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6.ひとりになりたい
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しおりを挟む嘘がつけない、隠し事が下手、慎重すぎるのに時々全然深く考えない、私のご飯の何を食べてもリアクションがない、ワイシャツと靴下を裏返して脱ぐ、時々すごく無神経、美人の元カノを今も名前で呼んでいる、美人の元カノとお揃いの時計を大事にしている、私の名前を呼んでくれない。
書くスペースがなくなって、ここまで。
『知り合ったきっかけは?』
友達の紹介。
『初めてのデートの場所は?』
ファミレス。
『初めてもらったプレゼントは?』
ベージュのリボン型シュシュ。
『生まれ変わっても結婚したい?』
もちろん!
『プロポーズの言葉は?』
なし。お父さんに結婚する気があるかと迫られて、負けたから。
A4用紙の自分の文字に、おかしくなる。
子供の宿題に本気で答えた結果。
きっと、和輝に書かせたらスカスカだね……。
きっとそれが、私と夫の気持ちの差なのだろう。
物音もしない部屋で一人、自分の想いを眺める。
私の十五年分の想い。
十五年、か……。
ずっと憧れていた人と付き合えて、舞い上がって、嫌われないように必死になって、結婚出来て、幸せで、いい奥さんになろうと必死になって、子供ができて、幸せで、いい母親になろうと必死になって、いいお嫁さんになろうと必死になって。
そうしていたら、あっと言う間に十五年。
私は名前も呼んでもらえなくなった。
さらに十五年後はどうなっているのだろう。
私は五十を過ぎて、相変わらずお店でパートして、和輝はちょっとだけ出世したり?
お義父さんとお義母さんは……相変わらずだろうなぁ。
由輝は結婚してる?
もしかしたら、和葉は子供を産んでいるかもしれない。
私はお祖母ちゃんになって、和輝にまでそう呼ばれているのかもね。
私は相変わらず、それを寂しいといじけて……。
その頃の私はきっと、もう、諦めている。
名前を呼ばれないことも、触れてもらえないことも。
だったら、今のうちに諦めろってことかな……。
ある女優さんが、心も身体も四十を過ぎてからが充実している、と言っていた。
本当だろうか。
最近は、子育てがひと段落したから自由に生きたいと離婚する夫婦も多いと聞く。四十代や五十代同士の再婚も。
離婚なんて考えていない。
が、考えなくもない。
もう一度、『女』になれる?
例えば千恵は、きっと気の持ちようで恋愛も再婚も可能性があると思う。
美人だし、ハツラツとしていて、結婚しなくても恋愛は楽しめそうだ。
例えば愛華ちゃんのお母さんもそうだ。
モデルに復帰できそうなプロポーションと美意識で、昔と変わらずモテるだろう。
私は……?
見た目も老け込み、洒落っ気もなく、身体もブヨブヨ。おばさん臭さが染みついて、最近の若者の言語は理解不能。
この前、再々婚した歌手は、私よりずっと年上だったな……。
そもそも、比較対象が芸能人というのが間違いであり、視野の狭さを表している。
そう思うと、笑えた。
笑った。
そして、ため息が出た。
ひとりに……なりたい。
壊れてしまいそうな予感がした。
今のまま、自分の気持ちを誤魔化し続けていたら、立っていられなくなるような気がした。
ひとりになりたい。
ならなきゃいけない――。
夫の言う『我が家のお母さん』でい続けるために、今はひとりにならなければと、強く思った。
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