キミという花びらを僕は摘む

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第1章 突然の

1-27 守れない

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「何があった?」

 慌てて飛んできたのが、街に常駐している騎士数人。
 一番真っ先に飛んできたのはレインであるが。

 道にはゴロゴロして呻いている三人がいる。本人の意志ではないけれど。

「あー、薬屋を襲おうとしていたから、防犯システムが作動した」

 俺はレインに適当な説明する。
 レインが強く頷いた。

「ああ、コイツの魔法だな」

 ルアン王子を見てから、そういうことにしたようだ。
 息を切らしている他の騎士たちに、レインの方からルアン王子が魔法でやったと適当に説明してくれている。

「ぐぐぐっ」

 道端に転がるゴミムシ、ではなく人間は、己の背中に手を伸ばそうとしている。
 何か貼りついているのかなー。

 レインが俺の元に戻ってきた。
 暗い裏路地だが、遠くから野次馬がこちらを見ている。

「ところでどうしてコイツらは逃げない?」

「カラダに麻痺が残っているからだ。迎撃態勢が薬屋っぽくて良いだろう」

「さすがだ。で、どうしてまだ道に転がり続けているくせに、自分の背中に手を伸ばそうともがいているんだ?」

「ちっこくて黒い虫を背中に這わせているからなあ」

 もちろん魔法で作られたものだから、ある程度したら消えるけど。本物ではないけど、彼らはそんなこと知らない。大量の黒い虫に襲われてこうなっているのなら、背中に入って蠢いているのは。。。
 拘束されるまでは嫌がらせしておかないとねえ。

 背中を道にこすらないのは、プチっと自分の背中で黒い虫を潰したくないからか。
 人を殺しに来たのに、虫は殺さないのかー。不思議な人たちだー。

「、、、虫は薬屋には大敵じゃないか?」

「虫のなかには薬になるものも存在するよ」

「ゴキ、、、いや、何でもない」

 レインはソレも薬にするのか聞きたかったのかな。うん、薬になるけど、ここでは取り扱ってない。
 飲みたくないだろ、そんな薬。
 他で代用するよ、俺なら。非常時でもない限り。

 騎士たちが三人を縄で取り押さえ、連れて行く。
 レインも朝には戻るから、と俺に言って去っていった。
 ルアン王子を向いて舌打ちをしながら。
 俺を一人にするのも不安なら、ルアン王子に頼るのも嫌なのだろう。

 俺、一人で迎撃できるんだけどね。
 それも不安なのか、レインには。。。

 騎士たちが去ると、野次馬たちも消え、辺りは静かになった。
 ルアン王子は周囲を見回している。

「まだ監視されているのか」

 さすがに気づいたか。

「中で話そう」

 外の会話は筒抜けだ。
 台所に戻り、今度は冷やしていた麦茶をコップに注ぐ。
 魔道具の冷蔵庫が完成したので、夏場は特に嬉しい。
 冷凍庫も完備しており、氷も作れる。人に見せびらかすと盗みに入られるのでやってはいけないが。

 ルアン王子は当たり前のように口にするが、庶民で夏場に冷たいものを口に入れられる者はそこまで多くない。

 そういう魔法が使える者が家族にいるかどうかで、夏場に快適環境が手に入れられるかが決まる。
 夏がかなり高温になる地域は、氷が作れるとまでいかなくともささやかな冷風でも魔法を使えるように親が頑張らせるのは、もはや恒例行事だと言ってもいい。

 肉屋等の商売人は大型冷蔵庫を持っているが、暑い時期は特に価格に跳ね返る。
 氷を浮かべたジュース屋だって、夏場は観光地でなくとも多少高い値をつけても飛ぶように売れる。
 飲食店の酒だって、冷えているものが売れる。
 それが重要なものだと知っているのは庶民ばかりか。
 庶民はそれがあって当たり前とは思わない。


 ルアン王子は麦茶を半分飲み干す。

「、、、まさか、アレらはジルノア王国の手の者か?」

「転がっていた末端三人は雇われただけだから、ジルノア王国と直接には関係がない。トカゲの尻尾切りで終わり、ジルノア王国との繋がりも出て来ない。ただ、黒い虫を三人に押しつけて逃げた一人はジルノア王国の者だが」

「父か、弟か?」

 最初から母親を候補にあげないのは、情でも人柄を知っているからでもない。

 ジルノア王国は魔法至上主義と言われているが、男尊女卑の社会だ。
 女性がいくら魔法が得意であっても、その家の手柄にされる。
 そして、そういう女性は位の高い者と結婚をさせて、家に利用されるだけである。

 彼女たちの意志はそこには反映されない。

 ルアン王子もそういう環境で育った者だ。
 思考がどっぷりと浸かっていて抜け出せない。

 ちなみにジルノア王国とは違い、トワイト魔法王国は完全に実力主義である。
 精霊族は基本的に性別がないはずだが、序列一位の水の精霊王は幼女の姿なので、男尊女卑とは縁がないことを示している例の一つになる。
 女性も男性を魔法で黙らせられる国である。
 隣国でも違う国、違う文化であり、近くだからわかり合えるというのは夢のお話。
 ジルノア王国のお隣の宗教国家のジニア聖教国とは永遠に理解し合えないのだから、たとえ国の距離が近かろうとも心の距離は果てしなく遠い。

「俺のそばにいれば、ルアン王子殿下の身の安全も確保されるけど」

 黒幕が誰かはともかく。
 俺にとっては誰でもいいのだが。

「それは、、、」

 ルアン王子は何か言いたそうに口を開いたが、やめた。
 うーん、自分の方が魔法の実力は上だ、私がティフィを守る、とでも言いたかったのかな?
 言わなくて正解だ。
 だって、ルアン王子は彼らが倒れた後に彼らに気づいたのだから。

 王子である彼は城では守られてきた。
 自らの力で自分を守る必要がない優しい世界で。
 護衛や付き人が必ず周囲にいる。

 ルアン王子が使う魔法など、どんな場でも接待の社交辞令の美辞麗句が並ぶだけ。
 攻撃魔法でも、防御魔法でも教本通りの代物であったとしても。
 世間で人々にとって必要とされる魔法を、彼が使えるわけもない。
 ささやかな生活魔法も、小器用なので言われればできるが、逆に必要だと言われるまでわからないということだ。

 魔法が使えると言っても、使い時を自分で判断できなければ、何の意味もない。

 ジルノア王国の国王が戦争の全指揮をとることはない。
 ジルノア王国の背後にはトワイト魔法王国があるので、無闇に喧嘩を売ろうという馬鹿な国はジニア聖教国ぐらいである。ジニア聖教国でさえ表立っては動かないのだから、他の国々は当然に動かない。

 平和な時代が長く続き、ジルノア王国の王族は自分で考えることもせず、その上、自分の実力を過信して無謀な行動をする。

「お前は魔法が使えないティフィに対して、自分が魔法で守るという優越感に浸りたかったのか?」

 意地悪な言葉だろうか。
 ルアン王子の前提は、ティフィは魔法が使えない、である。
 ティフィが困っているとき、救うのは自分、と考えているフシがありそうだ。

「それは、、、ないとは言えないかもしれないが、ティフィを守りたいという想いは本当だ」

 ルアン王子は魔法が使える。
 そして、ティフィは剣や体術等、何かしらの護身術を学んでいるわけでもない。
 対価が必要のない護衛なんて存在しない。

「今のでわかってくれたと思うが、俺には必要ないぞ。ティフィが戻って来てからもう一度ここに来ればいいじゃないか」

 なぜ俺はこの男に苛立つのだろう。
 暑さのせいだと思いたいが。

「それに今のお前にはティフィを守る権力もない。お前はそれを捨ててきたのだから」

 俺も冷たい飲み物でのどを潤す。
 弟にすべてを任せてきたと言いながら、実家の権力を使うのならそれは本末転倒だ。
 それにティフィを襲っているのは、ルアン王子の実家であるジルノア王国の王族である。

「だが、近い将来、貴方もティフィの元からいなくなるんだろう」

「悪友が元に戻したら、それでこの関係は終わりだ」

「ならば、誰もいなくなれば、ティフィは誰が守る」

「俺がいなくなって、ティフィが元に戻ったら、お前がティフィのそばにいれば良い話じゃないか」

「貴方は私ではティフィを守れないと言っているのに?」
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