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第3章 激動の
3-16 その世界は続いていく ◆ギット視点◆
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◆ギット視点◆
「ふああぁー」
大あくびの主が居酒屋にやってきた。
「夜だから、ここに来れば誰かいると思っていたんだけど、キミ一人?」
質問した彼は幼い少年の姿だ。
彼は今まで寝ていた魔族である。
というか、俺がこの地に来てから一度も見たことがなかった。今まで誰とも会わずにずっと寝ていたんだな。
「ああ、ここにはもう寝ている魔族しか存在しないはずだ」
俺の返事に、彼は周囲を見回してから俺を見た。
「そうか。もう我らの仲間も数人しかここに残っていないのか」
「強い魔族はたいていが長い睡眠をとるからな」
戦いで消耗した魔力を補給するために。
彼らは何万年も寝ていられる。
「仕方ない。もうひと眠りするか」
彼はもう一度ふわあとあくびをする。
回復しているはずなのに、まだ寝る気か。
「起きて、外に出ようとは思わないのか?明日には自由の身だぞ」
「いやあ、ここには魔力が維持されているじゃないか。わざわざこの快適空間を離れる気はない。あの魔王様のいない世界で何かしようとは特に思いつかんよ」
少年姿の魔族は去っていった。
自分の寝床に戻るのだろう。
一応、この居酒屋には書置きが置いてある。
寝ぼけた数人の魔族が状況を的確に把握できるように。
このズィーの仮想現実はまだまだ魔力が保持されている。
「、、、さて、俺も出発するか」
最後の見納め。
一度出てしまえば、もう二度と入ることはできない。
今日、彼の肉体が活動限界を迎える。
彼はハイエルフの寿命を数千年分も分け与えられたが、精神の死は普通の人族である彼にすぐに訪れた。
彼が生きていなければこの地に何も意味がないと思っている者たちが外に出ようと、、、しなかった。
彼を想っている者たちは一緒に消えることを選択した。
俺以外。
魔王様はティフィ大好き独占状態に見えていたが、ズィーが姿を維持できなくなると自分の肉体の封印を解いて魔力をこの地に譲渡した。
ティフィもその意志に従った。
魔王様がいなくなって、魔族領には魔王紋を持つ新しい魔王が誕生した。
魔族は原則的に、魔王には絶対服従である。
だからこそ、ここで寝ている魔族たちは寝続ける。
この空間にいる間は自由だから。
魔王も何代も新しい者と変わったことだろう。
俺は彼の最期を看取ることにした。
確かに精神が消えてしまえばズィーと触れ合うことはできなくなるが、彼の愛した者が誰一人、彼自身を見送ることもしないのも微妙ではないかと思った。
けれど、待つ時間はこんなにも孤独なのかと、一緒に消えてしまえば良かったと思えるほど長かった。
ズィーがいる間はここも随分騒がしかった。
いつもズィーを取り合っていたし、ズィーを囲んでいた。
すぐに俺は自分の選択を後悔した。
それでも、俺は彼に約束をした。
守らなくていいよ、と彼は微笑んでくれたけど。
俺は教会に行き、自分の棺のフタを開ける。
これで封印の解除は終了である。
基本的にズィーが強制的に封印した者以外は、普通に自分で封印が解けるようにしてくれていた。
久々に自分の肉体を動かす。
この地の魔力体とまったく変わらないので違和感ないけど。
意を決して、外の世界に出る。
明るい光に包まれた。
「教会?」
草原の真ん中にぽつんと教会が一つ建っている。
ここはトワイト魔法王国が存在していた場所だ。
もうすでにトワイト魔法王国は滅んでいる。というか、人族だけの国というのはもはや存在しない。
魔族との混血が進み、人族領という枠組みはもうないのだ。
あの地にいてもこの地の状況はわかっていたが、現実を見てしまうと感慨深いものがある。
俺は教会内に入る。
扉を開けると、そこには一面に色とりどりの花が並んでいた。
そして、花に囲まれた中央には棺。
棺としては大きいサイズだ。
あの地にいたズィーとまったく変わらない姿でズィーが横たわっていた。
棺内のズィーのまわりには白い花で埋め尽くされている。
ズィーのイメージが白なのだろう。
しばらくただぼんやりと眠っているズィーを眺めていた。
「お、ここに人が来るとは」
後ろから声をかけられた。
ここを管理している者か。
「少し話を聞いてくれるか?」
彼はひと際大きい白い花束を持っていた。
棺の横に座って、その花束をズィーに抱かせる。
ただ突っ立っていたからか、立ち去らなかったからなのか、俺が肯定したと受け取ったようだ。
「貴方が記憶しているかわからないが、この者は魔族大侵攻のとき世界を救ってくれた英雄だ。トワイト魔法王国の魔導士序列六位だった者だ」
知っている。
「今はもうトワイト魔法王国が滅びて久しく、この国の魔導士だった者もこの地に残っている者は私しかいない。ハイエルフの私について来てくれたエルフたちも亡くなった」
ああ、この人はもしかして。
「この者は我が伴侶として私の寿命を半分を分け与えた。それでも、普通の人族だったため、このように早々と眠りについてしまったが。私は長い間、彼とともにここで暮らしていた」
え?
あれ?
伴侶って?
ズィーが思いっ切り否定してませんでした?
ズィーと彼とは何の肉体関係もない。
おそらくズィーにとって彼は困ったちゃんとしてしか映っていなかっただろう。
魔族大侵攻の原因、魔族領の魔族の魔力を吸い取る秘術を作った張本人。
それをジルノア王国の国王に売り渡してしまった人物。
ジルノア王国の国王が本当に使っちゃうとは思ってなかったーとの言い訳。
かなりズィーに懲らしめられたようだが、真相を知る者は少ない。
ジルノア王国はトワイト魔法王国が肩代わりしていた借金を返済し終えるとあっさりと滅びた。
トワイト魔法王国が面倒を見なくなったからとも言える。
トワイト魔法王国が滅びるよりもかなり早く滅びた。
枷の黒い首輪は代々の国王夫妻がしていたが、次の代で解放されることを待たずに滅んだ。
「貴方に一つお願いしても良いだろうか」
「え、」
「貴方がこの日、この時間、ここに現れたことは偶然なのか必然なのかわからないが、彼と私は同じ時に亡くなる。私が動かなくなったら、私を彼の横に寝かしてはくれないだろうか」
今ここでズィーの隣に横たわったら、というのは無粋の極みだろう。
そのための広い棺だったのか。
「この者と伴侶となってから三千と数十年あまり。長かったようで、過ぎてしまえば短かった。もっと貴方と一緒に泣いたり怒ったり笑ったりしたかった」
彼はズィーの両手に手を重ねている。
顔はこちらに見せない。
が、声はかすれ、肩が揺れている。
花びらの上に水滴が落ちていた。
彼はズィーが別の世界にいたことを知らない。
ズィーがこの地にいる間にもっと話しておけば。
愛情表現がもっとわかりやすければ。
いや、考えてももう遅い。
「貴方が動かなくなったら、彼の横に横たわらせると約束する」
俺はハッキリと言った。
ずびっと鼻をすする音がした。
「ありがとう」
たとえズィーに伴侶と認められていなくとも。
彼はズィーを愛して、ズィーの肉体を一人で今まで守ってきたのだから。
何の見返りもなく。
一時間も経たずに彼らは旅立った。
俺は約束通り、ズィーの横に二位を並べる。
俺はしばらくその場で突っ立っていたが、二人に別れを告げて教会を後にする。
すべてが終わった。
教会を背にして歩みを進める。
俺はズィーを見送って、何がしたかったのだろう。
ズィーとともに旅立つ者はいたというのに。
元々、俺のはただの自己満足。
お節介。
誰も頼んでいない。
もう振り返っても教会の建物は見えない。
ただひたすら進んだ。
歩いている土地は荒野だった。
もう誰も住んでいない土地。
涙がこぼれ落ちていた。
とめたくとも、とまることはない。
ようやく俺は歩みをとめた。
膝をついた。
拳にした両手で地面を叩く。
「あああああーーーーーーーっ」
誰も聞いてないから、叫び声とともに大声で泣いた。
あの人とともに生きていた。
どうして自分の終わりを考えなかったのだろう。
長い時間、泣き続けていた。
声が枯れるまで。
「、、、本当にいた」
「え、」
声のした方を見ると、少年と斜め後ろに青年が付き従っている。
少年は俺に近寄ってきた。
「この辺りにはトワイト魔法王国という国があった。俺の遠い先祖にこの地に縁がある者がいて、今日この日にこの地で泣き騒いでいる者がいるから宥めろという遺言があったのだ。俺の一族は先祖も大切にしているから、一応見に来てみたんだ。本当にいるとは思わなかったが」
青年もうんうん頷いている。
遺言?
誰だ、そんな言葉残したのは。
「何があったかは知らないが、他にやることがないのなら俺についてこい」
小さい少年が胸を張って俺に言う。
「っていうか、誰?何者?」
青年の目が、お前こそ名を名乗れと言っているが、無視だ無視。
「ああ、俺か。キューズ王国のレイグ・キュテリアだ」
「レイグ?」
なぜあの聖騎士の名が、ここまでついてまわるんだ。
「俺のその先祖が愛した名だそうだ。俺もまたこの地に縁があるのなら、この名を授かった」
「そうか」
キューズ王国のキュテリア女公爵は息子を育て上げた。
ズィーは彼女との約束を守った。
ということはこの子はその子孫か。
何十代もの世代が流れていった後だろうけど。
で、その手の甲にあるのは魔王紋のような気がするんですけど。
まじまじと見ていたら。
「これか。キューズ王国は昔から魔族の受け入れが積極的な国だ。貴族にも混血は多い。俺も人族と魔族との混血だ。ま、古い考えの国々は、王族だけは人族の純血で、とか言っている国もあるが、もう時代は変わっている」
金髪だが、クリクリな黒目がズィーに似ているか?
成長したら、もっと似るだろうか。
残念ながらレインには全然似てないぞ。
当たり前か。
まあ、レイグという名なら許せるか。呼び慣れてないから別人だと普通に思える。
「ところで、お前の名は何と言う?」
「俺はギットだ。冒険者だ」
「そうか、これからよろしくな」
少年は二ッと笑った。
「ふああぁー」
大あくびの主が居酒屋にやってきた。
「夜だから、ここに来れば誰かいると思っていたんだけど、キミ一人?」
質問した彼は幼い少年の姿だ。
彼は今まで寝ていた魔族である。
というか、俺がこの地に来てから一度も見たことがなかった。今まで誰とも会わずにずっと寝ていたんだな。
「ああ、ここにはもう寝ている魔族しか存在しないはずだ」
俺の返事に、彼は周囲を見回してから俺を見た。
「そうか。もう我らの仲間も数人しかここに残っていないのか」
「強い魔族はたいていが長い睡眠をとるからな」
戦いで消耗した魔力を補給するために。
彼らは何万年も寝ていられる。
「仕方ない。もうひと眠りするか」
彼はもう一度ふわあとあくびをする。
回復しているはずなのに、まだ寝る気か。
「起きて、外に出ようとは思わないのか?明日には自由の身だぞ」
「いやあ、ここには魔力が維持されているじゃないか。わざわざこの快適空間を離れる気はない。あの魔王様のいない世界で何かしようとは特に思いつかんよ」
少年姿の魔族は去っていった。
自分の寝床に戻るのだろう。
一応、この居酒屋には書置きが置いてある。
寝ぼけた数人の魔族が状況を的確に把握できるように。
このズィーの仮想現実はまだまだ魔力が保持されている。
「、、、さて、俺も出発するか」
最後の見納め。
一度出てしまえば、もう二度と入ることはできない。
今日、彼の肉体が活動限界を迎える。
彼はハイエルフの寿命を数千年分も分け与えられたが、精神の死は普通の人族である彼にすぐに訪れた。
彼が生きていなければこの地に何も意味がないと思っている者たちが外に出ようと、、、しなかった。
彼を想っている者たちは一緒に消えることを選択した。
俺以外。
魔王様はティフィ大好き独占状態に見えていたが、ズィーが姿を維持できなくなると自分の肉体の封印を解いて魔力をこの地に譲渡した。
ティフィもその意志に従った。
魔王様がいなくなって、魔族領には魔王紋を持つ新しい魔王が誕生した。
魔族は原則的に、魔王には絶対服従である。
だからこそ、ここで寝ている魔族たちは寝続ける。
この空間にいる間は自由だから。
魔王も何代も新しい者と変わったことだろう。
俺は彼の最期を看取ることにした。
確かに精神が消えてしまえばズィーと触れ合うことはできなくなるが、彼の愛した者が誰一人、彼自身を見送ることもしないのも微妙ではないかと思った。
けれど、待つ時間はこんなにも孤独なのかと、一緒に消えてしまえば良かったと思えるほど長かった。
ズィーがいる間はここも随分騒がしかった。
いつもズィーを取り合っていたし、ズィーを囲んでいた。
すぐに俺は自分の選択を後悔した。
それでも、俺は彼に約束をした。
守らなくていいよ、と彼は微笑んでくれたけど。
俺は教会に行き、自分の棺のフタを開ける。
これで封印の解除は終了である。
基本的にズィーが強制的に封印した者以外は、普通に自分で封印が解けるようにしてくれていた。
久々に自分の肉体を動かす。
この地の魔力体とまったく変わらないので違和感ないけど。
意を決して、外の世界に出る。
明るい光に包まれた。
「教会?」
草原の真ん中にぽつんと教会が一つ建っている。
ここはトワイト魔法王国が存在していた場所だ。
もうすでにトワイト魔法王国は滅んでいる。というか、人族だけの国というのはもはや存在しない。
魔族との混血が進み、人族領という枠組みはもうないのだ。
あの地にいてもこの地の状況はわかっていたが、現実を見てしまうと感慨深いものがある。
俺は教会内に入る。
扉を開けると、そこには一面に色とりどりの花が並んでいた。
そして、花に囲まれた中央には棺。
棺としては大きいサイズだ。
あの地にいたズィーとまったく変わらない姿でズィーが横たわっていた。
棺内のズィーのまわりには白い花で埋め尽くされている。
ズィーのイメージが白なのだろう。
しばらくただぼんやりと眠っているズィーを眺めていた。
「お、ここに人が来るとは」
後ろから声をかけられた。
ここを管理している者か。
「少し話を聞いてくれるか?」
彼はひと際大きい白い花束を持っていた。
棺の横に座って、その花束をズィーに抱かせる。
ただ突っ立っていたからか、立ち去らなかったからなのか、俺が肯定したと受け取ったようだ。
「貴方が記憶しているかわからないが、この者は魔族大侵攻のとき世界を救ってくれた英雄だ。トワイト魔法王国の魔導士序列六位だった者だ」
知っている。
「今はもうトワイト魔法王国が滅びて久しく、この国の魔導士だった者もこの地に残っている者は私しかいない。ハイエルフの私について来てくれたエルフたちも亡くなった」
ああ、この人はもしかして。
「この者は我が伴侶として私の寿命を半分を分け与えた。それでも、普通の人族だったため、このように早々と眠りについてしまったが。私は長い間、彼とともにここで暮らしていた」
え?
あれ?
伴侶って?
ズィーが思いっ切り否定してませんでした?
ズィーと彼とは何の肉体関係もない。
おそらくズィーにとって彼は困ったちゃんとしてしか映っていなかっただろう。
魔族大侵攻の原因、魔族領の魔族の魔力を吸い取る秘術を作った張本人。
それをジルノア王国の国王に売り渡してしまった人物。
ジルノア王国の国王が本当に使っちゃうとは思ってなかったーとの言い訳。
かなりズィーに懲らしめられたようだが、真相を知る者は少ない。
ジルノア王国はトワイト魔法王国が肩代わりしていた借金を返済し終えるとあっさりと滅びた。
トワイト魔法王国が面倒を見なくなったからとも言える。
トワイト魔法王国が滅びるよりもかなり早く滅びた。
枷の黒い首輪は代々の国王夫妻がしていたが、次の代で解放されることを待たずに滅んだ。
「貴方に一つお願いしても良いだろうか」
「え、」
「貴方がこの日、この時間、ここに現れたことは偶然なのか必然なのかわからないが、彼と私は同じ時に亡くなる。私が動かなくなったら、私を彼の横に寝かしてはくれないだろうか」
今ここでズィーの隣に横たわったら、というのは無粋の極みだろう。
そのための広い棺だったのか。
「この者と伴侶となってから三千と数十年あまり。長かったようで、過ぎてしまえば短かった。もっと貴方と一緒に泣いたり怒ったり笑ったりしたかった」
彼はズィーの両手に手を重ねている。
顔はこちらに見せない。
が、声はかすれ、肩が揺れている。
花びらの上に水滴が落ちていた。
彼はズィーが別の世界にいたことを知らない。
ズィーがこの地にいる間にもっと話しておけば。
愛情表現がもっとわかりやすければ。
いや、考えてももう遅い。
「貴方が動かなくなったら、彼の横に横たわらせると約束する」
俺はハッキリと言った。
ずびっと鼻をすする音がした。
「ありがとう」
たとえズィーに伴侶と認められていなくとも。
彼はズィーを愛して、ズィーの肉体を一人で今まで守ってきたのだから。
何の見返りもなく。
一時間も経たずに彼らは旅立った。
俺は約束通り、ズィーの横に二位を並べる。
俺はしばらくその場で突っ立っていたが、二人に別れを告げて教会を後にする。
すべてが終わった。
教会を背にして歩みを進める。
俺はズィーを見送って、何がしたかったのだろう。
ズィーとともに旅立つ者はいたというのに。
元々、俺のはただの自己満足。
お節介。
誰も頼んでいない。
もう振り返っても教会の建物は見えない。
ただひたすら進んだ。
歩いている土地は荒野だった。
もう誰も住んでいない土地。
涙がこぼれ落ちていた。
とめたくとも、とまることはない。
ようやく俺は歩みをとめた。
膝をついた。
拳にした両手で地面を叩く。
「あああああーーーーーーーっ」
誰も聞いてないから、叫び声とともに大声で泣いた。
あの人とともに生きていた。
どうして自分の終わりを考えなかったのだろう。
長い時間、泣き続けていた。
声が枯れるまで。
「、、、本当にいた」
「え、」
声のした方を見ると、少年と斜め後ろに青年が付き従っている。
少年は俺に近寄ってきた。
「この辺りにはトワイト魔法王国という国があった。俺の遠い先祖にこの地に縁がある者がいて、今日この日にこの地で泣き騒いでいる者がいるから宥めろという遺言があったのだ。俺の一族は先祖も大切にしているから、一応見に来てみたんだ。本当にいるとは思わなかったが」
青年もうんうん頷いている。
遺言?
誰だ、そんな言葉残したのは。
「何があったかは知らないが、他にやることがないのなら俺についてこい」
小さい少年が胸を張って俺に言う。
「っていうか、誰?何者?」
青年の目が、お前こそ名を名乗れと言っているが、無視だ無視。
「ああ、俺か。キューズ王国のレイグ・キュテリアだ」
「レイグ?」
なぜあの聖騎士の名が、ここまでついてまわるんだ。
「俺のその先祖が愛した名だそうだ。俺もまたこの地に縁があるのなら、この名を授かった」
「そうか」
キューズ王国のキュテリア女公爵は息子を育て上げた。
ズィーは彼女との約束を守った。
ということはこの子はその子孫か。
何十代もの世代が流れていった後だろうけど。
で、その手の甲にあるのは魔王紋のような気がするんですけど。
まじまじと見ていたら。
「これか。キューズ王国は昔から魔族の受け入れが積極的な国だ。貴族にも混血は多い。俺も人族と魔族との混血だ。ま、古い考えの国々は、王族だけは人族の純血で、とか言っている国もあるが、もう時代は変わっている」
金髪だが、クリクリな黒目がズィーに似ているか?
成長したら、もっと似るだろうか。
残念ながらレインには全然似てないぞ。
当たり前か。
まあ、レイグという名なら許せるか。呼び慣れてないから別人だと普通に思える。
「ところで、お前の名は何と言う?」
「俺はギットだ。冒険者だ」
「そうか、これからよろしくな」
少年は二ッと笑った。
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