの飲み会である。

「ダンジョンの家で飲んでも良かったんだが」

「一度、レンとこっちで飲んでみたかった」

 ククーにそう言われてしまうと、どちらで飲んでもいい気がするのだが。
 俺は樽を床に置く。

「、、、そのデカい樽を軽々持ってくるアンタもアンタだよな」

「カラダを鍛えていた努力は、俺を裏切らない。筋肉がなくなったように見えても、頑張った筋肉は嘘をつかない」

「その台詞、、、筋肉命の人間が言いそう」

「しっかし、俺の鍛えた筋肉はどこに出かけて行ったのやら」

 英雄姿の筋肉はいずこに。筋力自体はこの姿でもそこまで衰えていないようなのだが。
 強奪の剣で奪われたのなら、このドデカい酒樽は持てなかったはずだ。
 もう少し見える形で筋肉が残っていれば。。。

「それでアンタは愛されキャラになったのだから良いんじゃないか」

「ヴィンセントは英雄姿でもかまわないようだったが」

 けれど、二人で並ぶと違和感がある気がするのは俺だけではないようだ。
 ククーも渋い顔をしている。
 英雄姿の方が身長もヴィンセントより高く、体格もいい。でも、抱かれる側。。。
 抱かれるならこの姿の方がしっくりきそうな気がするのは俺もだから、そこまでの顔をするな。

「では、気を取り直して、ククー、二十八歳の誕生日おめでとう」

 樽からグラスに酒を注ぎ、乾杯をする。
 テーブルはないが、机の上にはすでにツマミが並んでいる。
 俺も収納鞄に詰めてきたが、机の上には置く場所がない。
 椅子は机用のものと、別なものが置かれているので、そちらに座る。

「ありがとう。レン、アンタに祝ってもらえるなんて思ってもみなかった」

「ところで、今日の仕事は休みだったのか?」

「休みをもぎ取った」

 ククーが嬉しそうに俺を見た。

「そうか、それは良かった。じゃあ、今日は飲むぞーっ」

 俺もきっと嬉しそうな顔をしていることだろう。
 本日の幸せは長くは続かなかったが。
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