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「え――? 千恵ちえが?」

 日曜の朝。

 まだベッドでゴロゴロしている時間に、母親から電話がかかってきた。

『そう。今朝、雪かきしてる時に千恵ちゃんのお母さんに会って、お母さんもびっくりしちゃった』

「で、大丈夫なの?」

『みたい』

「みたいって……」

 隣のベッドで和輝がごそっと寝返りを打ち、私はそっとベッドを出てウォークインクローゼットに入った。

『連絡先、知ってるんでしょ?』

「うん。メッセージ、送ってみる」

『そうしたらいいよ。由輝と和葉は元気? 風邪ひいてない?』

「うん、元気」

『もうすぐ卒業式でしょ? お祝いしてあげたいから、そのうちおいで』

「うん、わかった」

 話を終えてすぐ、私は幼馴染にメッセージを送った。

〈久し振り! 入院したって? 大丈夫なの?〉

 千恵は幼馴染だ。

 家が近所で、幼稚園から中学まで一緒だった。親しくなったのは小学三年くらいからだけれど、つかず離れずの関係で、大人になってからもこうしてメッセージのやり取りくらいはしている。

 千恵は東京の大学に進み、そのまま就職、東京で会社を経営している十歳年上の男性と結婚した。

 うちとは逆で、上が女の子、下が男の子。

 確か、上の子が和葉と同じ年のはず。

 握り締めたスマホが、ピロンッと鳴った。

〈T病院、来れる? 美味しいケーキ食べたい〉



 まったく……。



 東京にいるはずの千恵が帰って来て、入院していると知らされて驚いたが、元気そうだ。

〈了解! 昼頃、行く〉

〈五三五号室、待ってまーす!〉

 クローゼットの中で着替えて、出る。

「電話?」

 和輝がのそっと起き上がる。

「おはよう。起こした?」

「いや」

 私と和輝のベッドの間にある、ローチェストの上の目覚まし時計を見る。

 八時十二分。

「今日、ちょっと出かけてきていい?」

「どこに?」と聞きながら、和輝が両手を挙げて大きく伸びをする。

「友達のお見舞い」

「送ってく?」

「あー……、いや、自分で行く。車、使っていい?」

「うん」

 起きて、子供たちを起こして、朝ご飯を食べて、私は掃除、和輝と由輝と和葉は雪かきをした。

 お昼は適当に、カップ麺や冷凍パスタ、レンチンで食べられる味付き肉なんかを食べていて欲しいと頼み、私は家を出た。

 昨夜の大雪のせいで、三十分ほどで着く病院まで一時間ちょっとかかった。途中でケーキも買ったからだ。

 千恵の病室は、整形外科の個室だった。

 ノックをして、返事があって、ドアを開けた。

「柚葉、久し振り!」

 頭に包帯を巻いて、頬にガーゼを当てた姿の千恵が、笑う。

「どうしたの、その怪我」

 数年振りに会ったというのに、挨拶もなく、私はため息をついた。

「階段から落ちた」

「はぁ? なにやってんの」

 千恵の目の前には、可動式のテーブルがあり、昼食のトレイが載ったままだった。どれもプラスティックの蓋が載ったままで、食べた様子はない。
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