キミという花びらを僕は摘む

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第2章 波乱含みの

2-7 告白

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「、、、魔王様は私のことも肉に見えますか?」

 恐る恐るティフィが魔王ヴィッターに尋ねた。
 尋ねても、ティフィはハーフエルフだから半分は魔族だとも言えると思うのだけど。
 姿形は人間よりであったとしても。
 そういや、彼らは人間とどこで判断しているのだろうか?
 わりと似ている種族はいる。

「ふむ。肉として見たい気持ちはあるが、魔族領で飼育している人族はそもそも言語を理解しない」

 理解しないのではなく教えない、が正しい。
 歩かせなければ、二足歩行を支える筋力も育たない。

「意志の疎通ができる者に対して、ただの肉として見るのはまあまあ難しいことだ。ペットにも可愛ければ情が移るものだろう?」

 魔族にとって人はペットと同等か。
 ま、彼らは実力で人族に負けるとは思ってもみなかったのだから。

「、、、まあ、今は他種族の一つとして認識している。文明を高度に発展させる術を持つなら、手を取り合える可能性は存在する」

 ヴィッターは立ったままだ。
 手にはグラスを持って。

 本日はこちらのテーブルの席に座る気はないのようだ。

 この仮想現実にいる人族は早々と居酒屋を後にした。
 誰かが魔族の食性を教えたのだろう。退散するのが利口だ。
 本日の居酒屋は客も店員も魔族で盛り上がっている。

 人肉を口にしないのはこのテーブルについている者だけだ。

「その僅かな魔力量で、我ら魔族主力部隊を打ちのめしたズィーには敬意を払いたいと常々思っている」

「へえー」

 と、俺とケチャ。

「へ?」

 と、ティフィの返事。
 もうそろそろティフィにも説明したら?
 なぜ魔族が人族領に侵攻したのかを。

 ヴィッターはかなり酔っているようだ。

「我々は魔力量の多さを誇るあまり驕り高ぶっていた。魔法の研鑽が足りなかった。ズィーだからできることだと一笑する現実を認識しない、油断さえしなければ勝てると勘違いしている愚か者もまだまだ魔族にも多いが、貴方とは共に生きたいと思ってしまった」

「、、、そうか」

「魔王様、相当酔ってるなあ」

「、、、え?いつもより饒舌ですけど、言動はまともじゃないですか?」

 ティフィにはまだまともに見えるのか。
 確かに顔は全然赤くないし、しっかりと立っている。
 人の常識では酔っているようには見えないだろう。

 だがしかしっ、ヤツは本心を言葉で明かすことが非常に少ない。
 腹に抱えて真っ黒くして生きているヤツだ。

「ズィー、是非とも私との婚姻を受け入れてくれないだろうか」

「ぷ、プロポーズっ」

 ティフィが赤くなって驚いているが、上機嫌なときに大量の酒が入るとヤツはこうなる。
 もはや何度目だろう。十回を超えた時点で数えてない。

 そういう点ではケチャの方が状況把握力が長けているように思う。
 ケチャはため息を吐いている。

「あーあ、」

「ヴィッター、もう食事も酒も楽しんだよな」

「ああ、存分に。ズィーのおかげだ。こんなにも楽しい夜は」

 そうか。
 もう人肉の料理にも満足したか。
 今晩はもう思い残すことはないな。
 ならば。

「ハナナっ」

「はーい」

 ハナナによって超巨大なハンマーが振り下ろされた。
 居酒屋の床が埋没する。
 ヴィッターは丈夫なのでかすり傷も負わないが、強制的な睡眠をもたらす。
 話が長くなりそうなので、強制ログアウトを強行した。

「うん、平和になったな。ハナナ、お疲れ様」

「久々の出動でしたー」

「睡眠は必要ないのに、眠らされる恐怖。さすがは神」

「うわー、、、」

 この地で騒ぐ者にとっては、少し前までは日常茶飯事の光景。
 はじめて見る者にとっては。。。
 ティフィがマジマジと床と仲良しな魔王様を見ている。

「ここは俺が作った仮想現実だから、俺が強い。間違ってもヴィッターが弱いと勘違いしてはいけないよ」

「い、いえっ、そんなだいそれた勘違いしませんがっ?」

 おや、違ったか。
 たまにいるんだよね。ハナナが強いから、実は魔王らは弱いんじゃないかと勘違いする輩が。
 たいてい魔王か前竜王が半殺しにするが。
 その状況を目の当たりにした者たちは自分も挑戦しようとは思わない。静かになる。

 魔王様から放たれる真っ黒なオーラが見えないのかな?

「そうだな、本当に久々に見るな。ハナナの一撃」

「皆、当初と比べておとなしくなったからなあ」

「人肉なんて封印されてからここでは流通してないから、皆がハメを外すのも仕方ないか」

 ケチャはいつもよりゆっくりとしたペースで酒を飲む。
 ほんの少し遠い目をしている。

 魔王様が床に沈没したのに、魔王様の配下である他の魔族は宴を続けている。

「そういや、ティフィは死体送り主の黒幕をどうしたいとかある?」

「へ?え?どうしたいってどんな選択肢がっ?」

 ティフィがビクッとして答えた。
 勝手に仕返ししようと思っていたが、ティフィの感情はどうなのだろうか。
 アレが成功していたら、薬屋の商売に大打撃を与えられていたはずなのだから。

「アレはジルノア王国の第二王子のせいだから、ジルノア王国の国王を継いでもらいたいなあ、俺は。ただ、ティフィがサクッと殺してほしいとか、もっとひどい目に遭わせてほしいとか、視界に入らないようにしてほしいとか」

「い、いいえっ、特に私には希望はありませんっ。ズィーがお好きなようにっ」

「第二王子にジルノア王国を継いでもらうなんて、第一王子に情が移ったか?」

 ケチャが俺を見た。
 俺はただ静かに答える。

「第一王子が国王を継ぐと、ティフィが巻き込まれる恐れがあるからなあ」

「まあ、結婚したら巻き込まれるよな。何で結婚する前に説明してくれなかったんだっ、って騒いでもあの国は事前に説明できない決まりだからなあ。現国王がどういう意図で第一王子とティフィとの結婚を反対したのかわからねえが、ティフィにとっては正解だったな」

「俺もそう思うが。あの国王が善良なる一般市民を巻き込みたくないという想いを抱くと思うか?」

「なかなか難しいなあ」

 ケチャはグビッと酒を飲んだ。

 俺はそこに落ちている魔王様の周囲を覆う黒々としたオーラをつかむ。
 ぐぐぐっ、と力を込めると、黒い首輪の出来上がりだ。

「魔王様も邪悪な魔力の放出を抑えればいいのに」

「それができれば、魔王様になってないんだろ」

 膨大な魔力が体内から漏れるほどの魔力の持ち主。
 スヤスヤと寝ていても、ドロドロと辺りを侵食する。
 気づかない奴は幸せかもしれない。
 ただ、魔力を感知できない者でも威圧感として感じる者は少なくないが。

 ヴィッターは手袋をしているので魔王紋は見えない。
 魔王紋が魔王である証だ。
 魔王になる者だけが肉体のどこかに現れる紋であり、魔王が世襲ではないのはこの魔王紋があるからだ。
 魔族の王にふさわしい者が魔王紋に認められる。
 魔族であれば、どんな種族でも魔王になる可能性はある。

 なので、ヴィッターが死なない限りは、魔族領では次の魔王が現れない。
 ケチャが息子に竜王を継いで前竜王になったのに対して、ヴィッターが魔王のままだというのはそういうわけだ。

 魔族領でもわかっていることだろう。
 魔王は封印されただけなので亡くなっていない、と。

「枷をもう作ったのか」

「もう第二王子にハメておいていいんじゃないか?次の手を画策しているようだし」

「ジルノアの国王夫妻も枷が魔王の魔力からできているとは思いつきもしないだろうなあ」

 魔王様は毎回事後承諾ですけどね。
 自分の魔力が枷になっていることは。

「あの国に一番恨みを持つ人物の魔力で作った方が良いじゃないか。恨み辛みも加味されて」

「お前はついでに息子の管理もできない親の責任だとか言いそう」

「成人後の息子たちの責任を親にとらせたくはないが、アレは完全に甘やかされて育ったせいだ。第二王子は兄離れする必要があったし、その機会を与えられた。にもかかわらず、巣立てなかったのは本人の選択だが、親の教育がああだったせいもある」

「親としては子の教育は耳の痛い話だ」

「お前のところはお前を反面教師にしてしっかりと竜王している。問題ない」

「そう言われるのも悲しいぞー。もっと酒持ってこいっ」

 、、、ケチャも盛り上がって何よりだ。
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