すべてを奪われた英雄は、

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3章 雪が積もる

3-9 王女の薔薇騎士団

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「緑苦草が他のダンジョンで見つかっていれば良いのだが」

 ボソリと主任コードボーは呟いた。
 ダンジョンの気まぐれ、には人間では対処できない。

「最終手段は来年返り咲いてもらうしかないだろうねー」

「今年、特に問題を起こさなければな」

 発情もその年、その個人によりけりで状態が異なるらしい。現在の大神官長が今年、強い発情期に襲われて、それで問題を起こしてしまったら、来年に勝つことどころかこの神聖国グルシアで大神官でいることさえ難しくなる。
 俺のダンジョンではすでに緑苦草が収穫を待っているので、ビスタが俺に纏わりつかなければ採りに行けるのだが。明日もビスタたちと共に北のダンジョンに行くことになったら、それこそ納品できない。
 ビスタより早めに起きて出発しない限り難しい気がする。と言っても早く起きたら起きたで、その時間でもなぜか朝食会場の食堂に湧いて出てきそうな気がする。ゴキブリかよ。

 ビスタが鬱陶しい。

「ん?」

 視線を感じて顔を上げると、コードボーもメイサもビスタも俺を見ている。

「レン、ひどい、、、俺のことそんな風に思っていたなんて」

 ビスタがウルウル目を作っている。
 ああ、俺はまた声に出してしまっていたのか。

「ビスタ、この一週間ほどレンと一緒にダンジョンに行っているのは、きちんとレンに承諾を取っているという話でしたよねー?」

 メイサが笑顔だ。輝かしいほどの笑顔を浮かべている。

「メ、メイサ嬢、落ち着いて」

「今日のゴーレム大討伐も貴方がレンをイラつかせたからこそストレス発散にやったのでは?」

 おお、的を射ている。さすがは有能な受付嬢。
 ツノと一緒に拍手をしてしまった。

「レンー、ここはフォローすべきところだぞー」

「いや、一日、二日ならまだしも、六日間もつきまとわれたらさすがに」

「えー、おいしい屋台とか教えてあげたじゃん」

「ビスタ、貴方は反省の時間が必要なようですね」

 あ、メイサがまだ笑顔のままビスタとの距離を縮めていく。

「レン、明日はゆっくりしてくださいね。ビスタにはきっちり話して聞かせますから」

「よろしくお願いします」

「レンの裏切り者ー」

 はて、俺は何を裏切ったのだろう。
 明日は緑苦草を収穫に行けそうだ。俺にとっても冒険者ギルドにとっても有効活用できる一日になりそうだ。










 いつもの時間に宿屋の食堂に行ったが、ビスタとその仲間たちはいなかった。
 静かにツノと一緒に朝食を食べる。

「今日もダンジョン?」

 マイサがお弁当を渡してくれた後に尋ねてきた。

「はい、これから」

 北のダンジョンではなく、俺のダンジョンに向かう予定だが、嘘は言ってない。シアリーの街でダンジョンと聞かれたら、普通は北のダンジョンしかないのだが。

「たまには休みも取らないと疲れちゃうわよ。しかも、この一週間あのビスタにつきまとわれたのも災難だったわね。誰が言ったか忘れたが、おかしなもの同士で息が合うとか聞いていなければとめていた、、、ああ、いや、何でもない。少し考えれば、ビスタと同類なんて失礼だとわかったんだけどね」

 ビスタとは妹のメイサとの関係でいろいろとあったのだろう。だが、ビスタがいまだにこの宿を使い続けるところを見ると、口で言うほどその関係は悪くないのだろう。




 北の門を出て道を外れて少し歩いてから、角ウサギのツノを巨大化しようとしたら、大きい耳だからオオと王子に名付けられた角ウサギが来ていた。
 せっかくなのでオオを大きくして背中に乗せてもらう。
 シアリーの街の南西にあるダンジョンに向かう。
 一週間ほどビスタに纏わりつかれていたせいで、俺のダンジョンで収穫されて干した薬草を納品することができなかった。久々に家に帰ったので干していた薬草を集めてきた体で納品するか。
 ダンジョンに着いて確認すると、角ウサギがせっせと干してくれているおかげでいろいろな種類の薬草の量がある。収納鞄に詰めておく。
 このダンジョンの中は自分の思った通りの環境にすることができる。
 この層は完全に田舎の畑が広がる風景となっている。青空が広がり、小さい小屋があったり、必要ないのに案山子が立っていたり、水路が走っていたりする。種として魔力を込めれば薬草は成長するので、その風景はまったく必要ないものなのだが気分的に。
 冒険者が来たところで、は?となるだろう。どこの田舎に迷い込んだんだ、と勘違いするほどに。

 角ウサギが耕してくれた畑に、魔力を込めて次の薬草の準備をする。
 下の層に行き、緑苦草の畑を見る。
 思った以上に生えている。
 三本でいいって言っていたから、冒険者ギルドに納品するのは三本で良いか。
 この緑苦草は状態保存の収納鞄には入れられない。状態保存の魔術に反発するらしく、入れるとかなり劣化してしまうか、使いものにならなくなるほど痛む。ダンジョン製のものって意外と謎な点が多い。
 間違って収納鞄に入れないように、緑苦草三本を紙に包み、オオの首?胴かな?に風呂敷で巻いておく。

 ダンジョンで見つけたと言うより、昨日の北の女王に譲ってもらったと言った方が信憑性がありそうだ。
 収穫は一か月後と言われたときのビスタがあまりにも不憫だったからとかの理由にすれば問題なさそうだ。
 北の女王が俺の元に持ってきたというより、連絡用の小さなゴーレムが持ってきたということにすればいい。そうすれば、詳しいことはよくわからないで通せるだろう。

「さて、街に戻るか」

 俺の言葉に、オオが足元に来る。
 農作業をダンジョンで行い、最後に緑苦草を収穫したところで、本日の作業を終了した。
 すでに三時を回ってしまった。冬なので、日が落ちるのも早いからもうそろそろ出発しよう。

 けれど。
 ダンジョンの姿隠しの結界に複数の人間が引っ掛かった。
 俺のダンジョンに入ろうとしても、俺の許可がなければダンジョンを見つけることはできずに結界の近くをずっとうろつくことになる。

「あれはアスア王国の王女の騎士団か?」

 アスア王国の国王の孫娘である王女のための女性騎士団である。女性のみで構成されている珍しい騎士団であるが、国王が孫娘可愛さに男を寄り付かせたくないために護衛も女性にしてしまったのである。彼女たちは王女の騎士と誇れるほど並の男性より強い。確か薔薇騎士団とか名乗っていたはずだ。鎧の胸に薔薇のエンブレムがついている。
 王女のそばで仕えているはずの彼女たちが、なぜこんな場所にいるのだろう?
 彼女たちはなかなか諦めずに、馬で結界周辺をうろついている。

 日が暮れると、この辺りも以前このダンジョンから溢れて討伐しきれていない隠れた魔物たちが出てくる。
 俺も角ウサギも問題がないが、彼女たちは襲われてしまう。馬だからといって油断していると、素早い動きの魔物たちから退路を断たれる。

「オオ、行くぞ」

 今のオオは普通の角ウサギのサイズである。風呂敷を背負っているのでそのままにしておこう。
 ええ?アイツらのところ行くのー?って顔するんじゃない。

 あ、英雄ではなく他国の一介の冒険者が隣国であるアスア王国の薔薇騎士団と話すのならば、街に帰るよう説得するのも時間がかかるだろう。オオに手紙と緑苦草を持たせて、先に冒険者ギルドに行ってもらった方がいいか。緑苦草の期限も迫っているようだし、さすがに今日中の方が良いだろう。
 手紙には先程思いついたことを書いておけばいいだろう。あと、副賞はビスタに譲りますっと。

 じゃ、いってらっしゃい。道草をしないでね。オオの道草は文字通り道の草を食べること。

 さて、俺は薔薇騎士団の元へ行く。ツノが後ろからついてきたので、小さくして肩にのせる。
 薔薇騎士団は五人いる。全員馬に騎乗している。馬も魔物が良い獲物だと狙いそうなサイズである。そこまで強くない魔物は闇に乗じて獲物を狩る。強くないと言っても、このダンジョンが産み出した魔物である。北のダンジョンの魔物より断然強い。そして、このダンジョンのなかでは強くなかったので、生き残るために頭を使う。だからこそ、討伐されずに今でも冒険者から隠れて生き残っている。

「ここで何をしている」

 俺は彼女らの背後から声をかけた。俺のダンジョンの方から来て声をかけるとそれはそれで問題だからね。街の方から来た体である。

「お前は冒険者か」

 質問を質問で返す。完全に下に見ている対応だ。

「ここは一度魔物が溢れた地。生き残った魔物たちにやられたくなければ日が落ちる前に早々に立ち去るがいい」

 なので、言いたいことだけ言う。
 彼女たちが目的とするダンジョンには、彼女たちだけでは永遠に辿り着くことはない。
 忠告はした。それでも、この場所に留まるのならば、それが彼女たちの判断なのだろう。二、三人生き残ればいい方だ。
 俺は街の方へと歩き出す。

「待ってくれ。私たちはアスア王国の王女の薔薇騎士団である。そなたに尋ねたい。この辺りにダンジョンが発生したはずだ。その場所を聞きたい」

 俺は彼女たちを見る。

「ここ神聖国グルシアでは、隣国の王女は何の権限も持たない」

「それが団長に言う言葉か。これだから冒険者は」

 団長と呼ばれた女性騎士が、大声で喚こうとする騎士をとめる。
 団長と呼ばれるだけあって他の女性騎士より風格がある。彼女は馬から降りた。

「団長っ」

「失礼した。冒険者には情報も貴重な収入源であったな。情報によっては多額の報酬を支払うことを約束しよう。我が国の英雄がこの地で亡くなられたことはご存じか?今回のことは王女もひどく心を痛めており、彼の遺品ではなく、遺体を見つけて魔物にやられたものだと確定できれば、あの者たちの言葉を信じて国王陛下の命により結婚することも承諾できるというので、我々はこの地に馳せ参じた」

 つまり、俺の遺体を探しに来たということか。馳せ参じたというわりには、アレから相当な日数が経っている。それでも彼女たち薔薇騎士団が王女から離れて動くにはコレでも早かったということなのだろう。

「残念だが、閉じられたダンジョンの中に冒険者の遺体があったとしても発掘は不可能だ。それは貴殿らに言わなくてもわかっていることだと思うが」

「ああ、知っている。知っているが、王女は日に日に沈んでいく。私は王女のために何かしたい。少人数ながら調査をすることを許可してもらえた。微かな望みでも、この目で見なければ王女のために諦めきれないのだ」

 薔薇騎士団の団長は沈んだ声を発した。
 この団長は形だけでなく、名実ともに王女の騎士なのだろう。
 俺は薔薇騎士団の方に意識が向いていたため、気づかなかった。

「誰の許可を得て、お前たちはこの地にいるのか」

 ヴィンセントの声が響いた。久々に見る彼の姿は神聖国グルシアの神官の白い服装だった。
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