キミという花びらを僕は摘む

さいはて旅行社

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第2章 波乱含みの

2-26 もうそろそろ秋

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「とりあえず、まず朝食にしますか」

 レインがベッドを整えながら言った。
 俺も服を着ていく。
 背後をとられ、首筋にレインの唇が触れる。

「本当は貴方が欲しいですけど、」

「正直だな」

 レインが甘い笑顔で俺を誘惑する。
 流されるー。

「貴方に何か憂いる事案が発生しているのなら、俺も協力します」

 はい。
 レインくんたら手厳しい。
 仕方ないか。
 俺は俺で打てる手を打っておかないといけない。




「あら、ティフィさん」

 買い物に出たらテインに会った。
 気まずい、、、のかな?
 ティフィだったらどういう態度を取るのだろう?
 ティフィの魅力が女王様並みだから旦那が己の肉体を欲すのは仕方ない、文句を言いたいのなら自分の魅力を磨け、とか?
 マジで何様だ。

 はて?
 そんな状況、俺の人生で一度もなったことないからわからん。

「こんにちは。テインさんも買い物ですか」

「そうなのよ。この頃、涼しくなったから昼前の買い物も苦にならなくなったわー」

「涼しい???」

 、、、まあ、あの真夏の灼熱地獄の時期に比べれば、涼しくはなっただろう。
 俺は魔法で涼しくしているとはいえ、魔力の消費量は相当だったな。ティフィ、豊富な魔力をありがとう。

「もう秋ね」

 どこが?
 トワイト魔法王国の住民にしてみれば、今もなお真夏の気温だ。
 紅葉もまだまだだ。
 というか、落葉樹ってこの辺は植えてあるのかな。
 もの思いにふける秋、というのは程遠い気がする。
 まだまだ思考が中断する暑さだ。

 レインは夜勤明けなので朝食後に寝てもらった。
 手伝ってもらうのは起きてからだ。
 睡眠不足では効率も悪くなる。

「お昼を何にしようかな」

「秋の味覚が出てきているわね」

 と言ってテインさんが手にしたのはお芋。
 サツマイモである。

「北の地域の物だから甘みもぎっしり詰まっているよ」

 八百屋の店主がお勧めする。
 冬に焼き芋って良いよね。ほくほくもしっとりも好きだ。
 でも、じわじわと迫るこの暑さでは食べたくない。
 暑いなかシチュー食う奴が何を言ってやがると言われても、人には好みがある。

「今日はあっさり冷やし麺とか?野菜サラダ風にしたらいいかもなあ」

 レインももりもり食べてくれそう。

「レインは芋も好きよ。肉の方が好きだけど」

「焼き豚チャーシューでものせるか、それとも出来合いのハムを刻んでのせるか」

 俺は冷やし麺に合いそうな野菜を選んでいく。
 後は適当にお安くなっている野菜を購入。
 確かに秋の食材も並び始めた。
 秋の味覚と言えば秋の味覚。
 北にある国々はすでに秋まっしぐらで涼しくなっていることだろう。
 もう肌寒い風が吹いているかもしれないくらいだ。

 とはいえ、そのくらいの気温になるのは、このルメド王国ではまだ先の話。

「では、テインさん、俺は肉屋に向かうので」

「私も肉屋に向かいますわ」

 にこっと笑ってテインも会計を終わらせた。
 テインさんは手提げの籠に野菜をつめる。

「まいどありー」

 肉屋まで遠くないが、隣とかではない。
 一、二分はかかる。
 近いことは近いけど。

 俺に何か言いたいことはわかる。
 旦那と関わるな、とか。
 アレからもグレジルは客がいなくなった朝のバーに来る。
 そして、変わらない激しい行為をする。

 客が多い八百屋を後にする。

「グレジルは変わらず家を毎週同じ時間に出ていくわ。いいえ、出かける時間が段々と早くなっているわね」

「そうですか」

 ティフィの姿で言い訳するのも意味がない。
 グレジルの意志で、ティフィとまぐわっているのだから。

 ティフィは求める者を拒まず、この街に来たときからそういう態度である。
 ふたを開けてみると、その求める者がティフィの好みでなければ、ティフィと会話で関わることさえできないのが実状だったのだが。
 無節操そうでいて、好みはうるさい。
 だから、女王様。

「けれど、私はあの店に行くまで、あの人があんなに絶倫だとは思わなかった」

「いやいやいや、あの人、何度ヤッても満足しないでしょ」

 テインを夜の営みで朝まで寝させないんじゃないか?
 ティフィが選ぶ男性は軒並み絶倫である。
 絶倫が条件の一つなのかな?と思う程度には誰も彼もが一回では満足しない。
 それをすべて受け入れる、ティフィ。
 うん、紛れもなく女王様だ。

 そんな肉体で快楽を味わったら、二度と戻れなくなる。俺が戻れなくなった。泥濘にはまった。

「ま、毎晩しているけど、一回で私は満足していた。グレジルも私に無理させないようにしていたのね。あの日、あの人の姿を見て、相当我慢していたことがわかったわ」

 確かにあのグレジルが一日一回しかヤれなかったら、鬱憤がたまるであろう。
 あの後もグレジルは妻が見ている前で、ティフィの肉体を抱き尽くした。
 本能のままに。
 妻はソファに横たわっていた。

「ふふっ、私はあの人に大切にしてもらえていたのね」

 テインが微笑みながら言った。
 他人の行動に意味を見つけるのは自分自身だ。それが勝手な憶測であろうとも、間違っていたとしても。

「私はあの人が心ゆくまでさせてはあげられない。ならば妻として多少は目を瞑ることも必要じゃないかと思って。その、、、貴方は男性だし」

 テインは目を伏せた。
 夫の裏切りの行為を納得できるわけではないが、そういう落としどころになったのか。
 相手が女性より、と。
 男性なら子供は産まれないという打算かもしれないが。

「貴方なら、ほら、グレジルを満足させられるようだし」

 逆に言うと、グレジルだけじゃティフィの肉体は満足させられないのだが。
 ティフィは困った我がままボディをお持ちだ。
 悪いのはルアンだが。

 けれど、ティフィは元に戻ったらどうするのだろう。
 シークとともに過ごすのなら、どうしても住むのはトワイト魔法王国になる。
 いや、そうとも限らないか?

 序列九位のシーク・クィーズ。
 トワイト魔法王国のクィーズ家が各国への空間転移魔法陣を設置し、念話塔を建設した。
 この大陸にある人族領のすべての国ではないが、多くの国が賛同したため、各国への行き来が楽になった。
 魔族大侵攻からの復興のためにも使われている。
 空間転移魔法陣は一回の使用にもかなりの魔力を使うが、お金か魔力があればどうにかなる代物だ。
 シークの魔力量は大きい。
 高頻度で使えるはずだ。
 メンテナンスをするとして、設置者の彼は空間転移魔法陣は使い放題のはずだ。

 厳密に言えばこれらはクィーズ家の功績であるが、そのすべての功績を一人に集中させたため、シークは九位となった。
 念話塔を使えば、少量の魔力で各国の連絡がスムーズに繋がり、便利になった。
 遠距離の念話が大量の魔力を必要とする魔法ではなくなった。

 ちなみに、シークはクィーズ家の長男ではなく次男である。
 トワイト魔法王国もまた、俺が現れるまでは魔力量至上主義だった。
 魔力量が大きければ、大きい魔法が使える。
 コレが世界の常識だった。

 ゆえに魔力量の大きい次男に、クィーズ家の功績を集中させたのである。
 長男はほどほどの魔力量を持っているが、トワイト魔法王国で魔導士登録はせずに国の役人として仕えている。
 序列で明確に魔導士としての差が判明するのが嫌だったのか。

 シークは魔法の才能もあるが、努力も怠らない。
 イタズラ好きなのがたまに傷だが、彼の魔導士としての腕は九位として恥じない。
 普通の人族は人生が短すぎて実績が足りない。
 一人だけの功績ではなかなかシングルナンバーに届かない。

 だからこその、苦肉の策。
 クィーズ家は当主ですら自分の息子に功績を譲ったのだ。




 ティフィは元に戻った後、この街に居続けるのだろうか?
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