キミという花びらを僕は摘む

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第1章 突然の

1-17 養親とご対面

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「本当にただの腰痛じゃねえか」

 あ、声に出しちゃった。
 ベッドに横になって触診されていた婆さんも寝ながら俺を見る。

「だから、最初からそう言っているじゃないか」

 レインは不思議そうに俺を見ているけどさあ。

「そうだけどさあ」

 ブツブツブツブツ。
 レイン、ただの腰痛で五年間もトワイト魔法王国を放置しておくなよ。
 せめて、医師から匙を投げられた病とかにしておけよ。
 国王も腰痛で五年間も待たされているとは思わないよ。
 たかが腰痛、されど腰痛。
 本人にとっちゃ辛いのはわかるけどね。

 さて、本題に入る。

「婆さんさあ、腰痛が治ったら、レインが聖騎士しているトワイト魔法王国に来る気あるのか」

「何をっ、うぎっ」

「あ、痛みがあるなら、ベッドにうつ伏せのままでいいから」

「お、おう」

 婆さんは枕に額を戻した。

「婆さんには新薬ってヤツを試してみる。ただし、コレは試験薬だから、痛みが嘘のようになくなっても口外しないように。けど、一人分しかないから、他の人には試せない。婆さんがやっかまれても面倒だから、周囲にはいつもより調子いいとかこの頃痛まなくなったとだけ答えてねー」

 こういうザックリとした設定になりました。
 一応、婆さんにはそれらしいと思ってもらうために、匂いのキツイ湿布薬を貼り付ける。
 匂いがキツイだけで普通の湿布薬と変わりません。

 そして、魔法を発動させる。
 ちょうどうつ伏せになってくれているおかげで、婆さんには何をされているかわからない。

「大丈夫か、その薬」

 婆さんがくぐもった声で言った。
 ちょっと胡散臭かったかなー。

 今回の効能は抜群だ。俺が魔法で治療するから。

「、、、痛みはどうだ?」

「そんなにすぐに痛みが引くわけが、、、痛み止めかい?コレ」

 婆さんは腰を押さえながら起き上がり、ベッドに腰を掛けた。
 半信半疑ながら、痛みがなくなったのは歓迎しているようだ。

「ははっ、まあ、数日たっても痛みがぶり返さなければ成功だ。レインに感想を伝えてくれ」

「そうかい。この湿布はどのくらい貼っておく方が良いのか?」

「カラダを洗うときにはがしてくれ。もったいなくても貼り直さなくて大丈夫だからな」

 何度も使わないように。
 というか、それはただの湿布薬でしかない。

 婆さんはベッドから立ち上ったり、座ったりを繰り返している。

「だが、いくらになるんだい?痛みが消えてなくなるくらいの薬なんてかなりのお値段だろ」

「それはトワイト魔法王国の国王に請求する」

 婆さんの治療魔法は必要経費なので、きっちり請求します。
 もちろん魔法に対する対価は必要だ。
 無料奉仕など、ジニア聖教国だってやりはしない。

 おやーん?
 国王に請求すると俺が入れ替わっており、シークが無断で俺を使って魔法実験したことが国王にバレてしまうということか。

 別にいいか。
 アイツにとってもいい薬だ。

「、、、さっき言っていたのは、冗談じゃないんだね。いや、トワイト魔法王国で騎士になっていたのは聞いていたよ。長期休暇が取れたとはいえ、ここにずっといるから怪しんでいた。騎士になったというのが事実でも実質辞めてきたのかとさえ思っていたよ。聖騎士なら辞めさせられないわけだ」

「この家の壁は薄いけど、大丈夫か?」

 レインが心配しなくとも対処してるよ。
 聖騎士だとバレると、ジニア聖教国からの追手が来るという話。
 アイツらの恐ろしさも、馬鹿さ加減も把握している。
 ゆえに警戒は怠らない。

「きちんと遮音しているから、外には漏れない。婆さんも他には話さないだろ」

「やはり、他に自慢しちゃいけないことか」

「レインはジニア聖教国の聖騎士じゃなくて、トワイト魔法王国の聖騎士だからね」

 この言葉の意味をわかる平民は多くない。
 それでも、婆さんの表情が沈んだ。

「、、、アンタに聞いてもいいかい?」

「答えられることなら」

「アンタは誰だい?」

 おや。
 そんな情報を薬師のティフィが知るはずないと?
 鋭いな、婆さん。

「そこで驚いた顔をするな。ティフィは仕事といえども、こんなに親身になって薬を調剤しない。そもそも、有効な新薬があったところで私に試そうなんて思うわけもない。それに会ったところで適当に症状を聞いて、動きを見たら、それだけだ。それにいつも高圧的な態度で、いつ私の血管がブチ切れないかと心配していたよ。だから、薬の受け取りはレインに頼んでいたんだ」

「ティフィって常々、客商売に向かない性格だと思っていたんだが、何で薬屋を始めたんだ?」

 薬屋も完全に客商売だよ。この顔は客商売向きだとは言っても。

「薬屋を始めたキッカケまで聞いたことはない」

「だよねー。仕事ってたいていは親の仕事を受け継ぐからなあ」

 わざわざ聞かない。
 親の仕事と違う職に就いているとわかった者にだけ聞く話題だ。
 他に才能がある子供か、もしくは子沢山だからもう後継者はいらないとかの理由で、別の道を歩むとされている世の中だ。

「アンタはトワイト魔法王国の者かい?」

「そうそう。で、婆さん、トワイト魔法王国に来る気はあるのか」

「、、、私の子供はレイン一人じゃないんだよ」

 それもそうだ。
 レインも他の子供がいるようなことを言っていた。
 この家の近くに多く住んでいるとも。

「そういや何でレインは養母一人を連れて来たいと言ったんだ?」

「他の兄弟は婆さんの子供として同じだが、俺の家族というよりも、すでに他の家族を持っているから」

 結婚してこの家を出ていったということか。
 だから、この家には婆さんとレインの二人だけで住んでいる。

「確かにそれだと親類縁者全員引き連れていくわけにもいかないし、この街で過ごしたい者の方が多いだろうな」

 住み慣れた街を離れるのは勇気がいる。
 職も一から探さなければならないのなら尚更だ。

「婆さんもこの街から離れたくないという考えか」

 俺は婆さんを見た。
 住み慣れた大勢の子供に囲まれたこの街より、レイン一人を取れるだろうか?

「いや、昔からトワイト魔法王国には興味があったよ。私も魔導士の端くれだったからね。けれど、レインですら序列に加われず騎士になったというのだから、私では重荷になっちまうだろうとは考えてしまったね」

 婆さんは多少魔法が使えていたから、多くの子供たちの面倒をみられたのか。
 そうでなければ、育児というのはかなり難しい。
 子供たちにはお金もかかる。
 食べさせるだけでも。

「重荷になるうんねんは考えなくてもいい。婆さんの年齢を考えれば老い先短い。レインにこれから不幸なことがあってもそれぐらいならトワイト魔法王国は面倒みれる」

「はははっ、レインに不幸なことはあってほしくないが、そうか、私一人ぐらいなら面倒みてくれるのか」

 婆さんは陽気に笑った。
 裏にどんな想いがあろうとも。

 それでも、彼女は死ぬ前にトワイト魔法王国を一目見ておきたいという想いがあるのだろう。
 魔導士にとっては憧れの聖地。
 最初から序列に加わることが難しいと考えている者は、観光でやって来る国だ。
 魔導士ではなくとも、一度は行ってみたいと思う国らしい。
 
「トワイト魔法王国の国土は狭いが、観光の見どころは多い。空浮かぶ島は順番待ちがひどい状態だから、ある程度長生きしないと見れないぞ」

「楽しそうだな」

「ただ、ここからは遠い。帰ろうと思ってもなかなか帰れるものじゃない。これから六か月弱ぐらいで行く準備ができるか」

「そんなにいらない、、、いや、そうだな、六か月か」

 婆さんは頷いた。
 もし、帰って来れないのならば、別れが必要だ。
 育てた子供が多いのなら。
 すでに孫やひ孫がいる者もいるだろう。

「出発の具体的な日程は差し迫ってきたら伝える」

「この国じゃ古いガイドブックしか手に入らんな」

「トワイト魔法王国では日夜観光名所が変わるから、最新のものは行ってみないとわからない」

 六か月も留守にしていたら、だいぶ街の様子は変わっているだろうな。
 あの国の魔導士は自分の成果発表をするために、様々なものを魔法で街に作っていく。
 空浮かぶ島はその代表みたいなものだ。
 魔王と前竜王が封印された後、平和の象徴としてあの島はできた。
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