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6章 花が咲く頃

6-4 誕生日の贈り物

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 ククーが馬車から荷物を家に運び込んだ後、食堂に行く。台所にも何回か荷物を運んだので、隣の食堂にいる王子は今か今かと待ちくたびれたことだろう。
 ククーが扉を開けると、王子がククーに飛びつく。

「ククーっ」

「王子、誕生日おめでとう。もう七歳か。出会ったころに比べると身長も伸びたな」

「ククーに追いつくのもすぐだよ」

「そうだなー、出会った頃はこのぐらいの豆粒だったからすぐ大きくなるなー」

 親指と人差し指で小さい幅を作っている。それを見た王子は頬を膨らましてポコポコとククーを叩く。

「そんなに小っちゃくなかったよ」

「はは、ごめんごめん。はい、これ。いつもと同じように見えて、誕生日の分だけ愛情はこめたぞー」

 ククーは菓子袋を王子に渡す。モノは言いようだ。

「ありがとうっ」

 王子が背景に花を浮かべるほどの華やかな笑顔になった。
 やはり王子はククーからの贈り物が一番嬉しいのだろう。
 中身はいつものお菓子なのだが。

「はい、王子。俺からの誕生日プレゼント」

 俺はククーに書いてもらった誓約書を王子に渡す。
 リボンで結んであっても一枚の紙だ。不思議がりながら、王子はリボンを解く。
 書かれている文章を読んで、王子はククーを見て俺を見た。俺は頷いてあげる。
 うん、それを後ろから覗いたヴィンセントが物凄く嫌そうな顔をしている。そんなに嫌なのか。

「レン、ありがとう」

 この笑顔で、ククーにサインを書かせたかいがあるね。

「王子、」

 ヴィンセントが王子に差し出した。職務に忠実なヴィンセントが王子に誕生日のプレゼントを用意しているとは思わなかった。

「本?」

「魔法の手引書だ。今はまだ封印していて王子には読むことはできないようにしているが、治療が済んだら読めるようになる。つまり来年の春以降レンに魔法の教えを乞うと擬音だらけになりそうだから、念のために」

 念のために???
 ヴィンセントよ、何の心配を今からしているんだ?
 俺、感覚だけで魔法を使っているわけではないぞ?
 ククーよ、後ろで笑うな。

「ありがとう、ヴィンセント。治ったら、しっかり勉強する」

 王子が決意を込めて言った。
 ヴィンセントが封印をした意味もわかる。
 自分が渡した本を生贄になる前に読まれないように。
 魔法や魔術を使わないと約束したとしても、本を読んでしまえば初級のものを使ってしまう恐れがある。
 その心配をしないように。

 それでも、今、この本を渡すのが最適だと思ったのだろう。
 王子が生き続けるために。




 シアリーの街で美味しいとされるケーキを買ってきておいて、角ウサギたちと共にごちそうと呼ばれる料理を作り、夕食時に王子を祝う。

「お腹いっぱいになったか?」

「もういっぱいで何にも入らないー」

 王子の口の周りについたクリームを拭いてやる。本当に満足そうだ。

「ねー、レンの誕生日はいつなのー?」

 無邪気に王子は俺に問う。

「アスア王国の建国記念日と同じだ。夏だよ」

 国が決めた仮の誕生日である。
 アスア王国が適当に祝うのには最適な日だ。

「じゃあ、そのときは僕がいっぱい祝ってあげるね」

 孤児であった俺に、本当の誕生日はわからない。
『蒼天の館』のギフトを使っても、正確な日はわからなかった。
 年齢はわかるのだが、まるで不都合なことが隠されているかのようにその周辺はぼやかされている。夏だろうということまではなんとなくつかめるのだが、そこから先は不鮮明である。
 実の親の存在までたどり着かせないためだろうか。

「王子、部屋で絵本読んでやろうか」

「うんっ」

 王子はククーに笑顔で答える。

「その前にお風呂入ってからな」

 ククーはいい父親にもなりそうだな。
 お風呂と聞いて、俺の後ろに角ウサギのチイが隠れたけど。
 他の角ウサギたちはまだテーブルの上の残ったサラダを食べ続けている。角ウサギは雑食で何でも食べるが、彼らはやはり野菜が好きなようだ。角ウサギにも料理や飾りつけ等の準備を手伝ってもらったので、労をねぎらうために野菜多めのテーブルだ。

 で、チイ、他のモノと違う行動すると目立つんだぞ?
 ほら、王子の目がお前に向いたぞ。

「チイ、たまには一緒にお風呂入ろー」

 王子がジリジリと間合いを詰めていく。
 王子はククーにも突進していくし、たまにドエスなのではないかと思ってしまうのだが。将来が末恐ろしいなあ。

 チイはいつも元気いっぱいで走り回っているが、他の角ウサギたちとは違いお風呂が苦手だ。
 俺の後ろでイヤイヤと首を振っている。最後には俺に縋るような目で見ている。。。
 あー、可愛い。
 うちの角ウサギたちはお風呂に入らなくても間違いなく清潔なのだが。

 俺はチイを抱きかかえると、王子に渡す。
 ひぃぃぃぃっ、という叫び声は聞こえないけど、表情でわかるよ。
 たまにはお風呂も良いものだ。王子は普通の子供と違って残虐な遊びはしないので、ゆっくりとお風呂を堪能してくるといい。




「レンは本当の誕生日って知っているのか?」

「いや、それは俺のギフトでもわからなかった。俺の親の情報もわからないし」

「そうか」

 ヴィンセントと俺はまだ食堂にいる。俺がちびちびとお酒を飲んでいるからだ。それに付き合ってくれている。
 角ウサギたちもまだ食べ続けているし。。。このテーブルの上にのっている食べ物がなくなるまで食べ続けるのではないだろうか。。。多めに作っちゃったしね。下手に残るよりは片付けてもらった方が好都合ではある。

「ただいまー。まだ飲んでる?じゃあ、俺も」

 ククーがチイを頭にのせて戻ってきた。チイは手のひらサイズではなく元の大きさである。重くないかな?
 毛が綺麗になびくチイは少しムクれている。テーブルに戻って片っ端から残り物を口に入れている。そんなチイも可愛いよー。

 ククーは自分で酒を注ぎ、俺のグラスにも注ぐ。

「王子は?」

「すぐに寝たよ。まあ、あれだけ腹いっぱいになって横になったら無理もない」

「うん、仕方ない。そういや、ククーの誕生日は秋だよな。当分先か」

「ホントよく知っていらっしゃる」

 ククーがぼやく。ヴィンセントの顔が怖くなる。

「レン、何でククーの誕生日なんか知ってるの?」

「へ?そりゃ、諜報員やっていた時代までのククーなら、スリーサイズから靴のサイズまで、果ては神官学校のときの成績やら友好関係まで何でも知っているぞ」

「うわー、何でもときたか。あ、レン、数年前だからサイズはほとんど変わっていないぞ」

 ヴィンセントがそんな情報はいらないという表情でククーを見たが、俺に向き直る。
 まだまだお顔が怖いぞー。

「じゃあ、私のは」

「いや、ヴィンセントはギフトが失われた後に会ったから、教えてもらった情報しか知らないぞ」

 ヴィンセントがガックリと項垂れる。
 それこそ、仕方ないことだと思うのだが。

「ヴィンセントー、俺のギフトは他人からも万能のギフトだと言われていたように、情報収集方面でも優秀だったんだ。そのギフトがなくなれば、かなり情報収集能力は落ちまくる。普通の人並みになっているんだぞ」

「落ちまくる?」

 今度はククーが俺を見て、近くに寄ってきた。

「、、、レン、なくなったとは言わないんだな?」

「そりゃ、お前がミニミニダンジョンを持って行ってくれたじゃないか。聖都の情報はソレでおさえた」

「コレかーっっっ、やっぱり危険物だった」

 ククーがポケットからミニミニダンジョンを取り出した。見た目は小さい塔の置き物だ。

「いいじゃん、ククーは戦闘力皆無なんだし、守りの結界としてはそれ以上強固なものがないほどのものなんだから、ギブアンドテイクじゃないか」

「戦闘力皆無、、、そりゃ英雄のアンタから見たら誰だって皆無だろ。俺だって多少は鍛えている」

「ずるい、ククー。知らぬ間にレンから何もらってるの。私だってほしい」

 ヴィンセントが俺に詰め寄る。お前ら、何でおとなしく椅子に座っていられないんだ?
 タレタが静かに俺を見ている。え?俺のせいなの?うんうん頷くな。

「いや、ヴィンセントは俺と一緒にいるからコレはいらないだろ。俺のそばから離れる気なのか」

「え?離れる気はないけど?」

「なら、いいじゃないか。ヴィンセントも王子も俺がそばで守ってやるから」

「レン、」

 ヴィンセントが嬉しそうな顔になる。

「クソ英雄は男前だなー」

 反対にククーが拗ねた。忙しいなコイツら。もう酔ってるのか?あ、ヴィンセントはお酒を飲んでいないはずだった。

「ポケットに入れて持ち運ぶのが面倒なら、そのピアスにでもくっつけてやるよ」

「さすがに耳につけるには重いし大きいぞ、コレ」

「形はこのままで、さらに小さくして、、、ほいっ、ほら、耳出して」

「レンっ、引っ張るな」

 ククーの左耳についているピアスに可愛い塔の飾りがつきました。はい、拍手、ぱちぱちぱち。

「これでなくさないし、かさばらないだろー」

「そうだけどさー、アンタ、もう酔ってるのか?」

「やっぱり、ククーだけずるい」

 あ、ヴィンセントの顔がまた怖くなった。
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