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1章 ボロボロな出会い
1-5 アスア王国の英雄
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どこまでも赤い目の色を臙脂色にまで暗くしたら、俺を見るヴィンセントの笑顔が怖くなった。
「ルビーのような綺麗な色だったのに、もったいない」
「だって、俺、魔族じゃないし、間違われたら困るし」
「うんうん、わかってる。魔族だったらあんな悲惨な状況に陥ってないよねー」
あ、バカにされている気がする。
「仲間に背中から刺されていなければ、俺だって」
ぶちぶち。
そう、仲間だと思っていたから背中を見せていたのだから。
ヴィンセントの笑顔がより一層怖くなった。
「ヴィンセント?」
「何それ?レン、仲間に刺されたの?」
あー、これは怒ってくれているのだな。
けど、俺、確実に口が軽くなってないかい?
言わなくていいことを、先に口にしてしまった。
ついつい口にしてしまったのだから、言ってしまうか。
「あー、うん。俺が持っていた黒い短剣で。俺のギフトも奪われた」
「あの強奪の剣か。宗教国バルトが作るのに成功したと聞いていたが、刺したモノのすべてを奪うって本当だったんだな」
ヤバイな、この神官。詳細な情報を握ってやがる。
ヴィンセントがじっと俺を見る。
「よく生きていたな」
「うん、本当に」
「そういう意味じゃない。強奪の剣はすべてを奪う。本当なら死体すら残さない」
彼の目は真剣だ。
確かに刺した仲間はある程度したら、黒い短剣から手を離していた。俺の装備を剥ぎ取るためだったが。もし、その手がずっと離れていなければ、カラダすら残らなかったということだ。
「ん?死体すら?」
俺は手をにぎにぎする。
あれー?何か思い当たるフシがある。食事も水すらも飲まない俺が生き延びた理由って、もしかしなくても。
魔物を刺して気絶した後、死骸がどこにもなかったのって。
「ヴィンセント、この近くに発生した新しいダンジョンってまだあるのか?」
「あるよ。魔物たちは沈静化したようだけど、隣国の英雄が消滅させたっていうエセ情報が流れているけど」
あー、そうね。
ラスボスを倒した後、仲間に刺された俺は、黒い短剣ごと放置された。
あんな状況ではそのままのたれ死ぬか、魔物に襲われて死ぬかと思われたのだろう。どちらにしても彼らが望む悲惨な死に方だろう。彼らはダンジョンコアを破壊していかなかった。
ダンジョンコアというのはそのダンジョンを形成するために必要な強大な魔力の核で、巨大な宝石のようなものである。
俺たちへの最終的な依頼はラスボスを倒すことだけではなく、新しいダンジョンを消滅させることだった。
意識が戻ってしまった俺は、せめてダンジョンコアを破壊しなければならないと思った。たとえ、俺がこのままこのダンジョンに取り残されて一緒に果てることになっても。
ダンジョンコアを破壊しなければ、このダンジョンは消滅しない。
俺が持っている武器は黒い短剣だけだった。
そう、俺はダンジョンコアに黒い短剣、強奪の剣を突き立てたのだ。
その後、目が覚めた俺はダンジョンコアがなくなっていることを確認したが、ダンジョンはそのまま維持されていることにも気づいた。ダンジョンコアがなくなればいつか消滅するだろうと考えて、俺は外に出ようとした。
ダンジョン内で魔物と出遭えば、黒い短剣で倒して、森に出たら出たで魔物に遭えば。。。
「ダンジョンコア、俺が吸収しちゃっていたのか」
ため息とともに、目を背けたい恐ろしい事実が舞い出てきた。
ダンジョンも消滅しないよねー。俺がコアを吸収していたのだから。
この姿、というか赤い目になったのも納得だよ。ダンジョン一つ分の魔力を吸収したのだから、赤い目になるのも当然だよ。が、この身はその莫大な魔力量によく耐えられたな。ああ、『蒼天の館』がぽっかりと消えた穴にちょうど都合よく埋まったと。。。
あのダンジョンコアを自分が吸収した事実を自覚すると、事の顛末が見えてきた。
「レン、隣国の英雄はラスボスと善戦し、このダンジョンで亡くなったと聞いたけど」
そういう話になっているのか。
「俺はザット・ノーレン。アスア王国から、この神聖国グルシアに魔物討伐、ダンジョン消滅を依頼されてやってきた」
「うん、知ってる」
「え?」
ヴィンセントの言葉の意味がわからないなー。何で知ってるの?神官の情報網ってやつですか?
「レン、自分で名乗っていたじゃないか。王子にはレンとしか聞こえなかったようだけど、唇はそう動いていたから」
読唇術というヤツですか。有能ですね。
あのときにそれ以上のことを言わないところも、本当に神官として有能ですわー。
「でも、本当に本人かどうか疑っていた。ギフトも消えていたから判断つかないし」
「よくそれで、この家に入れてくれたな」
もしかしたら、まだ本人とは思ってくれてはいないかもしれない。
けれど、俺のなかには彼らに黙っているというわだかまりがなくなって良かったと思っている。ただの自己満足かもしれないが。
「だって私はレンがザット・ノーレンじゃなくても、手に入れたかったからね」
ああ、そういうことか。
ヴィンセントは俺が英雄じゃなくても良いのか。
ほのぼのと日向ぼっこをする。
洗濯物を干して、王子と庭でゆっくりとする。
こーんな穏やかな日々があるなんて思ってもみなかった。
生きている間で、こんなのーんびりした時間ってあったのだろうか。
俺って英雄のギフトを持っているとわかるまでは、ただの孤児だったから生きるのに必死だったし、英雄のギフト所持者とわかってからは訓練やら勉強やらを王城で詰め込まれ、成長したら冒険者となって国王の命令で魔物討伐に明け暮れる日々。
アスア王国は表面上、他の国々と対立することはなかったから、戦争に駆り出されることはなかった。それだけは幸いだった。
遊ぶ時間もゆっくりとする時間もなかったな。英雄と呼ばれる人間の現実ってこんなものだよ。金や名誉は手に入るけど、残念ながら休日と呼べる日はまったくなかった。
この家の家事は魔術でヴィンセントがすべてすると言ってくれたが、俺もダンジョンコアの吸収を自覚したら魔法が普通に使えた。ギフト『蒼天の館』を使っていたときとほとんど変わらず魔法が使える。違いは多少あるが。
だが、俺の魔法で清掃をしようとすると今一つのようなので、それはヴィンセントに任せる。
今まで掃除に魔法を使ったことなんかなかったからな。俺の拠点は王城、冒険中に泊まるのは宿屋か野宿なので、俺が掃除することなんてなかった。
洗濯は井戸のそばで水を浮かべてグルグルとやっている。大抵は王子がそばで物珍しそうに見ている。
大人二人と子供一人だとそこまでの洗濯量にはならないはずなのだが、シーツが必ず毎日汚れるので、天気が良くない日以外はだいたい洗濯はする。シーツが汚れるのは、毎日男性同士でそういう行為をするからだ。ヴィンセントは激しい上に何回もやるので汚れるのはもう仕方ない。
で、目を臙脂色に変えた俺に、ヴィンセントはベッドのなかでは目の色を戻すように強く要求した。
俺がヴィンセントの要求に応じているのは言うまでもない。アレでも命の恩人なのだ。
庭の石に腰掛けているが、昼食を作りはじめるのもまだまだ早い。
何もすることがない。
嬉しいことのはずなのに、誰からも何も求められていない時間はまだまだ持て余す。
王子も一人遊びが身についてしまっているので、俺のそばにいるだけで何かを要求することは稀だ。
絵本を手にしているが、文字は読めない。
王子は六歳だと聞いた。
文字を覚えてもいい年齢だ。反対に、王族や貴族ならばすでに他の勉学をしていてもいい年齢でもある。
ヴィンセントは世話係であって、教育係ではないらしい。
教える必要がないから、ではないのかと疑う。
どうしてもあの噂が俺の頭をよぎる。
生贄なんかじゃないよな?
コレばかりはヴィンセントに聞くことができない。
「ルビーのような綺麗な色だったのに、もったいない」
「だって、俺、魔族じゃないし、間違われたら困るし」
「うんうん、わかってる。魔族だったらあんな悲惨な状況に陥ってないよねー」
あ、バカにされている気がする。
「仲間に背中から刺されていなければ、俺だって」
ぶちぶち。
そう、仲間だと思っていたから背中を見せていたのだから。
ヴィンセントの笑顔がより一層怖くなった。
「ヴィンセント?」
「何それ?レン、仲間に刺されたの?」
あー、これは怒ってくれているのだな。
けど、俺、確実に口が軽くなってないかい?
言わなくていいことを、先に口にしてしまった。
ついつい口にしてしまったのだから、言ってしまうか。
「あー、うん。俺が持っていた黒い短剣で。俺のギフトも奪われた」
「あの強奪の剣か。宗教国バルトが作るのに成功したと聞いていたが、刺したモノのすべてを奪うって本当だったんだな」
ヤバイな、この神官。詳細な情報を握ってやがる。
ヴィンセントがじっと俺を見る。
「よく生きていたな」
「うん、本当に」
「そういう意味じゃない。強奪の剣はすべてを奪う。本当なら死体すら残さない」
彼の目は真剣だ。
確かに刺した仲間はある程度したら、黒い短剣から手を離していた。俺の装備を剥ぎ取るためだったが。もし、その手がずっと離れていなければ、カラダすら残らなかったということだ。
「ん?死体すら?」
俺は手をにぎにぎする。
あれー?何か思い当たるフシがある。食事も水すらも飲まない俺が生き延びた理由って、もしかしなくても。
魔物を刺して気絶した後、死骸がどこにもなかったのって。
「ヴィンセント、この近くに発生した新しいダンジョンってまだあるのか?」
「あるよ。魔物たちは沈静化したようだけど、隣国の英雄が消滅させたっていうエセ情報が流れているけど」
あー、そうね。
ラスボスを倒した後、仲間に刺された俺は、黒い短剣ごと放置された。
あんな状況ではそのままのたれ死ぬか、魔物に襲われて死ぬかと思われたのだろう。どちらにしても彼らが望む悲惨な死に方だろう。彼らはダンジョンコアを破壊していかなかった。
ダンジョンコアというのはそのダンジョンを形成するために必要な強大な魔力の核で、巨大な宝石のようなものである。
俺たちへの最終的な依頼はラスボスを倒すことだけではなく、新しいダンジョンを消滅させることだった。
意識が戻ってしまった俺は、せめてダンジョンコアを破壊しなければならないと思った。たとえ、俺がこのままこのダンジョンに取り残されて一緒に果てることになっても。
ダンジョンコアを破壊しなければ、このダンジョンは消滅しない。
俺が持っている武器は黒い短剣だけだった。
そう、俺はダンジョンコアに黒い短剣、強奪の剣を突き立てたのだ。
その後、目が覚めた俺はダンジョンコアがなくなっていることを確認したが、ダンジョンはそのまま維持されていることにも気づいた。ダンジョンコアがなくなればいつか消滅するだろうと考えて、俺は外に出ようとした。
ダンジョン内で魔物と出遭えば、黒い短剣で倒して、森に出たら出たで魔物に遭えば。。。
「ダンジョンコア、俺が吸収しちゃっていたのか」
ため息とともに、目を背けたい恐ろしい事実が舞い出てきた。
ダンジョンも消滅しないよねー。俺がコアを吸収していたのだから。
この姿、というか赤い目になったのも納得だよ。ダンジョン一つ分の魔力を吸収したのだから、赤い目になるのも当然だよ。が、この身はその莫大な魔力量によく耐えられたな。ああ、『蒼天の館』がぽっかりと消えた穴にちょうど都合よく埋まったと。。。
あのダンジョンコアを自分が吸収した事実を自覚すると、事の顛末が見えてきた。
「レン、隣国の英雄はラスボスと善戦し、このダンジョンで亡くなったと聞いたけど」
そういう話になっているのか。
「俺はザット・ノーレン。アスア王国から、この神聖国グルシアに魔物討伐、ダンジョン消滅を依頼されてやってきた」
「うん、知ってる」
「え?」
ヴィンセントの言葉の意味がわからないなー。何で知ってるの?神官の情報網ってやつですか?
「レン、自分で名乗っていたじゃないか。王子にはレンとしか聞こえなかったようだけど、唇はそう動いていたから」
読唇術というヤツですか。有能ですね。
あのときにそれ以上のことを言わないところも、本当に神官として有能ですわー。
「でも、本当に本人かどうか疑っていた。ギフトも消えていたから判断つかないし」
「よくそれで、この家に入れてくれたな」
もしかしたら、まだ本人とは思ってくれてはいないかもしれない。
けれど、俺のなかには彼らに黙っているというわだかまりがなくなって良かったと思っている。ただの自己満足かもしれないが。
「だって私はレンがザット・ノーレンじゃなくても、手に入れたかったからね」
ああ、そういうことか。
ヴィンセントは俺が英雄じゃなくても良いのか。
ほのぼのと日向ぼっこをする。
洗濯物を干して、王子と庭でゆっくりとする。
こーんな穏やかな日々があるなんて思ってもみなかった。
生きている間で、こんなのーんびりした時間ってあったのだろうか。
俺って英雄のギフトを持っているとわかるまでは、ただの孤児だったから生きるのに必死だったし、英雄のギフト所持者とわかってからは訓練やら勉強やらを王城で詰め込まれ、成長したら冒険者となって国王の命令で魔物討伐に明け暮れる日々。
アスア王国は表面上、他の国々と対立することはなかったから、戦争に駆り出されることはなかった。それだけは幸いだった。
遊ぶ時間もゆっくりとする時間もなかったな。英雄と呼ばれる人間の現実ってこんなものだよ。金や名誉は手に入るけど、残念ながら休日と呼べる日はまったくなかった。
この家の家事は魔術でヴィンセントがすべてすると言ってくれたが、俺もダンジョンコアの吸収を自覚したら魔法が普通に使えた。ギフト『蒼天の館』を使っていたときとほとんど変わらず魔法が使える。違いは多少あるが。
だが、俺の魔法で清掃をしようとすると今一つのようなので、それはヴィンセントに任せる。
今まで掃除に魔法を使ったことなんかなかったからな。俺の拠点は王城、冒険中に泊まるのは宿屋か野宿なので、俺が掃除することなんてなかった。
洗濯は井戸のそばで水を浮かべてグルグルとやっている。大抵は王子がそばで物珍しそうに見ている。
大人二人と子供一人だとそこまでの洗濯量にはならないはずなのだが、シーツが必ず毎日汚れるので、天気が良くない日以外はだいたい洗濯はする。シーツが汚れるのは、毎日男性同士でそういう行為をするからだ。ヴィンセントは激しい上に何回もやるので汚れるのはもう仕方ない。
で、目を臙脂色に変えた俺に、ヴィンセントはベッドのなかでは目の色を戻すように強く要求した。
俺がヴィンセントの要求に応じているのは言うまでもない。アレでも命の恩人なのだ。
庭の石に腰掛けているが、昼食を作りはじめるのもまだまだ早い。
何もすることがない。
嬉しいことのはずなのに、誰からも何も求められていない時間はまだまだ持て余す。
王子も一人遊びが身についてしまっているので、俺のそばにいるだけで何かを要求することは稀だ。
絵本を手にしているが、文字は読めない。
王子は六歳だと聞いた。
文字を覚えてもいい年齢だ。反対に、王族や貴族ならばすでに他の勉学をしていてもいい年齢でもある。
ヴィンセントは世話係であって、教育係ではないらしい。
教える必要がないから、ではないのかと疑う。
どうしてもあの噂が俺の頭をよぎる。
生贄なんかじゃないよな?
コレばかりはヴィンセントに聞くことができない。
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