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12章 昨年とは違う夏

12-5 休日

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「レンの言いたいことはわかった。要約すると、今回のことは友人の冒険者ギルドのビスタ・リングランドのために一肌脱いだってことなのだろう?」

 大統領がまとめた。
 冒険者ギルド本部にある大会議室にて、大統領や長官らが前に座っている。

「話をものすごく圧縮するとそうなるね。けど、俺のことはここまででいいでしょ」

「そうだな。旧王都への首都移転はもう少し我々で詰めることにする。それで、自分たちで動ける者たちは避難できるが、怪我や病気で近隣の街に馬車でさえ動かせない者がいる」

「うん、いるだろうね」

 大都市なので、いない方がおかしいくらいなのだが。

「で?」

「武器屋と酒屋で転送をしたと聞いた。今日、神聖国グルシアにいるはずのキミとククール・アディがこの場にいるということは、人の転移も物の転送も可能だと思うのだが、首都移転場所が決定したら力を貸してもらえないだろうか」

「うーん」

 俺は地図を見る。今の首都と旧王都は少々離れている。
 上空のミニミニダンジョンはえーっ、と不満顔だが、この首都と同時のダンジョン化ができないわけではない。いざとなればもう一体ミニミニダンジョンを連れて来るか、作るかすればいいのだが。

 人の転移と物の転送は別物だ。ミニミニダンジョンを使うならば、人体は耐えられうるだろうか?まだ無理かな?避難で人体崩壊させてしまったら、大問題である。
 扉を通さなければ、人体は安全とは言えない。扉を作るならば、旧王都の方はダンジョン化しなくてもいいのだが、管理しきれるものではないだろう。動けない者以外にもその扉を使わせろという話にもなりそうだ。

「そうやって考えるフリをして、我々に恩を高く売りつけようと目論んでいるのではないか」

 長官の一人が立ちあがって、声を荒げた。

「友人のためというのも信用できない。私はアスア王国で英雄を見たことがあるが、こんな小さな男ではなかった。英雄を騙って何を企む。何が目的だっ」

 護衛がすぐさまその長官の肩を押さえている。それ以上、その場から動けないように。
 おや?この護衛たちは大統領や長官たちを守るためにいるのではないのかな。

「俺の能力の詮索しないということが今回の条件なのだが、一応ある程度は説明しておく。俺は万能のギフトと呼ばれた英雄のギフトを失っている。元々の能力でも転移はできなかった。確かに人の転移も物の転送もできないことはないが、今の俺にはかなりの制約がある能力だ。可能かどうか検討するのにも時間は必要だ」

 大統領や他の長官は黙って俺の話を聞いている。

「そもそも、動けない者たちがこの都市にいるのならば、国の上層部がどうするかを考えるべきであり、まずは魔術師で雇っている役人を使うものだろう。勝手に俺に頼って逆ギレするのはいかがなものか」

「その通りだ。この者も民のことを想って熱くなり過ぎた。すまない。我々には最凶級ダンジョン発生を一か月間抑えられる術もないのに」

「それこそが虚言だっ。この首都に最凶級ダンジョンが発生すると嘘を言い人々を避難させて、何をする気だっ」

「俺がビスタに伝えてから一週間は軽く過ぎている。俺が能力を解除すれば明日にでも最凶級ダンジョンが発生する。嘘だと思うなら、俺は別に解除してもかまわないが」

「はっ、やはり友人のためと言うのは嘘か。ご立派な御託を並べ、、、」

 彼は続きの言葉を言えなかったようだ。
 すべてが静まり返る。
 俺はそれほどの圧を加えた気はなかったのだが。

「解除するなら、冒険者ギルド本部は問答無用で移動させるだけだ。せいぜい一時間程度もあればどうにかなる。多少取り損なうものもあるかもしれないが、それぐらいは致し方ない。すべてを失うよりかはマシだろう。なあ、ギルド長」

「あ、できれば、我々や荷物以外にも、家族も一緒に移動させてもらえると助かります」

「それぐらいなら善処しよう」

「ギルド長、そこで話を進めないでくれ。我々は貴方の能力の解除を求めていない。ただ、我々は話し合いの国だ。様々な意見の者がいて、意見を潰し合わないで協力し合う。この者が感情のままに発言したことは許しがたいが、反対の意見も重要なものだ。この者の口は塞がないが、カラダは押さえる。貴方に危害を加えることは一切ないので、貴方が気に入らなければこの者の意見は聞き流してくれればいい。ただ、この者のために話を終わらせることだけはしないでほしい」

 この国は上の者が命令するだけで完結するような国ではない。けれど実は、上の者が命令するだけで完結する国って君主制の国でも少ないのだけどね。王だろうと何だろうと反感を買わないように裏で手を回していたり意外と苦労しているのである。

「長官のなかでも貴方に懐疑的な者も少なくないが、その代表として彼はこの場に出席している。それは我々が彼らの意見を尊重しているのと同時に、彼は我々が貴方に洗脳されているわけでも迎合しているわけでもないことの生き証人となってもらうためである」

「そうか、ならば話を元に戻そう。馬車で移動できない者たちがいるということだったが」

 隣のギルド長が残念そうな顔をしている。でも、ほんの少し期待している目の光も残っている。
 長い日程、大量の荷物の馬車で神聖国グルシアに行くよりも多少危険でも一瞬で運んでくれた方が楽は楽か。冒険者ギルドなら本部から、聖都の仮本部に扉を作って、時間限定で閉めてしまえば充分か。だが、それだとギバ共和国からそっくり本部がなくなってしまうので、ギバ共和国内の後の指示系統が問題になってしまう。
 ギバ共和国に残る者と仮本部に向かう者を分ける必要がある。冒険者ギルドは徐々に人員を荷物とともに移動させていこうとしていたため長期的な移動計画はあるものの短期的なものはない。仮本部に行く者が多すぎると、ギバ共和国内での業務が滞ってしまう。近くの都市に移動する職員たちは馬車で移動してもらった方が良い。
 こちらは後で要相談事項である。ビスタでも間に入れるか。

「先ほど貴方が言っていた冒険者ギルドを問答無用で移動させる手段は、怪我人等には使えないのか」

「冒険者ギルドならともかく、それをギバ共和国側に管理させるほど、俺はあなた方を信頼していない」

「ならば、冒険者ギルドの職員や冒険者を派遣するって話はどうだ?」

「、、、ギルド長、申し訳ないが、冒険者ギルドの職員や冒険者もそこまで信頼していない。短時間で移動が可能かが判断の基準だ。そして、冒険者ギルドはすでに神聖国グルシアに仮本部がある。移動先が明確なら、こちらも何とかしやすい」

 ギルド長が悲しそうな顔になった。冒険者ギルドの所属している人間だからすべて信頼できるかというと、違うのはわかり切っていることだろう。

「つまり素早く短時間で移動できるなら、転移術を使えるということか」

 どうもこの大統領は俺の転移をどういうものか見当がついたようだ。もちろん扉ではないが。
 転移術は基本的に転移陣の上にのる。つまり、転移陣の長期貸し出しは嫌だと思われている。転移陣自体、かなりの魔力を消費するものだから、大統領も一人以外の長官たちもそれは当然だな、と思っている。

「ならば、移動を補助する者たちを首都の方でも転移先でも用意した上で、転移先はそのままその者たちを収容可能な病院や施設の方が最適か。転移陣はどのくらいの時間なら維持できる?」

 うん、大統領が転移陣って言っちゃった。違うけど、勘違いしているならそれでもいい。大差がない。つなぐ扉が大きければ、ベッドごと移動できるから、これも後で詳細を詰めないといけないな。きっと担当の事務官を準備するだろうから、その人と連絡し合えばいい。
 すべてが物ならダンジョン化して転送、一瞬で終了だけど、人は安全策を取らないと危険だからな。

「せいぜい半日程度でお願いしたい」

「わかった。不公平感がないように、どうしても自ら動けない者とそれを世話する者だけに絞る。人数や時間等の詳細を事務官にまとめさせるので、後で連絡が取りたい」

「時間にゆとりをもって、冒険者ギルドから連絡をください」

「俺はお前と連絡を取る方法なんか知らねえぞ」

「ビスタに頼んでください」

「ああ、」

 ポンと手を打つギルド長。ギルド長自身が用事があるときにビスタを使わないでくださいね。。。

「あと、こちらの転移については別報酬を支払う。こちらも追って連絡を」

「別?」

 別と言うことは?
 俺は斜め後ろで立っているククーを振り返る。ものすごく笑顔になってくれた。

「英雄の力を安売りするわけにはいきませんので、最凶級ダンジョン発生の忠告料、一か月の維持費等をギバ共和国に請求してます。後で手数料を引いたものがレンの冒険者ギルド口座に振り込まれますのでご確認を」

「、、、その辺はククーに任せるけど。お金取るなら、俺が勝手に途中で能力を解除するわけにはいかなくなるだろ」

 先に言っておいてほしいなー、そういうことは。この首都をダンジョン化しているとはいえ、すべての情報を処理できるほどの能力は今の俺にはないんだぞー。
 ククーの考えも一理ある。すべてを無償にしていたら、後から後から助けを求める者が湧いて出てきそうだ。超高額な魔族にさえ、無償で手助けを求める声が届くというのに。
 俺の場合、お金だけじゃ動かないけど。余計に始末が悪いとも言う。

「大丈夫ですよ。きちんと契約にはその旨も謳っておりますから。抜かりはありません」

 ククーのことだから大丈夫なんだろうな。。。ちと神聖国グルシアに有利な文章になっている気がしてならないが。

「やっぱり今日、ククーを連れてきて大正解だったじゃん。大神官長にしっかり休日手当もらうんだよ」

 俺は小さくため息を吐いて、ククーに言った。
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