キミという花びらを僕は摘む

さいはて旅行社

文字の大きさ
上 下
58 / 74
第2章 波乱含みの

2-27 聖剣の墓場

しおりを挟む
 ジニア聖教国、聖都にある大教会の奥深い地下。
 そこには聖剣の墓場と呼ばれる領域がある。
 場所自体は聖職者だけでなく信者にも広く知られている。

 長年、神のために尽くしてきた聖剣を、使えなくなろうとも無闇に捨てることなどせず、供養する場所なのだと。

 話はまったく違うのだが。
 その真実はジニア聖教国でもごく一部の者しか知らない。

「また聖剣の数が増えたんじゃないのか?」

 俺はため息を吐く。

「ああ、俺たちが世話する聖剣様の数は増える一方だ」

 俺の言葉に返答したのは、この地下に住まう魔法鍛冶師。
 聖剣を扱える魔法鍛冶師は数少ない。
 教会は魔法鍛冶師の一族を外には出さない。永遠に外と接触させない。
 生かさず、殺さず、聖剣の世話だけを続けさせる。

 ジニア聖教国が聖剣のメンテナンスができる魔法鍛冶師を独占しているため、他国は一応ジニア聖教国の要望をある程度聞いてきたのであるが。

 ここは地下ではあるが、魔法で拡張された空間でもある。
 恐ろしくだだっ広い墓地のような風景だ。
 広がる地面に無数の聖剣が突き刺さっており、魔法鍛冶師は一本一本メンテナンスを続ける。
 毎日がその繰り返しだ。

「誰も使えない聖剣をメンテナンスし続けるなんて、馬鹿みたいじゃないのか?」

「いやー、メンテナンスしなければ聖剣様たちも怒るしー」

 この土地に並ぶ聖剣は綺麗に磨かれ美しいものである。
 それもそのはず、誰にも剣として使われなくなったからだ。
 武器として使われないのなら綺麗なままにも見える。
 が、それでも彼らは綺麗にしてもらいたいらしい。

 この膨大な量の聖剣を毎日全部磨けというわけではない。
 順番に一本ずつ丁寧に磨きあげ、綺麗にしていくのがここにいる魔法鍛冶師の役目。

 聖剣をメンテナンスもせずに放置しているとどうなるか。

 この大教会を吹っ飛ばすくらいの爆発はする。
 それをさせないために、ジニア聖教国は遠い昔から魔法鍛冶師に聖剣を世話させているのである。

「聖騎士になりたい者がこの光景を見たら泣くんだろうな」

「、、、ある意味で、泣くんでしょうね」

 俺がぽつりと言った言葉に、彼は手を動かしながら答えた。

 そう、この世界では聖剣の数は本当に少ないと思われている。
 聖騎士になれるのは聖剣を握れる者だけ。
 ほんの一握り。

 けれど、ここには山ほどの聖剣が存在しているのである。

「人に握られることを拒否した聖剣がこんなにもあるということを知ったら」

 彼らは二度と人に握られることを拒んだ聖剣である。
 そりゃ、当たり前だ。
 自分が選んだ聖剣の所持者を利益や欲のためにバカバカ殺されたら、二度と人のために力を貸してやろうとなんて思わない。

 そーんな聖剣を山ほど製造してしまったジニア聖教国。
 この事実を隠しながら、これらの聖剣を表に出すことも嫌ったジニア聖教国は、表向きが供養の場を作ったわけである。

 メンテナンスしている彼の手際は見事だ。
 聖剣も、このままニートしてるー、快適ー、と言っている。
 人に力を貸すより、ここでのんびりしている方が聖剣だって幸せである。


 昔はここにいる魔法鍛冶師にとんでもない要求をする聖職者もいた。
 表に出せるよう聖剣を説得しろ。
 一年に十本以上、世に戻せ、と。
 もしできないのなら、、、家族を人質にとられる例が多かったようだ。

 その聖職者だけでなく、大教会自体が聖剣によって壊滅的な破壊をもたらされることになったが。
 ま、ジニア聖教国は世間にはその聖職者の腐敗を神が怒ったからだと公表したが。
 トカゲの尻尾切りである。

 確かにその聖職者は腐敗していたのが、大きく腐敗しているのはもちろんその聖職者だけではない。
 それでも、止まらないジニア聖教国の聖職者たち。
 神の名を利用する者たち。


 聖剣の墓場。
 人に力を貸すことをやめた聖剣の行きつく先。
 彼らは意外とお喋りだ。

 彼らの声は聖剣を世話できる魔法鍛冶師と、聖騎士にしか聞こえないという。
 魔法鍛冶師というのは魔剣を鍛えられる者のことを言うが、聖剣を扱える者はその中でもごく一部しかいない。
 その魔法鍛冶師たちがこの地に縛られながらも多くのことを知っているのは聖剣がお喋りしているからだ。
 外の知識を誰もこの地に入れていないはずなのに、と考えるのは聖剣と意志疎通できない聖職者たちだ。

 ここには恐ろしいほどの知識が埋まっている。
 人族が生まれたときより前に存在していた聖剣も多い。
 聖剣は人が作ったものではない。
 誰が作ったものなのか、それは永遠の謎なのである。

「しっかし、うるさいなあ。人同士の会話がしにくい」

「聖剣様たちも客人が珍しいからでしょう」

 この地下に入るには警備が厳重だし、客など一人も入れたことはない。
 俺はジニア聖教国にとっては招かざる客なのである。
 聖剣たちは自分の話を聞けーと大歓迎のようであるが。

「ま、あまり変わりがなくて良かった」

「新しい聖剣様が来ると、けっこう変化はあるんですけどねえ」

 うん、目に見える変化はないな。
 聖剣たちは聖剣たちで勝手にやっておいてくれ。

 俺は立ち上がる。

「もう行くんですか?」

「また来るよ」

「あっ、そうだ、叔父から次のお土産候補のお菓子メモを預かっていたんだった、、、はい」

 ごそごそと丸めたゴミ、、、ではなくメモを渡された。
 小さい切れ端に小さい文字でビッシリと書かれている。
 この地では紙も自由にはできない。

「可能な範囲で手に入れて来るよ」

 お土産がお菓子指定なのは、お菓子が消え物だからである。
 もしものときは慌てて頬張れるお菓子が良いと言ったのは彼らだ。
 証拠隠滅しやすいらしい。

 教会が支給した以外の物を魔法鍛冶師が持っていたら問題だ。
 外部との接触を疑われたら、ここの警備がより厳重になりかねない。

 聖剣らも大声で喚いているが。

「聞こえなーい。お前らどれだけの数いると思っているんだっ」

 お土産をそれぞれ買ったら俺が破産する。
 どうしても欲しいなら、ジニア聖教国に貢いでもらえ。

「貴方も聖剣の声が聞こえるのなら、聖剣を振るえるでしょうに」

「俺は魔導士だから聖騎士にはなれないよ」

 ここの聖剣がすべて動けば、軽く聖騎士の軍隊でも作れそうだ。

「聖魔導騎士とか」

 聖剣たちが大賛成しているが。
 何それー。ウケるー。




 聖剣の墓場。
 それは人間が作り出した罪の結果。

 レインと出会う前のお話。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

処理中です...