上 下
17 / 236
2章 愛をたぐる者

2-7 薬草栽培

しおりを挟む
 本日の午前中は、王子と一緒にダンジョンへやってきましたー。
 本当ならお弁当持ってピクニックといきたいところだけど、ヴィンセントはほぼ部屋の中で閉じこもって仕事しているので、俺たちが昼食時にいないと寂しいと思いたい。

 外で遊ぶには寒くなってきたかな?
 王子と当番の角ウサギはいつも元気にお庭を走り回っているから、当分は平気のようだ。
 ダンジョンでは角ウサギ三匹がお出迎え。角ウサギは王子に群がっている。王子に撫でられてご満悦のようだ。王子が大好きなのだな。残りの一匹は家の庭でお留守番、もう一匹は見回りだ。

「今日は薬草を植えるって聞いたけど」

「うん、まだ何も植えてない下の層に行くよ」

 最下層に近づくほど、良い土壌を作っている途中だ。下に行けば下に行くほど重要な薬草を植えていくつもりだ。ダンジョンマスターである俺が、どの薬草を植えるかその場で指定しないと薬草は生えてこない。けれど、俺が魔力を与えるだけで、種がなくても指定した薬草が生えてくる。
 このダンジョンに生える薬草は、魔力が種みたいなものだと思ってもらえばいい。

 王子が見ていても楽しいものではないが、王子は俺について来てくれる。王子がついて来るので一緒に角ウサギ三匹もついて来る。

「この辺りで良いか。角ウサギたち、ここに植えるのは緑苦草だぞ。食べてもいいが、後で文句を言っても聞かないぞ」

 三匹とも変な顔になった。キミたちも食べたことあるの?カラダには毒はないけど、何でも口に入れたらダメだよ。

「緑苦草?」

「王子は熱を出したことないか?主に熱さましに飲む苦い薬湯に使われる薬草だ」

 王子も変な顔になった。皆、経験者なのだな。

「健康が一番だよな」

「、、、うん」

 王子の返事に妙な間が空いたな。そういえば、王子は病気だと、この地には治療で来ていると思い込まされているのだった。
 王子はまだ六歳。まだ猶予が二年あるはずだ。そこまでに何らかの手立てを講じたい。
 ヴィンセントに俺は命を救われたが、俺は王子にも命を救われたのだ。
 二人の利害が対立しない方法で何とかしたい。

 俺のギフト『蒼天の館』があれば解決は楽だっただろうに、と思ってしまうのは致し方ない。
 アレは万能と言えるまでに高めたギフトだった。
 万能でも仲間と思っていた人間の裏切りまでは防げなかったが。
 警戒していなかったから、彼らに対して自分の身を守る手立てを講じていなかった。

 今代の英雄がいなければ、俺が英雄になれたはずなのに。

 アスア王国でそう考えている人間は多い。強いギフトを持っている人間ほど思い込んでいる。
 三人のうちの俺を刺した一人も相当強いギフトを持っていた。だから、国王も俺の仲間にした。
 けれど。
 英雄だというだけでも恨まれる。
 周辺の他国の人間から向けられる英雄への憎悪はさらに酷い。
 自分に向けられる感情に鈍くなってしまっていった。
 そうせざる得なかった。
 そうでなければ英雄など続けていられるはずもない。
 アスア王国の英雄はただ称えられる存在ではない。

 あの場所に戻りたくないと思っている自分に気づく。
 もし、ヴィンセントと王子との生活が続くのなら。
 それはきっと俺にとって幸せなことだ。

「大きく育ちますようにー」

 俺が魔力を込めたところに向けて、王子が祈ってくれる。

「そうだね。大きく育ちますように」

 王子が末永く健やかに暮らせますようにと祈りを込めて。










 ヴィンセントの机に書類の山ができている。

「何か手伝えることがあれば手伝うよ?」

 一瞬考えたようだが、書類を書く手をとめずに俺に答える。

「いや、大丈夫。こんなに仕事があるのも一時期だけだろうから。基本的に俺は王子の世話係で、こんなに書類を片付けなければいけないのはおかしいから」

「そう、お茶置いてくよ」

「ありがとう」

 ヴィンセントの邪魔にならないように、俺は部屋から出ていく。
 すまない、ヴィンセント。たぶんコレはククーの策略だ。俺が自由に気兼ねなく街へと出入りできるように、どんな理由にしたのかわからないがヴィンセントの仕事を極端に増やすよう報告したのだろう。

 薬草の納品は今では俺の従魔の角ウサギだけでも可能だから、次にククーが来たときにヴィンセントの仕事の量を元に戻してくれるように伝えよう。
 実は、王子の部屋のカレンダーには赤丸がついている。何かの記念日かと思ったら、次にククーが来る日に王子は赤丸をつけているのだ。そして、ククーが来るのを待ち焦がれている。
 ヴィンセントはククーが来る日など忘れているのだろうな。




 ククーが前にこの家に来たときから一か月は経っていない。
 それは一月前の一週間後にも来ているからだ。ヴィンセントの発注のせいで。
 ククーの馬車が昼過ぎに庭の端から見えると、王子は走って迎えに行った。
 うんうん、可愛い。全力で喜びを表している。
 角ウサギは見られないように隠れた。
 俺も後ろから歩いていくと、王子が止まっている。
 どうしたんだろう。

「ヴィンセントもこんなクソガキのお守なんて不憫だよな」

 王子の前には金髪の小柄な青年が立っている。王子に向ける目つきは厳しい。

「カイマ、」

 窘める声が聞こえた。馬を馬車から外して、水を飲ましている。

「ククーっ」

 王子がククーの大柄なカラダに勢いよく抱きつく。
 さすがに痛そーだ。
 ククーが凄いところは、それを表情にも態度にも出さないところだ。

「王子、少し大きくなって顔色も良くなったか?美味しいもの食わせてもらえるようになったのか?」

「うんっ、レンのご飯おいしいっ」

 力いっぱいの肯定。
 王子、やっぱりヴィンセントの作ったご飯は微妙だと思っていたんだね。。。
 誰にも言わない偉い子だ。

「、、、まあ、アンタに嘘の設定言ってもバレるだろうから、コイツはカイマ、俺と同じく神官だ。今回、馬車の積み荷にこっそり紛れてついて来やがった」

「だって、ヴィンセントに悪い虫がついたって聞いたら居ても立っても居られないよ。ヴィンセントは僕のモノなんだから」

「何、言ってやがる。ほら、積み荷を家のなかに運ぶの手伝え」

 ククーが馬車から荷物を降ろし、カイマに無理矢理渡す。

「ククーはどっちの味方なのさっ。パッと出のアンタは珍しいのかもしれないけど、結局はヴィンセントは本妻の元に帰ってくるんだからなっ」

 カイマが言い捨てて家のなかに入っていった。

 あれ?ヴィンセントって結婚してるの?
 この国の神官って結婚できないんじゃなかったっけ?
 というか、可愛い顔しているけどカイマって男だよね?
 そもそも、神聖国グルシアって同性同士の結婚って禁じられていたと思っていたけど?

「レン、アイツの言葉を鵜呑みにするんじゃない。カイマはヴィンセントの神官学校時代の同級生ってだけだ。ほら、アンタの分」

 一度家に荷物を置いて戻ってきたククーが、背中に王子をくっつけたまま、木箱のひとつを俺に押しつけた。
 中にはいろいろな酒が並んでいる。

「え?」

「貢ぎ物だ。これで少しは家に居たくなるだろ」

 ククーには俺が街に行ったりダンジョンに行ったりして家を留守にしていることが、やはりバレているようだ。コイツは優秀な諜報員だった男である。無理もない。
 この酒で、宅飲みしてろってことか?
 前回もらった酒もまだ手をつけていないのに。

「いいのか?」

「いいも何もアンタのために集めた酒、、、何でもない。気にせず飲んでいいぞ」

 ククーはさっさと次の荷物を家に運んでいく、王子付きで。ククーには重くないのかね、王子は。
 家のなかは騒がしくなっている。ヴィンセントとカイマが大声で何かを言っている。
 久々に会えて嬉しいのかな、、、ヴィンセントも。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

龍は精霊の愛し子を愛でる

林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。 その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。 王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。

拾われた後は

なか
BL
気づいたら森の中にいました。 そして拾われました。 僕と狼の人のこと。 ※完結しました その後の番外編をアップ中です

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

処理中です...