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4章 血がつながる者

4-6 唯一の道 ※ククー視点

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◆ククー視点◆

「おい、、、英雄、何してくれてんだ」

「力作なんだけどなあ」

 ダンジョンの中、その階層は一面ピンクのお花畑だ。
 そこには横たわる王子がいる。
 そう、花に埋もれて王子がいる。

 傍らには角ウサギと遊ぶ王子がいるのだが。。。
 うん、目の錯覚ではない。

「人間を魔法や魔術で作ることは禁忌だぞ」

 そこに、はしゃいでいる王子がまるで寝ているかのようだ。

「人間というより人形の方が近いかな?自分の意志では動かないからね」

「王子の代わりにする気か。ここまで同じなら聖都の連中には区別なんかつかないだろうよ」

 頬に触るとプニプニ触感も同じだ。

「無色透明な魔力も入れているよ。王子の今の身体データと完全に一致させている。儀式のときまでにはまだまだ成長するだろうから、微調整も必要だろうけど」

「何でこんなことまでできるんだ。アンタの蒼天の館って元からこんなことまでできたのか?」

「いや、蒼天の館ではできない。コレは今の俺が持っているダンジョンマスターの能力だ。魔物とか生み出す能力を、北の女王にいろいろ教えてもらって応用した」

 俺はレンを見る。
 この人、どこまで規格外なのか。しかも、その能力が使えるとなったら出し惜しみしない。
 王子を助けるために、ヴィンセントの将来のために、一番穏便に済む方法をとったつもりなのだ。普通の人には絶対できない方法だが。

「あー、そう。あの従魔の角ウサギは捕まえたんじゃなくて、作ったのか」

「お前には角ウサギを見られたら即座にバレると思ったんだけど、意外と常識人で助かった」

「それ、褒めてないぞ。あのとき、俺がテイマーって言ったのか。俺が言ったな。冒険者ギルドの登録情報を先に見たせいで先入観があったからな。レンの従魔だからといってあのヴィンセントが魔物を簡単にはあの家の敷地に入れない、、、いや結局レンがお願いすれば入れるんだろうな。と、すれば、やっぱりテイマーという考えに行きつかざる得ないか」

「あ、なんか葛藤具合がすまないなー」

 本気で謝ってる?謝り方がどこまでも軽いんだけど。

「でさー、大神官長にはコレを土産にしようかと思って」

 レンが俺に石を渡した。
 親指の爪の大きさもない小さな石だが、無色透明だ。何かコレも会話していた覚えがあるんだけど。

「まさか、コレは」

「無色透明な魔石を作ってみた。今は小さいが、このダンジョンで数年経てば、ある程度の大きさに成長するから、今後の生贄の代用になるだろ?」

 魔石を作ってみただと?どこの人間が魔石を一から作れるんだ。魔族にだって作れはしない。

「その力は、、、」

「もちろんこれもダンジョンマスターの方の力だ。蒼天の館が失われてできなくなったことは多いが、ダンジョンコアの力も意外と使えるだろ?」

 それ、俺に頷いてほしいのか?
 お願いだから、能力の比較表でも作ってくれないかな。俺からするとどちらも万能なものにしか見えないのだが。何がどう違うのか教えて欲しい。
 俺が胡乱な目で見ているのをレンが気づいたらしい。

「だからなー、蒼天の館は世界規模の万能の能力を持っていたけど、今はダンジョン運営に必要な能力が中心になっているんだ。このダンジョンが支配するエリア限定なら割と強いが、その外に出るとそうでもないんだ」

「お前はシアリーの街の北にあるダンジョンで無数のゴーレムを闇に葬ったんだろう」

「ゴーレムは石や砂でできているからすぐに復活する。魔物とは違うから俺の身体能力を試すのにはちょうど良かったんだ」

「身体能力?」

「剣の腕は、俺が鍛えたものだ。さすがに蒼天の館の底上げがないから、アレぐらいの数を討伐しただけでも疲れる。昔はアレくらい何ともなかったんだが」

 はいはい、規格外規格外。元々の能力が高かったという証明か。

「蒼天の館が失われた直後だからこそ、俺はここのダンジョンコアをすべて吸収できたんだ。普通なら、魔力の容量オーバーで死んでいる。ここのダンジョンも桁違いに強い魔物を生み出して地上に吐き出していただろ。最凶級のダンジョンのコアだ。一歩間違えれば、それこそ俺は影も形も残らない」

「うわー、、、」

 元仲間に殺されかけた上に、ダンジョンコアを壊そうとして吸収するという気づかぬ間の自殺行為。普通の人間どころか、この英雄でさえギフトを持ったまま吸収しようとしていたなら死んでいただろう。
 ダンジョンコアをどうにか人の手で有効活用できないかという研究は各国でなされているが、成功した事例はない。人の身に吸収させようとした非合法な人体実験ではどれもが失敗している。
 が、ダンジョンコアは恐ろしいほどの魔力量を蓄えている。それは初級ダンジョンでもだ。それを一人の人間が扱えるとなると、それは神の御業と言ってもいいほどだ。

「もしかして、あの家の周囲も?」

「そうだ。このダンジョンのエリア内に入っている。守りに入るのならダンジョン化した方が楽だからな。とは言っても、このエリアがダンジョンではなく、俺がダンジョンコアを吸収しているから、俺が移動した先でこのダンジョンを呼び寄せることもできる」

「そういう情報はもう少し小出しにしてくれ。心臓が痛い」

 これ以上聞くと、俺の寿命が縮まる。この情報、どこまで国には黙っておけって?ダンジョンコア吸収の件は報告できないだろうが、ダンジョンマスターなら報告できそうだ。シアリーの街の北のダンジョンのある階層の管理権限を冒険者が譲られたという報告も国に上がっているのだから。この周辺だけが権限移譲できてしまう特別なダンジョンがあると思ってもらえば、何ら問題はない気がする。

「聞くから答えただけなのに」

「大神官長に無色透明な魔石を献上するなら、英雄がギフトを奪われて可哀想だったから、人間でもダンジョンマスターとして管理権を譲られてダンジョン内部で多少の物は作れるようになったとか適当にそういう説明をしておくぞ」

「都合のいいようにしておいてくれ」

 その説明で良いのか、本当に?そのまま話すぞ、いいのかなー?

「ただ、王子の身代わりの件は今のところ大神官長にも内緒な。儀式の後も生きていると知ったら政治利用されやすい。王子が本当に傀儡でも国王になりたいというのなら話は別だが、たぶんそうはならない。でも、王子はこれからの人間だから国籍を用意したいなー」

「ああ、アンタもアスア王国では死んだ人間扱いになっているからな」

「冒険者カードがあれば身分証明書は何とかなるけどね。国家間の移動だと国籍も証明するものがないと厳しい国もあるからさ。王子には不自由してもらいたくない」

「自分のことは良いのか、英雄」

「とりあえず、俺、死んでないからな。それに、国籍があろうとなかろうと、俺は国外にはアスア王国の国王の命令がなければ行けなかったから、かなり不自由だった。だから、王子にはそんな不自由な想いをしてもらいたくないんだよ」

 レンは今までもこれからもザット・ノーレンを名乗るのだろう。ノーレン姓はアスア王国では公爵家の一族しか名乗れないが、周辺国では大勢いる。その国では有名な貴族姓であっても他国では関係ない。英雄の名であるため、子にザットとつける親は多いし、ザット・ノーレンの同姓同名はアスア王国にはいなくとも他国にはけっこういるのだ。

「ククーっ」

 王子が腹に激突してきた。痛いが表情には出さない。

「どうした、王子」

「すごいでしょ。僕の身代わり人形。レンが作ってくれたんだーっ。僕の病気を肩代わりして、聖都で浄化してもらえるんだって。まだまだ魔力を高める訓練はするけど、そっくりであればそっくりであるほど、浄化で僕の治療がうまくいくんだってー」

 王子が嬉しそうに話している。
 レンは王子にそう説明したのか。
 俺の嘘をそのままに、話を作ったのか。

「ククーが言った通りだったねー」

 王子が笑顔で言った。

「ああ、そうだね」

 俺も笑った。
 レンも笑っていた。
 王子が唯一救われる道へ行こう。
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