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3章 雪が積もる

3-11 愛も積もれば

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 俺はヴィンセントに愛を伝える。

「愛しているよ、ヴィンセント。お前が俺のことをどう思っていたとしても、他の誰かのことを好きだったとしても」

 ヴィンセントがほんの少し困惑の表情を浮かべた。
 迷惑だったのだろうか。
 言わなかった方が良かっただろうか。

「レン、私も愛している。出会ったときから。私が他の誰かを好きだったことなんかない」

「でも、白い髪と赤い目の魔族が初恋だったんだろ?俺は、、、」

 言葉を切ってしまった。
 次の言葉を言えない。自分で言うのは悲しすぎて。
 俺はその人の身代わりとして必要なだけなんだろう、と。

 それでも、俺は今の感情をヴィンセントに伝えたいと思ってしまった。
 重荷になってしまうだろうか。

「ああ、幼い頃、確かに彼に憧れていた。白い髪と赤い目が同じだとしても、レンとは何もかもが全然違う」

「もしカイマが、カイマではなくても他の誰かでも白い髪と赤い目だったのなら、別に俺じゃなくても」

「そんなわけがない。あのカイマがただ白い髪で赤い目だとしても、私が好きになるわけがない。あの顔が世の中では可愛いと持てはやされるのはわかるが、、、いや、伝えたいのはそうじゃないな。レンを最初見たとき、泥だらけ、ドス黒い血だらけで、髪の色が白かなんて判断できる状況じゃなかった。自分自身が人助けをしているような状態じゃないのに王子を助けるなんて愚か者かとさえ思った」

 あ、人に言われるとちょっとグサッと心に来る。
 無償で人助けをするなんて馬鹿がやることだと俺も思ったよ。

「うまくは言えないけど、レンの瞳が私を見たとき、やられたと思った」

「やられた?」

「その瞳をずっと私にだけ向けていて欲しい、そう想ってしまった」

 ヴィンセントは優しく俺の頬を手で撫で、目を覗き込む。

「少しずつ知っていってしまった今では、もうレンを独占したい、と思っているし、他の誰にも譲りたくない、ずっと私のそばにいて欲しい、と思っている」

「ヴィンセント、」

 嬉しいという感情が小躍りしている。
 俺はヴィンセントのそばにいても良いのだとようやく思える。

「レン、出会ったとき私が王子に言った言葉は、私に向けて言った言葉でもあるし、私の誓いでもある」

 出会ったときの?

 王子、この人を助けるというのは、犬、猫のようなペットを拾うのとはワケが違うんですよ。傷は深いようですし、カラダもかなり衰弱もしています。治療も大変ならば、カラダを元に戻すためのリハビリも大変でしょう。彼を面倒みるということは、お手伝いどころか貴方の人生をすべて捧げるぐらいの覚悟が必要です。

 思い出した。
 あ、あのときちょっと悲しくなった言葉だ。

「王子に言わせてしまったけれど、本当は人生のすべてをレンに捧げたいと思ったのは私の方だ。私は私の人生をレンに捧げたい」

 俺はヴィンセントに抱きつく。

「すごい嬉しい」

「うん、コレ以上は抑えがきかない。帰るよ、レン」

 ヴィンセントは俺を抱く腕に力をこめると、カラダが浮き上がった。風の魔術で超特急で帰るらしい。いつのまにか俺のマントのフードの中に移動していた角ウサギのツノがヤレヤレと伝えてきた。ツノ、、、俺の肩にいないと思ったら、お前空気を読んだな。




 家の玄関に降りた。
 久々に見る、というか、上から見たのははじめてだが、かなりの雪が家にも積もっていた。

「レンっ」

 嬉しそうな声で迎えてくれた王子が、庭から駆けてきた。

「おかえり」

「ただいま、王子」

「王子、これから二人で部屋にこもるから、夕食も一人で食べられるよな」

 王子との再会も数秒で、俺はヴィンセントに引き摺られる。 

「う、うん。タレタがいるから大丈夫だよ」

 王子のそばには耳が垂れている角ウサギのタレタがいる。ツノも俺のフードから降りて、小さいまま王子の肩にのり、まかせておけ、と伝えてきた。草を王子に食わせるなよ。


 ヴィンセントの部屋に入って扉を閉めると、すぐに服を脱がされはじめる。
 一週間分の熱い抱擁をカラダに与えられる。
 隣の部屋は王子の部屋なのに、喘ぎ声を抑えきれなかった。
 すべてを曝け出したまま、ヴィンセントを求めた。
 夕方だったはずなのに、翌日の早朝まで続いた。騒がしくして申し訳ないと思ったら、どうやら角ウサギたちが王子の耳栓をしていてくれたらしい。

 やや遅めの夕食はこっそり軽食のサンドウィッチをタレタが差し入れに持ってきてくれた。。。
 激しい運動していると、お腹も空くしね。。。
 けれど、それを見るまでお腹を空いていることを忘れるくらい、お互いを貪りつくしていた。


 次に目が覚めると、もう昼前だった。
 ベッドの中でヴィンセントが優しい目で俺を見ている。

「おはよう、レン」

「おはよう」

 お互い裸のままだった。ヴィンセントの温もりが伝わってくる。

「レンにはこうやって私の愛情を伝えていたつもりだったんだけど、まだまだだったんだな。これからはもっと強く激しく伝えるから」

「んんっ?えっと、ヴィンセント、、、それは言葉がないと、カラダ目的だったのかなあって思ってしまったりして」

「え?」

 ヴィンセントが一瞬固まり、その後、俺を強く抱き締めた。

「、、、伝わっていると思っていた。こんなにもレンを求めていたから。そうか、言葉に。。。レン、愛してる。ずっと、好き」

 甘ったるい言葉が朝っぱらから降ってきた。もう昼だけど。

「う、嬉しいけど、少し抑え気味に、、、」

「顔真っ赤なレンも可愛い。反応がものすごく初々しい。レン、好きだよ」

 言葉にしていなかったことを自覚した笑顔のヴィンセントはタチが悪い。
 その後も、ヴィンセントは俺の耳元で囁き続けた。
 俺は溶けるぞ。




 ノックの音が響いた。

「レン、ヴィンセント、ツノから起きてるって聞いたけど、昼食できたよー。朝食はもう冷めたよー」

 扉の外から王子の声が聞こえた。
 いい子や。朝食まで作ってくれたのか。うん、ものすごくお腹が空いている。二食ぐらい軽く食べられそうだ。
 ツノとタレタが王子を手伝ったようだが。料理の本の基本編を参考にしたらしい。うちの角ウサギたちは文字も読めるし書ける。王子とは直接話せないので、王子との意思疎通の方法は、角ウサギ側は筆談である。彼らは意外とうまい字を書くのである。
 俺と角ウサギは会話しなくてもなんとなく思ったことがわかるのである。

「王子、準備ができたら食堂に行く」

 ヴィンセントが王子に返事をした。

「帰って来たんだなあ」

 俺が感慨深げに言うと、ヴィンセントが俺の額に口づけをした。

「おかえり、レン」

「ただいま、ヴィンセント」

 ベッドの中で、見つめ合う。

「名残惜しいけど、早く行かないとまた王子が呼びに来るな」

「そうだね」

 俺とヴィンセントは服を着て、食堂に向かった。
 手を取りながら。
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