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10章 熱い夏が来る前に

10-3 使用説明 ※ククー視点

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◆ククー視点◆

 俺の部屋の隠し部屋にある物置の扉を、レンはダンジョンに造られた家の書斎につなげた。
 書斎には机と本棚が並んでいる。

「あ?あの家の書斎にこんな扉あったっけ?」

 扉を開けて書斎に入るが、廊下から出入りするはずの扉は別にある。
 この家はレンがヴィンセントと王子と住んでいるあの家の複製のはずだが。
 レンが扉を閉めると、俺の隠し部屋は見えなくなる。

「いや、ないよ。廊下からの扉の方をつなげてしまうと、この部屋には窓から入るしかなくなるだろう。別にまったく同じ建物じゃなくてもいいんだから、壁に扉を作ってしまった方が早いだろう?」

「それはそうだが」

「間取りや家具に希望があるなら言ってもらえば適当に変えられるぞ。もっと棚が欲しいとか、そういう要望でもいい。あと、台所や風呂も使えるし、この家で寝泊まりしたいのなら、今ならどこか適当な部屋のベッドを使っても大丈夫だ」

「じゃあ、アンタの部屋のベッドでもいいわけか」

「別にいいぞ。今のところ、この隠し部屋につながる扉はククーと俺だけが使える。もし、誰か招待したいのなら言ってもらえれば許可しよう」

「それって扉には俺が認識されているのか?それとも、このミニミニダンジョンがないと扉は使えないのか?」

 レンが俺を見た。少し首を捻っている。

「説明し忘れていたか。そのミニミニダンジョンはもう外れないぞ」

「、、、え?」

「ピアスが外れなければ絶対になくさないだろ」

「、、、それはそうだけど」

 一度も外そうと思ったことすらないけど。絶対に?

「一生外れないのか」

「そうそう、俺がお前を一生守ってやれる」

 それはプロポーズみたいな言葉なのになー。
 本人にはその意図はないんだろうなー。
 残念だな。

「レン、これ、俺からの誕生日プレゼント」

「ん?」

 俺はレンに箱を渡す。

「ピアス?じゃなくて、イヤリングか」

 レンは箱を開けて取り出す。

「アンタにはピアス用の穴が開いてないだろ」

「ククー、つけてもらえるか?」

 レンが待っている。
 自分でつけないのは恐らく。
 レンの両耳にイヤリングをつけるが、左耳に青いティアドロップの飾りの方をつける。

「つけたぞ」

 レンが手に触れて、左耳に飾りがあるのを確認している。

「ククー、ありがとう。嬉しい」

 華やかな笑顔だ。
 この笑顔が自分にだけ向けられていないのが不思議なくらいだ。

「やっぱり、ククーだな」

「やっぱりって?」

「ククー、こっちに来てくれ」

 レンは家を出て、鉱物エリアの階層に俺を連れて来た。
 そこには様々な色の小さな魔石がゴロゴロ転がっている。。。砂利か石ころか、とツッコミを入れたいぐらいだ。

 レンに奥へと誘われた。
 そこには大きな、レンの身長を超える魔石が三本の石柱となって存在する。
 確かに大きさに驚いた。こんなサイズの魔石ができるものなのか、と。
 それ以上に驚いたのは色だ。

 魔石の色は、青だ。

 青と言っても、俺が選んだイヤリングのティアドロップ型の宝石とまったく同じ色だった。
 レンは俺をダンジョンに誘ったとき、俺の色の魔石と言った。
 レンの色は赤でも白でもなく、今でも青なのだ。

「綺麗な色だな」

「そう思うか?」

 嬉しそうにレンが笑う。
 そう思わなければ、そもそもそのイヤリングを選んでいない。
 俺はレンの手を取っていた。

「ああ、アンタの色だ。レン、俺はずっとアンタと一緒にいたい」

「ククー、ミニミニダンジョンを持っているお前がこのダンジョンでそんなこと言ったら誓いと等しくなる」

「構わない。アンタとずっと一緒にいられるのなら」

 この想いがレンに伝わらなくても。友人としてでも仲間でも共犯者でも何でも、そばにいられるのなら肩書なんて何だっていい。本当は恋人の方が一番良いけど。

「そうか、」

 レンの声がひたすら優しい。
 俺はレンのそばにいたい。
 レンのダンジョンに居てもいいということは、そばにいることは許されているのだろう。

「俺はいつでもお前を迎えるぞ、ククー」

「それはありがたいな」

 俺もレンに笑う。

 たとえヴィンセントとのような関係になれなくとも。
 初恋と自覚されなかった彼への憧れは、やはり初恋だったのだと。
 気づくのがここまで遅くなければ、せめて諜報員時代に気づいていれば、違う出会いもあったのだろう。
 けれど、俺が英雄と直接会っていたとしたら、俺が英雄に求めていたものは今のレンに求めるものと違っていた。

 どうせ神官は結婚できない。
 ヴィンセントはレンと例外規定で結婚する気で、しかも、同性同士というのはかなり異例だ。俺にとっては、それはそれ。
 レンがヴィンセントと結婚しても、そばにいることがレンに許されるのなら。
 俺が生きている限り、そばにいる。
 それが誓いでなければ、何だと言うのだ。

「で、ククー、とりあえずこの一本を書斎に持って行くか?」

「、、、どの一本だ?」

 レンがポンポンと巨大な青い魔石を叩いている。レンの身長を超える三本のうち、一番伸びている魔石だ。

「俺の色の魔石は後から後からいくらでも生えて来るから遠慮せずに研究に使ってくれ。さすがに無色透明な魔石はあまり融通することはできないが、他の色も育ちは悪いが多少なら持って行けるぞ」

「この辺の足元に散らばっている魔石も、魔力濃度がかなり高いだろう。足蹴にしているが、これらも聖都で売ればかなりの値がつく。下の魔石で充分だ」

「えー、それらは適当に使っていいよー」

 って言って、何で剣を持つ?レンが魔石の根元に剣を振るうと一線が入ったように見えた。

「よいしょっと」

「レン、それをどこに持って行く予定だ?」

 恐る恐る聞いてみる。なんとなく予想はつくんだけど。
 レンが巨大な魔石を担いでいる。身長が縮んだとはいえ英雄は英雄だ。怪力だ。俺がこんな魔石を持ったら確実に潰れるな。

「書斎。ククーが惜しげもなく使ってもいいし、部屋の飾りにしてもいい。飾りには邪魔だというのなら、さっさと砕いて研究に使え」

 ちょっと額を押さえる。
 この巨大な魔石をもらって嬉しくないかといえば、ものすごく嬉しい。
 だが、俺、こんな巨大な魔石を使う研究をしていないのだが。とりあえず足元に砂利のように存在している魔石を小さい袋に詰めてもらっていこう。コチラの方が使い勝手が良い。
 ダンジョン記念として、レンの巨大魔石は書斎にしばらく飾っておくか。

 この巨大魔石を見たら軍事国家が一番喜びそうだ。
 
「そうだな、ククーの誕生日には毎年一本ずつプレゼントする。書斎がいっぱいになるから少しは使おうという気になるだろう」

 脅迫か?魔石に押し潰されるのが早いか、研究するのが早いか。
 そんなに毎日魔石を大量消費する研究なんて、俺していないぞ。質の良い魔石は高いから。

 それでも、割と広い書斎にこのサイズの巨大魔石でもいっぱいになるのは十数年ぐらいでは難しい。これはもう長く居てもいいってことだと解釈する。
 レンのこの厚待遇、ヴィンセントが妬かないのか?

「魔脈がこの地下を流れている限り、このダンジョンで魔力切れはないとは思うが、魔脈が他に移動したら魔力消費を控えなければならなくなることもあり得る。だが、数年で枯渇することはないから、安心しろ。省エネモードに移行する必要があるときは必ず言うから」

 俺はそういう心配をしているわけじゃないんだけどなー。
 省エネモードになろうが、人から見ればレンが規格外なのは変わらないだろう。

「ところで、今日は家から離れているとヴィンセントがうるさくないのか?」

「いや、今日は散歩してきたら、とヴィンセントと王子が勧めてきた。昼には帰ってくるように言われたが」

 ああ、家でヴィンセントは王子や角ウサギとともにパーティの準備をしているのか。祝うべき本人が家に居たら、隠しながら準備をするのも大変だ。
 本当なら俺は招かざる客なのだが、ギフトで見えるツノやタレタが食事の量はバッチリだから大丈夫と俺に伝えてきている気がする。ついでに、俺が持って来た料理やお菓子もしっかり出してねー、と彼らの目が言っている気がする。うん、レンの角ウサギたちも規格外だよな。
 料理は角ウサギたちが頑張ったようだ。

「レン、嬉しそうだな」

「ああ、誕生日を祝ってもらえることがこんなに嬉しいものだとは思ってもみなかった」

 俺はレンとともに歩いてあの家に向かった。
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