キミという花びらを僕は摘む

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第3章 激動の

3-6 初恋であろうとも ◆シーク視点◆

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◆シーク視点◆

「父に、各国の空間転移魔法陣を使用しないよう進言しました」

「その方が良いだろう。シーファの居場所がつかめない以上、どこにどんな細工されているかわからん。すべてをチェックするのには時間がかかる」

 ティフィの姿でいると、ズィーって態度が本当に女王様らしくなるのはなぜなのだろう。
 長ソファの中央に座らせてしまったからかな?
 父は説明書類をズィーに見せている。
 ズィーも座って書類を確認しているだけなのだが。

 ちなみに家令は当たり前だが、父も俺も立ったままだ。

「では、空間転移魔法陣は緊急メンテナンスと称して一時停止します」

「念話塔の方は何か支障は出ているのか?」

「そちらは何も」

「、、、ジニア聖教国からの念話に気をつけろ、というより、念話塔を使うのは各国の王族や貴族、大商人が中心だから、話を傍受されたり、変化させられないよう注意を払った方が良い。微かなものでも他から干渉された気配があれば疑わしいと考えろ」

「微弱な魔力干渉を感知した場合にも報告するよう義務付けます」

「もしものために魔力干渉を受けた双方に連絡しておいた方が良い。よし、クィーズ家でできることはとりあえずこれくらいか」

 ズィーがテーブルに書類を置き立ち上がる。
 家令が動く前に、自分で白いマントをさっと羽織る。

 ティフィの肉体なのに、行動がティフィらしくないと感じてしまう。
 同じ女王様気質なはずが、異質なものだ。似て非なるものである。
 ま、ズィーらしい行動と言えばその通りなので、ティフィの肉体であってもズィーとしてしか接することができない。
 ズィーは魔力量が少ないですよ、矮小ですよ、と内外にアピールするクセに、ここぞという場面での彼の魔力は怖い。底冷えする魔力なのである。

「ズィー、ルチタ王国に戻るのか?」

「いや、せっかく来たのだから、こちらで処理した方が効率的なものを消化してから戻る。というか、お前たちも感染症の予防薬飲んでおけよ」

「、、、え?」

 俺も父も家令も不思議そうにズィーを見た。

「まさか、自分たちだけ無事でいられると思っているのか?」

 反対に驚愕の表情をズィーに浮かべられた。
 正気か?という顔だ。
 我々にはやはり家族だから、という想いが拭えなかったからか。確かに少々甘い考えだった。

「今のジニア聖教国はトワイト魔法王国を目の敵にしている。どんなやり取りがシーファとの間であったかは知らんが、トワイト魔法王国の国民が無事でいられる保証はない。一位の水の精霊王が薬の増産に手を貸してくれる運びになった。量のことは気にせず予防薬を飲んでおいた方が良い」

「そうします。使用人や領民の分も用意しておけ」

 父は家令に指示を出しておく。

「、、、コレは痛い出費になりますね。シーファを管理しきれなかった代償と言えばそうなんでしょうけど」

 父は眉間にシワが寄っている。
 おそらくコレはうちの分の出費だけのことを言っているわけではない。
 人族領全土の国家、ジニア聖教国除く、の薬と輸送代だけで相当な費用負担になる。

 だが、感染症の発生源が人為的なもので、クィーズ家の者が加担していると知れたら、損害賠償はいかなるほどまで膨れ上がるか。
 本来なら薬の準備だけでは済まされないところだ。
 どれだけ感染症の拡大が防げるかで、クィーズ家の命運もわかれる。

「ジニア聖教国に押しつけられるところは押しつける。あの国は聖剣だけは大量に隠し持っているから、もしものときは聖剣にお願いして来てもらうことにしよう」

「金銭的には素晴らしいご提案です。聖剣を武器として振るえなくとも、飾っておきたい者は大量にいますので、、、ただ管理が難しいのでは?」

「綺麗な状態になっている聖剣なら、毎日磨いてやるだけでも満足するものだ。飾られて奉られるのなら、アイツらも本望じゃないのか。それに定期的に本職にメンテナンスされれば特に問題も起こらないだろう」

 聖剣をアイツらと言った。。。
 ズィーはトワイト魔法王国の聖剣とも話していたし、聖騎士となる資格があったんじゃないかと疑う。
 トワイト魔法王国の聖騎士レイグ・フォスターはズィーの推薦だったし、当時は聖剣を押しつけたんじゃないかと勘繰ったものだったが。

「資金繰りに苦しんだときには是非とも力を貸していただきたい」

「わかった。あと、予防薬を優先的にまわすのは南方の国々だ。寒い地域の民はこういう感染症には免疫がある」

「配分はお任せ致します。魔法陣が使えなければ、我が家の魔導士で動けるのはごく僅かです」

「、、、ああ、そっか。あんな魔力ガバガバ吸う魔法陣の方が俺には使いづらいものなんだけどなあ」

 ズィーには他意はない。
 父は笑顔のままだが、完全にクィーズ家の空間転移魔法陣にダメ出しをしている。

「改良点を教えていただくことができれば」

「俺がティフィでいる間に感染症の件は目処を立てないとな。それに、時間制限は開始から半年後だぞ」

 ズィーが俺を見た。

「、、、別にこの件が解決するまでティフィでいても」

「シーク、」

 ズィーの声に魔力が含まれた。

「お前、本当に反省しているのか」

 重圧がかかった。
 世界が暗くなり、どこまでも重くなった、気がした。
 彼はまだ、魔法を使っていない。

 ゴクリと唾を飲み込む。

「は、反省してます。半年で二人を元に戻します」

 元に戻す魔法式は完成している、イタズラをする前に。

 というか、ズィーが元に戻そうと思えば、勝手に元に戻れる気もするが。
 今は無尽蔵の魔力をお持ちだし。

 そんな俺の考えも見透かしたかのような眼差しを向けられてしまった。

「忘れるなよ」

 ズィーは白い残像を残して、部屋から消えた。
 綺麗に跡形もなく。




 数分間、この部屋に沈黙が落ちた。

「嵐が去った」

 ようやく動いた父がソファに倒れ込み、家令は壁に手をついた。

「シーク、お前はあの件で学ばなかったのか。六位にケンカを売ったら、我が家が潰されかねない」

「学びました。が、俺はズィーにかまってもらいたい」

「、、、もう結婚を申し込め」

 簡単に言うな。
 言えるなら、もう言っている。

 父は俺の沈黙をどう受け取ったのか。

「、、、お前から言うのが無理なら、クィーズ家から正式に申し込むが」

「そんなことをして今までの関係に溝ができたらどうするんですかっ」

 と叫んだら。

「今、お前たちの間には深海並みの溝ができている最中だと思うが?お前にはあの冷ややかな目が見えなかったのか?子供なら許されていたようなイタズラも、お前はもう二十七歳。あの、魔法研究さえできていれば幸せな六位であっても看過できないのなら相当だ」

「それで完全に嫌われたらどうするんですかっ」

「まだ嫌われていないつもりだったのか。おめでたいヤツだ。お前が九位でなければ完全に見限られているんじゃないか」

 ぐっ。

「六位がお前の初恋で、実らせたいとまだ考えているのなら、行動しろ。イタズラじゃなく、関係を修復する方向に」

 父がヤレヤレという表情を浮かべながら、サインをした書類を家令に渡していく。

「それとシーファが廃嫡するから、お前がクィーズ家を継ぐ方向になる。それが嫌なら親族からの養子縁組等を考えるから、さっさと決断しろ」

「クィーズ家当主になったら仕事が増えるので、嫌です」

「正直すぎる答えだな」

「ズィーと一緒にいる時間が削られるので」

「だったら、関係をどうにかしろ。今のままだと愛人にすらしてもらえないぞ」

 ううっ。
 わが父ながら、息子の心臓を抉る。
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