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13章 物事は計画的に

13-7 大食漢

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 ギバ共和国の東側の隣国に発生した最凶級ダンジョンに来てみた。
 ここの国は冒険者自体が少ないので、手始めにはちょうどいいと思い選択した。

 中級冒険者を壁の激突から救ったら、冒険者たちが泣きついてきた。
 そりゃそうだろう。兵士たちがダンジョンの出入口を見張り、冒険者たちを逃がさないようにしていたのなら。
 冒険者たちを横穴から逃がし、黒く巨大な猫みたいな魔物を撫でまわす。
 しばらく、この魔物と遊んでから帰ろうかなーと思っていたら。

「我が王っ、私も連れて行ってくださいっ」

 逃げ遅れの冒険者か?と思ったが、我が王と呼んだことでそれは違うと瞬時に悟る。

「もしかして、ここのダンジョンコア?」

 何で人型なの?意志あるの?ここってほんの数日前にできた最凶級ダンジョンだよね?
 意志が生まれるには早すぎるよね?

「もしかしなくても、ここのダンジョンコアです。我が王の支配によって、私は目覚めました」

 ものすっごい笑顔で懐かれている。尻尾はないのにブンブン振っている尻尾が見える気がする。
 あー、俺のせいなのね。もしかして、最凶級ダンジョンを俺が支配すると、意志が芽生えちゃったりするの?
 あれー?ギバ共和国の首都も、もしかして?いや、あそこはダンジョンになる前に抑えていただけだから平気なのか。普通の最凶級ダンジョンになってる。うん、良かった。良かったのか?

 しかも、ダンジョンコアが出入口まで出迎えに来てくれれば閉鎖は楽なのにー、って俺は確かに言ってたけど、この状況で閉鎖するのはちと心苦しくない?

 ダンジョンコアの視線が俺の魔物を撫でる手に行った。

「はっ、この姿は好みではないと。人型だと言葉が通じるので、つい安易に選択してしまいましたが、では」

 あらやだ、このダンジョンコアったら、角ウサギに化けたよ。可愛い俺の角ウサギのツノにそっくり。黒毛だけど。
 いつのまにか撫でていた。この子ったら素晴らしい手触りだ。先ほどの魔物が俺の上に伸し掛かって、もっと撫でてーと甘えてきているが、ちょっと待て。

≪いかがですかー、我が王っ≫

「超可愛い。いやー、このまま連れて帰りたい」

≪是非連れて帰ってくださいー≫

 欲望のまま行動するなら持ち帰って、この地にダンジョンが一時的になくなってめでたしめでたしなんだけど、俺的には。

「このまま連れ帰ると、ここにまた最凶級ダンジョンが発生するよねー?」

≪あ、そうですねー。そうですかねー。そうかもしれないですかねー≫

 耳がうな垂れ始めた。この子も耳に感情が出るなー。

「世界がある程度落ち着いたら迎えに来るから、しばらくはこのダンジョンを面倒見てくれない?」

≪はっ、我が王がおっしゃるなら。我が王と共にいられない日々は寂しいですが、迎えを楽しみにお待ちしております≫

 この子ったら可愛いー。人たらしだよー。絶対に迎えに来るからねー。

≪迎えまで、私はこの地でどうしますか?周辺を更地にして綺麗にしておいた方が良いですか?≫

 ダンジョンコアって過激なこと言うよねー。

「適当に魔力を使わないと大変なことになるからね。人が魔物を傷つけたり殺したりしたら、その数だけ報復して。それ以外はとりあえずいろいろな街の外壁を囲んでみたり、威嚇してみたり追いかけっこして遊んで。ただ、自分が傷つけられそうなときはしっかり防衛してね」

≪はいっ、我が王っ≫

 いいお返事。
 最後に撫でておく。





「やっぱり最初は遠い遠い異国の地を選んで正解だったな。最凶級のダンジョンコアに意志が生まれるという想定外のことが起こったし」

「ものすごく懐かれていたなー、クソ英雄」

「想定外が想定内なのが英雄じゃよ」

「、、、この会議に俺、いる?」

「お前は必要だぞー、ビスタ。冒険者ギルド側の視点で考察してくれ」

「その視点なら、すでにアウトで、とめる案件なんだけど」

 ビスタが嘆いている。
 シアリーの街の冒険者ギルドの応接室。
 冒険者が多用していい場所ではないが、ビスタの顔と人形遣いの爺さん人形がコツコツと信頼を得ているおかげで応接室を利用していても何の文句も言われない。
 ククーの会議参加は声だけだが、それだけだとビスタの視線がさまようので、ククー人形を作った。
 ノーレンさんに作った人形よりもかなり小さく、爺さん人形と同サイズである。ククーは俺の人形じゃなくてレンの人形を作れば良いのに、とブツクサ言っていた。
 ククーは爺さんのように人形を遠隔操作できないので、声が人形から聞こえるのみである。

「ところで、お前さんの通信の魔道具、ギャーギャー騒いでないか?」

 爺さん人形が指摘する。音も爺さん人形を通しているのだが、聖教国エルバノーンにいる爺さんにも煩かったようだ。
 ビスタが足の上に置いている。。。
 耳から一番離しているようだ。
 この魔道具はカラダの一部が触れていないと、通信が切れてしまい遠くに置いたことがバレてしまうのだ。

「ギルド長がギバ共和国の副ギルド長から連絡をもらってしまい、東の国でアスア王国のザット・ノーレンと名乗る男が冒険者たちを救ったと聞いて、お前ら何やったんだーと、今、この会議で話している案件を騒いでいる」

 口から魔道具を離し過ぎているので、ビスタの会話はギルド長には届かない。ギルド長の怒鳴り声は耳に届くんだけどね。

「けれど、ダンジョンコアに意志ができてしまったものを閉鎖するのは忍びないから、支配するダンジョンを厳選するか」

「世界が落ち着いてきたら、ダンジョンコアを迎えに行くのか」

「角ウサギを迎えに行くの間違いだろ」

「うちのダンジョンが可愛いものの楽園になる。それこそ幸せダンジョン計画」

 俺のダンジョンで他のダンジョンコアがゴロゴロしていて良いのだろうかと思う気持ちもなくはないが、本人が来たいと言うのだから俺は拒んだりしない。

「支配しないと英雄姿になれないからな。制約が大きいなー。それに今回は俺に従順なダンジョンコアだったから良いけど、意志を持ったダンジョンコアがすべて角ウサギになってくれるわけではないだろう」

「くっ、私も角ウサギになって、我が王の元で暮らしたいっ」

 北の女王が執事姿で現れた。悔しがっている。俺の元に来るということは、そこにダンジョンがなくなってしまうことを意味する。

「それはこの街の人が困るから、頑張って北のダンジョン続けてー」

「そうそう、お隣さんである初級中級ダンジョンがなくなると、レンも困るぞー」

 ビスタが慌てて付け加えている。俺も困ることになっている。困ることと言えば?

「ああ、確かに北のダンジョンがなくなると、どこで薬草採取したんだって話になるよな」

「そうだよなー、レン、困るよなー。他のダンジョンコアは確かにレンのダンジョンに居座るのかもしれないが、特別なお隣さんは北のダンジョンだけなのに、そのポジションを失う気なのかなー」

「我が王のお隣さん。しかも特別な。これは末永くお隣で頑張らなければならないようですねっ」

 北の女王が執事姿で決意の拳を振り上げると、ビスタはホッとしたかのような顔になった。
 シアリーの街はダンジョンで成り立っている街だからな。ダンジョンが閉鎖されてしまえば、半分以上の者は街から出ていってしまうだろう。

 遠い将来になくなってしまうのは仕方ないが、今すぐなくなってしまうのは困るのだろう。ビスタも、この街の人たちも。

「話をまとめると、一度俺に支配されるとダンジョンコアは意志を持つ可能性が高い。意志を持ったダンジョンコアを閉鎖するのは忍びないので、支配する最凶級ダンジョンを選ぶ。ただ、意志のあるダンジョンコアをそのまま放置して他の冒険者に閉鎖されてしまうのは困る、といった具合か」

「ギルド長あたりは角ウサギをそのままお持ち帰りし続けてもらいたいと思うだろうな」

「呪いが垂れ流し状態でなければ、お持ち帰りしたら終わりだったんだけどなー。そのままダンジョンコアを回収し続けると、うちのダンジョンが角ウサギだらけになってしまう」

 それはそれで楽しそう。うちの角ウサギたちの仕事も割り振られるから楽になるだろうし。

「うちのダンジョンから角ウサギが溢れ出し、世界が角ウサギだらけになるのか」

「その角ウサギが最凶級じゃなければ、世界は幸せに見えたのに」

 ビスタが残念がっている。

 ちなみに、俺の角ウサギたちは大食漢だから、地上に溢れたら森林が更地になるのも早いだろうな。
 角ウサギたちのダンジョンでの食生活は、食べながら仕事をしている感じだ。
 外にいるときは俺たちに合わせて三食程度に抑えてくれているが、ダンジョンにいるときは年中食べているんだぞー。
 角ウサギには成長が早いダンジョンの草は必要不可欠なのだ。
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