キミという花びらを僕は摘む

さいはて旅行社

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第1章 突然の

1-20 激情に喘ぐ

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 テインの旦那の目つきが険しい。
 コレは完全にティフィとレインの付き合いを反対されている。
 冗談でもドッキリでもなく。

「義兄さんに言われることではない。俺は俺の好きな人と添い遂げる」

 バッサリとレインが言い切った。
 超カッコイイー。
 俺も言ってみたい、言われてみたい。
 いいなー、ティフィ。

「あ、そういや俺は真っ先に婆さんに反対されると思ってたな。うちの可愛い息子を誑かしてっ、とか」

 のほほんと俺が言うと、婆さんが頭が痛いというような表情をしてから。

「、、、お前さんを振ったら、レインには後がない」

「えー、そうかー?レインはモテるぞ」

「、、、お前さんはきちんと責任を取るだろ」

「俺が取って良いのならいくらでも」

 そもそも、レインがオッサンな俺を選んでくれるわけがない。
 けれど、もしも万が一俺を選んでくれるのなら、城生活を卒業して、新居で他に邪魔されずに二人で過ごすぞ。

 精神に作用する魔法って他人にかけるのはあまり好きじゃないが、一度でも選んでくれたのなら、俺、ヤンデレ化する自信があるなあ。
 捨てようとするなら、どこまでも追い縋る気がする。

 本当に添い遂げる気がなかったら、最初から俺は選ばない方が良い。
 俺自身にあんな言葉を与えたら、一生離さなくなるよ。

 俺、ずっと独り身で寂しい生活送っていたしー。

「本当に?」

 レインが俺の言葉を聞いて、ものすごく嬉しそうに俺に微笑んだ。
 うん、だから、ティフィじゃなくて、俺ね。
 勘違いしちゃダメだよ。
 ずっと一緒にいるのは、オッサンの俺だよー。
 ティフィの肉体はもれなくついてこないよー。

「だから、俺の前でイチャイチャするなっ。お前たちの仲は認めねえっ。他の奴らだって認めるわけがねえっ」

 旦那が怒鳴った。
 ティフィの男性関係について知っているならば、本気で付き合おうとは思えないのだろう。
 彼も義弟のことを思って言っているに違いない。

 婆さんとテインが旦那をなだめている間に、俺たちは婆さんの家から退散した。








「せっかくのシチューを婆さんのところに置いてきてしまうなんて」

「あー、後で鍋は持って帰って来てくれ。昼食はどこかに食べに行くか?」

 魔法で回収できるが、いきなり鍋が消える方が不自然だ。
 温め直したし、食べてくれた方がありがたい。

「遅い昼食になるから、すぐ昼休憩に入る店はもう無理だな」

 レインが心当たりに連れて行ってくれるらしい。
 適当に歩を進める。

 ティフィとレインの関係に異を唱える者は多いだろう。
 ティフィの男性関係を知っていれば特に。
 それに加えて高圧的な態度は、親族関係を結ぶ上ではハードルが高い。
 薬屋というのがその人にとってどれほどの価値を持つかによっても、反対にまわる可能性がある。
 薬がほとんど必要ない若い世代なら、特に。


 レインの足がとまった。

「グレジルさんもあんなこと言わなくてもいいのに」

 テインの旦那ってグレジルって言うのか。
 だが、そんなことはどうでもいいっ。

 レインの瞳が少々潤んでいる。それは怒りか、悔しさか、悲しさか。

 年下の魅力っっっ、破壊力が半端ないぞっっっ。

「確かに付き合いを否定されるのは心に刺さる。けれど、そのグレジルさんもお前のためを思って言っているんだろう。義弟のことをそこまで思える人物もそうはいない」

「テインが選んだ旦那だから、その意志はある程度まで尊重するが、貴方のことを侮辱するのは許せない」

「今のところは婆さんに反対されなかっただけでも良しとする結果だと思うが」

「、、、ああ、でも」

 レインが何かを言いかけてやめた。

「昼食、あの店でどうだろう。落ち着いた雰囲気で食事が楽しめる」

「いいんじゃないか」

 俺は頷く。
 俺は量で勝負している賑やかな食堂も好きだし、古き良き静かなバーも、女性で大部分占めるスイーツが美味しいカフェも大好きだ。
 寂れて潰れそうな店も意外と足を運んでいた。

 それに反して、高級な飲食店は好まない。
 誰かに連れて行かれなければ、絶対に足を踏み入れない場所だ。
 マナーに関して何も言われることはないし、料理もその値段に見合った物を出すところも多い。が、店の者もそこの客もどんなに隠そうとしていても値踏みをする視線が好きになれない。
 その店を利用するステータスなんていらない。
 そんな気分にさせる。

 この世界にはいろいろな考えを持つ人間がいる。
 その人はその人なりの正義を語っている。
 それが自分とはどこまで行っても平行線であろうとも。

 グレジルとは平行線のまま、月日が過ぎ去るだろうか。




 今日は飲食店に薬を配達する日だ。
 飲食店の者たちと肉体関係を持っているのはレインもすでに知っている。
 ティフィの日常的な行為を、俺がやめるわけにもいかない。

 どんなに説得しても、レインが感情的に許せないものだと理解している。
 それでも、なお。

「あっ、はあっ、、、ああっ」

 ノルルに後ろから激しく抱かれて、喘ぐ。

 この肉体は本当に気持ちいい。
 誰かに抱かれることが。
 感じることが。

 興奮の後。
 カウンターに突っ伏し、荒い呼吸を整える。

「ティフィ、客だ」

 客?
 バーカウンターでこんな状態の者がいながら、この店で客を招いていいのか?
 服は着ているが、ティフィの可愛いお尻は出したままだ。

 と思ったら。

「やっぱり、お前はそんなことだろうと思ったよ。真剣にレインと付き合うつもりじゃないんだな」

「グレジルさん?」

「はっ、お前にさん付けで呼ばれることがあるなんてな。レインと付き合うのも俺への当てつけじゃないだろうな」

 当てつけ?
 何のことだ?

「、、、グレジル、ティフィはこの前、打っ倒れた後に記憶が曖昧な状態だ。薬の調合には問題ないようだが」

 ノルルが説明をしてくれた。

「グレジルとはレインの家で会ったのが初めてじゃないのか」

 カッとなって顔が赤くなるグレジル。

「俺のこと忘れたのかっ。あんなに抱いたのにっ」

 抱いた、と過去形で言うのなら、グレジルがテインと結婚したときに関係はしっかり清算されたのだろう。

「ははは、グレジル、未練タラタラじゃないか。その膨らみは何だ?綺麗事ばかり言っているようだが、ティフィを抱きたくてしようがないのか」

 下半身は正直だ。
 彼はティフィに欲情している。

「今なら場所を貸すぜ。高いがな」

「くっ」

 一瞬、グレジルは怯んだが。

「ツケにしておけ」

「しかも、奥さんには内緒の行為だ。それがどれだけ高いツケになるか、身をもって味わえよ」

 ゲラゲラ品のない笑いをしながら、ノルルは店内から去っていった。
 この国だろうとどこの国だろうと、不貞は男性側からも女性側からも一方的に相手へ離婚を請求でき、慰謝料も取れる。
 貴族や上流階級だって例外ではない。だからこそ、口を塞ぐ、という手段を取る者が後を絶たないが。

 実は、俺を抱くバーや飲食店の者たちは独身である。バツイチ、バツニの者もいるらしい。
 結婚前からお金で交わるのを商売にしている者たちは、結婚後も許される国も多い。この国もであるが、彼らは線を引いているようだ。

「あっ」

 穴にグレジルの指が入って動く。
 おケツ丸出しのままだったからな。

「もう柔らかいな。どんだけアイツにヤられたんだ」

 返事は求められていない。
 すぐに硬いものが挿れられる。
 ノルルよりも激しく、突き立てられる。
 ティフィをどれだけこの男は求めているのか。

「ああっ、あっ、、、んっ」

「は、はは、別れる前は喘ぎ声一つ聞かせてくれなかったくせに」

 ほんの少し恨みがましく。
 手は俺の腰をしっかりとつかんで離さない。逃がさないように。

 何度も、何度も。
 昼過ぎまで、彼はティフィを離さなかった。
 前からも後ろからも、ティフィの肉体をカウンターにあげたりして尽きるまで体液にまみれて楽しんでいた。




 ああ、残念だ。
 この男はレインのためにティフィと付き合うなと言ったわけではない。
 自分のためだけに、言ったのだ。

 それでも、ティフィは感じ続ける。
 この激情に。
 この愚かさに。
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