キミという花びらを僕は摘む

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第2章 波乱含みの

2-3 死体

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「状況を整理しよう」

 夕食を終え、後片付けも魔法で終了させた。
 レインがお茶をいれ、テーブルに三人がついた。

「死体を送ってきたのが誰かわかりましたか」

「コイツの弟、ジルノア王国第二王子エリオットだ」

 ルアン王子から睨みつけられた。
 それは愛しのティフィを見る目ではない。
 ティフィの中身がティフィでないと確定したら、彼の態度はこうなるのか。

「、、、なぜわかる?」

 ルアン王子の問いに、沈黙で返す。
 それは愚問だ。

 レインの方がルアン王子の顔を見ながら特大のため息を吐いた。

「ルアン王子殿下、勘違いしないでください。俺たちは貴方に協力しているだけですよ。貴方はこの方の正体を知った上で、なおその質問をされるのですか」

「それは、、、魔法でわかるということなのだろうけど、その理由ぐらい聞いてもいいじゃないか。貴方はジルノア王国の王族を快く思っていないのだから」

 俺のことが信じられないと。
 別にルアン王子を信頼を勝ち取ろうと思ってやっているわけではない。
 俺がティフィのなかにいる間にティフィが狙われるのなら、ティフィを守ろうと思っているだけだ。

「それに魔法はそんなに万能なものではない」

 ルアン王子は俯きながらも言った。
 そう、魔法はそんなに万能なものではない。
 何もかもできると思ったら大間違いだ。

 だが、研究を重ねれば重ねるほど、精度は上がる。
 訓練を重ねれば重ねるほど、稚拙な魔導士であったとしても使える魔法は増えるのである。
 人々が万能と思える魔法を扱えるのは、魔導士と呼ばれるごく一部。
 そのごく一部がトワイト魔法王国魔導士序列のシングルナンバーである。
 才能に溺れず、三度の飯より魔法研究が好きな、血を吐いても研鑽に研鑽を重ねた猛者たちである。
 俺は三度の飯はしっかりとるけど、睡眠を削りまくっていたが。

 つまり、才能があっても努力と根性を持ち合わせていない者は一属性のごく一部の魔法しか使えないということは多々あることである。
 それは反則級と言われる才能を持つ精霊族でもハイエルフでも同じ。
 何も知らずに、魔法がカラダから出て来ることはない。魔力過多による暴発はあるけど。

 この世界の常識として、魔法は便利なものであるけれど、誰でも使えるわけではない。
 けれど、シングルナンバーは世の常識を打ち破る者たちである。

 レインが半目になってルアン王子を見ている。
 レインが親切にも俺のことを示唆したにもかかわらず、それを顧みないルアン王子に呆れた視線を投げている。
 ルアン王子はトワイト魔法王国の魔導士を地位も実力も何もかも軽んじているのである。
 彼の言動はそう示している。ジルノア王国のそういう教育の賜物か。

「俺さあ、ルアン王子殿下の使用人じゃないんだよ」

 ルアン王子は弾かれたように顔を上げる。

「それは、その通りだが、いきなり何を」

「ルアン王子殿下がこの家に来て、確かに料理や掃除の家事を王子の割にはやってくれていると思うよ。料理も美味しいし」

「そ、そうか」

 ほんの少しルアン王子が照れたのを、ムッとした表情でレインが見ている。
 褒めたわけではないので、最後まで聞いてね。
 王子は本来、家事などしないのだから。王子の割に、と言ったのは完全なる嫌味だ。

「けれど、お前は何を当たり前のように俺が魔法ですべてをすると思っているのか?ここはジルノア王国の王城じゃない。お前がここに使用人を連れて来ていないのならば、お前の世話は誰がする?王子のときのように気楽に自分がやりたいときだけ家事をやっていれば良いと思うような人物は、平民では普通は家から追い出される。ごく潰しだとしてな」

「いや、それは貴方がジルノア王国のお金は受け取らないと」

 コイツの言い訳は無視。
 俺は家事の話をしている。

「特に男同士の同棲ではそれが顕著だ。お互いに働いているし、稼ぎがある。稼ぎに多少差こそあれ、使用人を雇わなければ家事は分担が基本だ。ルアン王子殿下もジルノア王国内でティフィとイチャイチャしていたときは、王城に帰って着替え等していたのだろう。が、今、お前はここで暮らしていて宿に帰っているわけでもない。なら、当たり前のように服を脱いで置いておくという行為は何を表していると思う?本来、ティフィは魔法を使えない。それなのに、ティフィにお前の高い服を洗濯させて乾かし綺麗に整えておけと言うのか?」

 俺はそれを一応やってあげてた。
 王子は自分の愚かさにいつ気づくかなー、と思って。言われるまで気づかなかったが。
 魔法でやろうとも、本来は報酬が発生する案件だ。
 今のルアン王子の服は庶民の服装に見せかけているが、質は高すぎる物である。
 それをただ水洗いにしたら、とんでもないことになる。ティフィは普通に水洗いして、とんでもなく縮ませる気がするが。

「あ、いや、ティフィだったら、嫌なことは嫌だと言うだろうし、そんなに嫌なら外に頼むという手も」

「それは言われる前に自らやっておくものだ。言われたからするという発言は反吐が出る」

「そこまで言わなくとも。貴方は魔法でできるのだから」

「それが本音か、ルアン第一王子殿下。魔法は万能ではないと言いながら、都合よく魔法を無料で使う気か?俺の魔法はすべて報酬が発生するものだ。無料奉仕など一切しない」

 生き抜くために磨いてきた魔法だ。技術だ。財産だ。
 俺のどんな魔法にだって報酬は発生する。
 トワイト魔法王国は俺に多額の報酬を払っている。俺の魔法に、研究に。
 それは他国であるジルノア王国の王子に無断で無償で提供されていいものではない。

 バンッとテーブルを叩いて、ルアン王子は立ち上がった。

「それならレインはどうなんだ。彼にだって貴方は魔法を使っているじゃないかっ」

 いるよね、こういう奴。
 大きな音で威嚇し、相手より高い場所から見下ろし凄みを利かせる。
 無意識でやっているところがひどい。

 俺は口の端で笑う。

「毎日ではないが、レインは実家に戻っている。それにレインは定期的に家事をしていってくれるぞ。お前みたいにたまに料理したときや掃除したときに褒めてくれというドヤ顔もせずに、しっかりと。レイン、いつもものすごくありがたいと思っております」

 さり気にやられると、お礼を言う機会を逃すことが多いので、レインに改めて感謝しておく。
 照れた表情も可愛いな。
 それにレインは家に戻ったときに、自分の物は自分で洗濯している。
 婆さんも魔導士だし、あの人は子供たちを育てるために魔法を日常的に使っていたので、報酬報酬とは言わないが。
 あの人にとって、血がつながらなくともあの子供たちは我が子なのだろう。他人ではない。
 だからこそ、無償でできることだ。

「いや、ここがティフィの家だから、負担になるのはいつも常にいる貴方になる。少しくらいは私も助けとなりたい。トワイト魔法王国で一緒に住んだら、家事の分担等の話し合いはしっかりしよう。貴方に無理させることは、俺の本意ではない」

 レインが俺に向かって微笑む。
 レインって、いい男やあ。
 ティフィさん、何でレインを選ばなかったんだろうなあ。
 いいじゃん、真面目で。
 俺、もう手放さないよ。手放せないよ。
 後で欲しいって言わないでね。俺、泣いちゃうから。

「、、、言わせてもらうが、ルアン王子殿下、ティフィは料理以外の家事は壊滅的だ。仕事はわりと完璧だが、部屋は汚れ放題だし、トイレなど借りれたものではなかった。今のティフィの本当の姿を見てもらいたかったくらいだ。ジルノア王国でのティフィがどうだったか知らないが、この家がトワイト魔法王国並みのトイレや洗い場の魔道具や冷蔵庫を装備しているのはこの方のおかげだ。当たり前だと思って使うな」

 言ってくれたね、レイン。
 嬉しいー。

「そ、それは」

 レインからも責められ、ルアン王子は口籠る。
 立ち上ったルアン王子が静々と席に戻る。

「貴方も文句が多々あるのはわかるが、今はルアン王子殿下の悪口大会の場ではない。ティフィの店に送られてきた死体について現状確認するためにこの場を設けているし、緊急性から見てもこちらが優先される。たとえ、死体がこの場から消えていても、死体自体が消失したわけではない。ティフィの身の安全を確保するために対処しなければならないのだから、貴方も協力してください」

「、、、はい」

 さすがはレイン。
 しっかりと場を引き締めてくれる。

 多少は文句を言わないと話し合いの場にすらならないという状況判断も素敵だ。
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