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3章 雪が積もる
3-5 心音2 ※ビスタ視点
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◆ビスタ視点◆
冒険者ギルドに戻って買取窓口で換金を行おうとしたら、けっこうな薬草や果実の量だったので、奥の応接室に通された。
「はあー」
「コードボーさんよー、いきなり溜息はないんじゃないか?」
「いや、今日採取された大量の薬草だって聞いたから、緑苦草もあるんじゃないかと期待していたんだがなー」
このメンツだし、というのはコードボー主任は口には出さなかったが。
レンに期待する気持ちもわかるが、ダンジョンにないものは採取できない。
つまり緑苦草があるかもしれなかったから、応接室に通されたということだろう。メイサ嬢を狙っている輩から闇討ちされても困るからな。
「このダンジョンより、他のところのダンジョンの方が実績あるだろ。ここで見つかったら奇跡だと思え」
「確かにそうなんだが。本当は三本ぐらい採取できたら上出来なんだが」
「まだどこからも一本も見つかってないのか」
「じゃなきゃ、溜息なんかつかん」
主任のデカい図体が多少小さくなった。誤差みたいなものだが。
換金が終わり、メイサ嬢と話があるのー、と俺が言ったら、仲間たちもレンもさっさと宿屋に引き上げていった。
少しくらい追求しない?俺に興味を持とうよ。
「で、何ですか?」
「わー、メイサ嬢、つれないー。レンって本当にギフト持ってないの?」
「、、、登録試験のときに見せた登録用紙にすべて書いてあったでしょう、試験官さん?何も見ていなかったのかしら」
「はい、何も見てませんでした」
目は通したはずなんですけど、素通りしてました。
冒険者ギルドは冒険者登録のときに、後ろで嘘をついてないか、犯罪歴はないか、ギフトを持っていないか等、冒険者本人には内緒でけっこういろいろな項目を魔術道具等でチェックしている。
「私と話があるわけじゃなくて、この紙に用事があるんでしょ」
メイサ嬢はファイルを持っている。冒険者新規登録者ファイルだ。さすがは元嫁。
「欲しいワンピースがあるんだけどなー」
「うぉっと、冒険者ギルド職員が賄賂をほのめかす発言」
「元旦那が関係修復を狙って、元嫁に贈り物をしても誰も文句は言わないわよ」
「うう、、、この際だから仕方ない。あのときしっかり書類を見てなかった高い反省料だと思おう」
メイサ嬢はファイルから一枚の紙を取り出し、俺に渡した。
通称名、レン。本名、ザット・ノーレン。
「ん?」
コレ、アスア王国の英雄の名前じゃん。
ギフトなし。
犯罪歴なし。
あ、本当に魔法師になっている。剣とかも使えるとかテイマーであるとか書いてあるが。
その他にもいろいろ書いてあるが、この書類が通ったということは嘘は記載されていないということだ。
貴方はアスア王国の英雄ですか、イエス、ノーの選択肢があればこの書類完璧だったのに。
「ザットって呼んだら、振り返るのかな」
「、、、今度は何を企んでいるの?」
「レンって規格外の強さだから、実はアスア王国の英雄じゃないかと」
俺の返答に、メイサ嬢の目が厳しい。
「だとしたら、騒がないことね」
「えー、何でー?有名人がそばにいるのにー?」
「わざわざこんな外国にまで来て仲間にギフトを譲ったというのなら、英雄だからと騒いで蟻のように群がる貴方のような人から遠ざかりたいがためにでしょう。生きて英雄と呼ばれるより、死んだフリまでして静かにのんびり薬草採取して余生を暮らしたいんでしょう。邪魔しないであげなさい」
ものすごく呆れたようにメイサ嬢が言った。
もし、隣国のアスア王国の英雄ザット・ノーレンが生きているのなら、なぜ仲間にギフトを譲ったのか。
確かに英雄として生きるのが疲れたから譲ったという理由は、すんなり納得できるものだ。
死んだことにしたのは生きていると周りがうるさいから。。。
アスア王国の国王というのは、ザット・ノーレンが現れるまで英雄がいない不遇の時代を生きた国王だ。
アイツは愚かそうに見えて、意外と強かで賢い。
ザット・ノーレンのギフト『蒼天の館』を公式発表したときは、アスア王国以外のすべての人間があの国王はアホだと認定した。確かに、アスア王国に対する諜報、暗殺未遂や呪い等は膨大に増えたが、表立って戦争どころか小競り合いさえ仕掛ける国など皆無になった。
英雄のギフトによって、アスア王国の発言力の強さはその日からガラッと変わったのだ。
その国王に振り回されたのが、英雄ザット・ノーレンである。
多くの宗教国家からの呪いが増えるということは、アスア王国に強大なダンジョンがいくつも生まれ、魔物が大量発生したり、天変地異も起こる。それらの解決を国王から丸投げされたのが英雄である。
けれど、すべて解決して国民の命を救ったのも、英雄ザット・ノーレンである。
だからこそ、彼は紛れもなくアスア王国の英雄だった。
そして、呪いというのは確かにアスア王国のみに向けたものであったのだが、周辺の国家にも魔力の流れに悪影響を及ぼしてしまった。それがこの神聖国グルシアのシアリーの街の南西にできたダンジョンである。もちろん、そこだけに限られたものでなく他の周辺国家にも大なり小なり悪影響が出ている。呪いというのは本当に厄介な代物だ。
「レンー、今日も飲もー」
「暇なのか?」
俺は今晩もレンの部屋に押しかけた。仲間にもレンにも夕食をさっさと食べられて、一人寂しく食べる身にもなって見ろ。お前には従魔の角ウサギがいるのだろうけどと思ってツノを見たら、俺が来たのをベッドで迷惑そうな顔してる。従魔も飼い主に似るの?
「なあ、ザットはどっちの酒が好きだ?」
「ああ、俺はこっちの方が好きだな」
あっさりと流された。俺は指さされた方の酒瓶をレンに渡す。
「俺は今、ザットと聞いたんだぞ」
「俺は通称でレンを名乗っているが、ザット・ノーレンと冒険者登録時に記入している書類を、メイサさんが登録試験のときに見せていただろ?」
今さら何を?と言わんばかりの表情でレンに見られた。
心音に気をとられていて見てなかったんですー。
というか、登録時の試験官って、死なない程度の基礎的な技術や体力があるかないかを確認するものだしね。あまり書類の方に目が行かないのである。
昨日と同じように椅子に座り、小さいテーブルの上に紙袋のツマミを開いて置く。
ヤレヤレといった調子で、レンもベッドに座る。
ツノがテーブルによじ登ってきた。おつまみちょうだい、と言っているような顔である。
レンがツノに一つあげていた。
「で、本当に何の用だ?」
「若手のホープと親交を深めたいと思うのがそんなに悪いことかー?」
「若手、、、」
ちょっと自嘲気味に笑われました。この顔を見ていると忘れるけど、三十四歳。本人が一番気にしていることなのかな?
「三十四歳、、、って隣国の英雄も同じ年齢じゃなかったか?」
「そりゃ、そうだろ」
これまたあっさりと肯定されました。
「なあ、ザット・ノーレン。お前はどうしてこの国に来たんだ?」
少々の間があった。
お酒を口にしているが、レンの目が俺に厳しく注がれる。
「ビスタ・リングランド、冒険者ギルド本部所属のお前こそ何を調べているんだ?」
咽なかった俺を褒めてあげたい。
「なぜ知ってる?」
「昔、俺はお前と一度だけ挨拶を交わしたことがある。忘れているのなら致し方ない。俺も少し前に思い出したところだ」
この神聖国グルシアの地で思い出さないでほしかったなー。
こんな若い白い髪の人物と自分の身分を明かして挨拶したのに忘れているのなら、俺は相当記憶力が欠如している。前は違う色の髪だったのかな???
「本来なら遠い国にある冒険者ギルド本部の上層部にいるお前がこんなところで冒険者をしていること自体おかしい。何を隠している?」
あ、俺が尋問される側なんですね。。。
冒険者ギルドに戻って買取窓口で換金を行おうとしたら、けっこうな薬草や果実の量だったので、奥の応接室に通された。
「はあー」
「コードボーさんよー、いきなり溜息はないんじゃないか?」
「いや、今日採取された大量の薬草だって聞いたから、緑苦草もあるんじゃないかと期待していたんだがなー」
このメンツだし、というのはコードボー主任は口には出さなかったが。
レンに期待する気持ちもわかるが、ダンジョンにないものは採取できない。
つまり緑苦草があるかもしれなかったから、応接室に通されたということだろう。メイサ嬢を狙っている輩から闇討ちされても困るからな。
「このダンジョンより、他のところのダンジョンの方が実績あるだろ。ここで見つかったら奇跡だと思え」
「確かにそうなんだが。本当は三本ぐらい採取できたら上出来なんだが」
「まだどこからも一本も見つかってないのか」
「じゃなきゃ、溜息なんかつかん」
主任のデカい図体が多少小さくなった。誤差みたいなものだが。
換金が終わり、メイサ嬢と話があるのー、と俺が言ったら、仲間たちもレンもさっさと宿屋に引き上げていった。
少しくらい追求しない?俺に興味を持とうよ。
「で、何ですか?」
「わー、メイサ嬢、つれないー。レンって本当にギフト持ってないの?」
「、、、登録試験のときに見せた登録用紙にすべて書いてあったでしょう、試験官さん?何も見ていなかったのかしら」
「はい、何も見てませんでした」
目は通したはずなんですけど、素通りしてました。
冒険者ギルドは冒険者登録のときに、後ろで嘘をついてないか、犯罪歴はないか、ギフトを持っていないか等、冒険者本人には内緒でけっこういろいろな項目を魔術道具等でチェックしている。
「私と話があるわけじゃなくて、この紙に用事があるんでしょ」
メイサ嬢はファイルを持っている。冒険者新規登録者ファイルだ。さすがは元嫁。
「欲しいワンピースがあるんだけどなー」
「うぉっと、冒険者ギルド職員が賄賂をほのめかす発言」
「元旦那が関係修復を狙って、元嫁に贈り物をしても誰も文句は言わないわよ」
「うう、、、この際だから仕方ない。あのときしっかり書類を見てなかった高い反省料だと思おう」
メイサ嬢はファイルから一枚の紙を取り出し、俺に渡した。
通称名、レン。本名、ザット・ノーレン。
「ん?」
コレ、アスア王国の英雄の名前じゃん。
ギフトなし。
犯罪歴なし。
あ、本当に魔法師になっている。剣とかも使えるとかテイマーであるとか書いてあるが。
その他にもいろいろ書いてあるが、この書類が通ったということは嘘は記載されていないということだ。
貴方はアスア王国の英雄ですか、イエス、ノーの選択肢があればこの書類完璧だったのに。
「ザットって呼んだら、振り返るのかな」
「、、、今度は何を企んでいるの?」
「レンって規格外の強さだから、実はアスア王国の英雄じゃないかと」
俺の返答に、メイサ嬢の目が厳しい。
「だとしたら、騒がないことね」
「えー、何でー?有名人がそばにいるのにー?」
「わざわざこんな外国にまで来て仲間にギフトを譲ったというのなら、英雄だからと騒いで蟻のように群がる貴方のような人から遠ざかりたいがためにでしょう。生きて英雄と呼ばれるより、死んだフリまでして静かにのんびり薬草採取して余生を暮らしたいんでしょう。邪魔しないであげなさい」
ものすごく呆れたようにメイサ嬢が言った。
もし、隣国のアスア王国の英雄ザット・ノーレンが生きているのなら、なぜ仲間にギフトを譲ったのか。
確かに英雄として生きるのが疲れたから譲ったという理由は、すんなり納得できるものだ。
死んだことにしたのは生きていると周りがうるさいから。。。
アスア王国の国王というのは、ザット・ノーレンが現れるまで英雄がいない不遇の時代を生きた国王だ。
アイツは愚かそうに見えて、意外と強かで賢い。
ザット・ノーレンのギフト『蒼天の館』を公式発表したときは、アスア王国以外のすべての人間があの国王はアホだと認定した。確かに、アスア王国に対する諜報、暗殺未遂や呪い等は膨大に増えたが、表立って戦争どころか小競り合いさえ仕掛ける国など皆無になった。
英雄のギフトによって、アスア王国の発言力の強さはその日からガラッと変わったのだ。
その国王に振り回されたのが、英雄ザット・ノーレンである。
多くの宗教国家からの呪いが増えるということは、アスア王国に強大なダンジョンがいくつも生まれ、魔物が大量発生したり、天変地異も起こる。それらの解決を国王から丸投げされたのが英雄である。
けれど、すべて解決して国民の命を救ったのも、英雄ザット・ノーレンである。
だからこそ、彼は紛れもなくアスア王国の英雄だった。
そして、呪いというのは確かにアスア王国のみに向けたものであったのだが、周辺の国家にも魔力の流れに悪影響を及ぼしてしまった。それがこの神聖国グルシアのシアリーの街の南西にできたダンジョンである。もちろん、そこだけに限られたものでなく他の周辺国家にも大なり小なり悪影響が出ている。呪いというのは本当に厄介な代物だ。
「レンー、今日も飲もー」
「暇なのか?」
俺は今晩もレンの部屋に押しかけた。仲間にもレンにも夕食をさっさと食べられて、一人寂しく食べる身にもなって見ろ。お前には従魔の角ウサギがいるのだろうけどと思ってツノを見たら、俺が来たのをベッドで迷惑そうな顔してる。従魔も飼い主に似るの?
「なあ、ザットはどっちの酒が好きだ?」
「ああ、俺はこっちの方が好きだな」
あっさりと流された。俺は指さされた方の酒瓶をレンに渡す。
「俺は今、ザットと聞いたんだぞ」
「俺は通称でレンを名乗っているが、ザット・ノーレンと冒険者登録時に記入している書類を、メイサさんが登録試験のときに見せていただろ?」
今さら何を?と言わんばかりの表情でレンに見られた。
心音に気をとられていて見てなかったんですー。
というか、登録時の試験官って、死なない程度の基礎的な技術や体力があるかないかを確認するものだしね。あまり書類の方に目が行かないのである。
昨日と同じように椅子に座り、小さいテーブルの上に紙袋のツマミを開いて置く。
ヤレヤレといった調子で、レンもベッドに座る。
ツノがテーブルによじ登ってきた。おつまみちょうだい、と言っているような顔である。
レンがツノに一つあげていた。
「で、本当に何の用だ?」
「若手のホープと親交を深めたいと思うのがそんなに悪いことかー?」
「若手、、、」
ちょっと自嘲気味に笑われました。この顔を見ていると忘れるけど、三十四歳。本人が一番気にしていることなのかな?
「三十四歳、、、って隣国の英雄も同じ年齢じゃなかったか?」
「そりゃ、そうだろ」
これまたあっさりと肯定されました。
「なあ、ザット・ノーレン。お前はどうしてこの国に来たんだ?」
少々の間があった。
お酒を口にしているが、レンの目が俺に厳しく注がれる。
「ビスタ・リングランド、冒険者ギルド本部所属のお前こそ何を調べているんだ?」
咽なかった俺を褒めてあげたい。
「なぜ知ってる?」
「昔、俺はお前と一度だけ挨拶を交わしたことがある。忘れているのなら致し方ない。俺も少し前に思い出したところだ」
この神聖国グルシアの地で思い出さないでほしかったなー。
こんな若い白い髪の人物と自分の身分を明かして挨拶したのに忘れているのなら、俺は相当記憶力が欠如している。前は違う色の髪だったのかな???
「本来なら遠い国にある冒険者ギルド本部の上層部にいるお前がこんなところで冒険者をしていること自体おかしい。何を隠している?」
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