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7章 王国の冬がはじまる
7-2 謁見の間
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◆7章のこれからの話は、レンがアスア王国王都に放った密偵ミニミニダンジョンからの視点となります。つまり第三者視点◆
「あーっ、クソつまんねえな」
一人の男がベッドで声を上げた。
ここはアスア王国の王城、英雄の間と呼ばれる一室。
新英雄と言われているロイが寝転がっていた。
神聖国グルシアのダンジョンから戻って半年ほど経った。
なのに、王城から一歩も外に出られない日々が続いている。
ロイは元々『炎の剣』というギフト持ちだった。『炎の剣』は攻撃として派手で破壊力が高い。アスア王国の国王が一目で気に入り、英雄の仲間に入れた。
アスア王国の人間はとにかくわかりやすい能力が好きだった。
国王はその最たる人間だ。
ちょうど前の男性メンバー三人が不祥事を起こしたところで、入れ替わりとしてロイ、キザス、ジニールの三人が英雄の仲間に加わった。
ザット・ノーレン英雄時代の裏切られる直前の時期、英雄についていく仲間は六人だった。英雄に女性三人、男性三人の計七人で行動していた。レンを刺した裏切り者の男性三人の名前は、そのロイ、キザス、ジニールである。
神聖国グルシアのダンジョンで英雄が亡くなったと、シアリーの街をその周辺で魔物から守っていた女性三人に告げたとき、疑いの眼で男性三人は見られた。女性一人がダンジョンにその生死を確かめに行くと叫ぶと、キザスが冷静に国王へ報告をする方が先決だと言い放った。
六人が予定通りに王都に戻ったとき、アスア王国の王城では大規模なパーティの準備がなされていた。
不思議に思った。
帰還パーティにしては華やかすぎると。
王城の謁見の間。
国王が王座に座って、英雄が欠けて戻って来た者たちを迎えた。
キザスが事の顛末を国王に説明した。
神聖国グルシアのダンジョンのラスボスが思いのほか強く、英雄はラスボスを倒したものの深手を負い、一緒に行動していた三人に装備などを渡して、最後にロイに自分のギフト『蒼天の館』を譲ったと。そして、そのまま。
女性三人はそのとき別行動をとっていた。
ダンジョンにも確認に行けずに、彼らの言葉が真実かどうか知る術がなかった。
けれど、彼女たちが彼らを疑っていないわけがない。
「ふむ、なるほど。宰相」
国王はキザスの説明を聞き終え、横に控えていた宰相に小さく指示をする。
すぐに鑑定士が連れて来られて、ロイを見る。
「確かにロイのギフトは蒼天の館に置き換わっていると。譲られたのが本当ならこの場で力を使ってみよ」
それをあえてとめたのはキザスだ。
「国王陛下、恐れながら申し上げます。ロイは英雄からギフトを譲られたとはいえ、英雄でこそ長年使えなかったギフトでございます。今まで炎の剣を使っていたロイには勝手が違い、慣れるまでは少々時間がかかると思われます。今しばらくのご辛抱を」
キザスはロイが英雄のギフト『蒼天の館』を扱えないことに気づいていた。
公式にはアスア王国が英雄ザット・ノーレンを見つけられなかったのは、彼が『蒼天の館』を幼いときに使いこなせていなかったせいだと説明している。それは違うのだが、公式でそう言っている以上、国王もキザスの言葉を飲むしかない。
キザスが困ったことには、ロイ本人はまだ自分のギフトだった『炎の剣』を使えると思っている。国王も言った通り、彼のギフトは『蒼天の館』に置き換わっている。すでに『炎の剣』は消えてなくなっているにもかかわらず。安易に、『蒼天の館』が使えないのならば『炎の剣』で英雄をしようと考えている。
「ならば、しばらく王城に滞在し、ギフトを扱えるように専念しろ。確認だが、ロイ、英雄にギフトを譲られたのは本当だな」
「はい、しっかりと」
何の感情の揺るぎもなく、ロイが答える。
「ならば、今からお前が今代の英雄とする。それを今夜、公式発表する。同時に、新しい英雄と我が孫娘の王女との婚約も発表する」
「はいっ、は?」
ロイは元気に返事をしたが、後の言葉の意味がわからなかった。
だが、国王は言うだけ言って、宰相その他を連れてこの場を後にしてしまう。
六人も謁見の間を退席する。
退席した途端、ロイはキザスに問う。
「おい、キザス、どういうことだ?俺が英雄になれば、たくさんの女は寄ってくるし、金が湯水のように入ってくるんじゃなかったのか」
「ロイ、キミが英雄をどういう風に考えていたかは知らないけど、キミが新しい英雄となったから、国王が王女との婚約を決めたということじゃないか。王女との婚約は名誉なことだよ。キミもこのアスア王国の王族の仲間入りだよ」
「お?おお、そうか。俺が王族か、悪くないな」
満更でもないように、ロイの口元が緩んだ。
キザスはロイの扱い方を心得ている。
ロイは平民の出だ。『炎の剣』というギフトで冒険者として成り上がってきた。
強いが若い。考えが浅はかだ。
たまに見るに見かねた英雄ザット・ノーレンに女遊び、金遣いを注意されたぐらいの人間だ。付き合っただけの人間もとばっちりを受けたが。
「英雄ロイが王族となると、たくさんの女は寄ってくるという部分は難しくなると思うね。女性が寄ってくる前に先に婚約させてしまうということだろう。王族ともなると婚姻を結んだ者としかそういう行為は難しいかもね」
ロイに言っておかないと、ロイは婚約を発表されたにもかかわらず今晩も王都の城下町にでも繰り出して、女性を買いに行ってしまうだろう。新しい英雄になったと、豪語しながら。英雄という名に泥をつけかねない。
「はあっ?何だ、それ。俺に我慢しろってことか。いつまで我慢すりゃいいんだよ」
「それは結婚式当日までじゃないか」
「それっていつだよ」
「式の日取りはこれから決めるだろうけど、王族の結婚式は準備が長いからな。一年、もしくは二年ぐらいは」
「そんなに待てねーよ。王女に頼んだらヤらせてくれねーかな。結婚するんだから、それが早くてもいいじゃねえか」
結婚前に王女に手を出したら、それはそれで恐ろしい気がする。
だが、アスア王国に王族との結婚という手を使われるとは。
キザスは少々読みが甘かったことを痛感する。
ロイが英雄からギフトを奪ったら、新しい英雄になるとは思っていた。
アスア王国は、王都の教会が神託された英雄のギフトを持っている者が英雄となるのだ。
奪おうが譲られようが、今代の英雄のギフト『蒼天の館』を持っているロイが英雄とならざる得ない。
だが、『蒼天の館』は他人のギフトだ。
ロイが扱えるはずもない。
たとえ英雄が本当に譲ったとしても、他人が扱えるわけがないのだ。
ギフト譲渡の研究は昔からなされており、他人のギフトを手に入れてもどうやっても使えないとされている。
『蒼天の館』が使えないロイは、いずれアスア王国からお払い箱になると思っていた。
そうすれば、傷心のロイを言葉巧みに国外に連れ出すことができたのに。
けれど、平民のロイを、王族の仲間入りまでさせて囲うとは。
「お前たち、こっちに来い」
先程、謁見の間にいた宰相が事務官を連れてやってきた。
応接室に通され、ロイ、キザス、ジニールの三人がソファに座り、女性三人は遠くに離れて立っていた。
「英雄ザット・ノーレンの遺品を持って帰ってきているということだが」
「ああ、もちろん」
ロイが自分の収納鞄から、英雄の剣、鎧等の装備一式、収納鞄もすべて出してしまった。
「英雄が持っていたほとんどすべてだな。。。これらはすべて国王の公式発表のときに、飾ることになるがいいか」
「そりゃ、飾るぐらいならいいぞ」
「それは良かった。これらは歴代英雄の間に半永久的に飾られることになる」
宰相の騙し討ちのような物言いだ。ロイの表情が変わる。
「はあっ?冒険者は持って帰って来た者に所有の権利があるんだぜ。せめて買い取れよ」
「何を言っている。キミは飾ることに許諾しただろう。事務官もしっかり聞いたな。もちろん所有者はキミだが、管理者は我々に移った。キミでも動かすことは許されない」
「宰相殿、それは少し横暴なのでは?」
キザスは宰相に言ったが、宰相は笑顔のままだ。
「なあ、キザス、収納鞄があり、英雄の装備を全部持って帰って来れるほどの空きがあるのなら、なぜ英雄の遺体を持って帰って来てくれなかったのかな」
「それは、、、英雄があの地で眠ることを望んだからです。アスア王国での墓では年中参列者が絶えないだろうと、ダンジョンにて眠ることを」
「そういうことにしておこうか」
宰相がキザスの言葉を切った。
「あーっ、クソつまんねえな」
一人の男がベッドで声を上げた。
ここはアスア王国の王城、英雄の間と呼ばれる一室。
新英雄と言われているロイが寝転がっていた。
神聖国グルシアのダンジョンから戻って半年ほど経った。
なのに、王城から一歩も外に出られない日々が続いている。
ロイは元々『炎の剣』というギフト持ちだった。『炎の剣』は攻撃として派手で破壊力が高い。アスア王国の国王が一目で気に入り、英雄の仲間に入れた。
アスア王国の人間はとにかくわかりやすい能力が好きだった。
国王はその最たる人間だ。
ちょうど前の男性メンバー三人が不祥事を起こしたところで、入れ替わりとしてロイ、キザス、ジニールの三人が英雄の仲間に加わった。
ザット・ノーレン英雄時代の裏切られる直前の時期、英雄についていく仲間は六人だった。英雄に女性三人、男性三人の計七人で行動していた。レンを刺した裏切り者の男性三人の名前は、そのロイ、キザス、ジニールである。
神聖国グルシアのダンジョンで英雄が亡くなったと、シアリーの街をその周辺で魔物から守っていた女性三人に告げたとき、疑いの眼で男性三人は見られた。女性一人がダンジョンにその生死を確かめに行くと叫ぶと、キザスが冷静に国王へ報告をする方が先決だと言い放った。
六人が予定通りに王都に戻ったとき、アスア王国の王城では大規模なパーティの準備がなされていた。
不思議に思った。
帰還パーティにしては華やかすぎると。
王城の謁見の間。
国王が王座に座って、英雄が欠けて戻って来た者たちを迎えた。
キザスが事の顛末を国王に説明した。
神聖国グルシアのダンジョンのラスボスが思いのほか強く、英雄はラスボスを倒したものの深手を負い、一緒に行動していた三人に装備などを渡して、最後にロイに自分のギフト『蒼天の館』を譲ったと。そして、そのまま。
女性三人はそのとき別行動をとっていた。
ダンジョンにも確認に行けずに、彼らの言葉が真実かどうか知る術がなかった。
けれど、彼女たちが彼らを疑っていないわけがない。
「ふむ、なるほど。宰相」
国王はキザスの説明を聞き終え、横に控えていた宰相に小さく指示をする。
すぐに鑑定士が連れて来られて、ロイを見る。
「確かにロイのギフトは蒼天の館に置き換わっていると。譲られたのが本当ならこの場で力を使ってみよ」
それをあえてとめたのはキザスだ。
「国王陛下、恐れながら申し上げます。ロイは英雄からギフトを譲られたとはいえ、英雄でこそ長年使えなかったギフトでございます。今まで炎の剣を使っていたロイには勝手が違い、慣れるまでは少々時間がかかると思われます。今しばらくのご辛抱を」
キザスはロイが英雄のギフト『蒼天の館』を扱えないことに気づいていた。
公式にはアスア王国が英雄ザット・ノーレンを見つけられなかったのは、彼が『蒼天の館』を幼いときに使いこなせていなかったせいだと説明している。それは違うのだが、公式でそう言っている以上、国王もキザスの言葉を飲むしかない。
キザスが困ったことには、ロイ本人はまだ自分のギフトだった『炎の剣』を使えると思っている。国王も言った通り、彼のギフトは『蒼天の館』に置き換わっている。すでに『炎の剣』は消えてなくなっているにもかかわらず。安易に、『蒼天の館』が使えないのならば『炎の剣』で英雄をしようと考えている。
「ならば、しばらく王城に滞在し、ギフトを扱えるように専念しろ。確認だが、ロイ、英雄にギフトを譲られたのは本当だな」
「はい、しっかりと」
何の感情の揺るぎもなく、ロイが答える。
「ならば、今からお前が今代の英雄とする。それを今夜、公式発表する。同時に、新しい英雄と我が孫娘の王女との婚約も発表する」
「はいっ、は?」
ロイは元気に返事をしたが、後の言葉の意味がわからなかった。
だが、国王は言うだけ言って、宰相その他を連れてこの場を後にしてしまう。
六人も謁見の間を退席する。
退席した途端、ロイはキザスに問う。
「おい、キザス、どういうことだ?俺が英雄になれば、たくさんの女は寄ってくるし、金が湯水のように入ってくるんじゃなかったのか」
「ロイ、キミが英雄をどういう風に考えていたかは知らないけど、キミが新しい英雄となったから、国王が王女との婚約を決めたということじゃないか。王女との婚約は名誉なことだよ。キミもこのアスア王国の王族の仲間入りだよ」
「お?おお、そうか。俺が王族か、悪くないな」
満更でもないように、ロイの口元が緩んだ。
キザスはロイの扱い方を心得ている。
ロイは平民の出だ。『炎の剣』というギフトで冒険者として成り上がってきた。
強いが若い。考えが浅はかだ。
たまに見るに見かねた英雄ザット・ノーレンに女遊び、金遣いを注意されたぐらいの人間だ。付き合っただけの人間もとばっちりを受けたが。
「英雄ロイが王族となると、たくさんの女は寄ってくるという部分は難しくなると思うね。女性が寄ってくる前に先に婚約させてしまうということだろう。王族ともなると婚姻を結んだ者としかそういう行為は難しいかもね」
ロイに言っておかないと、ロイは婚約を発表されたにもかかわらず今晩も王都の城下町にでも繰り出して、女性を買いに行ってしまうだろう。新しい英雄になったと、豪語しながら。英雄という名に泥をつけかねない。
「はあっ?何だ、それ。俺に我慢しろってことか。いつまで我慢すりゃいいんだよ」
「それは結婚式当日までじゃないか」
「それっていつだよ」
「式の日取りはこれから決めるだろうけど、王族の結婚式は準備が長いからな。一年、もしくは二年ぐらいは」
「そんなに待てねーよ。王女に頼んだらヤらせてくれねーかな。結婚するんだから、それが早くてもいいじゃねえか」
結婚前に王女に手を出したら、それはそれで恐ろしい気がする。
だが、アスア王国に王族との結婚という手を使われるとは。
キザスは少々読みが甘かったことを痛感する。
ロイが英雄からギフトを奪ったら、新しい英雄になるとは思っていた。
アスア王国は、王都の教会が神託された英雄のギフトを持っている者が英雄となるのだ。
奪おうが譲られようが、今代の英雄のギフト『蒼天の館』を持っているロイが英雄とならざる得ない。
だが、『蒼天の館』は他人のギフトだ。
ロイが扱えるはずもない。
たとえ英雄が本当に譲ったとしても、他人が扱えるわけがないのだ。
ギフト譲渡の研究は昔からなされており、他人のギフトを手に入れてもどうやっても使えないとされている。
『蒼天の館』が使えないロイは、いずれアスア王国からお払い箱になると思っていた。
そうすれば、傷心のロイを言葉巧みに国外に連れ出すことができたのに。
けれど、平民のロイを、王族の仲間入りまでさせて囲うとは。
「お前たち、こっちに来い」
先程、謁見の間にいた宰相が事務官を連れてやってきた。
応接室に通され、ロイ、キザス、ジニールの三人がソファに座り、女性三人は遠くに離れて立っていた。
「英雄ザット・ノーレンの遺品を持って帰ってきているということだが」
「ああ、もちろん」
ロイが自分の収納鞄から、英雄の剣、鎧等の装備一式、収納鞄もすべて出してしまった。
「英雄が持っていたほとんどすべてだな。。。これらはすべて国王の公式発表のときに、飾ることになるがいいか」
「そりゃ、飾るぐらいならいいぞ」
「それは良かった。これらは歴代英雄の間に半永久的に飾られることになる」
宰相の騙し討ちのような物言いだ。ロイの表情が変わる。
「はあっ?冒険者は持って帰って来た者に所有の権利があるんだぜ。せめて買い取れよ」
「何を言っている。キミは飾ることに許諾しただろう。事務官もしっかり聞いたな。もちろん所有者はキミだが、管理者は我々に移った。キミでも動かすことは許されない」
「宰相殿、それは少し横暴なのでは?」
キザスは宰相に言ったが、宰相は笑顔のままだ。
「なあ、キザス、収納鞄があり、英雄の装備を全部持って帰って来れるほどの空きがあるのなら、なぜ英雄の遺体を持って帰って来てくれなかったのかな」
「それは、、、英雄があの地で眠ることを望んだからです。アスア王国での墓では年中参列者が絶えないだろうと、ダンジョンにて眠ることを」
「そういうことにしておこうか」
宰相がキザスの言葉を切った。
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