キミという花びらを僕は摘む

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第2章 波乱含みの

2-23 居酒屋生活 ◆ティフィ視点◆

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◆ティフィ視点◆

 スイの説明のおかげで、この魔族と竜人族の関係がわかり始めてきた。
 この仮想現実には他に人族もいるけど、賞金首だったり指名手配されていたり国から逃亡している人物ばっかりだ。
 彼らもまた、わりとズィーとは親しく話すが、逆らいはしない。逆ギレなんてもってのほかだ。

「せんべいの差し入れだよー」

「あ、お茶に合う」

 バリバリと食べながら、私が横を見ると。
 差し入れの主は。

「ズィーっ」

「ティフィは六十三歳かあ。もう少し若いと思ってたー」

「あ、俺もそう思ってた。精神年齢はそうとう幼いよな」

 コレは悪口デスヨネ。
 悪口に他なりませんよね。

「ハーフエルフとはいえ、さすがに俺より年下だと思ってたんだよ」

 ズィーが半目で私を見てた。

「、、、え?」

「思考が幼いから」

 その上で、同情する目を私に向けていた。
 ブーブーブー。
 幼くてすいませんね。

「エルフではまだまだ幼い扱いだから仕方ない」

 開き直ってやる。
 エルフの里に居続けるなら、百ぐらいまでは子ども扱いだ。

「たいていの人族の国では十五歳で成人だ。ティフィはハーフエルフでも人として戸籍をとっているんだから、成人の扱いだ」

「ズィー、前竜王は?放置してきたの?」

 、、、あれ、現在進行形で肉食獣のあの人を放置できるのかな?
 すぐさまズィーを追いかけてきそう。

 ズィーがイスに座ると、スイが茶を出す。

「ありがとう、スイ」

「これだよ、ティフィ。ズィーが営業スマイルだとわかっていても、普通は円滑な人間関係を構築するために笑顔でお礼を言う」

「ん?」

 スイが力説してくれたが。
 私に対するダメ出しともいう。

「お前は引きつった笑いしか浮かべないし、お礼も言わない」

「居酒屋の店員と言っても、この世界では対等だから。何かしてもらったらお礼ぐらいは言おうぜ。当たり前のように酒やツマミやお茶やお菓子を受け取るその態度、女王様といわれても仕方ない」

「え、あの、その」

 何で私が攻撃されているのかな?

「俺も女王様だと思っていたんだけどねえ。今の認識はきちんと躾されていない幼い子供って感じかな」

「ああ、それな。言われてみればそうだな」

 二人で盛り上がるな。
 悪口合戦か。

「幼い子供だったら、肉体関係を求めないだろ」

 私がボソリと呟いたら。
 二人がじっと私を見た。

 う、藪蛇だった。

「興味あるものにはとことん積極的なのも子供の特徴だよな」

「遊びに夢中で際限がないところ。体力が続く限り遊び続けるというところがまさしく」

「けれど、ティフィには感謝している。こんな快楽があったとは。知らずに死ぬところだった」

 ズィー、、、キラキラして私の両手を握って感謝しないでくれ。
 どんな感謝だよ。

「ティフィはズィーをふしだらな道に連れ込んでくれたなあ。せめて相手を竜王だけにしていてくれれば」

 竜王?
 スイは前竜王のことを竜王と言ったようだ。

「ああ、ティフィ、ここにいる竜人族はまだケチャを竜王として見ている。確かに外の世界ではケチャは前竜王となっているが、尊敬も信頼も一身に背負って、種族をまとめていた男だ。死出の旅に精鋭部隊が全員付き合うなんて、普通は考えられない」

「死出の旅?」

「たとえ魔族に蹂躙された国々でも、襲っていれば他国から援軍が来る。人族の人口は多い。精鋭部隊とはいえ寝る時間もないほど戦い続ければ、少ない人数だ。いつかは疲弊する。死ぬ覚悟を持って、ケチャとともに戦いに出たんだよ、竜人族の精鋭部隊は」

 動けばいつかは殺されることをわかっていても。
 動かざるを得なかった。
 それは怒りか、憤りか、それとも。

「ズィー、相手をケチャ様だけにしてくれないか」

「無理。俺、レインも大好きだから」

 にっこり笑って言うなよ。。。
 ハーレム作る気か。

 、、、全部、私のせいなのだが。
 そっちに目覚めさせた私の肉体が悪いのだが。

「じゃあ、俺も仲間に入れてくれないか」

「、、、それは俺を抱かせてくれということか」

「そうとも言う」

 笑顔のスイ。
 やはり、ハーレムか。
 ズィーが思考中。
 そして、私を見る。
 何で?

「ティフィだったら、抱かせてくれと言われたら抱かせるのか?」

「うっ」

 ルメドの街ではその状態だった。

「そりゃ、ルアに開発されたから、カラダが疼いて仕方なかったんだよ。熱を静めてくれるなら誰でも良かった」

「より燃えそうな行為だと思うけどなあ」

「底なし沼にハマったんだろ」

「言い得て妙だな、スイ」

 くっ、言い返せない。

「誰でも良いと言いながら、ティフィは意外と顔で選んでなかった?イケメン勢ぞろいだぞ、お前の相手は」

「い、言い寄ってきた相手がイケメンだったってだけで」

 ズィーもスイも疑いの眼を私に向けている。

「好みじゃないヤツにはエルフ直伝伝家の宝刀、下々の者は話しかけるな、がここで発動していたのかー」

「コイツは好みじゃないヤツには予防線を張っていたわけか。さすがだな」

「そんなわけでは」

「くっそー、気絶させられるとは。個室に戻るぞ、ズィー」

 急な大声が降って湧いた。
 ズィーが前竜王につかまえられていた。
 前竜王がズィーの後ろに立って、背中から肩を抱いている。
 気絶させられ?

「ケチャ様、また負けたんですか」

 やや呆れたように聞く、スイ。
 またって。
 いや、封印されたんだから、幾度となく負けているのかもしれないが。

「コイツが六十三歳だろうと何歳だろうとどうでもいいだろ」

「俺にはものすごい衝撃だったわけだ。俺より年上だとは思ってもみなかったから」

「確かにそうだが、二人で愛し合う行為よりも重要なことはない」

 前竜王が言い切った。

「スイが俺を抱きたいってー」

 うわっ、言っちゃったよ、ズィー。
 血の雨が降るんじゃないか?

「当たり前だろ。お前に惚れているヤツはここにごまんといる」

「五万人もこの仮想現実にはいないよ」

「ふっ、山ほどいるってことだ」

「、、、魔王様だってズィーに惚れているんだろ。恐ろしいほどの黒い闇に覆われているじゃないか」

 私は身震いしながら言った。

「いつものことだろ」

 前竜王とズィーが二人でハモった。
 仲良いですねえ。

「一週間もあの状態で放置しておくのか?」

「いつものことなんだけどなあ。初心者には難易度が高いのか」

「けれど、長く付き合うには慣れてもらわないといけないんじゃねえか」

「ん?」

 前竜王、何を言っているのか?
 長くても半年間だけのズィー生活だ。

「ティフィ、認識を今のうちに改めておこう。ティフィは俺のカラダにいる期間だけ、こちらに来るわけではない。この仮想現実の扉を開けられるようになってしまったティフィは、元のカラダに戻っても毎晩この世界に呼ばれる」

「、、、ズィーは私のカラダにいる間は自分の意志で出入りできると聞いたけど」

「、、、俺はね」

 自由意志の出入りはズィーだけで、一度扉を開けてしまったら口外しないように縛り続けると?

「私がルチタ王国に戻っても、この居酒屋生活は続くのか」

 愕然。

「いや、別に他のところに行きたいのなら、冒険に行ってきても大丈夫だよ。夜だけど」

「夜目は利かないし、戦闘能力皆無だから冒険にはいかない」

「ティフィが趣味に興じたいというなら、アトリエとかスタジオとか小劇場とかもあるが」

 いろんな施設があるんだな。

「コイツは無趣味な気がするな」

 前竜王が鋭い。

「提案してはみたものの俺もそうじゃないかと思っている。ティフィの薬屋には趣味と呼べるものが何一つ置いてなかった」

「仕事が趣味なんだよ」

 宣言したら、三人が生温かい視線をくれた。

「と、とにかく私のことじゃなくて、魔王様の」

「じゃあ、ティフィが抱かれてくれば?」

 ズィーの提案に、私はヒュッと息を飲んだ。
 私はまだ死にたくない。
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