15 / 36
満月の夜に抱かれて
15
しおりを挟む*****
「あの後、会社を辞めて、ウィークリーマンションで暮らしながらプレゼンの準備をしたんだ。給料と退職金の振込先は出張用に持ってた口座にしたから、満月の金はあんまり使わずに済んだ」
「そう」
朝食のルームサービスを挟んで、私と満夜は向かい合っていた。
朝早く、彼が目覚める前に帰るつもりだった。
が、私を抱き締めて離さない彼の腕から逃れられず、断念した。
「金、帰すから」
「いいのよ。あれは、あなたを買った――」
「――買われたつもり、ないから」
彼は一瞬だけ鋭い眼光を私に向け、サンドイッチを口に運んだ。
「次はいつ会える?」
「え?」
「これきりにしたくない」
一度で飽きられる、とまでは思っていなかったが、次を求められるとも思っていなかった。
返事に困り、私はフォークでレタスを突いた。それを口に運び、咀嚼しながら彼を見る。
彼もまた、サンドイッチを噛みながら私を見ていた。
「奥さんとはどうなった?」と、苦し紛れに話題を変えた。
気になっていたのは、間違いないが。
満夜は一瞬だけ口の動きを止めたが、すぐに再開した。代わりに、私から視線を逸らす。
「なにも。着拒とブロックで連絡手段なし。会社も辞めてた。ま、俺から持ってった金があれば、当面は生活できるだろうし? 面倒を見てくれる男がいるのかもしれない」
「……ご両親は?」
「里奈の? ……さぁ? 娘がしたことを知ったからなのか、連絡が取れない」と言って、満夜はポテトを二本、同時に口に入れた。
同じ男でも、あの男は朝からこんなにたくさん、しかも揚げ物までなんて食べなかった。その違いは、やはり若さだろう。
私はミニトマトをフォークで刺し、口に入れた。
「離婚届を勝手に書いて提出することは、私文書偽造と私文書……私偽造文書なんとかってのと、公正証書不実なんとかって罪になるらしい。けど、俺が書いたものじゃないとか、俺は離婚する気はなかったとか、そういうのを証明するのは相当面倒なことだって、ネットで見た」
「そう……でしょうね」
離婚を無効にするには、家庭裁判所に協議離婚無効確認調停を申し立てる必要がある。だが、これはあくまでも話し合いで、相手が応じなかったり、離婚届の偽造を認めなければ、裁判となる。
「俺はさ、離婚を無効にしたいとは思ってない」
「……そうなの?」
「ああ。里奈には未練なんて微塵もない。ってか! そうでなきゃあんたを抱いたりしない」
彼はアイスコーヒーを口に含み、ポテトたちを喉の奥に流し込んだ。
「ただ、あいつがなんでこんな大それたことを仕出かしたのかは、知りたい。男であれ金であれ」
「そう……」
彼の気持ちは、当然だ。
「やっぱ、調査会社に頼むとかした方がいいのかな」
「そうね」
彼には、知る権利がある。
「ああいうのって、高いんだろうな」
「多分……」
彼にも、知る権利がある。
「そんなのに金かけることないかな」
「そんなこと、ないと思うわ」
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる