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11章 冷ややかな夏

11-9 丸投げ ※ビスタ視点

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 冒険者ギルドの本部は、神聖国グルシアに仮本部としてすでに稼働しているが、まだすべてを移動しきったわけではない。
 一週間ほどで大国のギバ共和国の首都に最凶級ダンジョンが発生する。
 ところで、レン、そんな重大なことを俺が呼び出さなければ教えてくれなかったの?
 しかも、今、会話の流れとして教えてくれただけだろ。
 言いたいことはかなりあるが、それはそれとして。

「一週間か、かなりきついな。もう少し延ばすことできない?」

「どのくらい?」

「せめて一か月程度とか?」

「うーん、、、」

 レンが悩んだ。悩むってことは延ばせる可能性があるということか?

「魔脈があるから最凶級ダンジョンが必ず生まれるわけではないんだ。波打った場所とか、流れが滞って吹き溜まりになった場所に最凶級ダンジョンが生まれる。昔からギバ共和国の首都の地下には太い魔脈が淀みなく流れていた。が、その呪いが発生したことにより、こうクイッと曲がろうとしている」

「呪いが魔脈に影響を与えたってことか」

「違う呪いを与えて、軌道修正とかできないのか」

 爺さん人形がアホなことをレンに聞いている。レンが緩やかな笑顔をしているよ。

「違う呪いを与えたら、魔脈がより波打つだけだ。予想のつかない大惨事になる可能性だってあるぞ」

「予想のつかない大惨事って?」

「例えば、首都に一つだけでなく、何個も最凶級ダンジョンが生まれたり」

 怖いから他の大惨事の例を聞きたくない。

「逃げ場がなくなるな。あそこは城がないから城壁はない。都市の周りの外壁はあるが、中から最凶級の魔物に襲われたら都市を放棄するしかなくなる」

「聖教国エルバノーンの王位継承があったら、この大陸全土にそれ以上のことが起こるんだけどね。まだまだ序章だよ」

「まあ、こわい」

 平然と言ったレンが俺は怖いよ。

「うちの王位継承があるからではないんだなー」

「そりゃあね。一国だけの原因でこの大陸全土が危機に陥るのなら、全世界が必死になって聖教国エルバノーンの長子を探しに来る。それだけですべてが丸く収まるのなら、本人の意志なんてお構いなしにそうせざる得ないだろう。呪いを垂れ流しているのは、何もこの辺の宗教国家だけではない」

 爺さん人形が胸を撫で下ろしている。
 自分の国が壊滅的な状態になろうとも、この大陸の大惨事のキッカケとなるのなら回避したいと思うのは当然だろう。

「神の代理人を時の権力者の思い通りにしようとしたことが、聖教国エルバノーンの罪だ。自分たちの身勝手さで王子を国外に出しておきながら、利用するために傀儡のまま戻そうとするのなら、俺が阻止する」

「レンならそう言うじゃろ。仕方ないことじゃ」

「聖教国エルバノーンの人間で、アルス王子が三男であることを憂いているのは爺さんぐらいなものだ。他の者は知っていても別に何もないとタカを括っているか、何も知ろうとはせずに過ごしている」

 これだから、人形遣いの爺さん一家がこの国に来ることになっているのだ。

「ところで、レンよー。アルス王子が元々寿命が短くなっているのに、と言っておったが、アルス王子が神聖国グルシアの生贄に不適格とされたことと関係があるのかのー?」

「ああ、王子たちが連れて行かれたとき、爺さんはアスア王国にいたからな。アルス王子は幼少期に大怪我を負って魔術による治療を受けている。すでに魔力に色がついてしまったアルス王子は神聖国グルシアも生贄として使えない。そして、それだけの大怪我で、魔石による代替もなしの治療魔術なら、アルス王子はかなりの寿命を削っている。神としては三男な上、命が短い欠陥品を神の代理人にしようとした者たちを許しはしないだろう」

「本当に儂がいないときには、ロクなことをしとらんわ。。。儂も国のことよりも英雄との追いかけっこが楽しくてつい遊び過ぎたかもしれん。やれやれ」

「ククーと爺さんが揃っていたときが一番楽しかったよなー。俺もバレずにどう移動するか、仲間や騎士団たちも欺いてどこまで行けるかとかやっていたもんなー」

「英雄もロクなもんじゃねえな」

 あ、つい口に出てしまった。

「ビスタ、冒険者ギルド仮本部に連絡しなくてもいいのか?一週間で、ギバ共和国の首都で最凶級ダンジョンが発生するって。もう時間がないぞー」

「わー、レン、ごめーん」

 英雄にヘソ曲げられてしまった。

「そこを何とか。どうにか、レン様、王様、お願いします」

「魔脈の流れを変えないようにするには、さてどうするか。北の女王に相談するか。だが、無理矢理やるから、さすがに一か月は持たないだろう」

「ですね。さすがに一か月は我が王でも難しいですね」

 何、しれっと現れてやがる。
 北の女王改め王の執事さんがレンの斜め後ろに立っている。レンはまだ北の女王と呼ぶけど、もう女王ではないな。
 テーブルにいる爺さん人形の目が見開いているぞ。

「ダンジョンじゃないぞ、ここは」

「我が王がいるところには現れる、それが私です。ダンジョンから出ると力を出せませんが、我が王がお呼びでしたら、どこでも参上いたします」

 王の執事さんが会話に出るとヤベエ奴になってしまった。たぶん、王の執事さんがレンに呼ばれた判断したら出て来てしまうってヤツだ。

「北の女王、他の人間に見られる可能性があるときはダンジョンから出てくるなよ」

「もちろんです。我が王を困らせることはしません」

 この場にいる人間は王の執事さんを知っている俺だけだと判断してない?
 つまり、爺さん人形は人間としてカウントされていないのか?
 レンも爺さん人形を見た。

「、、、ここにいない者の目も気にしろ」

「もちろんです。この話を聞いているこの人形と、神聖国グルシアの神官ククール・アディは我が王の信頼を得ている人間です。その点は私もわかっています」

 神官ククール・アディもこの会話聞いてるの?
 驚きー。
 俺、知らなかったよ。
 レンがため息を吐いただけってことは、そうなんだろうね。

 テーブルを見ると、爺さん人形が照れてる。。。レンの信頼ってそこまで嬉しいものなの?
 爺さんは驚きよりもそっちの方が重要なのか。
 そもそも、レンと同じで知っていた感があるが。
 それはそうと、爺さん本体もそうやって喜んでいたら、俺、見たくないな。。。

「で、北の女王、ここに出てきたってことはどういう方法がある?」

「簡単に言えば、力技で曲がる魔力の流れを真っ直ぐに矯正させておくということでしょうね」

「あー、やっぱり力技しかないか。他に簡単な方法ない?」

「では、我が王がシルエット聖国からギバ共和国に飛ばしているミニミニダンジョンで一時的にダンジョン化したらいかがですか」

 おやおや、レンくん、実はすでに何かしようと画策してくれてましたー?
 超嬉しい。ニヤニヤが止まらない。

「レンっ、俺を見捨てないでくれたんだね。さすがは俺の友人っ、愛してるっ」

 嬉しさを表現したら、レンが照れた。爺さんの照れ顔は見たくないが、レンの照れた顔は可愛い。珍しい。
 が、今、ものすごい強烈な悪寒が襲って来たけど。

「あ、ククー、今、俺が赤くなったのは、別に愛してると言う言葉を真に受けたわけじゃなくて、友人と言われたのが嬉しいって話だぞ。ビスタに殺気を飛ばすな」

 レンも誰に弁明しているんだ。って、名前呼んだからわかるけどね。そういや、レンは普通にその場にいないコイツと会話はじめるからな。驚くぞ、俺は。会話するときは事前に言っておけ。
 まあ、見えなくても、神官殿が俺に対してどんな表情しているかわかってしまうが。

「ギバ共和国の首都をダンジョン化してしまうのが一番楽か。けど、ダンジョン化を解除したときの反動も大きくなるぞ。それこそ、首都の外壁内にいる者すべてに対して避難が必要になる」

「つまり、首都を捨てて一か月の時間的余裕を取るか、一週間で最凶級ダンジョンに対応する準備をするか、ってことか」

「そうだね。一か月を選択すると、あの広い首都全域が最凶級ダンジョン化する可能性は高いからね」

「よしっ、俺だけじゃ決められない。仮本部に連絡するから、決定の返事待ちの間、昼食に行こう。今日は俺が奢るっ」

 大国の首都一つを潰す決断を俺ができるわけがない。
 仮本部に丸投げしてやるっ。
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