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9章 不穏な風が舞い込む

9-6 道のり

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 ククーに呼び掛けてから、ミニミニダンジョンを使う。
 薬師ギルドの応接室から、通った先は聖都の大教会の大神官長の執務室だった。
 大神官長がしっかり机に座って書類を前にして俺を見ているなあ。
 仕事中じゃん。
 ククーったら、イタズラっ子なんだからあ。場所を聞かなかった俺も悪いけど。

「おや、これはこれはお日柄もよく、大神官長におかれてはお元気そうでなにより」

「、、、キミも元気そうでなによりだ。聞いたことはなかったが、英雄時代から転移はできたのかね?」

「いいえ、コレはギフトが失われてからの能力ですよ。転移は転移でも今はククーのピアスの飾り目掛けて飛ぶことしかできませんよ」

 ミニミニダンジョンはククーのピアス以外にもあるが、大神官長に言う必要はないだろう。

「座標みたいなものか。他人は連れて行けるのかね?」

「崩壊しても良ければ」

「、、、規格外だな。何でギフトがなくなったのに、珍しい能力が使えるようになるんだ?」

 崩壊はスルーの方向ですか、大神官長。。。
 制限があるとはいえ珍しいといえば珍しい。基本的にこの世界で転移と言えば、数人、数十人がかりの魔術師で魔術陣から魔術陣へ一人を送るのがやっとなのである。魔法師も使える者は数少ない。

「前から言っているじゃないですか、レンは規格外だって」

「普通はギフトがなくなったら、魔法は使えなくなるものだと言われていたんだが」

 それでよくお前は俺を試したな、忘れてないぞ、あの一件。

「じゃあ、俺はこれで」

 俺はさっさと大神官長の執務室から退室しようとした。

「待て待て。今日は何しに来た?」

 大神官長が俺をとめる。俺が説明するのー?めんどくさー。ククーに聞けばいいじゃない。

「せっかくなのでヴィンセントのお姉さんに美味しいお菓子と料理を用意しようと。ヴィンセントが味にこだわらないのでうっかりしておりまして、ノエル家はこの国の上流階級、俺が作ったアスア王国風の料理じゃ満足しないでしょう?」

「俺が渡した料理の本は神聖国グルシアのものだけど」

「俺の舌がアスア王国の味を求めている。俺も料理人じゃないから、なんちゃってアスア王国風アレンジだけど」

「英雄の料理なら私も食べてみたいなー」

「上流階級の方には私の料理など、とてもとてもお口に合うようなものではございませんので。で、薬師ギルドに寄って、ギルド長を確保してから、魔道具展示会を見に行く。コレが本日の聖都での予定」

「よし、ククーついていってやれ」

「はいはい」

 大神官長が指示しなくても、俺が聖都に来るとククーがついて来る。
 別に何かするわけでもないのだが。しでかす予定もないのだが。

「というか、ここは大教会の深部にあたる。許可証がないものは本来出入りできないんだぞ。おとなしくククーに連れて行ってもらえ」

「面白いから、ここで呼んでやれとか言ったんでしょ、大神官長殿」

 大神官長が返事を言う代わりにニヤリと笑った。いつか天罰が下らないかな、この大神官長。




「薬師ギルドの副ギルド長の紹介の店って、ああ、この店ならグレイシアも好きだろうな」

 ククーに簡易地図を見せた。最初に店を回って注文してから、薬師ギルド、展示会に行き、店に戻ってお菓子や料理を受け取る予定。

「そういや、あの件はもう報告してるのか」

「そりゃ、あれだけ広大に強い魔力を感知させれば。シアリーの街にも魔族が暴れたとして内々に報告している」

「首輪の件は?」

「大神官長は大笑いだったぞ。エーフィルは様々な国でやらかしていたから、まず反対する者はいない。あの実力なら本来なら族長になっていてもおかしくないのに、もう少し思慮深くなればと誰もが思っている」

「そうだろうなー」

 族長になったらなったで、首輪をつけていたとか、ずっと言われると思うけど。あの人、族長になる気あるのかな?そもそもなりたいと思ったことはあるのだろうか?あの人はそんなことに囚われていないように思える。だから、いい意味でも悪い意味でも自由なのだ。

「ところで、もうそろそろアンタの誕生日だろ」

「あ、ああ、アスア王国の建国記念日か」

 俺の誕生日と言われても、俺の誕生日として祝われたことはないので忘れてしまう。建国記念日として王城でパーティがあったが、魔物が大発生していたらほんの少し顔を出せれば良いぐらいだった。

「俺もアンタの誕生日を祝いたい」

 ククーの顔が赤くなっている。

「へ?それは嬉しいけど、本当の誕生日でもないし」

「いいんだ、それは。仮の誕生日でも。一年に一回、アンタが生まれてきたことを祝いたい」

 ああ、それはものすごく嬉しい。
 今まで俺はそんなことを言われたことがあっただろうか。

「ううっ、すごい破壊力。コレがククーの口のうまさか。惚れる」

「できることなら口先だけでなく本当に惚れてほしい」

 俺の右手を取る。
 うわー、どうした、ククー。完全に口説きモードに入っている。俺も顔が赤くなっているんじゃないか?頬が熱いぞ。
 ククーはほんの少し寂しい笑顔を浮かべた。

「ヴィンセントの誕生日に、レンは何をあげるんだ?」

「え、ああ、ヴィンセントには魔力を濃縮に濃縮を重ねた魔石で腕輪でも作ろうかと」

 あの魔石はさすがに指輪では大きすぎる。貴族の奥様方には喜ばれるサイズなのかもしれないがヴィンセントの指にあったらさすがに邪魔だろう。ヴィンセントは指輪の方が欲しそうだが、今回は魔石を小さくしきれなかったので我慢してもらおう。

「、、、濃縮、は今のところ横に置いておくが、その腕輪はミニミニダンジョンではないのか」

「ヴィンセントや王子にミニミニダンジョンをあげるのは違う気がするんだよな」

「前に自分が守るからとか言っていたな」

「うーん、それもあるんだけど、聖教国エルバノーンに送ったものは人形遣いの爺さんが、アスア王国の王城に行ったのは最終的にノーレン前公爵についていくと思う。宗教国バルトのは大惨事になったらちょっとエルク教国に寄ってから勝手に自分で帰ってくるだろうし、そういう感じなんだよ」

「何か気になることを言っていたが、それも横においておく。爺さんも前公爵もアンタが大切に思っている人物なのはわかるが、」

「そういや足で移動するのは遅いとわかったんだよね。次は翼をつけようって思ってさ、シルエット聖国に一つ飛ばそうと思っているんだけど」

「聖女信仰の国か」

 ククーが俺を見た。

「、、、あの国の何が知りたいんだ?」

 ククーのギフトですべては解決するんだけど。聞かなければいけないひと手間が必要だよね。
 アスア王国には英雄のギフトを持つ者がいるが、『英雄』というギフトではない。
 シルエット聖国には文字通り『聖女』のギフトを持つ女性が聖女になる。

「あの国に今代の聖女はいないはずなんだけど」

「あの国ではいることになっているな」

「ギフトを失いし者は神に見放されし者、あの国はそういう国だ。けれど、過去に聖女だった者を処刑してから、聖女が現れたことはない、そう、あの国には」

「、、、何が言いたいんだ、レン」

 ククーが苦い顔をしている。

「結局、保護している国と対立するよなー、って話」

 ククーが視線を逸らす。まあ、ククーは俺に嘘をついてもバレることを知っている。

「ミニミニダンジョンのことはどこにも報告していない。多少のダンジョン権限が与えられているという話で伝えている。大神官長に渡した魔石も、薬師ギルドに納めている薬草の出所もそうゆうことにしている」

「ククーでも薬師ギルドのギルド長の呪いの黒幕が追えないのなら、あの国に聖女のことがバレている。あの国は極端な秘密主義だ」

「魔力至上主義でもあるからな。魔法師様様の国だから薬師なんて目の敵だろ。レンも行けば喜ばれるんじゃないか?」

「ギフトを失っていることをバレなければな」

 バレたら処刑なのに、あの国にわざわざ行こうとは思わない。
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