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4章 血がつながる者

4-10 おみやげ ※ククー視点

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◆ククー視点◆

「本当に二人とも六歳児か?」

 レンに三つ子の残り二人のイリアとアルスの状況と心の内を教えた。
 ダンジョンからの帰り道、隠そうとはしなくなったレンの能力で大きくなった角ウサギの背に乗った王子は先に行ったり戻って来たりあっちへ行ったりこっちへ行ったりして楽しんでいる。俺たちの会話は聞こえていない。
 俺たちは行きと同じで、雪の上を足跡をつけずに歩いている。

「当たり前だろ。三つ子なんだから、王子と同じ年齢だ」

「俺が六歳のときは、食べ物のことしか考えていなかったなー。どこで何の食べ物が貰えるかとか、廃棄処分になるものをくれる店とか、孤児仲間で生き延びるために必死だったなー」

 レンがしみじみ言っているけど、それも充分重いんですけど。英雄は孤児で、十歳まで住む家もなく暮らしていたからなー。

「うーん、イリアの歪みはヤバい状況だな。王子が生贄の儀式の後にも生きていると知ったら、彼が凶兆を引き寄せかねない」

「ああ、やっぱりアンタもそう考えるか」

「まあ、聖教国エルバノーンは自業自得だから滅亡しようとどうでも良いけど。あの人形遣いの爺さんの孫娘がこっちに来るのか」

「アスア王国の英雄ザット・ノーレンを追いかけて来るんだから、アンタには接触するだろうよ。シアリーの街の冒険者ザット・ノーレンさんよ」

「ルルリだっけ。せめて可愛い人形を操ってくれればいいなあ」

「そこか?重要なのは」

「だって、娘が作ったとはいえあの不気味な人形が周囲でうろつかれる身にもなってみろ。つい潰しまくって、物の大切さをあの爺さんが操る人形を通して説教されたことがあるぐらいだが、でも、俺は悪くない」

 そりゃ、英雄の周辺にあの不気味な人形がうろついているのは何度も見たどころか、年中英雄に張りついていたのでレンの気持ちもわからなくもない。各国の諜報員も人形遣いと言えば、すぐに思い当たるんじゃないかなってほどどこにでも人形が現れていた。

「あの不気味な人形さえ操らなければ、あの爺さんもこっちに来ても良いんだけど」

「へ?」

 英雄がそんなことを言うとは思ってもみなかった。あの爺さんも英雄を担当する諜報員であった。俺とは情報をやり取りする仲で、多少の協力関係はある。目的は同じ英雄だったから、持ちつ持たれつだ。
 英雄は他国の諜報員など鬱陶しいだけだと思っていたが。

「優秀な諜報員は調べ上げているって前に言っただろ。お前は数年前に去っていったから情報はそこで途切れていたために王子たちのことは知らなかったが、爺さんはこのダンジョンの入口まで人形を寄越していたからな。俺のギフトが奪われるまでの動きは把握している」

「別の国にいても人形を操れたのか、あの爺さん。遠距離過ぎるな」

 アスア王国の英雄を人形で追いかけまわすのも、一応あの爺さんはアスア王国にはいた。本人は英雄から一定の距離以上離れていたが。

「だが、遠距離過ぎて操作が甘かったせいか隠れきれず、入口付近で魔物にやられて人形軍団が全滅していたぞ。このダンジョンの魔物は強かったし、飛行タイプも少なからずいたし」

「神聖国グルシアは聖教国エルバノーンとはそんなに仲良くないからなー。この辺の宗教国家は元は同じ国でも、その考えの違いで対立した国々だから、英雄が来たときには聖教国エルバノーンの人間を入国させなかっただろう」

「話は逸れたが、別段諜報員だからといって直接手を出してこなかったお前たちに、俺自身は恨みはない。あの爺さんだって本国に帰れば孫娘にデレデレな気のいい爺様だ。本当は孫娘とともに一族でこの国に避難したいところだろう」

 宗教国家各国の人間がアスア王国の英雄は大嫌いなのに、この英雄を嫌いになれないのはこういうところだろう。『蒼天の館』というギフトも重要だったが、それだけではないのだ。
 英雄にギフトを譲られた元仲間を「新英雄」としていまだに区別して呼んでいるのも、英雄が死んでいないという気持ち以上のものがあるからだ。

「人形遣いとして優秀なのは認めますけどねー」

「そうか。人材としては優秀だからな。大神官長が許すのならば、移住の手配してやれば?」

「聖教国エルバノーンが手放すか?」

「心配だから孫娘に会いに行くー、とかあの爺さんがワガママ言えば、それであの国は済みそうな気がしてならないんだが」

 レンの言葉に妙に納得してしまう自分がいる。そんな気がする。

「ああ、そうだ。共犯者になったククーにはコレをプレゼントしよう」

 レンが手にしているのは小さな塔の置き物だ。親指ぐらいの大きさなので嵩張らない。
 俺は無造作に受け取ってしまった。

「みやげか?」

「ふっ、聞いて驚け、俺が作ったミニミニダンジョンだ。俺がその周囲を問答無用でダンジョン化できる」

「けっこうな危険物だったっ」

「つまり部屋に飾るにしろ、ポケットに入れておくにしろ、お前の身はコレで安全確実、俺が結界を張って守ってやれる。お前は諜報には長けているが、そんなに強くないからな。ああ、ククーは移動範囲が広いから部屋に飾っておかれると遠すぎてどうにもならないこともあるな。できるだけ持ち歩いておけ。一応心配だから、お前専用にしておこう。よしよし、コレで落としても持ち主のところに歩いて戻ってくるぞ」

 塔の置き物が歩いて?どこぞかの不気味な人形と変わらなくない?

「俺と連絡が取りたければ、その塔を持って話せばつながるぞ。誰かに見られているとき話しかけると変なヤツ認定されるからくれぐれも気をつけろ。反対に俺に話しかけられたときは、周囲に誰もいなくなってから応答すればいい」

 他人に見られれば、塔の置き物に話しかける危ないヤツだと思われますね、確実に。
 けれど、コレを英雄ザット・ノーレンからもらったモノだと言えば、祈りを捧げているのだろうなーとか勝手に思ってくれそうだ。
 コレがあればヴィンセントを通さなくてもレンに連絡できるということである。
 教会の連絡方法は基本的に手紙の転送である。この家に届く手紙はヴィンセントが目を通してしまうので、確かにありがたい。音声通信用の魔道具は高値である。念話魔術を使える者はほいほいと手軽に使っているが、俺はできない。今のレンでも魔法で簡単に使えそうだがそうではないらしい。

「ククーっ、嬉しそうだねー」

 角ウサギで戻ってきた王子が俺を見ている。
 顔のニヤニヤがとまらなかったのか。嬉しくないわけがない。たぶん、不気味な人形だってレンの手から渡されたものなら俺は喜んでもらっているだろう。

「ああ、レンからおみやげをもらったからな」

 王子が自分のポケットを漁っている。角ウサギの頭上に細かい物が散らばる。ゴミ、とか言ったらぺちぺち叩かれるんだろう。痛くないけど。。。手をどんなに突っ込んでも異次元ポケットでもない限り、もう何も出てこないぞ。

「僕、何も渡せるものがない」

 少し泣きそうな顔で俺を見上げる。そして、何か渡すなら先に言っておいてくれればいいのにと恨みがましい視線をレンに向けた。

「お酒のお礼だよ」

「だったら、僕もお菓子もらってるーっ」

「うんうん、お返しは大人の礼儀だよ。王子も成人したらお返ししていこうねー」

 レンの言葉に、素直な目でじっと俺を見る王子。

「そうだな。大人になったら何か返してくれ。期待しているぞ」

 大人になったら。
 レンがいなければ、王子とのこの手の会話は辛いもので、避けたいものだった。それを表面には一切出してはならないものだった。

「じゃあ、大きくなったら僕を丸ごとあげちゃう。あっ、レンに僕の人生捧げていたんだったっ」

「いいよ、いいよ。王子があげたいなら、ククーにだったら譲っちゃうよ」

「そうだよな。レンはヴィンセントがいれば他はいらないんだろ」

 ちょっとした嫌味だった。

「ははっ、俺の人生にヴィンセントも王子もククーも必要だ。お前らがいなければ、俺は今頃存在してない」

 そこには白いマントを風にはためかせて、光を浴びて笑顔を見せた英雄がいた。
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