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4章 血がつながる者
4-4 協力者から
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ククーがわかってくれない。
諜報員として長年に渡って俺を見ていた弊害で、どうもククーの感覚として俺は英雄の能力のままなのだ。
どんなに否定しようとも、いくら説明しようとも、生返事を返してくれるだけで納得してくれていない。ギフトはないとわかってくれているはずなのに。
ヴィンセントや王子は英雄がどんなにすごい力を持っていたとしても、実際には目にしていない。誇張や大げさに伝わっているだけだと思っているので、今の俺の能力をすんなり受けつけているのだが。。。
ククーに英雄のときと同じ対応をされると、俺は困るだけなのだ。何もかもわかっていた時代とはワケが違う。
「王子、レンの話が長くなりそうだから、しばらくククーの代わりに俺が絵本を読もう。レンが解放したらククーが絵本を読んでくれるだろうから」
俺がこの家に来てから、ヴィンセントが王子に絵本を読んだことは一度もない。
ヴィンセントが王子に気を使い、その上、俺をククーと二人きりになることを許したのだ。
周囲からは酔っ払いの絡みとしか見えないのかな?
王子もククーを待っていたが、ヴィンセントの言葉に頷く。
王子の寂しそうな表情が心に来るが、ククーの誤解を解いておかないと今後、俺が死ぬ状況に陥りそうだ。え?知らなかったの?とか言われても非常に困る。ククーは英雄時代の俺の能力を知っているだけに、情報伝達を怠りそうでならない。
ヴィンセントの初恋の人と白い髪、赤い目だけが俺の共通事項だった事件は、俺の記憶には恐ろしいほど新しい。何もかも把握できていたあの頃とは違うのだ。
「あー、王子が部屋に行ったから聞くけど、神聖国グルシアの八年に一度の生贄って、八歳の子供じゃなきゃいけないのか」
この質問にククーが瞬く。だから、え?知らないの?って顔すんな。だから、言っているだろ、俺のギフトはもうないんだって。
やれやれ。
「無色透明の魔力ならば問題がないが、代用しようにも魔石には必ず色がつく。それ相応の大きさの無色透明な魔石は今まで見つかったことはない。それに」
ククーが言い淀んだ。
「もし、今そういう魔石が見つかっても、今回の生贄は王子で決まりということか」
そうやって答えを先に言うから信じられないんだという顔をするなって。ついつい。でも、多少洞察力のある人間ならこれくらい推測できるだろう?
まあ、うちのダンジョンで魔石を作ってみるかー。無色透明の魔石って作れる気がするんだよねー。量産できそうな気さえする。
神聖国グルシアは強固な結界に守られている国だ。つまりこの結界に必要なものが無色透明の魔力が高い生贄なのだろう。結界に守られているのに、強力なダンジョンができて魔物が溢れかえってしまったのは、年月が経ち結界が緩んできている証拠だ。強い呪いの力を跳ね返すことができなくなっている。宗教国家の各国がアスア王国を標的として呪いを年中振りまいているから、その周辺にある国々の結界がいつもより早く疲弊していても仕方ないことだ。
それはともかく、今のうちにククーに質問することはしておかないと。明日にはククーは聖都に帰ってしまう。
ヴィンセントはきっと答えてくれない。
「生贄は生きたまま聖都に連れて行かれるのか?」
「いや、薬を飲まされて仮死状態で連れて行く。そしてそのまま生贄として捧げられる」
「ということは、薬をすでに飲ませたという設定なら意識がなくても構わないということか。ふむ。王子は六歳だから、あと二年ぐらい猶予はあるのか」
「いや、王子はもうそろそろ七歳になるから、あと一年と少しばかりだ。春の建国祭で儀式は行われる」
神聖国グルシアの春の建国祭は盛大なものだが、八年に一度、国を挙げてより盛大に祝われる。それが儀式の年だったのだろう。神官はともかく国民がこの儀式のことまで知っているとは思えないが。
「あまり時間がないな。どうするか」
「、、、やっぱりアンタは何かする気でいるんだな」
「そりゃ、王子とヴィンセントに命を救われた身としては、二人の利害が反しないように解決策を考えたい」
「まあ、俺は止めないけど」
「ククーにも俺は心を救われた身だ。お前も嘘を吐き続けるのは辛いだろう。何とか良い着地点を模索したい」
「、、、いや、どちらにしろ俺は王子には恨まれる。王子の母親はもうすでに聖教国エルバノーンで亡くなっている。王子が国に帰れたとしても、三つ子である王子は捕縛されてしまう」
ククーが俺から視線を逸らした。
その国の名は嫌というほど知っている。アスア王国の隣国だからな。
「聖教国エルバノーンというと、ええっと、王子、、、確かあの国の王子はなぜか三男がなって、周辺諸国を巻き込んで滅びる気かとさえ危惧していた記憶があるな」
三男が王に即位したとき、あの国ではたぶん天災が起こる。かなりの大災害に見舞われる。即位するときはきっと大規模な式典等するだろうから、そのときアスア王国が接している部分に強力な結界でも張って守るしかないかー、と計画してはいた。今、俺はアスア王国では死んでいる扱いなので、その計画は水の泡と化しているけど。俺以外であの規模の結界を張れる人材、アスア王国にいたかな?まあ、今はそんなことは横に置いておこう。
俺はククーを見た。ククーは指を王子の部屋に向ける。
「あ?は?まさか?王子は」
「そのまさかだ。王子はキイという名で長男にあたる」
驚愕の事実。王子は聖教国エルバノーンの国王の息子だったのか。あ、なんか俺、王子は最初にどこぞの王の落し胤かもしれないと思った記憶がある。正解しているな、俺。ギフトがなくなっても何とかなってるぞ。
「次男のイリアも生贄として神聖国グルシアに連れて来られている」
「あの国は馬鹿なのか?長男も次男も生きていなかったら、あの国は本当に滅びるぞ」
つい口に出てしまった。
「俺もそう思ったよ。けれど、聖教国エルバノーンの国王の長子であるだけにキイは魔力そのものが高い。生贄候補として神聖国グルシアももはや手放したくないところだ」
「次男のイリアは生き残るのは確実なのか?」
また、ククーが俺から目を逸らした。どうもククーは俺に対して素直な反応を見せてくれる。諜報員として、神官として生きてきたククーが他の誰かにこんな素直な反応をすることはない。
「生贄に選ばれなくても地獄か。けど、八歳までは無事なのだろう?」
返って来たのは沈黙だった。
「そうか、もうすでに生贄にさえ選ばれないことが決定してしまっているのか。あまりにも生贄候補が多いと管理も大変だろうからな」
「彼はもう、ある大神官のお気に入りだ。彼の世話係の神官が上に繋ぎを作るために、彼をそういうカラダに調教して献上した」
「まだ六歳だろっ」
声を荒げてしまった。ククーに怒ったところで仕方ないとわかっているのに。
「俺にはどうすることもできない。すまない」
ククーに謝られてしまった。俺が苛立っていることがククーにはわかっているのだ。
ククーがどうにかできるとは俺も思っていない。
この国で生贄が必要である限り続いてしまうのだろう。。。
あ、やっぱり無色透明な魔石は量産しよう。
俺はククーに向き合う。
「ククール・アディ、俺は協力をお願いしたい」
「協力?」
「俺は王子を救う。けれど、ヴィンセントの神官としての名を汚さない方法でだ。そして、この国の生贄の制度をなくしたい。だが、この国の人間の協力なしには成し得ない」
ククーの口が緩む。
「ザット・ノーレン、そういう性格だからアンタは貧乏クジを引くんだよ。神聖国グルシアのことは放置して王子とヴィンセントを攫ってどこかの国で生きていけば良いのに」
「世の中、生きていくにはカネが必要なんだよ。何のツテもない国で生きていくのは難しい。本当に俺は幸運だった。だから、ヴィンセント、王子、ククーがこの国で生きるのなら、見てみないフリはできない。とは言っても、これから解決策を見つけて、神聖国グルシアにその策を採用してもらわなければならないが」
「協力してもらいたいのは、大神官長への根回しか」
「察しが良くてなにより。俺が冒険者として大神官長に会わなければならないのなら、是非ともククーには俺の名を有効活用してくれ」
「レン、春にはその解決策を見つけられるのか」
「実用に耐えられるかは、とりあえず試してみないと何とも言えないなあ」
「、、、ああ、もう思い付いてはいるのか。レン自身が怪我しないように気をつけて実験しろよ」
「ククーよ。俺はもう子供じゃないぞ」
ククー、その生温かい視線を俺に寄越すな。
諜報員として長年に渡って俺を見ていた弊害で、どうもククーの感覚として俺は英雄の能力のままなのだ。
どんなに否定しようとも、いくら説明しようとも、生返事を返してくれるだけで納得してくれていない。ギフトはないとわかってくれているはずなのに。
ヴィンセントや王子は英雄がどんなにすごい力を持っていたとしても、実際には目にしていない。誇張や大げさに伝わっているだけだと思っているので、今の俺の能力をすんなり受けつけているのだが。。。
ククーに英雄のときと同じ対応をされると、俺は困るだけなのだ。何もかもわかっていた時代とはワケが違う。
「王子、レンの話が長くなりそうだから、しばらくククーの代わりに俺が絵本を読もう。レンが解放したらククーが絵本を読んでくれるだろうから」
俺がこの家に来てから、ヴィンセントが王子に絵本を読んだことは一度もない。
ヴィンセントが王子に気を使い、その上、俺をククーと二人きりになることを許したのだ。
周囲からは酔っ払いの絡みとしか見えないのかな?
王子もククーを待っていたが、ヴィンセントの言葉に頷く。
王子の寂しそうな表情が心に来るが、ククーの誤解を解いておかないと今後、俺が死ぬ状況に陥りそうだ。え?知らなかったの?とか言われても非常に困る。ククーは英雄時代の俺の能力を知っているだけに、情報伝達を怠りそうでならない。
ヴィンセントの初恋の人と白い髪、赤い目だけが俺の共通事項だった事件は、俺の記憶には恐ろしいほど新しい。何もかも把握できていたあの頃とは違うのだ。
「あー、王子が部屋に行ったから聞くけど、神聖国グルシアの八年に一度の生贄って、八歳の子供じゃなきゃいけないのか」
この質問にククーが瞬く。だから、え?知らないの?って顔すんな。だから、言っているだろ、俺のギフトはもうないんだって。
やれやれ。
「無色透明の魔力ならば問題がないが、代用しようにも魔石には必ず色がつく。それ相応の大きさの無色透明な魔石は今まで見つかったことはない。それに」
ククーが言い淀んだ。
「もし、今そういう魔石が見つかっても、今回の生贄は王子で決まりということか」
そうやって答えを先に言うから信じられないんだという顔をするなって。ついつい。でも、多少洞察力のある人間ならこれくらい推測できるだろう?
まあ、うちのダンジョンで魔石を作ってみるかー。無色透明の魔石って作れる気がするんだよねー。量産できそうな気さえする。
神聖国グルシアは強固な結界に守られている国だ。つまりこの結界に必要なものが無色透明の魔力が高い生贄なのだろう。結界に守られているのに、強力なダンジョンができて魔物が溢れかえってしまったのは、年月が経ち結界が緩んできている証拠だ。強い呪いの力を跳ね返すことができなくなっている。宗教国家の各国がアスア王国を標的として呪いを年中振りまいているから、その周辺にある国々の結界がいつもより早く疲弊していても仕方ないことだ。
それはともかく、今のうちにククーに質問することはしておかないと。明日にはククーは聖都に帰ってしまう。
ヴィンセントはきっと答えてくれない。
「生贄は生きたまま聖都に連れて行かれるのか?」
「いや、薬を飲まされて仮死状態で連れて行く。そしてそのまま生贄として捧げられる」
「ということは、薬をすでに飲ませたという設定なら意識がなくても構わないということか。ふむ。王子は六歳だから、あと二年ぐらい猶予はあるのか」
「いや、王子はもうそろそろ七歳になるから、あと一年と少しばかりだ。春の建国祭で儀式は行われる」
神聖国グルシアの春の建国祭は盛大なものだが、八年に一度、国を挙げてより盛大に祝われる。それが儀式の年だったのだろう。神官はともかく国民がこの儀式のことまで知っているとは思えないが。
「あまり時間がないな。どうするか」
「、、、やっぱりアンタは何かする気でいるんだな」
「そりゃ、王子とヴィンセントに命を救われた身としては、二人の利害が反しないように解決策を考えたい」
「まあ、俺は止めないけど」
「ククーにも俺は心を救われた身だ。お前も嘘を吐き続けるのは辛いだろう。何とか良い着地点を模索したい」
「、、、いや、どちらにしろ俺は王子には恨まれる。王子の母親はもうすでに聖教国エルバノーンで亡くなっている。王子が国に帰れたとしても、三つ子である王子は捕縛されてしまう」
ククーが俺から視線を逸らした。
その国の名は嫌というほど知っている。アスア王国の隣国だからな。
「聖教国エルバノーンというと、ええっと、王子、、、確かあの国の王子はなぜか三男がなって、周辺諸国を巻き込んで滅びる気かとさえ危惧していた記憶があるな」
三男が王に即位したとき、あの国ではたぶん天災が起こる。かなりの大災害に見舞われる。即位するときはきっと大規模な式典等するだろうから、そのときアスア王国が接している部分に強力な結界でも張って守るしかないかー、と計画してはいた。今、俺はアスア王国では死んでいる扱いなので、その計画は水の泡と化しているけど。俺以外であの規模の結界を張れる人材、アスア王国にいたかな?まあ、今はそんなことは横に置いておこう。
俺はククーを見た。ククーは指を王子の部屋に向ける。
「あ?は?まさか?王子は」
「そのまさかだ。王子はキイという名で長男にあたる」
驚愕の事実。王子は聖教国エルバノーンの国王の息子だったのか。あ、なんか俺、王子は最初にどこぞの王の落し胤かもしれないと思った記憶がある。正解しているな、俺。ギフトがなくなっても何とかなってるぞ。
「次男のイリアも生贄として神聖国グルシアに連れて来られている」
「あの国は馬鹿なのか?長男も次男も生きていなかったら、あの国は本当に滅びるぞ」
つい口に出てしまった。
「俺もそう思ったよ。けれど、聖教国エルバノーンの国王の長子であるだけにキイは魔力そのものが高い。生贄候補として神聖国グルシアももはや手放したくないところだ」
「次男のイリアは生き残るのは確実なのか?」
また、ククーが俺から目を逸らした。どうもククーは俺に対して素直な反応を見せてくれる。諜報員として、神官として生きてきたククーが他の誰かにこんな素直な反応をすることはない。
「生贄に選ばれなくても地獄か。けど、八歳までは無事なのだろう?」
返って来たのは沈黙だった。
「そうか、もうすでに生贄にさえ選ばれないことが決定してしまっているのか。あまりにも生贄候補が多いと管理も大変だろうからな」
「彼はもう、ある大神官のお気に入りだ。彼の世話係の神官が上に繋ぎを作るために、彼をそういうカラダに調教して献上した」
「まだ六歳だろっ」
声を荒げてしまった。ククーに怒ったところで仕方ないとわかっているのに。
「俺にはどうすることもできない。すまない」
ククーに謝られてしまった。俺が苛立っていることがククーにはわかっているのだ。
ククーがどうにかできるとは俺も思っていない。
この国で生贄が必要である限り続いてしまうのだろう。。。
あ、やっぱり無色透明な魔石は量産しよう。
俺はククーに向き合う。
「ククール・アディ、俺は協力をお願いしたい」
「協力?」
「俺は王子を救う。けれど、ヴィンセントの神官としての名を汚さない方法でだ。そして、この国の生贄の制度をなくしたい。だが、この国の人間の協力なしには成し得ない」
ククーの口が緩む。
「ザット・ノーレン、そういう性格だからアンタは貧乏クジを引くんだよ。神聖国グルシアのことは放置して王子とヴィンセントを攫ってどこかの国で生きていけば良いのに」
「世の中、生きていくにはカネが必要なんだよ。何のツテもない国で生きていくのは難しい。本当に俺は幸運だった。だから、ヴィンセント、王子、ククーがこの国で生きるのなら、見てみないフリはできない。とは言っても、これから解決策を見つけて、神聖国グルシアにその策を採用してもらわなければならないが」
「協力してもらいたいのは、大神官長への根回しか」
「察しが良くてなにより。俺が冒険者として大神官長に会わなければならないのなら、是非ともククーには俺の名を有効活用してくれ」
「レン、春にはその解決策を見つけられるのか」
「実用に耐えられるかは、とりあえず試してみないと何とも言えないなあ」
「、、、ああ、もう思い付いてはいるのか。レン自身が怪我しないように気をつけて実験しろよ」
「ククーよ。俺はもう子供じゃないぞ」
ククー、その生温かい視線を俺に寄越すな。
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