キミという花びらを僕は摘む

さいはて旅行社

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第3章 激動の

3-2 破壊の足音

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 肌寒くなってきたと口々に住民が言っても、まだ夏じゃねえか、とツッコミを入れたい今日この頃。
 日中はまだまだ半袖で平気だ。
 早朝、夜であっても薄手の長袖を羽織っていれば大丈夫、なのに。

 ルメドの街も秋になった、もはや冬かと、風邪が流行っているわねー、という謎の言葉を客が残して風邪薬が売れていく。

 俺にとってはまだ暑いんだが。
 皆、暑さにやられちゃったかな。
 恐ろしいくらいの残暑だよ、残暑。
 昼間に厚手の長袖を着ているヤツを見るとゾッとする。
 熱中症にならないのが不思議なくらいだ。

「薬草の確保も何とか間に合った。乾燥させてから工場で薬の製造に着手する」

 何通もの手紙をポイポイと俺に投げ渡すのはルアン。
 俺もそれに目を通す。

「あー、ジルノア王国の薬品工場に頼ったんだな」

「その点は何とでも言え。高品質で薬品を製造できる工場に、他国には私の伝手がなかった。ルチタ王国には空間転移魔法陣は存在しないが、ルチタ王国の隣国キューズ王国が魔法陣の使用の協力を申し出てくれた。周辺諸国でも感染症が広がるのだから、キューズ王国も優先的に薬をまわしてほしいのだろう」

「ああ、」

 キューズ王国は協力してくれる。
 アーリア姫がこの街に来たときに、俺とジルノア王国の第一王子ルアンが一緒にいたところを見ていたのだから。
 ティフィではなく、トワイト魔法王国魔導士序列六位の俺の姿である。

 俺の名を出さなくても、キュテリア公爵が普通に動いてくれる。

 他の国々が協力に積極的になるのは、感染症が出始めてからか。
 今はジルノア王国の第一王子が動いているとはいえ半信半疑といったところか。

「、、、ズィー、その一般的な風邪薬に、感染症の予防薬も混ぜてないか?」

 ルアンが店頭に並ぶ液体の風邪薬を見ながら言った。
 薬屋の店舗でも、それぞれの患者に対処するために症状を聞いて調合する薬ではなく、一般的な風邪の諸症状にほどほどに対処できる安価な風邪薬の方が売れる。
 自分の体重に合わせて量を調節して飲用する薬だ。
 間違っても一瓶グイッと飲む薬ではない。
 そのために目盛りも書かれている。

「今の時期に風邪を引くくらいの人物なら、免疫力が低下している証拠だ」

「そりゃ、そうだが」

 少々毒々しい緑色の液体だが、世に出回っている風邪薬より安価で手に取り易い良心価格設定になっている。
 ほんの少しカラダが怠い、鼻水が出始めた、咳をするようになった等々、普通なら薬に頼らず寝て治すような風邪の引き始めの諸症状で手に取ってもらえるように、口コミを利用したり他の店でも置いてもらったりしている。
 この街での感染症の勢いをできるだけ抑えられるように。

「こういう予防薬は先手必勝だからなあ」

 予防薬を飲んでいれば感染症にかからないわけではないが、限りなく症状は抑えられる。
 ただの風邪程度におさまり、死ぬまでの病気にはならない。
 けれど、対処が遅れれば遅れるほど死亡者数はぐーんとうなぎのぼりする。
 治るまでの治療薬の必要量も増え、薬が患者全員に行き渡らなくなる。

「あと、懸念事項はジニア聖教国の動きだ」

「ああ、あの国に先見の魔法が使える魔導士っていたかなー。ヤツらも治療薬用の薬草を買い占めようとしているなんて」

 俺もルアンに同意する。
 早めに動き始めて良かったかもしれない。
 ジニア聖教国は神の名の下に薬草を根こそぎ奪っていきかねない。
 あの国の聖職者はゴキブリ並みにどこの国でも湧き出てくる。
 ただし、あの国の薬作りは完全に人海戦術だ。信者をこき使うだけこき使う。
 神のために動く信者たちは寝る間も惜しんで薬を作る。
 睡眠不足な頭で作ったら、いい薬なんて作れるわけもないのだが。

「ルアンが動いたからといって、薬草の値が高くなったわけでもないのに、なぜ感づかれたのか、、、っと」

「何か思い当たるフシがあるのか」

「トワイト魔法王国にいる馬鹿どもが動いていたのかなー?」

 あら、やだ。
 人がトワイト魔法王国にいない隙に好き勝手やってくれているのかな?
 俺の肉体はトワイト魔法王国にいるが、シークとグフタ国王とイチャイチャしているようにしか見えないからな、その通りだが。

「、、、顔が怖いぞ」

「ティフィは美人だから仕方ない。まあ、アイツらは俺が元に戻ってからシメる。二度目はないって言っておいたのにー」

「、、、やっぱり怖いぞ」

 ルアンが怖いと連呼する。美人は怒ると特に怖い顔になるのだから仕方ないだろ。

「ゴキブリ退治もついでにしないといけないなあ」

「害虫駆除か?感染症の感染経路なのか?」

「ん、」

 ルアンの言葉で、感染経路という言葉が引っ掛かった。
 まさか、この感染症というのはジニア聖教国が。
 ならば、なぜこの街を狙うのか?

 レインがこの街にいることがバレたというのが最有力候補だが、レインの場合アイツらはこんな遠回しな方法を使わない。
 街を火の海にする。

 となると、別の理由が?

「んんー」

 頭を捻る。
 ティフィの無尽蔵の魔力を使っても、ジニア聖教国の上層部の頭は自分のことしか考えていないし、雑念が多過ぎることしかわからない。
 アイツらの頭の中を魔法で覗いても有益な情報って全然出て来ないんだよね。
 無駄なので嫌になるからもうやらない。

「ジニア聖教国は薬を作って、命を救って信者を増やそうという考えなのか」

「各国のお偉いさんらを救って恩を売ろうという気はあるのだろうが、あの質の悪い薬では症状の軽い者でも効くかどうか疑わしい。薬を作っているのは薬の知識のない信者だ。薬草の保管の仕方も悪ければ、薬の作り方も雑だ。その上、必要な薬草を各地で奪ったところで、ジニア聖教国に持って行く術が信者にはない」

 薬草はそのまま干しておけば乾燥して使える、というほどお手軽なものではない。
 採取された薬草は薬師の厳重な管理の元、薬効をできるだけ減少させないようにその薬草ごとに合った温度や日射しで適度に乾燥されたり保管されたりする。
 こだわる薬師だと、生の薬草しか仕入れない者もいる。自分で乾燥状態も管理しないと完璧な薬にならないと自負しているからだ。

 ま、普通の薬師はそこまでしないけどね。ティフィも。
 適当な薬草を仕入れて、適当な薬効がある薬を作る。
 こだわる薬師というのは基本的に王族や高位貴族に仕える者たちのことだ。

「この感染症で必要になる数種類の薬草は、別段珍しい物でもないし、他の様々な薬でも使われるから夏から秋までの間は良く流通している。だが、ジニア聖教国が奪った薬草は薬にもならずに腐り果てるのならば、それがジニア聖教国の目的ならば問題だ」

 質が悪くても薬になるのなら、まだ救われる。
 運が良ければその薬でも治る者もいるかもしれないのだから。

 その薬草がすべてダメになるのなら、それは大損害だ。

「しっかたないなあー」

「ズィー、なぜか嬉しそうに見えるのは、私だけか?」

「俺はこのカラダで月仙花の薬を飲みたいと常日頃願っていたのだよ」

 高そうな小瓶を取り出す。
 テッテレー。
 皆様、覚えていらっしゃるでしょうか?
 超高価な幻の薬。

「、、、月仙花の薬?確か飲むと強力な魔法でさえも解くと言われる?」

 不思議そうな表情で俺を見ているルアン。

「飲んでもいい大義名分がカモにネギしょってやってきたよね」

「おい、ちょっと待て」

「大丈夫、大丈夫。ティフィに肉体を返すときには、きちんと封印魔法をかけ直すからー」

 ティフィに魔力の大暴走させるわけにはいかないからねー。
 封印解いたままでも魔王様が管理するだろうから、問題ないとは思うけどね。

「何も大丈夫じゃない気がするんだが」

「ティフィには英雄になってもらいましょー」

 腰に手を当て、ぐいっっと一気。
 小瓶だからそんなに量はないけど。

 ティフィの封印は破壊された、しっかりと。
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