キミという花びらを僕は摘む

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第3章 激動の

3-5 空間転移魔法陣 ◆シーク視点◆

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◆シーク視点◆

 仕事に妨害されない限り、ズィーの肉体を抱き倒す。
 ズィーが元に戻ったらこんなことはできない。
 許されるはずもない。

 まるで夢のような時間だ。
 たまに邪魔が入るが、二人で快楽に耽る。
 ズィーの喘ぎ声が嬉しい。
 これが本当にズィーならば、と何度も思ってしまう。




 ズィーの部屋で目が覚めると家から連絡が来ていた。
 ティフィはまだ寝ているので、そっとベッドから出る。
 身支度を整え、実家に戻るため馬車に乗る。

「空間転移魔法陣はまだ動いているな」

「はい。グフタ国王陛下に昨日連絡いただいた時点から、シーファ様の管理権限を停止しております。シーファ様が魔法陣の使用もできない状態になっています。ただ、シーファ様の足取りは依然つかめず」

 迎えの馬車に乗っていたのはクィーズ家の家令だった。
 父もそれだけ重きを置いているということだ。

 昨夜、ベッドのなかでグフタ国王陛下に事件の概要を説明された。
 それは兄シーファ・クィーズが深く関わることだと。
 二位から四位に唆されたとはいえ、魔法で洗脳まではされていない。
 ということは自分の意志で、この犯罪に加担したということだ。

 理由は、、、なんとなく推測はつく。
 俺が次男にもかかわらず、クィーズ家の功績を独り占めしたこと。
 本来ならその栄誉は長男が得るべきものだが、俺が一族のなかでも一番の魔力量保持者だった。
 だからこそ俺は物心ついた時点から高位の魔導士になるために教育されたと言ってもいい。
 その意味もまったくわからない頃から、何もかも制限されて。

 六位となったズィーに出会えたことは幸運だった。
 それまでは魔法の訓練なんて、才能だけでどうとでもなったから。
 やる気もなかった。
 意味もなかった。

 ズィーが「俺」と言うので、俺も真似た。
 私と直すように何度も言われたが、俺の世界の中心はズィーになった。
 かまってほしくて、ズィーにイタズラした。
 彼に笑って許されていたのは成人するまでだった。
 後はしっかりとやり返された。

 ズィーのためなら厳しい訓練でも耐えられた。
 高い評価を得て、早くズィーと肩を並べたかった。
 だから、クィーズ家に協力した。

 それが兄を歪ませたというのなら、そうなのだろう。
 兄の魔力量は貴族としての人並みだ。
 努力すれば序列千番以内には入れていたかもしれないが、兄は魔導士登録をしなかった。
 魔導士にならずに国の役人、文官になった。

 父は兄にクィーズ家を継がせるつもりだった。おそらく今の今まで。
 けれど、兄はそれも嫌だったのではないだろうか。
 魔導士序列九位の俺を支えるためにクィーズ家の当主として一生を捧げることなんて。

 そこまで兄との思い出はないが、兄の印象は優しく穏やか、である。
 そんな兄がここまで追い詰められたのは。

 家に着くと、家令が父の執務室に案内した。

「父上、ただいま帰りました」

「ああ、帰ってきたか、シーク」

 重々しい雰囲気で父が迎えた。

「兄上は、」

「シーファはクィーズ家内で対処できなかった時点で廃嫡するしかなくなった。グフタ国王陛下はともかく、六位まで動かしてしまっているとは。だが、シーファは魔導士ではないとはいえ、このクィーズ家に連なる者。感染症の予防薬や治療薬を製造できたとしても運べる手段がなくなれば意味がなくなる。利益度外視で、出来上がった薬品から早急に南方の国々に」

「そのことですが、父上。クィーズ家が設置した空間転移魔法陣は使わない方がよろしいかと」

 とめた俺を父と家令がいつもと変わらない表情で見る。
 話を続ける。

「兄上の休暇は五日前からです。魔法陣にはすでに何かしら仕組まれていると考えて対処しませんか」

「だが、魔法陣を使わなければ、陸路では間に合わない。馬車では感染症が蔓延した後に予防薬が着くことになる」

「いえ、空間転移魔法陣で運びます。今、ルチタ王国にズィー、、、六位がいます。協力を仰いで」

「そうそう、俺、ルチタ王国にいるんだよ。お前のせいで」

 ヒンヤリとした冷たく低い声が背後から聞こえた。
 父と家令と三人でバッと声の主を見る。

「ティフィっ、、、いや、ズィーっ」

 ティフィの姿ということは、ズィーで正解である。
 銀糸で刺繍された白地のマントを羽織っている。
 金髪で白肌のティフィに良く似合っている。

「ええっと、六位ですか。それならば、この屋敷の防衛魔法を感知もされずに突破されたのも仕方ありませんね。けれど、そのお姿は?」

「それはテメエの息子に聞きやがれ。しかも、こんな防衛魔法で間諜を防げると思ったら大間違いだ」

 ズィーは高位貴族のクィーズ家の当主の父にも言いたい放題。
 この国は魔導士序列の方が優位である。
 国王であったとしても六位のズィーより下なのである。
 国王も十位なのでこの国での発言権は大きいが。

「防衛魔法も見直すか」

 父が小さく家令に指示した後。

「六位、大変申し訳ございません。愚息がまた何か仕出かしたようで」

「もう一度、そいつの躾をし直せ。俺がキレる前に」

「ええ、六位に再度キレられるとクィーズ家が破産しかねないので、今回の件が片付いたら早急に対処いたします」

 父が深々とズィーに頭を下げた。
 はい、その節はすいませんでした。
 俺も一緒に頭を下げる。
 家令も頭を下げていた。

 あのときはズィーが本気で怒ると手が付けられないということがよくわかった一件でした。
 そりゃ、どんな魔導士でも敵わない魔王も前竜王も封印できる人物なんだから、怒らせたらヤバイってことは怒らせなくともわかるんだけどね。

「シーク、もう子供じゃないのだから、大人として愛情表現を示しなさい。まあ、この話はこの件が終わってからだ」

「はい、父上」

 この場は逆らわない方が良い。
 うっ、俺を見るズィーの目は厳しいままだ。
 信用されてない。

 父上もズィーも一度深いため息を吐いてから。

「とりあえずその件は横に置いておく。ところで、クィーズ家長男のシーファの処遇はどうなる」

「廃嫡する予定です」

「わかった、すぐに実行しろ。この件に関してはトワイト魔法王国二位から四位、シーファ・クィーズの関与はなかった体で扱う。が、クィーズ家は金を出せ」

「六位に従います」

「すべての責任はジニア聖教国になすりつける」

「、、、可能ですかね?」

 父が聞くと、ズィーはティフィの顔で薄く笑う。
 父と家令が視線をズラして頬を赤らめてしまったじゃないか。
 無自覚に色気を垂れ流すなーっ。

「上層部が消えればわからないだろ。アイツら腐りまくっているし、ジニア聖教国内で芽を作ったと言えば、信じる国の方が多いだろ」

「それもそうですね。我がクィーズ家がお金を出せば、皆さん何も言って来ないでしょう」

 ズィーもズィーなら、父も父だった。
 はっはっはー、と笑い合う。

「ただ、この愚息だけではなく、二位から四位も過去から何も学ばないのですねえ」

「ああ、アイツらもこの件が片付いたらお灸を据える」

 二位から四位よりも六位が強い不思議。
 魔導士序列は戦闘能力の高さが基準じゃないからなあ。

「お前もな」

 うきゃー。
 ズィーの眼光が鋭かった。

「六位はルチタ王国から空間転移魔法陣を作成して来たのですか?」

「いや、空間転移魔法で飛んできた」

「それはそれは、こんな遠距離、膨大な魔力量が必要なのでは。。。ああ、愚息が度々申し訳ない」

 ティフィの姿を見て、俺を見て、何度も謝る父。
 王族や高位貴族が謝罪しないというのは都市伝説でしかない。

 父も魔導士なので、なんとなーく俺のしたことを感づいている模様。
 ティフィの封印も完全に解かれている。
 ズィーは解いちゃうんだね。エルフの超強力な封印も。
 ティフィは超膨大な魔力量を秘めている。
 コレならジルノア王国の国王夫妻だって、第一王子との結婚に難色を示さなかっただろう。

「ああ、今の魔力量なら世界征服だってできるぞ」

「それでしたらクィーズ家も協力します」

「もちろん冗談だ。王になっても面倒ごとしか増えない」

「残念です」

 ズィーと父の二人は笑顔で会話している。。。
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