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1章 ボロボロな出会い

1-8 料理の本おつまみ編

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 俺がお金を持っていないと言うと、行商人役ククーは俺に剣と黒い布をくれた。
 王子は俺にその剣を振ってくれとお願いしてきた。
 俺は黒い布を玄関に置いた。

「そうだな」

 庭から少し出たところに、ヴィンセントが薪用に木を魔術で切り倒している場所があった。ほどほどに切り株が残っている。

「ここでいいか」

 振り返ると王子の後ろに、ククーまでついてきている。ここで馬車を盗んでいこうという輩は現れないから特に問題ないか。
 剣を鞘から引き抜くと、刃こぼれが本当にひどい。ボロボロである。
 こういう剣を持つのも久々である。

「王子、一回しか振らないからちゃんと見てろよー」

「うんっ」

 元気のいい返事をいただきました。
 ワクワクした目を俺に向けている。王子にはこれは剣であり、刃がボロボロだということまで理解もしていない。あの魔物を倒した俺ならサクッと切ってくれるだろうと思っている目だ。
 俺は一本のわりと細い木に向かって、剣を振り下ろす。

 一瞬の間があって、木が倒れる。

「レンっ、すごーいっ」

 王子が素直に称賛してくれる。それだけのことが嬉しい。俺も笑顔になれる。
 俺は王子の頭を撫でた。
 ククーが手で口を覆っている。

「ええっと、何をしたんだ?」

「ククーがくれた剣で木を切った」

「それはそうなんだが。。。そんなボロボロの剣でよく切れたな」

「幼い頃はもっと、、、いや、国王からもらった剣もよくボロボロの剣とすり替えられていたからな。今、思えば早く死んでくれってことだったんだろう」

 ボロボロの刃が欠けた得物で魔物討伐に出れば、普通の人間なら死んでいる。
『蒼天の館』を持っていればどんな剣でも剣は剣なので問題はなかったのだが、思い返してみれば悪意の賜物だったのだろう。ただ、『蒼天の館』がない今では剣を強化するのも限界がある。硬い皮膚の魔物にどれだけ対応できるのかというと難しい。
 魔物相手ならば、今は剣よりも魔法で対処した方が得策だ。
 まー、今の俺は、うちのダンジョンの魔物は仲間なので攻撃なんかしないが。

「王子、ヴィンセントが切っていた薪の大きさってどのくらいだった?」

「このくらいー」

 王子は両手で大きさを示してくれる。薪はいくらあっても困らないだろう。乾燥させておかなければいけないので、魔法で切って薪置き場に寝かせておけばいいだろう。

「はあー、すげえな、アンタは」

 あ、まだ見てたのか。

「ククーは行商人役なんだろ。荷物置いたら、次のところに向かわなくていいのか?」

「今日はここに泊るからな」

「え?」

「レン、ククーが来たときはいつも泊っていってくれるんだよ。夜、新しい絵本読んでくれるんだ」

 王子が嬉しそうに言った。本当に嬉しそうだ。
 そうなの?
 食事一人分追加しなきゃいけないから、そういうことはあらかじめ言っておいてくれると助かるなあ。




 料理の本は三冊もあった。
 基本編、上級編、おつまみ編である。おつまみ編を入れたのはどうもククーの好みのような気がする。
 ヴィンセントは食べるものに拘らないし、俺が作ったものは何でも美味しいと言って食べてくれる。ヴィンセントの味覚は肥えていないので助かる。ヴィンセントの料理で文句を言わなかった王子も同文。
 素材は良いものが揃っているんだよ、この家。

 これからは二人にちゃんと手の込んだものを食べさせてあげるからね。涙。
 まずは基本編からだろう。
 と思っていたが、脱線した。
 おつまみも意外と手軽にできるのが存在する。普通におかずにもなるよな。
 そういや酒も全然飲んでないなあ。
 生死を彷徨っていたからなあ。
 お金があれば、街の酒場にも行けるんだけどなあ。
 買って帰って家で飲んでいたらヴィンセントにバレるから無理だけど、街でちょこっと飲むなら。
 二人に気兼ねなく飲めるはず。。。

 そういや、ダンジョンの薬草も乾燥が必要なモノは角ウサギたちが収穫して、ダンジョンでせっせと干してくれている。薬草は生のまま納品しても良いのだが、乾燥させていく方が高くなるものがある。
 生のままじゃなければいけない薬草は相当に高価なものが多い。状態保存の収納鞄にも入れてはならない鮮度が命の薬草であれば、収穫してから納品するまでが短ければ短いほど高値がつくものもある。そういう薬草はこの街である程度信頼と実績を積んでから納めた方が良い。変に悪目立ちすると、後をつけて薬草を横取りしようとする輩が出てくる。
 シアリーの街の北に位置するダンジョンでも薬草は採れる。そこで採れる種類は限られているが、まずは同じ種類のものを納品した方が良いだろう。乾燥というひと手間を入れることで、多少多めの薬草を納品しても、家で干して溜めていたんだなとしか思われないだろう。
 お金が手に入ったら。

 たまにはお酒飲みたいなー。

「良いのがあるぞ」

 うおっ。台所の入口にククーが立っていた。

「ヴィンセントは酒を飲まないから出さなかったが、アンタはイケる口だろ。その本持ってきて良かったぜ」

 え?また俺、口に出してた?本当に気をつけよう。
 俺の手にはしっかりとおつまみ編が握られている。
 へー、ヴィンセントは酒を飲まないのかー。というか、ククーは飲むのか。アンタも神官だろ?表向きは禁酒しなければいけない聖職者じゃないのか?
 まー、酒を飲ませてくれるというのなら、何も見なかったことにしよう。
 夕食は少し味付けが濃いものが多くなってしまったが、大目に見てくれ。
 ククーが持ってきてくれた酒はどれも美味しかった。




「幸せー」

 俺はベッドに横になる。

「そんなに酒が好きだったとは。あー、隣国の英雄は酒豪だって噂は本当だったのか。いくら飲んでも酔わないうわばみだって。。。いや、酔ってるな。顔が赤いぞ」

 ヴィンセントがベッドに腰掛けて、俺の顔を覗く。

「そりゃー、俺だって酔うよー。あー、でもギフトがあったときはそんなに酔わなかったかなー?コレぐらいの量だったら、特に変わらなかったかもしれない」

「レン、人前ではあまり酒を飲んじゃダメだよ。飲むなら俺がいるときにしてね」

「ん?何で?」

「何かものすごく可愛い」

 ヴィンセントが甘ったるい声をして、俺に跨って前髪に触れてくる。

「可愛いレンが見れたのもアイツのおかげだと思うと腹が立つけど、少しは感謝するか」

 ヴィンセントの手が優しく触れて、俺の服を脱がしはじめる。
 おや?ヴィンセントはククーの話し相手にならなくて良いんですかね?一応、行商人役とはいえ客扱いなんでしょ?

「アイツは王子に絵本を読んでくれているさ」

 王子が嬉しそうに言ってたねー。
 新しい絵本が数冊増えていた。あれを全部読み聞かせるのだろうか。
 それは時間がかかるだろうなー。

 俺は目の色を赤くした。
 ヴィンセントは微笑んで、手を俺の奥の方まで侵入させた。

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