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13章 物事は計画的に

13-1 独占

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 真夏日が続く。
 街に比べると森のなかだから多少涼しいが、それでも暑い。夜でも気怠い暑さが続く。
 けれど、ヴィンセントの魔術でこの家のなかは涼しい。
 ひんやり爽やか心地良い。
 が、今のヴィンセントの部屋は寒いぐらいである。




 日付が変わるとヴィンセントの誕生日になる。
 ヴィンセントの要望が、誕生日に俺を独占したいということだったので、前日の夕食を豪華にして王子と角ウサギたちと祝うことにした。
 祝われるヴィンセントの笑顔が眩しいっ。

 俺はヴィンセントに腕輪をプレゼントした。
 俺の色の魔石が大きいのだが、ヴィンセントは赤い色の方が好きそうだったから、赤い魔石も入れておいた。
 金属部分も細工して模様を加え、我ながらいい出来と思われる。
 早速つけてくれた。
 指輪を作りたかったが、予想以上に魔石が小さく作れなかったと言うと、指輪は私の方からプレゼントするから待っててね、と手に口づけをされてしまった。
 うわーっ、カッコイイー。
 赤くなってジタバタする俺を、冷静に見守る王子と角ウサギたち。。。
 こういうのは二人きりのときの方が良いね。

 夕食を食べ終わると、さっさとお開きになった。
 二匹の角ウサギが王子を部屋に誘導している。残りは食堂のお片付けをしている。
 翌日も、角ウサギたちが王子と共にいてくれる。
 済まないなあ。


 日付が変わったら独占という話だったが、夕食後には独占されていた。いつもと変わらないと言えば変わらない気もするけど。
 お風呂も二人で入って洗い合い、その後、ヴィンセントの部屋に移った。
 ひんやりを通り越して寒い室温。お互いの体温が気持ちいいほどである。交われば熱くなっていく。
 いつもより激しく、長く、愛撫される。
 全身隈なく愛される。
 ただひたすらお互いを求める。

 いつのまにか寝ていたらしい。
 目を覚ますと、ヴィンセントの目が覗いていた。

「ん、ヴィンセント」

 ヴィンセントが瞼に唇を落とす。
 ヴィンセントはこの赤い目が好きだ。
 この辺がどうしても初恋を引き摺っているのでは?と疑われる点なのだが、魔力が高い人間は赤い目になるようだ。現在では魔族の数人しか存在しないが。
 魔力が高い人間を好きになってしまうノエル家の皆様は、きっと赤い目が大好きなのだろう。
 
「レン、おはよう。朝食食べる?」

 角ウサギが持って来てくれていたらしい。お邪魔じゃないときにさり気に持ってくる賢い奴らである。オオとかチイあたりは気を使わずに持ってきそうだが。。。
 頷くと、ヴィンセントがベッドに朝食を持って来てくれる。
 まだ温かい紅茶を飲み、ヴィンセントが食べさせてくれる。行儀は悪いがお互いくっついたままだ。

「、、、コレだと、俺が甘やかされているんだが」

「私がやりたいことだから良いの。私にとことん甘やかされて、レンは何もしなければいいのに。ただ私のそばにいてくれればいいのに」

 ヴィンセントは本心で言っている。
 このまま俺がただヴィンセントのそばにいてくれればいいのにと本気で思ってくれている。

 ここで流されずに、深く考えてしまうのが庶民な俺。。。生活はどうするの、とか思っちゃうんだよな。
 孤児でもなく、英雄でもなければ、この家に辿り着いたときにヴィンセントにただ流されて自堕落な生活をしていたかもしれない。
 王子の目があるから、どんな俺でも正気に返るとは思うけど。

 俺はヴィンセントに抱きつく。
 何もしないことを望まれるとは思わなかった。
 そんな人物と出会うことさえ考えつきもしなかった。

 今まで、俺はどれほどのことを他人に望まれてきただろうか。
 確かにアスア王国の国王から高い報酬を払ってもらっていたが、俺はもう少し、ほんの少しだけでも一緒に戦ってほしかった。
 アスア王国の国民への願いは届かなかった。

 けれど、俺に似ている部分があるタレタが悪だろうと善だろうと仕事全部が面倒と言うように、そういう面も俺のなかには確かに存在する。
 やらなけばいけないことだから、さっさとやっていた。
 本当だったら、何もやりたくない。貧しくとも孤児のままでいいとさえ思っていたくらいだ。

「レン、ごめん。嫌だった?」

 ヴィンセントが俺を抱きしめ、俺の瞼に口づけをする。

「違う。嬉しかった」

 俺の目からは熱いものが溢れていた。
 涙はとめようがなかった。

「ヴィンセント、ありがとう」

「こちらこそ、ありがとう。レンと出会わなければ、私の生涯は真っ暗だった」

 ベッドのなかで笑い合う。
 ああ、幸せだ。
 こんな人生が待っているとは思ってもみなかった。
 歴代の英雄の末路から、自分の未来など見たくもなかった。
 愛されるなんて思ってもみなかった。
 俺を手放したくないと思ってくれる人が現れるなんて。




 ドロドロにお互いの体液にまみれながら、ヴィンセントの誕生日は思いっ切りイチャついた。
 かなり喘がされたが、そこはヴィンセント。遮音の魔術はしっかりしているので、隣の王子の部屋には何も漏れていない。
 角ウサギたちが気を使わなくても良くなった。ヴィンセントが角ウサギに気を使ったわけではなく、俺のああいう声を誰にも聞かせたくないという要望らしいが。
 その翌朝。
 朝食を作るために、早々とベッドから起き出す。

「レンの足腰が立たなくなるくらいヤったのになー」

 残念そうにヴィンセントが言う。

「、、、冒険者だからね」

 足腰を鍛えていても、それとこれとは話は別だろうけども、他に言える言葉もなかった。ダメな人は激痛で動けなくなるらしい。痔の人とかは無理そうだな。
 ヴィンセントの俺をさらに一日甘やかしたかったというところは、非常に愛おしい。

「朝食ができたら呼ぶよ」

「うん」

 口づけを交わしてから、俺は台所に向かう。
 今日もまたいつもの日常が始まる。


 シアリーの街の冒険者ギルドと薬師ギルドに薬草納品に出かける。
 本日の角ウサギの俺当番はチイである。けど、この俺当番、俺が出かけるとき以外は特に何もないので忘れ去られるときも多い。王子担当のお庭番は一匹だけだからね。
 俺当番で街に出ると、角ウサギにとっては屋台用のお駄賃をもらえるので、嬉しいらしい。角ウサギたちのお金の使い方もそれぞれだ。オオとチイはもらったらそのまま屋台に走っていく。あとの三匹はわりと貯めるが、タレタは貯めたところで変な物を買ったりする。本人が気に入っているから特に何も言わないが。。。
 タレタは俺に似て残念なところがあるのだ。

「ようやく来たかー」

 ビスタが冒険者ギルドの受付カウンター近くで待っていた。

「ビスタがあまりにも言うから、俺が冒険者ギルドに来る曜日を固定したんだぞ。別に薬草納品なんて月一ですらいい気がするのに」

「わー、引きこもり冒険者がここにいるー」

 ビスタが嘆く。
 まだ朝だから、依頼を受けようとする冒険者たちが受付カウンターに並んでいる。
 俺がこの時間に来ることは滅多にない。
 そして、買取カウンターには誰も並んでいない。というより受付の職員さえいない。だろうね。。。朝っぱらからダンジョンから戻ってくる冒険者はまったくいないわけではないが、この街ではほぼいない。

「冒険者ギルドに来ないだけじゃないか。薬草採取だってしているのに」

「せっせと収穫しているのはお前のところの角ウサギだろー。勤労な従魔がいて羨ましいよ。偉いなー、お前」

 ビスタが肩にのっているチイを撫でた。チイは素直に撫でられている。

「うちの子、偉いだろー。もっと褒めてやれ」

「レンに対する嫌味が通じない。。。ところで、なんか今日はイキイキとしてない?肌が艶々としている気がする」

「気づいたか。昨日はヴィンセントの誕生日だったから、目一杯愛されてきた」

「束縛さんの誕生日かー。性欲すごそー」

「独占したいって言ってたから一日中愛された」

「生々しい説明はいらないからねー。寂しい独身族にはそういう自慢話は厳禁だよー」

 なぜか依頼カウンターに並んでいる冒険者どもがうんうん頷いている。

「というか、ビスタは大切な人に変に隠し事をしなければ、問題にならなかったはずだ。メイサさんに愛想つかされるのも、必要ないことはベラベラ喋るのに、大事なことを何も話さないからだ。隠すなら隠し通せ。微妙にバレているから嫌がられるんだ」

「わっ、朝から槍が降ってきた。心に刺さる」

 これも依頼カウンターに並んでいる冒険者どもが頷いている。
 わかっているなら、誰か忠告してやれよ。
 メイサ嬢を一度でも射止めた敵には教えたくないと、なるほど。
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