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13章 物事は計画的に

13-2 説得

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 朝からシアリーの街の冒険者ギルドに来たのもワケがある。

「よお、来たか。朝っぱらから騒がしいな、お前ら」

 ギルド長が受付カウンターにまで顔を出さないでください。
 シアリーの街の冒険者は冒険者ギルドのトップの顔まで知らないんですけどね。
 所長が困った顔をしていますよー。

 で、ビスタと俺はギルド長に連れられて応接室に入った。
 神聖国グルシア聖都に本部移転が問題なく終わり、暇となったギルド長がシアリーの街までわざわざ遊びに来たのである。

「暇じゃねえし、遊びに来たわけじゃねえ」

 俺の心の声を読まないでくれるかな?

「お前の顔にすべて書いてあるんだっ。あーホント、やだやだ」

 ギルド長に駄々こねられても俺も嫌だ。
 組織の上の人間がいなければ回らない組織はあまりいい組織とは言えない。
 ギルド長は基本的に厄介ごとの調整人みたいなものだ。各地に飛びまわっている。組織のトップの人間が言ってこそ、ということは思った以上に多い。

「そこまでわかっているならよー。各国の最凶級ダンジョンの閉鎖依頼を受けてくれねえかな」

「俺は魔物は討伐しない。魔物は俺の仲間だ」

 肩でチイが胸張ってるー。超可愛いー。

「百歩譲って、魔物を倒さなくていいから、ダンジョンコアを壊してきてくれ」

「だから、今の俺にはダンジョンコアの位置がわからないから、一、二週間もあんなダンジョンのなかを彷徨うのなんて嫌だ」

「誰か、ダンジョンコアの正確な位置わかる奴いねえのかよ」

 ギルド長が頭を抱えている。

「いたら、上級冒険者たちで問題なくダンジョンを閉鎖できてい、、、あ、レン、神官殿ってダンジョンコアの位置わかるんじゃねえの?」

 何を言う、このビスタは。本気で怒るぞ。

「ビスタ、ふざけるな。お前、ククーの戦闘能力を知らないな。最凶級ダンジョンで魔物に遭ったら一瞬で殺されるじゃねえか」

「うわー、神官殿って元諜報員のククール・アディのことか?そりゃ、戦闘能力はないだろうが、そこまで言ったら可哀想だろ。言葉を濁せよ」

「で、レン、神官殿はこの会話を聞いているんだろ」

「当たり前だろ」

「はっ、何だとっ。ビスタ、そういうことは前もって言っておけ。レン、ストーカーなら相談に乗るぞっ」

「うわー、ギルド長がひどいこと言ってるー」

「ギルド長、レン、お前らいったん黙れ。話が進まない」

 珍しくビスタの目が据わったよ。

「話をまとめよう。レンはダンジョンコアの正確な位置さえわかれば、最凶級ダンジョンの閉鎖依頼を受けるということで良いんだな」

「うーん、百歩譲って?」

 それなら魔物に会わないようにダンジョンを進んで、ダンジョンコアを叩き潰せば良いだけか。

「世界中の冒険者で、最凶級のダンジョンコアの位置がわかる者はいるのか?」

「わかるのは英雄しかいなかったんじゃないか。今はいないだろう。魔族ですらわからないんだから」

 ギルド長が答える。

「レン、神官殿と会話できるか?」

「ククーが答えるなら」

「そうか。神官殿はダンジョンコアの位置はわかるのか」

 ものすごい長く深いため息が聞こえた後。

「いや、わからない」

 ククーが答えた。

「あー、ククーなら」

 と言って俺は口を塞ぐ。
 ビスタがにこやかに俺を見る。笑顔のイケメンの目は怖いな。

「レン、その言葉の続きは?」

「、、、訓練すれば、見えるようになるんじゃないかと。。。ただ、ククーを最凶級ダンジョンに連れて行くことはできない。戦闘能力がない人間を最凶級ダンジョンで守れるほど、今の俺は強くない」

「レン、、、」

 ククーの悲しそうな声が響くが、事実だ。ここでククーを連れて行けばいいじゃないかと言われたら、絶対に拒否する。俺はククーを守ると約束したのだ。守れない場所にわざわざ連れていくのも。。。
 あ、ククーにはミニミニダンジョンがついているから平気だった。最凶の防御を渡していたんだった。忘れてた。この頃、物忘れも激しいなー。ククー自身の戦闘能力には変わりはないんだけどね。
 それでも、俺はククーを他の最凶級ダンジョンには連れて行きたくない。

「別に神官殿がレンについていかなくとも、こういう風に声だけでサポートできるんじゃないか」

「声の支援はできるだろうけど、ククーは俺を信用できるのか」

 俺の言葉に、は?という表情のビスタとギルド長。

「神官殿をお前が信用できるかって話じゃねえのか?」

「いや、俺は英雄時代、他国の諜報員を欺きまくっていたからなー。今もけっこう見せてないことがあるし、実際の俺が目視できないところで、俺を信用してくれるのかと」

「、、、クソ英雄の弊害か」

 わー、ククーにクソ英雄呼ばわりされるのはいいけど、ギルド長には言われたくない。

「レン、俺が訓練するとなると、どれくらいでダンジョンコアを見ることができるようになる?」

「んーっと、一か月もあれば何とか?ククーには神官の仕事もあるし無理しなくていいぞ」

「是非、無理をしてくれっ」

 ギルド長が天井をあっちこっち見ながらククーに祈っている。ククーはギフトで適当に見てくれているから、別に目線を向けようとしなくても大丈夫だ。気分の問題だろうが。

「ギルド長、ククーは冒険者じゃないんだ。無理を言っちゃいけないぞー」

「いや、神官殿は冒険者登録されている。アスア王国で諜報員していたときに」

 ビスタ、何でそんなことまで調べあげているの?最初からククーを利用しようとしてなかった?

「神官殿は身分証の関係で登録しただけだろうが、まだ生きている。別に偽名でアスア王国に入国しているわけでも、冒険者登録しているわけでもないからな」

 諜報員といっても、俺担当の各国の諜報員は俺を調べるだけなので、特に表立って悪事をするわけでもない。彼らは普通にアスア王国に入国していることが多い。アスア王国もザルだから、特に問題なく長期滞在できてしまう。
 冒険者ギルドの冒険者カードは国籍の記載がないから、身分証として手軽に見せやすいものだ。

「おい、レン、そのダダ漏れの魔力を何とかしろ。ギルド長が怯えているだろ」

「ビスタ、この件はいったん保留だ」

「お前は過保護すぎなんじゃないか。神官殿は自分でしっかり考えて決めるさ」

「お前まで、俺の大切な者を奪おうとするのか?」

 俺はビスタを見た。

「レン、そうじゃないっ。今のお前たちは危険なんだ。ギバ共和国の一件は少なからず情報が漏れている」

 ギルド長が大声で言った。

「最凶級ダンジョンの発生件数は各国とも増えているが、閉鎖できたのは僅かだ。上級冒険者たちが頑張っているが、成果は芳しくない。最凶級ダンジョンに素早く対応できるのはアスア王国の英雄だけだった。だが、今のレンは英雄のギフトがない。ならば、英雄のギフトを持っている新英雄を攫って、レンに戻せばいいという短絡的な動きがないわけではない」

「それは、」

「お前がそれを拒めば、友人と呼んだビスタや、神官殿が標的となって、、、うっ、その威圧的な魔力を引っ込めろ、つまりお前に対する人質を取ってでも英雄に戻るよう要求される可能性も高い。不満が高まってそんな行動されるよりも、少なからず最凶級ダンジョンを閉鎖した方がお前たちのためにも良いと思って提案しているんだっ」

 ギルド長が言い切った。
 だが、それは。

「無理な話だ」

「そーかよ。へいへい、英雄さんは」

「今、英雄のギフトを戻されると、俺は死ぬ」

 応接室に沈黙が支配した。
 それをすぐに破ったのは、何も知らないギルド長だ。

「は?元々お前のギフトだろ、アレは。元に戻るだけじゃないのか?」

「肉体が持たない。俺はあのギフトの代わりにダンジョンコアを吸収している。そこに英雄のギフトを入れたら、完全に容量オーバーだ。元が英雄だろうと何だろうと、俺はまだ人の身だ」

「おい、ビスタ、お前は俺に隠していることがあるな」

「ギルド長、この件は保留にさせてくれ。少し考える時間が欲しい」

「そうだねー。俺もビスタくんにいろいろ聞いてから、対処したいなー」

 ギルド長はビスタを逃がさないようにがっしりと肩を組んでいる。
 ビスタは少々あきらめ顔になっている。

「ギルド長には話しておけ。どうせお前と同じで聞かなきゃ良かったと思うに決まってる」

「あ、それもそうかー。秘密は分かち合ってこそー」

「急速に聞きたくなくなってきた」

 ギルド長とビスタは二人で話し合ってもらおう。
 俺はククーと話さなければ。
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