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13章 物事は計画的に

13-5 魔王

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 俺のギフトが『蒼天の館』ではなかったら、何であったか?
 彼らは話し合う。
 結論は出ることはないが、『魔王』が有力候補になっている。

『魔王』のギフトについて考えてみる。
 この世界の『魔王』は魔族の王でも、魔物の王でもなく、単なるギフトである。
 単なる、と言えば語弊があるか。『魔王』というギフトも紛れもなく神から授けられるものだ。
 神にとっては何かしらの役目があるからこそ『魔王』というギフトがあるのだろう。
 ただ、人から見れば悲しいギフトだ。
『魔王』はダンジョンを支配し、魔物を支配して、その国を支配下に置くという過程が存在する。
『魔王』に支配されて追い出された国王や、生き延びた国の上層部が『勇者』に泣きつくのである。
『勇者』は唯一『魔王』に勝てるギフトである。
 反対に自分を鍛えなければ、『魔王』にしか勝てないギフトであると言ってもいい。『勇者』は『魔王』に絶対に勝てるが、『魔王』に直接会うことができなければ、他のものたちに殺られる。だからこそ、『勇者』は己を鍛え、仲間とともに旅をする。
『魔王』は必ずラスボスであり、多くの魔物たちに慕われているのだから。『勇者』の行く手を阻むものは多く存在するが、最後にやられてしまうのが『魔王』である。

 
 で、『魔王』というのは強いギフトだ。
『勇者』も『魔王』も人の枠を超えないギフトだが、『魔王』の方が人外に近い。
 ダンジョンコアを俺のように吸収することはできないが、ダンジョンの管理権限を与えられる。支配できるダンジョンのレベルは『魔王』のギフトがどれだけ成長しているかで異なるようだが。

『勇者』が生まれるとき、本当なら『魔王』が必ずいる。
 すでにどこかの国で騒ぎになっていることが多い。
 だが、今回は最凶級ダンジョンが大量発生しているが、『魔王』という存在は確認できていない。
 どこの国も見つけていない。情報収集に長けているギフトを持っているのは何もククーに限ったことではない。情報戦が得意な国でさえつかんでいない。

『勇者』が生まれている。
 今の状況下で、それが意味するのは。
 本当なら『魔王』として生まれる存在の者がいない、ということになる。
 産まれてから何らかの理由ですでに亡くなった、というのはあり得ない。俺が英雄のギフトを失う前には『勇者』は産まれていたが、その前に『魔王』が産まれていないのは英雄のギフトで確かなのだから。『魔王』は『勇者』より後に産まれることはない。


 さて、『魔王』のギフトというのは、俺のようにダンジョンコアを吸収することはないが、ある程度のダンジョンコアを支配下に置くのだから、最弱の『魔王』でもそれなりの強さがある。人が神より授けられる中では最強のギフトであると言っても良い、弱点の『勇者』がなければ。ちなみに、『勇者』は強いギフトではない。『魔王』に対してだけ、強いギフトなのである。

 というわけで、初級中級ダンジョンの北の女王を支配下に置いてしまった俺は『魔王』候補だ。だが、『魔王』のギフトは持っていない。となると、『勇者』は俺を討伐できない。『勇者』が人を殺して犯罪者にならないのは、相手が『魔王』だからだ。同じ国内ならまだしも、国外の人間を殺すのだ。それが『魔王』でなければ、対外的に問題にならないわけがない。
 理由なく『魔王』以外の人も殺した『勇者』は、もちろんその国で裁判にかけられたり、処刑されたりしている。『魔王』が殺されてめでたしめでたしということだけにはならない。その人物が『魔王』に加担したとか何らかの証拠がなければ極刑となるのは歴史が証明している。『勇者』は『魔王』以外には弱いのである。なので、『勇者』を生み出す国は『勇者』に教育を施してから魔王討伐の旅に出かけさせる。
 そうしないと、自分の強さを勘違いした『勇者』がお馬鹿な行動を取ることが多かったからである。そして、そういう『勇者』は『魔王』討伐を果たしても、自分の生まれ育った国に戻ることがなかった。
 そういう意味では『勇者』も悲しいギフトであった。
『勇者』も『魔王』も誰も幸せにならないギフト筆頭である。
 美談にされた『勇者』は語り継がれているが、真実は決して勇敢な冒険譚ではない。

 今代の『勇者』もまだ幼児だが、英才教育が始まっている。
 アホでも『勇者』になれるが、『勇者』として幸せになれないからだ。
 ただ、『魔王』が見つかっていないため、教育方針が混沌としているが。『魔王』が存在しなければ、『勇者』はどう生きればいいか、悩みどころだ。


 俺が『魔王』だったのならば、今の状況はしっくりきてしまう。
 最上級ダンジョンのなかには意志があるダンジョンコアもちらほら見受けられるが、最凶級ダンジョンのなかには意志を持つダンジョンコアは今のところいないようだ。




「で、ヴィンセント、俺、ちょっと英雄になってくるから」

「は?」

 ヴィンセントが間の抜けた顔をしている。珍しいな、こういう表情ー。
 シアリーの街から少し離れたところにある家の食堂で、夕食後に宣言した。
 おや、王子のそばにいた角ウサギのタレタの目が余計に細くなったなー。

「タレタ、詳しく説明できる?」

 おい、ヴィンセント、俺の説明を飛ばすな。
 なぜ、即座にタレタに聞いているんだ。タレタをテーブルの上に置くんじゃない。ヴィンセントも椅子に座って、しっかり話を聞く体勢に入るんじゃないぞー。

≪主の悪い癖ですよー。自己完結型。説明を端折ると、何も良いことないですよー≫

「えー、タレター、全世界を騙す劇の始まりじゃないか。英雄姿のザット・ノーレンが現れたら、冒険者レンことザット・ノーレンはただの普通の初級冒険者。英雄が生きていて、もしかしたら英雄のギフトだって持ったままなのかもしれないと匂わせることができればベスト」

「やっぱりタレタ、説明してくれる?」

 ヴィンセントーーーっ。
 くすん。俺、説明しなくてもわかってくれるククーがいるから、説明下手になってる?
 おい、ククー、ヴィンセントの方に同情するな。いきなり言われたらそりゃ困るよな、って常識論を言うんじゃない。

 タレタが懇切丁寧に、英雄は多少強かっただけなんだぜー計画をヴィンセントに説明してくれた。
 意志のない最凶級ダンジョンにご協力いただきまして、俺のダンジョン化することにより俺は英雄姿でダンジョンに行き、そこで魔物と戦っている冒険者たちの前に現れてそこそこの強さをアピールするが、冒険者ギルドに組まれている予定があるのでと言って、閉鎖もしていないのにその場を立ち去ってしまうという残念さを醸し出す。
 本当に最凶級ダンジョンを閉鎖していた人物なのか、と冒険者たちが疑問を呈することになるだろう。

 コレをするのはアスア王国以外で。
 アスア王国でコレをすると、英雄が帰ってきたと思われてしまうので非常に問題だ。
 あくまでも対外的なアピールである。アスア王国には偽物だと思われていた方が良い。
 コレなら一日ほど現場にいて消えても何の問題もない。英雄の亡霊だったのかと思われても良い。

 神聖国グルシアのシアリーの街にいる冒険者レンと、英雄が別人だと思ってもらおう、という計画だが、では、冒険者レン役は誰がやるのかというと、最適な人物がいる。いや、人物とは言えないが、北の女王にやってもらうのが最適である。北のダンジョンならば、北の女王は普通に現れることができるし、どんな姿にもなることができる。北のダンジョンで細々と薬草を探している俺の姿を冒険者に少々目撃されればいいだけだ。

 我が王の姿になるのは恐れ多い、と北の女王が遠慮したので、大量の魔力をあげて口説き落とした。
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