キミという花びらを僕は摘む

さいはて旅行社

文字の大きさ
上 下
42 / 74
第2章 波乱含みの

2-11 月仙花の薬 ◆ギット視点◆

しおりを挟む
◆ギット視点◆

「月仙花の薬というのは、魔法にかかっている本人に飲ませなくてはいけない。ということは言い換えれば、本人が魔法にかかっていなければならない」

「ああ、そうだな。封印だって、魔王本人にかけられているものだろ?」

 ティフィは不思議そうに俺を見る。
 俺の封印発言は謎だが、彼の説明は続く。

「いや、あの封印は魔王の周囲の空間にかけられている。だから、月仙花の薬をいくら飲ませようと魔王の封印を解くことはできない」

 なぜそんなこと、ティフィが知っている。
 封印した魔導士でもないのに。
 魔王を封印した魔導士は判明している。
 それに、お前は薬師だろうに。

 、、、俺の封印???

「普通の封印魔法って、その本人にかけている呪いのようなものじゃないのか」

「ああ、普通はそうだな。けれど、そういう普通の場合でも何かに封印されているなら、当事者に薬を直接飲ませるのはほぼ不可能だと思うけどなあ。手がまったくないわけじゃないが」

 ティフィは超重要なことをまるで日常会話のように話している。

 そもそも、魔王がどこに封印されているかわからない。
 魔王を封印した魔導士の居場所もわかっているが、トワイト魔法王国に乗り込んでいったところで会えるわけでもない。
 脅したところで封印場所について簡単に口を割るとは思えない。

 けれど、もし、、、もしも、万が一でも封印場所がわかってしまったら。
 そのときその薬を持っていない自分が許せなくなる。
 そう思ってしまっていた。

「というわけで、ギットがこの薬に超高額を支払っても、まったく意味がないからもったいないぞ」

 どういうわけか運良く魔王に飲ませる機会があっても、この薬では何ら意味がないことはわかったが。
 どうしてかティフィの言っていることは真実のような気がしてしまう。
 説得力がある気がしてしまう。
 惚れた者が言っている言葉だからか?

「、、、じゃあ、何でティフィはその薬を作ったんだ?売るためじゃないのか」

 俺が質問すると、ティフィがフッと笑った。
 やべえ、より惚れる。
 そんな笑い方も良い。

 確かにこの街に来た当初からティフィは色気があった。
 男どもはティフィに寄っていった。
 だが、最近さらに色気が増している気がする。
 レインはこの家に通い詰めだし、王子もこの家に居候しているという。
 さらにティフィにはまだ手を出していないが、ハマりそうな予備軍も多い。
 ライバル多すぎ。

「薬のレシピがあったら作ってみたくなるじゃないか。しかも、ティフィには無尽蔵な魔力があるんだぞ。材料探し放題、取り放題。この月仙花の薬でティフィの封印を外したくなるのも仕方ない。ホントは俺が飲みたい」

「へ?」

 もしや自分のため?

「ティフィは何か封印されているのか」

「魔力を封印されているに決まっているだろ。じゃなきゃ、魔法が使えないわけあるまい」

 いやいや、決まってないけど。
 ティフィが魔法が使えなかったのは、魔力が封印されていたからか。

 、、、なぜ?

「封印の魔法なら俺が見てやろうか?簡単なものなら」

 簡単じゃなくても、ある程度のものなら俺でも外せる。
 魔王が封印されるほどの封印を、俺が簡単に外せるとは思えないが、普通の封印なら。

「お前は馬鹿か?ティフィには必要な封印だから封印されているに決まっているだろ。魔力を暴走させたら誰が責任をとるんだ」

 馬鹿って。。。
 俺だって傷つくぞ。

 俺はティフィを見る。
 ティフィの魔力は人としては段違いに多そうだ。
 魔力を制御できないのか。それで魔力を封印されたということか。

 自分自身に魔法がかけられている場合、月仙花の薬を飲めるから封印は簡単に解かれるが、解いてはいけないものも存在している。

「それに魔王も封印されたままの方が良いから封印されたままになっているんだ。あの魔王が何もないのに封印されたままになっているはずがない」

「へ?」

「お前もそれぐらい魔王の息子なのだからわかるだろ」

「あー。。。え?」

 納得しかけたが、とまった。
 ティフィは今。

「な、な、何を」

 カランカラン。
 扉の鐘が鳴った。

「おー、レイン」

 ティフィが明るくレインを迎えた。

「巡回だが、ギット、誰か冒険者で怪我でもしたのか。騎士の助けは必要か」

 巨大な魔物か凶悪な盗賊団でも出たと思われている?

「いや、何でお前も俺が薬を必要だから、俺が薬屋にいるとは思わないのっ?」

「お前は常備薬を定期的に購入しているから、不定期に訪れるのは他の者が薬を必要なときくらい、、、もしやティフィへの接触のためか?」

 レインの冷ややかな圧に、俺は一瞬押し黙る。
 人殺しでもできそうな瞳で、剣の鞘に手がかかっている。
 俺を殺る気か。

「レイン、ギットは一応薬を求めてきた客だよー」

「そうなのか。一応ということは必要な薬がこの店にはなかったということか」

 何でティフィのその言葉だけで、そこまで解釈できるのかなあ。

「いや、一応俺がその薬を作ってはいたが、売り物ではない」

 ティフィがそう言うと、レインが良い笑顔をティフィに向けた。

「貴方はまさか、また」

「ティフィがいけないっ。大量の薬のレシピを残していくからっ」

 ティフィはレインに力強く変な言い訳した。

「ティフィは薬師なんだから、薬のレシピを残していくのは当たり前でしょうっ」

「幻の秘薬とか、理想の万能薬とか書かれていたら薬の世界に挑戦してみたくなるだろっ」

「貴方は薬師じゃないのだから、薬の世界に挑戦したくならないでくださいっ」

 二人が大声でイチャついている。
 どうもティフィは常習犯のようだ。
 月仙花の薬以外にもこの世界のパワーバランスを崩すような薬を大量生産している危険性がある。

「、、、ティフィは薬師だろ」

「ええ、ティフィは薬師ですよ」

 ギロリと睨まれながら、レインがキッパリと答えた。
 、、、お前が貴方は薬師じゃないのだから、と言ったんじゃないか。何なの、この会話。やっぱり二人でイチャついているだけなの?

 二人だけで意味が通じる会話しないで。
 のけ者にされると悲しくなるぞ。

「で、ギットに伝言だ」

 ティフィがいけしゃあしゃあと俺に話を振ると、レインが小さくため息を吐く。
 苦労しているなら、ティフィを俺にくれないかなあ。

「伝言?」

 誰から?
 俺に伝言なら冒険者ギルドか定宿にすればいいのに、と思ったのだが。

「空間転移魔法の魔道具のペンダントはまだ持っているんだろ、それでさっさと魔族領に帰れ、母孝行でもしろ、と言ってたぞ。十五年も人族領に居座っているくらいなのだから、そのくらいの伝言で実家に帰るわけがないとは言っておいたんだけどさあー」

 空間転移魔法の魔道具のペンダントというのは、魔族が魔王を先頭に人族領に侵攻したときに魔王が作ったものである。
 魔王が人族領に空間転移魔法で連れて来たすべての魔族に渡した魔道具だ。
 もしも、部隊から離れても、知らぬ土地で一人で迷子になっても魔族領に帰れるようにと。

 魔王が封印されて、魔族は一部を除いて人族領から撤退した。
 魔族が侵攻した原因が取り除かれたからだ。
 ある魔導士によって、すべては解決された。

 だが、原因が取り除かれても、その原因を作ったのは人族の方である。

 魔王が封印され続ける理由など、どこにもない。
 すべてが終わったのなら、解放されてしかるべきだ。
 そう考える者たちが人族領側に残り続けている。

「、、、ティフィ」

 レインが何かを聞く前に。

「ティフィっ、俺を惑わすなっ。お前が何を知っているのかわからないがっ、俺にはもうどれが嘘なのかどうかも判断つかないっ」

 叫んで薬屋を後にした。
 逃げ出したと言ってもいい。
 あの伝言は、誰からか。
 聞きたくなかった。
 聞きたい気持ちも山ほどあるが。

 ティフィが知っているわけがないのに。
 ティフィが封印されている魔王と話せるわけもないのに。

「一応、すべて本当のことなんだが」

「余計に始末が悪い」

「どうしたらギットに信じてもらえるのか」

 扉が閉まる前に後ろで聞こえたが、振り返らずに走り去った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

処理中です...