キミという花びらを僕は摘む

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第3章 激動の

3-14 その先に ◆ノルル視点◆

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◆ノルル視点◆

「何でアーガリー嬢がこの街に来れたのだろう」

「ああ、ジニア聖教国は聖職者ジエンタの件の対処で忙しくなったし、シーファも居場所がわかった。クィーズ家の魔導士が総出で各国の空間転移魔法陣をチェックして大丈夫だと判断したから、使用審査は厳重にすることになったが空間転移魔法陣を使えるようになった」

「アーガリー嬢は金を積んだのか」

「一番手っ取り早いのが金だからなあ」

 街中を話ながら歩く二人連れ。
 一人はルアン、もう一人は。

「ようやく見つけたっ」

 俺は彼を見て叫んだ。
 白いマントの彼は少々困惑気味の表情を浮かべている。

「へ?」

 俺は彼の両手を握る。
 身長はティフィと同じく俺より低い。良かった良かった。俺はそこまで身長高くないから。

「お願いだ。俺も貴方と一緒にいたい。俺も貴方のハーレムの一員に加えてくれっ」

「、、、ハーレム」

 と言って首を傾げながら彼はルアンを見る。
 ルアンも俺の行動に驚いていたようだが、すぐに立ち直る。

 ティフィの姿とまったく違うのは一目見れば判断できる。

「ノルル、お前はこの方を誰だと思っているんだ?」

「ティフィの中の人だった人物」

 明確に答える。

「うぐっ、、、俺ってそんなにわかりやすい?行動パターンが見てわかるほど同じとか?」

「いや、ティフィが羽織っていた白いマントはトワイト魔法王国の魔導士序列六位の刺繍が縁取りされていたじゃないか。それを羽織るのを許されているなら、ティフィが六位関係者だとわかる」

 俺はさらに明確に答える。
 だから、来たわけではない。
 中身が誰であろうと会いに来た。

「おおっと、アーガリー嬢やその侍女たちより博識だな」

 うんうんと満足そうに彼が頷く。
 先程も名前が出ていたが、それ誰?
 どうでもいいから聞き返さないけど。

「じゃ、俺も立候補だ」

 後ろから冒険者ギットが現れた。
 コイツもティフィと肉体関係があったのか?
 そんな情報はどこにも転がってなかったが。

「いや、お前は別にハーレムに入らなくとも、約束は守るぞ。春に」

「ええっ、春にっ?今、迎えに来たんじゃないのっ?」

 ギットが大声で抗議した。

「お前との約束はこの件が収束するまでだ。感染症はまだまだ猛威を振るっている。お前は依頼料分しっかり働け」

「人使い荒いよー」

「かなり譲歩した約束なんだが。十五年も父親捜ししていたんだから、このくらいわけもない期間だろ」

「うううー、父親に会うだけが目的じゃないのにー。まあ、いいや、春ね、春。ズィーが迎えに来るのを心から待ってるよー」

 ギットはあっさりと引き下がって去っていった。
 何だったんだ、アレ。

「あの、俺もズィーと呼んでいいか?」

「うん、いいけど。あのさあ、ハーレムの一員に加えてくれって言うことは、ノルルは俺を抱けるのか?」

「え?薬の配達時にいつも抱いていたじゃないか」

「いや、それ、ティフィのカラダだろ」

 ああ、そういうことか。
 けれど、反応が可愛いから。
 真っ赤になって喘ぐ姿を、ティフィは俺には見せなかった。

「何か肉体上変わりあるのか?ズィーも普通の人族だって聞いているけど」

 六位が普通の人族だということは有名だ。
 魔族の混血でもない人がシングルナンバーに並んだ初めての栄誉だと。
 クィーズ家の次男は出遅れた。九位も立派なのだが、六位と比べると功績は霞む。
 それに九位の功績は魔族大侵攻があったからこそ、世界が緊急時に使える念話塔や空間転移魔法陣の必要性を悟ったからだ。
 それは魔族大侵攻を抑えた六位がいたからこその功績だ。

「俺は普通の人族だが、ティフィの方がスラッとやせているし、金髪だし美人だし、抱き心地がいいだろ?」

「ズィーもティフィとは方向性は違うが美人だし、黒髪黒目も俺は好きだ。抱き心地は抱いてみないとわからない」

「珍しくノルルがグイグイ来る。いつもはカラダに訴えてくるだけなのにー」

「ティフィの中身が貴方だったのなら、俺は貴方と一緒にいたい。それに、貴方も俺に抱かれたくはないのか?」

 最後の方はズィーの耳元で囁いた。

「うわー、甘い笑顔で囁いたよー。破壊力抜群だよー」

 ズィーが両手で顔を隠した。
 が、すぐに真面目な顔で俺を見た。

「それだよ。抱かれたいけど、ティフィは百戦錬磨の肉体の持ち主だったけど、俺のこの肉体では男性経験なしの、、、とは少し違うか、ティフィが慣らしてくれていたようだが、ティフィのように感じやすいカラダではないかもしれない。それでもお前は満足できるのかっ。俺は満足できないからといってポイ捨てされるほど軽くはないぞ」

「ポイ捨てされていたら、ありがたく私が拾うんだが」

 ルアンがズィーの髪に口づけを落とす。
 コイツ、気を抜いたら口説いている最中のズィーを横からかっさらうな。

「俺は一度でも拾ってくれたのなら、重くつきまとうぞ。それこそ何度捨てようとしても引っついて離れない厄介な存在になるっ」

 自分で暴露するんだ、それ。
 けれど、ニヤニヤしてしまう自分がいる。
 再びズィーの両手を握る。

「そうか、一生離れてくれないんだ。嬉しいな」

「、、、一応言っておくが、一生離れないというのは、ズィーの価値基準によるからな。私たちの常識は横に置いておかれるぞ」

 ルアンが少々ため息まじりに忠告してくれた。
 だから、ハーレムなのに違いないし、すでに何かあったに違いない。
 価値観の違いは仕方ない。

「うん、貴方が六位だとわかったときから、俺の常識の範疇では把握しきれないと思っていたよ。聖剣をあんなに操れる人物も他にはいない」

「あー、それは世間では内緒。ティフィが聖剣を操ったことになっているから」

「名誉を押しつけられた、そのティフィ本人はトワイト魔法王国で匿っているのか?」

「いや、今は愛しい人と二人でラブラブ生活している」

 一人の人と?
 満足できるのかな、あの夜の女王様が。
 できるのなら、相手は相当絶倫だな。

「んー、まあ、本人が幸せならいいけど」

「おや、感想はそれだけなのか?」

 ズィーが俺を覗き見る。

「俺はズィーと一緒にいられれば、それでいいよ」

「じゃあ、俺と一緒にトワイト魔法王国に来るか?」

「貴方と一緒ならどこへでも」

「あー、言っちゃったかー」

 ルアンが横を向いて言った。
 ズィーがニマッと笑った。

 どこへでも。










「あのときはお前までついてくるなんて思わなかったよ」

「嫁が何を言っているか最初はわからなかったんだけど、婆さんの手伝いとしてついて来て正解だった」

 部屋で一緒に茶を飲んでいるのはグレジルだ。
 レインは育ての母親をトワイト魔法王国に一緒に連れて来た。
 、、、まあ、ジニア聖教国があの状態なら、聖騎士レイグ・ファスターに正義の鉄槌を、なんて言う馬鹿はしばらく出て来ないだろうが。やはり家族は大切なのだろう。

 あの婆さんもほどほどの年齢だ。
 レインがズィーとイチャつきたいのなら人を雇うかしなければならなかったところ、テインが一緒に行って世話すると手をあげた。テインにはもれなく旦那グレジルもついてくる。
 グレジルの仕事は基本的に家でやっていた、ということは特に場所を選ばない。

 屋敷の離れ、と言っても離れもほどほどの大きさの家なのだが、普段は婆さんとテインとグレジル三人はそちらに住んでいる。

「お前はティフィに惚れていたんじゃなかったのか?」

「中身が別人だと気づいていたなら教えてくれれば良かったのにっ。嫁に言われても何のことだかわからなかった俺が悲しいじゃないかっ」

「、、、テインさんがすごいってことで」

 あっさり別人なんでしょ、と言われたときには驚いたが、ティフィさん以外が旦那の相手になるのが嫌だということだ。彼女が許可したティフィとはズィーのことである。
 テインはトワイト魔法王国に移ってしばらくすると妊娠が判明した。
 テインが毎晩グレジルの相手ができなくなると、彼女が寝てからこちらの屋敷に押し掛けて来るようになった。
 妊娠中、旦那は我慢すればいいのに。
 昼間は良い旦那として、妊娠中の奥さんや婆さんの世話を甲斐甲斐しくやっているのだそうな。

 浮気されるよりは、と奥さんも言っていたが、ズィー相手は浮気じゃないのか?
 相手が多くて、旦那が本気で相手してもらってないと思っているのか?
 テインの思考も謎が深まる。

 ズィーはけっこうグレジル相手にも乱れているぞ。
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