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13章 物事は計画的に

13-8 冷気

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「ビスタ、お前、何やっているんだーっ」

 冒険者ギルドのギルド長と通信の魔道具でビスタが話している。

「俺がやっているわけじゃないですよー」

「とめろよっ。そばにいるのなら」

「とまるかよ。俺の言葉で」

 ギルド長とビスタの言い合いは続く。
 爺さん人形が三人分のお茶をいれてくれる。
 この応接室には人間は二人しかいないはずなのに、騒がしい。
 外には音が一切漏れないので、職員たちは何を話しているのかわからないだろう。
 あー、お茶が美味しい。
 執事姿の北の女王も飲んでいる。面倒だからもう北の執事でいいか。王の執事と俺が呼ぶのも何だからな。
 ビスタがようやくお茶に気づいて、一気に飲む。あれだけ叫んでいれば、喉も乾くだろう。

「レンー、代わってくれよー。ギルド長がイジメるーっ」

 ビスタは俺に頼るを覚えた。
 通信の魔道具を俺に渡す。

「事の発端はお前だ、ギルド長。ギバ共和国の件で冒険者ギルドが守秘義務を遵守しないからこうなったんだ。英雄の話をバラまきやがって」

「だってー、英雄からと言わないと誰も信じようとしなかったんだからー、仕方ないじゃん。今の冒険者レンは初級冒険者だしー」

「お前も恩を仇で返す人間か?」

「うわー、レン、頼むから、聖都まで冷気の魔力を放たないでくれ」

 ヒンヤリ冷や冷や。
 暑い夏だから、ちょうどいい温度じゃないのかな。
 人間ってどのくらいの温度まで持つのだろうか。氷点下のなか暮らしている方々もいるからなー。

「レン様っ、冒険者ギルド本部移転ではご尽力いただきありがとうございましたっ」

 ギルド長の俺に対する言葉遣いが丁寧になった。

「俺にとっての解決策として、一番良いのが英雄とは別人じゃないかと思ってもらうことだ。何も俺がダンジョン閉鎖までしなくてもいいはずだよな。英雄姿のザット・ノーレンが現れたら、生きていたのではないかと思うだろう。冒険者レンの姿は忘れられる」

「それ、アスア王国に知られれば厄介この上ないと思いますが?」

「噂程度なら知られても問題ないだろう?今の俺は英雄のギフトを持っていない。英雄のギフトがない者を英雄としてアスア王国が迎え入れるかどうか、それは否だろう」

「そうですけど、英雄姿の方でアスア王国や他の国の者に捕らえられたらどうするんですか」

「それはないだろうなー。ダンジョン内で俺を捕まえられるのは、それこそ魔王のギフトでもないと難しいだろう」

 俺もダンジョンコアだから、『魔王』がいたならば従っていたのかな?最凶級だから、かなり成長させた『魔王』のギフトがないと無理か。

「、、、それなら安心か?魔王はまだ見つかってないからな」

 ボソリとギルド長が呟いたつもり。魔道具を通しているから小さい声でも普通に聞こえてしまうのだが。

「今の俺には英雄のギフトがないのだから、弱くても仕方がない。英雄姿では多少強いぐらいに設定するが、俺は魔物も倒さないし、ダンジョンも閉鎖しないっ。俺の今の姿で英雄かもしれないという疑いを晴らせば、俺は自由っ。知っている人だけが知っていれば充分だっ」

「そんな宣言をしないでっ。ククール・アディはっ、ダンジョンコアを見る訓練はっ」

「いやあー、ククーなー。続けさせているがなかなか難しいなー。数日でどうにかなるもんじゃないしー」

「たった数日で問題を起こす人間が何を言う、、、って、すいませんーっ、これ以上冷やさないでくださいー、凍死するーっ」

 あー、ギルド長ったら大袈裟だなー。こんな真夏に凍死するわけがないじゃないか。

 (((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

「も、毛布くれ」

 あ、通信が切れた。部屋を出て、他の職員のところに行ったのかなー。
 ギルド長は冷え性なのかな?

「さて、ギルド長も認めてくれたわけだし、話を計画案に戻そう」

「かなりの力技だったが、この件に関しては俺は何も言うまい。さてさて、英雄がどこのダンジョンに行くかだが、まずダメなのはアスア王国だな。そして、あまり遠すぎると、英雄を見ても英雄と認識しないことがわかった。今回の冒険者たちは英雄が名乗ったにもかかわらず、あまりピンと来てなかったから、もう少しご近所の国の方が良いな」

 ビスタの意見も最もだ。

「英雄が出没する国はある程度まとまっている方が良いかもしれない。英雄がその国にいると勘違いしてくれればなお良い。となると、神聖国グルシアの周辺は避けた方が良いかもしれない。敢えてなんだが、聖教国エルバノーンあたりはどうだろう」

「おや?ククーその心は?」

「あの国は結局、王位継承のときに滅びる国だ。レンの支配下におけば、最凶級ダンジョンのコアを崩壊前に回収することも可能だし、何かあれば爺さんが動ける。来年の春まで活動する候補地としては悪くはないだろう」

「確かに」

「それだとうちの国の最凶級ダンジョンがまったく閉鎖されないってことになるなー。うちの国も冒険者たちが頑張っておるんじゃよー」

「うーん、それなら冒険者に閉鎖されそうになったら、ダンジョンコアみたいなダミーを置いておき、それが破壊された時点で本物のダンジョンコアを回収して、俺のダンジョンに引き上げればいいか。結局は呪いの件が解決しない限り、最凶級ダンジョンはその近辺で再発してしまうんだろうけど」

「とりあえず、それなら問題はないかー。英雄がちょくちょく冒険者の前に現れるという感じになるのかの?ということは、アスア王国にも噂は伝わるじゃろうな。それを対応するのは、今だと儂かあ」

「アスア王国が問い合わせてきたら偽物がいるだけだ、とでも言っておけば?アスア王国の英雄を騙る者には我々が対処するから、何の心配もないって強気に言っておけばいい」

「それもそうじゃのー。英雄のギフトは新英雄が持っているのだから、我が国にいる者とはアスア王国は関係のない話だとか言っておこうかのー」

 爺さんも喧嘩腰だな。ただ、アスア王国が他国に使者を出せるかというと今後は難しくなってくると思うが。最凶級ダンジョンが減らなければ、魔物はあらゆるところに湧いて出てくる。使者を出したところで、無事に目的地に着くとは思えない。

「聖教国エルバノーンもアスア王国に近いところに最凶級ダンジョンが何個か発生しているが、離れたところにもある。まずはそちらの方から攻めてみて、検討を重ねてからどこのダンジョンに向かうか決めよう」

「候補としては二つあるが、どちらも似たようなものだがどうする?」

 ビスタが紙に適当な地図を書いて俺を見た。
 俺はすっと指し示す。

「こっちか?」

「、、、レン、隣国のエルク教国に近い方にしたな?」

 ククーにはその意図が完全にバレているようだ。
 低い声で言っても、ククー人形は可愛いので威圧感はまったくない。

「神官殿、レンの目的はダンジョンじゃないんだな」

「エルク教国の酒だろ。あわよくば酒を造っている連中をスカウトして来ようと企んでいるだろ」

「エルク教国もー、最凶級ダンジョン発生しているしー」

「ギバ共和国の酒屋でエルク教国の酒もらって、まだ飲んでないだろ?」

「まだ飲んでないけどー、あんな量すぐになくなっちゃう。エルク教国がなくなったら飲めなくなっちゃうじゃん。そのノウハウを今のうちに盗んでおかないと、俺好みの酒がひとつ、この世から消え失せてしまう」

「樽でもらったくせに」

「樽、、、」

 ビスタと爺さんの声が重なった。
 樽なんてあっという間になくなるぞ。俺もククーも酒には強いのだ。

「酒は好みがあるからな。。。たとえ万人受けしなくても、レンが好むのなら仕方ない。だが、エルク教国の聖職者は厳重に隔離してお前のダンジョンから出すなよ」

「、、、そこまでか」

「神聖国グルシアで布教活動されたら、善良な住民があの腹黒聖職者どもの餌食になる」

 ビスタがため息を吐いている。
 エルク教国の聖職者たちは善良そうに見えて善良ではない。悲しいほどに周辺の国は餌食となっている。高い壺を買わされるくらいならまだ良いくらいだ。人生自体を狂わされた者たちが少なくない。聖教国エルバノーンも隣国エルク教国には頭を悩まされている。

「仕方ないなー」

「レン、諦めて」

「連れてきたら、うちのダンジョンで四六時中監視でもつけるか。最凶級ダンジョンコアで酒造りに興味があるの、いないかなー?エルク教国の聖職者からノウハウをもぎ取ってくれないかなー」

「くれるわけないか」

 ビスタがさらに深いため息を吐いた。
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