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第2章 波乱含みの
2-11 月仙花の薬 ◆ギット視点◆
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◆ギット視点◆
「月仙花の薬というのは、魔法にかかっている本人に飲ませなくてはいけない。ということは言い換えれば、本人が魔法にかかっていなければならない」
「ああ、そうだな。封印だって、魔王本人にかけられているものだろ?」
ティフィは不思議そうに俺を見る。
俺の封印発言は謎だが、彼の説明は続く。
「いや、あの封印は魔王の周囲の空間にかけられている。だから、月仙花の薬をいくら飲ませようと魔王の封印を解くことはできない」
なぜそんなこと、ティフィが知っている。
封印した魔導士でもないのに。
魔王を封印した魔導士は判明している。
それに、お前は薬師だろうに。
、、、俺の封印???
「普通の封印魔法って、その本人にかけている呪いのようなものじゃないのか」
「ああ、普通はそうだな。けれど、そういう普通の場合でも何かに封印されているなら、当事者に薬を直接飲ませるのはほぼ不可能だと思うけどなあ。手がまったくないわけじゃないが」
ティフィは超重要なことをまるで日常会話のように話している。
そもそも、魔王がどこに封印されているかわからない。
魔王を封印した魔導士の居場所もわかっているが、トワイト魔法王国に乗り込んでいったところで会えるわけでもない。
脅したところで封印場所について簡単に口を割るとは思えない。
けれど、もし、、、もしも、万が一でも封印場所がわかってしまったら。
そのときその薬を持っていない自分が許せなくなる。
そう思ってしまっていた。
「というわけで、ギットがこの薬に超高額を支払っても、まったく意味がないからもったいないぞ」
どういうわけか運良く魔王に飲ませる機会があっても、この薬では何ら意味がないことはわかったが。
どうしてかティフィの言っていることは真実のような気がしてしまう。
説得力がある気がしてしまう。
惚れた者が言っている言葉だからか?
「、、、じゃあ、何でティフィはその薬を作ったんだ?売るためじゃないのか」
俺が質問すると、ティフィがフッと笑った。
やべえ、より惚れる。
そんな笑い方も良い。
確かにこの街に来た当初からティフィは色気があった。
男どもはティフィに寄っていった。
だが、最近さらに色気が増している気がする。
レインはこの家に通い詰めだし、王子もこの家に居候しているという。
さらにティフィにはまだ手を出していないが、ハマりそうな予備軍も多い。
ライバル多すぎ。
「薬のレシピがあったら作ってみたくなるじゃないか。しかも、ティフィには無尽蔵な魔力があるんだぞ。材料探し放題、取り放題。この月仙花の薬でティフィの封印を外したくなるのも仕方ない。ホントは俺が飲みたい」
「へ?」
もしや自分のため?
「ティフィは何か封印されているのか」
「魔力を封印されているに決まっているだろ。じゃなきゃ、魔法が使えないわけあるまい」
いやいや、決まってないけど。
ティフィが魔法が使えなかったのは、魔力が封印されていたからか。
、、、なぜ?
「封印の魔法なら俺が見てやろうか?簡単なものなら」
簡単じゃなくても、ある程度のものなら俺でも外せる。
魔王が封印されるほどの封印を、俺が簡単に外せるとは思えないが、普通の封印なら。
「お前は馬鹿か?ティフィには必要な封印だから封印されているに決まっているだろ。魔力を暴走させたら誰が責任をとるんだ」
馬鹿って。。。
俺だって傷つくぞ。
俺はティフィを見る。
ティフィの魔力は人としては段違いに多そうだ。
魔力を制御できないのか。それで魔力を封印されたということか。
自分自身に魔法がかけられている場合、月仙花の薬を飲めるから封印は簡単に解かれるが、解いてはいけないものも存在している。
「それに魔王も封印されたままの方が良いから封印されたままになっているんだ。あの魔王が何もないのに封印されたままになっているはずがない」
「へ?」
「お前もそれぐらい魔王の息子なのだからわかるだろ」
「あー。。。え?」
納得しかけたが、とまった。
ティフィは今。
「な、な、何を」
カランカラン。
扉の鐘が鳴った。
「おー、レイン」
ティフィが明るくレインを迎えた。
「巡回だが、ギット、誰か冒険者で怪我でもしたのか。騎士の助けは必要か」
巨大な魔物か凶悪な盗賊団でも出たと思われている?
「いや、何でお前も俺が薬を必要だから、俺が薬屋にいるとは思わないのっ?」
「お前は常備薬を定期的に購入しているから、不定期に訪れるのは他の者が薬を必要なときくらい、、、もしやティフィへの接触のためか?」
レインの冷ややかな圧に、俺は一瞬押し黙る。
人殺しでもできそうな瞳で、剣の鞘に手がかかっている。
俺を殺る気か。
「レイン、ギットは一応薬を求めてきた客だよー」
「そうなのか。一応ということは必要な薬がこの店にはなかったということか」
何でティフィのその言葉だけで、そこまで解釈できるのかなあ。
「いや、一応俺がその薬を作ってはいたが、売り物ではない」
ティフィがそう言うと、レインが良い笑顔をティフィに向けた。
「貴方はまさか、また」
「ティフィがいけないっ。大量の薬のレシピを残していくからっ」
ティフィはレインに力強く変な言い訳した。
「ティフィは薬師なんだから、薬のレシピを残していくのは当たり前でしょうっ」
「幻の秘薬とか、理想の万能薬とか書かれていたら薬の世界に挑戦してみたくなるだろっ」
「貴方は薬師じゃないのだから、薬の世界に挑戦したくならないでくださいっ」
二人が大声でイチャついている。
どうもティフィは常習犯のようだ。
月仙花の薬以外にもこの世界のパワーバランスを崩すような薬を大量生産している危険性がある。
「、、、ティフィは薬師だろ」
「ええ、ティフィは薬師ですよ」
ギロリと睨まれながら、レインがキッパリと答えた。
、、、お前が貴方は薬師じゃないのだから、と言ったんじゃないか。何なの、この会話。やっぱり二人でイチャついているだけなの?
二人だけで意味が通じる会話しないで。
のけ者にされると悲しくなるぞ。
「で、ギットに伝言だ」
ティフィがいけしゃあしゃあと俺に話を振ると、レインが小さくため息を吐く。
苦労しているなら、ティフィを俺にくれないかなあ。
「伝言?」
誰から?
俺に伝言なら冒険者ギルドか定宿にすればいいのに、と思ったのだが。
「空間転移魔法の魔道具のペンダントはまだ持っているんだろ、それでさっさと魔族領に帰れ、母孝行でもしろ、と言ってたぞ。十五年も人族領に居座っているくらいなのだから、そのくらいの伝言で実家に帰るわけがないとは言っておいたんだけどさあー」
空間転移魔法の魔道具のペンダントというのは、魔族が魔王を先頭に人族領に侵攻したときに魔王が作ったものである。
魔王が人族領に空間転移魔法で連れて来たすべての魔族に渡した魔道具だ。
もしも、部隊から離れても、知らぬ土地で一人で迷子になっても魔族領に帰れるようにと。
魔王が封印されて、魔族は一部を除いて人族領から撤退した。
魔族が侵攻した原因が取り除かれたからだ。
ある魔導士によって、すべては解決された。
だが、原因が取り除かれても、その原因を作ったのは人族の方である。
魔王が封印され続ける理由など、どこにもない。
すべてが終わったのなら、解放されてしかるべきだ。
そう考える者たちが人族領側に残り続けている。
「、、、ティフィ」
レインが何かを聞く前に。
「ティフィっ、俺を惑わすなっ。お前が何を知っているのかわからないがっ、俺にはもうどれが嘘なのかどうかも判断つかないっ」
叫んで薬屋を後にした。
逃げ出したと言ってもいい。
あの伝言は、誰からか。
聞きたくなかった。
聞きたい気持ちも山ほどあるが。
ティフィが知っているわけがないのに。
ティフィが封印されている魔王と話せるわけもないのに。
「一応、すべて本当のことなんだが」
「余計に始末が悪い」
「どうしたらギットに信じてもらえるのか」
扉が閉まる前に後ろで聞こえたが、振り返らずに走り去った。
「月仙花の薬というのは、魔法にかかっている本人に飲ませなくてはいけない。ということは言い換えれば、本人が魔法にかかっていなければならない」
「ああ、そうだな。封印だって、魔王本人にかけられているものだろ?」
ティフィは不思議そうに俺を見る。
俺の封印発言は謎だが、彼の説明は続く。
「いや、あの封印は魔王の周囲の空間にかけられている。だから、月仙花の薬をいくら飲ませようと魔王の封印を解くことはできない」
なぜそんなこと、ティフィが知っている。
封印した魔導士でもないのに。
魔王を封印した魔導士は判明している。
それに、お前は薬師だろうに。
、、、俺の封印???
「普通の封印魔法って、その本人にかけている呪いのようなものじゃないのか」
「ああ、普通はそうだな。けれど、そういう普通の場合でも何かに封印されているなら、当事者に薬を直接飲ませるのはほぼ不可能だと思うけどなあ。手がまったくないわけじゃないが」
ティフィは超重要なことをまるで日常会話のように話している。
そもそも、魔王がどこに封印されているかわからない。
魔王を封印した魔導士の居場所もわかっているが、トワイト魔法王国に乗り込んでいったところで会えるわけでもない。
脅したところで封印場所について簡単に口を割るとは思えない。
けれど、もし、、、もしも、万が一でも封印場所がわかってしまったら。
そのときその薬を持っていない自分が許せなくなる。
そう思ってしまっていた。
「というわけで、ギットがこの薬に超高額を支払っても、まったく意味がないからもったいないぞ」
どういうわけか運良く魔王に飲ませる機会があっても、この薬では何ら意味がないことはわかったが。
どうしてかティフィの言っていることは真実のような気がしてしまう。
説得力がある気がしてしまう。
惚れた者が言っている言葉だからか?
「、、、じゃあ、何でティフィはその薬を作ったんだ?売るためじゃないのか」
俺が質問すると、ティフィがフッと笑った。
やべえ、より惚れる。
そんな笑い方も良い。
確かにこの街に来た当初からティフィは色気があった。
男どもはティフィに寄っていった。
だが、最近さらに色気が増している気がする。
レインはこの家に通い詰めだし、王子もこの家に居候しているという。
さらにティフィにはまだ手を出していないが、ハマりそうな予備軍も多い。
ライバル多すぎ。
「薬のレシピがあったら作ってみたくなるじゃないか。しかも、ティフィには無尽蔵な魔力があるんだぞ。材料探し放題、取り放題。この月仙花の薬でティフィの封印を外したくなるのも仕方ない。ホントは俺が飲みたい」
「へ?」
もしや自分のため?
「ティフィは何か封印されているのか」
「魔力を封印されているに決まっているだろ。じゃなきゃ、魔法が使えないわけあるまい」
いやいや、決まってないけど。
ティフィが魔法が使えなかったのは、魔力が封印されていたからか。
、、、なぜ?
「封印の魔法なら俺が見てやろうか?簡単なものなら」
簡単じゃなくても、ある程度のものなら俺でも外せる。
魔王が封印されるほどの封印を、俺が簡単に外せるとは思えないが、普通の封印なら。
「お前は馬鹿か?ティフィには必要な封印だから封印されているに決まっているだろ。魔力を暴走させたら誰が責任をとるんだ」
馬鹿って。。。
俺だって傷つくぞ。
俺はティフィを見る。
ティフィの魔力は人としては段違いに多そうだ。
魔力を制御できないのか。それで魔力を封印されたということか。
自分自身に魔法がかけられている場合、月仙花の薬を飲めるから封印は簡単に解かれるが、解いてはいけないものも存在している。
「それに魔王も封印されたままの方が良いから封印されたままになっているんだ。あの魔王が何もないのに封印されたままになっているはずがない」
「へ?」
「お前もそれぐらい魔王の息子なのだからわかるだろ」
「あー。。。え?」
納得しかけたが、とまった。
ティフィは今。
「な、な、何を」
カランカラン。
扉の鐘が鳴った。
「おー、レイン」
ティフィが明るくレインを迎えた。
「巡回だが、ギット、誰か冒険者で怪我でもしたのか。騎士の助けは必要か」
巨大な魔物か凶悪な盗賊団でも出たと思われている?
「いや、何でお前も俺が薬を必要だから、俺が薬屋にいるとは思わないのっ?」
「お前は常備薬を定期的に購入しているから、不定期に訪れるのは他の者が薬を必要なときくらい、、、もしやティフィへの接触のためか?」
レインの冷ややかな圧に、俺は一瞬押し黙る。
人殺しでもできそうな瞳で、剣の鞘に手がかかっている。
俺を殺る気か。
「レイン、ギットは一応薬を求めてきた客だよー」
「そうなのか。一応ということは必要な薬がこの店にはなかったということか」
何でティフィのその言葉だけで、そこまで解釈できるのかなあ。
「いや、一応俺がその薬を作ってはいたが、売り物ではない」
ティフィがそう言うと、レインが良い笑顔をティフィに向けた。
「貴方はまさか、また」
「ティフィがいけないっ。大量の薬のレシピを残していくからっ」
ティフィはレインに力強く変な言い訳した。
「ティフィは薬師なんだから、薬のレシピを残していくのは当たり前でしょうっ」
「幻の秘薬とか、理想の万能薬とか書かれていたら薬の世界に挑戦してみたくなるだろっ」
「貴方は薬師じゃないのだから、薬の世界に挑戦したくならないでくださいっ」
二人が大声でイチャついている。
どうもティフィは常習犯のようだ。
月仙花の薬以外にもこの世界のパワーバランスを崩すような薬を大量生産している危険性がある。
「、、、ティフィは薬師だろ」
「ええ、ティフィは薬師ですよ」
ギロリと睨まれながら、レインがキッパリと答えた。
、、、お前が貴方は薬師じゃないのだから、と言ったんじゃないか。何なの、この会話。やっぱり二人でイチャついているだけなの?
二人だけで意味が通じる会話しないで。
のけ者にされると悲しくなるぞ。
「で、ギットに伝言だ」
ティフィがいけしゃあしゃあと俺に話を振ると、レインが小さくため息を吐く。
苦労しているなら、ティフィを俺にくれないかなあ。
「伝言?」
誰から?
俺に伝言なら冒険者ギルドか定宿にすればいいのに、と思ったのだが。
「空間転移魔法の魔道具のペンダントはまだ持っているんだろ、それでさっさと魔族領に帰れ、母孝行でもしろ、と言ってたぞ。十五年も人族領に居座っているくらいなのだから、そのくらいの伝言で実家に帰るわけがないとは言っておいたんだけどさあー」
空間転移魔法の魔道具のペンダントというのは、魔族が魔王を先頭に人族領に侵攻したときに魔王が作ったものである。
魔王が人族領に空間転移魔法で連れて来たすべての魔族に渡した魔道具だ。
もしも、部隊から離れても、知らぬ土地で一人で迷子になっても魔族領に帰れるようにと。
魔王が封印されて、魔族は一部を除いて人族領から撤退した。
魔族が侵攻した原因が取り除かれたからだ。
ある魔導士によって、すべては解決された。
だが、原因が取り除かれても、その原因を作ったのは人族の方である。
魔王が封印され続ける理由など、どこにもない。
すべてが終わったのなら、解放されてしかるべきだ。
そう考える者たちが人族領側に残り続けている。
「、、、ティフィ」
レインが何かを聞く前に。
「ティフィっ、俺を惑わすなっ。お前が何を知っているのかわからないがっ、俺にはもうどれが嘘なのかどうかも判断つかないっ」
叫んで薬屋を後にした。
逃げ出したと言ってもいい。
あの伝言は、誰からか。
聞きたくなかった。
聞きたい気持ちも山ほどあるが。
ティフィが知っているわけがないのに。
ティフィが封印されている魔王と話せるわけもないのに。
「一応、すべて本当のことなんだが」
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