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4章 血がつながる者

4-3 嘘で固める ※ククー視点

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◆ククー視点◆

 聖教国エルバノーンはアスア王国を横断していかなければいけないので遠い。急ぐ旅ではないので、荷馬車でのんびりと向かった。
 聖教国エルバノーンにて生贄候補の幼い子供に会った。
 赤茶色の癖のある柔らかそうな髪で、焦げ茶色の目が俺を見ていた。
 可愛らしい子供だ。
 キイは聞き分けの良い子供だった。
 四歳児がこんなにもワガママを言わずに、母親の言うことを聞いて他人の俺について来るだろうか。


 キイの母親は気づいていた。
 三男のアルスが聖教国エルバノーンの国王の配下に連れて行かれてしまったときに、残された自分たち家族がどうなるかを。
 三男のアルスは跡継ぎとして育てられるので、無事だ。
 連れて行かれなかった長男キイと次男イリアは殺される。
 二人を殺したところで三つ子だった事実は変わらないと、聖教国エルバノーンの人間が知るのはいつになるのだろうか。それが神の意志だと真摯に受け止められる信徒はこの国にはいなくなってしまったのだろうか。

 聖教国エルバノーンといえども、双子、三つ子が凶兆なのは国王の跡継ぎだった場合だけだ。街の中には双子どころか三つ子、四つ子だって普通にいる。庶民として暮らしている彼らは、街の中では特に問題視されない。
 国王の子供として産まれた双子の片割れを殺害したり、幽閉したりしたこともあったが、まったく効果がないことを歴史が証明している。聖教国エルバノーンにおいて実権を聖職者が握り出した頃から、双子が産まれるケースが非常に多くなってきたのだ。
 にもかかわらず、馬鹿なことをしようとする。
 つまり、神の意志はこの国の統治を聖職者から国王に戻せということなのである。それができないなら、この国は滅ぶだけだ。
 聖教国エルバノーンも神の言葉は絶対だ。決して聖教者の言葉ではない。


 で、三つ子とバレてすぐにでも殺されそうなキイとイリアなのだが、聖教国エルバノーンは自分たちの手を汚すのも嫌がった。現在のこの国の聖職者も王族も何もかも甘いのだ。
 先に次男のイリアが神聖国グルシアに連れて行かれていた。
 イリアの運搬担当者は小さい子供に本当のことを話してしまった。
 聖教国エルバノーンに捨てられたのだと。
 そして、三男のアルスだけがのうのうと生き延びられるのだと。

 アホなのかと思った。
 真実を話しても、得になることなど何もない。
 だが、次男イリアは神聖国グルシアでも長男キイの予備だ。他にも数人ほど生贄候補者は育てられているなかでも、次男イリアは生贄になる可能性は限りなく低い。流行り病などで候補者がほとんど亡くならない限り、彼が生贄として捧げられることはないだろう。
 イリアは生き続ける。一生、教会の檻の中で。

 キイとイリアの母親は、神聖国グルシアに微かな希望を託した。
 ほんの微かな。
 神聖国グルシアに行けば、二人とも八歳の儀式までは生き延びられることは確実だ。
 けれど、生贄に選ばれても選ばれなくても地獄なのだ。それでも、聖教国エルバノーンに二人が居続ければいつかは殺される。
 自分のように、と。

 聖教国エルバノーンの国王は、この母親の身の安全と他の二人の子の八歳までの命を、三つ子の一人を差し出すことで約束した。
 母親は我が子を差し出すことしかできなかった。そうしなければ、自分だけでなく全員すぐさま殺されるだけだったから。

 そう約束したのは、国王だ。
 正妻は我が子を産むことができなかったのを、国王を恨むのではなくこの母親を恨んだ。聖教国エルバノーンの国王もまた三つ子ということを口外されたくないばかりに、正妻が手を出すことを止めはしなかった。




 キイの母親は俺たちが出発してから三日後には殺された。
 



 キイは何も知らない。
 俺がすべて嘘を伝えたからだ。
 病気の治療で、神聖国グルシアに行く。
 このままでは八歳までも生きられないかもしれない。
 魔力を高めて、神の御慈悲を願おう、と。
 そして、その説明をすることを母親も受け入れた。
 真実を話されたイリアがあまりにも泣き喚いたからだ。真実は時に残酷である。イリアはその後、旅の最中おとなしくなり運搬担当者には楽だっただろうが、生きる希望すらなくなったかのようだった。

 本当なら、というより、正式な跡継ぎはキイなのだ。聖教国エルバノーンに愚かな人間が揃ってなければ、彼は将来、聖教国エルバノーンの国王になれたはずだ。たとえそれが飾りの国王だとしても。
 だから、俺はキイをこう呼ぶことにした。

「王子、」

 生贄候補となったので、キイという本名を呼ぶことはできない。
 コレは嫌味でもなければ、同情でもない。
 せめて、という想いだ。

 母親を殺すなら、三つ子の二人も聖教国エルバノーンで一思いに殺せばよかったのに。
 王子はずっと母親があの家で待っていてくれていると思っている。
 俺が王子に真実を告げることはない。
 彼が儀式で生贄にされても欺き続ける。

 残った生を、せめて心安らかに過ごしてほしい。
 そう思いながら、世話係であるヴィンセントの元に届けた。










 二人とも言葉が圧倒的に足りない、と、俺とヴィンセントがレンに指摘された日。
 俺は夕食後にレンに絡まれた。
 これだけの量で酒に酔っているわけではないはずだが。

「ククー、蒼天の館というギフトが凄かったのは俺もよくわかっている。けど、あの万能のギフトは今はない。俺は説明されないとわからないんだ」

 なぜか念押しされる。ギフトが奪われたのは俺にもわかっている。

「いや、わかってないね。ククーは説明しなくてもすべて俺がまだわかっていると思っている。何度でも言うが、あの万能のギフトはもうないの」

 おい、レン、俺の心を読んでないか?俺はうんうん頷いているぞ。

「お前の顔に書いてあるんだっ。諜報員として優秀だったのはわかる。昔の俺をずっと見ていたのも知っている。が、今の俺にはわからないことが多いんだっ」

「ギフトがなくなれば、普通なら使っていた魔法自体使えない。にもかかわらず、レンが使える魔法は多いだろう。元々の素質なのかわからないが、ある程度は使えるものだと俺は考えている」

「そりゃ、この家周辺ぐらいなものだ。そう、範囲が狭まったと言えばお前にもわかりやすいか?英雄時代はこの全世界が対象だったものが、この敷地内に限定された感じだ。少しはわかったか?」

 何でレンは俺に対してのみ説明に熱が入っているのだろう。
 横にいるヴィンセントと王子ではなく、俺に、説明している。

「だって、お前、まだ俺を万能だと思っているからさー。今の俺、何もできないよ。北のダンジョンのゴーレム倒すのも疲労するし、探索能力も戦闘能力も格段に落ちているんだよ」

「へー」

 能力が落ちていてもできることが凄いというのに。
 っていうか、俺のギフトから台所にいたと思わせて街に逃れている時点で、その能力かなり高めのままなんですけどー。英雄時代のザット・ノーレンそのままなんですけどー。
 本当にギフト失われているんだよね。。。って思われても仕方ないんじゃないかなー。
 英雄になる人間というのは、そもそも英雄の素質があったということなのか。
 ギフトがなくても、このハイスペック。
 ギフトがなくても、普通に英雄できるだろ。
 アスア王国には返さないけど。

「だからさー、ククー、お願い、わかって。俺の能力は地に落ちたって」

 レンが嘆き始めたよ。

「へー、へー」

 こんな返事になるのも、俺は仕方ないことだと思うんだけどね。
 シアリーの街の冒険者ギルドから、北のダンジョンの十一層から十五層に湧いて出てくるゴーレムの最大出現数を教えてもらった。あそこが初級中級者向けダンジョンとはいえ、あんな硬くて巨大なゴーレムを剣で全討伐できる人間なんて冒険者でもごく僅かしかおらんわ。
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