キミという花びらを僕は摘む

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第1章 突然の

1-16 ご挨拶にいこう

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「ティフィはレインの婆さんと会ったことはあるのか?」

「ああ、腰痛の状態を聞きに何度か。隣町の薬屋に出してもらっていたものとだいたい同じだったようだが」

 店の方に移り、婆さんのカルテを見る。

 実際のところ、この薬屋からレインの家まではかなり離れている。
 レインがこの家に通うのは、騎士の詰所がわりと近いところにあるからだろう。
 騎士の巡回経路でもあるし。
 ズズーっと茶を啜りながら。

「婆さんに出しているの、痛み止めの飲み薬と湿布薬だけに見えるが」

「腰痛ならそれが普通だろ」 

「、、、は?」

 レインは聖騎士だったよなー。
 いや、ジニア聖教国の騎士学校には通っていない。
 知識を得ていないのか。
 対症療法だけがされていて、根本的な治療を試みられていない。

「聖騎士って治癒魔法使えるよな」

「え、そうなのか?」

 疑問で答えるなよ。
 なぜ騎士に聖がついているか、を考えろ。

「ちなみにレインは治癒魔法は」

「使えない」

「使ったことがないわけか」

 俺は言い直しました。
 聖騎士が使えないわけがあるかっ。

 聖女、聖人、聖騎士等、この世界で聖がつくのは神聖魔法とされる治療魔法も使える証なのである。

 俺は聖剣を見る。
 じぃぃぃーーー。
 柄に布が巻かれているからって、視線から逃れられるわけではないぞ。

「仕事はしろ。仕事は」

「今の誰に言った?」

「レインじゃなきゃ、その聖剣に決まっているだろ。寡黙キャラを目指したいのはわかるが、必要事項は聖剣所持者に伝えろ」

 聖剣が寡黙になったら、それはただの剣である。
 長年の知識を聖剣所持者に与えることができるからこそ聖剣なのである。

 ちなみに、ジニア聖教国は否定しているが、この世界では魔剣の一部が聖剣の扱いになる。
 つまり、治療魔法も扱える魔剣が聖剣と呼ばれる。
 コレは一般的な知識ではないが、ジニア聖教国でも準聖騎士以上には言葉を変えて教えられている知識である。

 聖騎士としてのレインは治療を行なう者ではなく、ジニア聖教国に対する敵を倒す異端審問官的な立場での職務遂行が多かったのだろう。あくまでも神に対する敵ではないので勘違いしてはいけない。だから、レインはトワイト魔法王国に助けを求めたのだ。

「寡黙キャラ、、、」

「聖剣が仕事をしてないなら、とりあえず聖剣の働きは放置しておく方向で考えるか。聖剣が仕事をしてたら、レインがこの街に戻って来たときに解決していた問題だが」

 聖剣が居心地悪そーにレインの影に隠れる。
 だってー、仕方ないじゃーん、所持者には格好良いところを見せたいんだから、と言われてもね。

 それのどこが格好良いんだ?
 聖剣の魔力がヘタるが、落ち込んだところで時間は戻って来ない。

「もしかして俺が治療魔法を使って、婆さんの腰痛を何とかできたのか」

「訓練してたらね」

 訓練もなしに長年の腰痛を今すぐ全快できる治療魔法を使うことはできない。
 多少でも訓練している聖騎士なら、俺の治療魔法よりも強力だったのだろうが。
 レインはこれからコツコツ修行しましょう。

「婆さんの腰痛、魔法で治して良いか」

「そりゃ、治してくれるなら、治してくれる方が良いに決まっている」

「じゃあ、これから会いに行ってくる」

「、、、明日にしないか?」

 レインの提案に、俺は首を傾げる。
 一日でも早く痛みとはおさらばしたいものだと思うが。

「明日は俺が仕事休みだから、一日中付き合える」

 婆さんのことが心配なのか。
 俺が治療するなら、様子を見ておきたいということか。
 中身を他人に入れ替わらせられるくらいドジな人物は監視しておきたいと。

 その気持ちもわかるなあ。
 悲しいけど。。。

「俺も明日は薬屋が定休日だけど、まあいいか」

「貴方を婆さんにも紹介したいし」

 そもそも、婆さんはティフィに薬師として会ったことがあるだろう。
 レインが少し照れながら言っているので、そういう意味で紹介したいと言っていることは俺にもわかるが、それはティフィの外堀を埋める騙し討ちみたいなものだ。

「ティフィをか?」

「あ、そうか。このままだとティフィを紹介することになるのか」

 レインは誰を紹介したいと思ったんだ?
 中身は違う人なんです、と根拠もなく言ったら、いくら魔法がある世界でも頭がおかしな人だと思われるぞ。

「俺らが元通りになってから、挨拶は考えたらどうだ?」

「そ、そうだな。婆さんも混乱するからな」

 俺の想いがレインに伝わって良かった。
 外堀を埋めまくられるのは、俺としてもティフィに悪い。
 レインは聖騎士としてトワイト魔法王国では大切な人間である。

 治療魔法を使えないとは思ってもみなかったけどっ。
 俺は聖騎士であるレインの治療魔法でさえ跳ね除ける病だと考えていたのに。。。
 それならば、馬車での長旅も無理だし、空間転移魔法も病に影響を与えるかもしれない重篤なものかと。

 いや、まだ、その危険性はある。
 腰痛に隠されているということもある。
 楽観視はしないで行こう。

「じゃあ、今日は」

 レインは家に帰り、婆さんに俺が行くということを説明するんだな、と言おうとしたら。

「巡回の途中で婆さんには伝えておくから、明日一緒に行こう」

 まあ、それでもいいけど。。。
 魔法で治すということは内緒にしておいてね。




 レインとの甘い夜は毎日のように続く。
 俺としては非常に嬉しいのだが。
 ティフィの肉体は激しく扱われても丈夫だ。
 朝、気怠ささえ感じない。
 睡眠時間が短いのが連日続いても問題ないほどである。元々ショートスリーパーなのかもしれない。

 俺の肉体が徹夜続きでも大丈夫だったのは、肉体のおかげではなく魔法のおかげである。魔法がなければ、徹夜なんかできるわけもない。体力がないのでカラダが持たない。

「お前、婆さんの世話は大丈夫なのか?」

 朝食時にレインに聞いてみる。

「今、同居しているのは俺だけだが、隣の家に義姉がいるし、あの周辺には婆さんが養親になって育てた子供たちが多く住んでいる。俺もほどほどにいい歳だから、いい人が見つかったのなら何が何でもつかまえておきなさいと皆が言ってるし」

 、、、家族皆が言っているの?
 血がつながってなくても。
 相手が俺だとわかっても、反対しないでね。
 あ、ティフィなら平気か。
 いや、男性関係でちょっと不安が残るか?
 肉体関係を持っている全員と別れなさいと言われたりして、ティフィが。

 食べ終わると、ちゃちゃっと魔法でお片付け。
 洗ったお皿も温風で乾かし、いつもの戸棚におさまった。

「いつ見ても、流れるように魔法を使うね」

「レインの場合は生活魔法というより、攻撃魔法や防御魔法の方が得意だろ」 

「そうだな。聖騎士として戦うことを望まれたから」

 聖騎士は正義のために戦う、というのは有名なプロパガンダである。
 ジニア聖教国の正義のために戦う、というのが第三国から見た聖騎士である。
 宗教国が力を持つと他の国々が大変になる。

 彼らは神の名の下、正義の名の下に大義名分をかざして迷惑行為を行う。
 自国で勝手にやっているだけなら、国民には大迷惑だが、まだ目は瞑っていられるのだけど。

「身支度を整えてから、出発しようか」

 歯磨きして髪を整えるだけでも、ティフィはキラリと完璧だ。
 この姿があるだけでも、レインの養親と会うのにも気負わない。
 コレで男が寄って来ないわけがない。

 さて、俺がそのティフィに惚れるかというと、、、惚れない。
 性格は聞いた話しかわからないが、当初のトイレや部屋の惨状を見てしまうと、一緒に暮らすのはかなり難しい。
 仮に血縁関係があったとしても家族としても御免被りたい。
 おそらく、彼は汚すし、散らかす。
 魔法があるからといって、無理なものは無理なのだ。
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