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1.今も好きですか?
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しおりを挟む「――ところ、っと。あとは?」
「そうねぇ。隠し事を――」と言いかけて、ギュッと唇を結んだ。
嘘は言いたくない。
「――嘘をつかないところ」
「うそをつかないところ」
和輝は、良くも悪くも嘘をつけない。
良く言えば正直、悪く言えばバカ正直。
私を傷つけないための優しい嘘すらつけない。
「次に、お父さんの嫌いなところ」
「嫌いなところ?」
「うん」
「それ、お父さんとお母さんが結婚した理由に結びつかなくない?」
「えー……。好きなとこだけじゃバカップルじゃん」
どこで覚えるんだ、そんな言葉。
「たくさんあって言いきれないからパス」
「そんなにあるの?」
「嫌いなところって、好きなところと違って細かいの」
「例えば?」
「んーーー……」と、適当にいくつか言えばいいのに、本気で悩む。
「優柔不断なところ」
「ああ! 確かに」
小学生の娘に納得されるとは……。
「あとは?」
「んー……。都合が悪いと笑って誤魔化すところ」
「ふんふん。あとは?」
「子供に甘すぎるところ!」
「え! 全然甘くないじゃん」
「じゃあ、お父さんに叱られたことある?」
「……ない」
子供を叱るのは、いつも母親。
父親は知らんぷりか、慰め役。
ずるい。
「ただいまー」
玄関から声がして、和葉がリビングのドアを見る。
「最後! 生まれ変わってもお父さんと結婚したい?」
「え……」
生まれ変わっても……。
リビングのドアが開き、和輝がネクタイを緩めながら入って来た。
「お帰りなさい」
「ただいま」
「お父さん、お帰りなさい。お母さん、早く!」
和葉が私の答えを書いた用紙を腕で隠しながら急かした。
きっと、私の答えは和輝には内緒なのだろう。
「もちろん」と私が答えると、娘はぱあっと顔を綻ばせた。
和葉は一旦宿題を片付け、私はカレーを温めた。
和輝用の辛口のカレーライスとレタスのサラダをテーブルに並べる。
「ビール飲む?」
「いや、いい」
短い会話の後で、私は麦茶をコップに注いでサラダの横に置いた。
「お父さんに質問するから、お母さんあっち行ってて!」
お父さん用とお母さん用の質問用紙があったのだろう。未記入のものを持って和葉が戻って来た。
「なんだ? 何の宿題だ?」
ワイシャツの袖を捲りながら、和輝が食卓に着く。
娘から宿題の内容を聞いて、チラッと私を見た。
「お母さんは終わったから、シャワー浴びてくるね」
和葉は父親の隣に座り、質問を始める。
「お母さんと初めて会った時の感想は?」
私はキッチンから廊下に出て、ドアを閉め切らずにじっと中の声に耳を澄ませた。
「若いなぁ」
「それだけ?」
「第一印象だろ?」
「そうだけど!」
和葉が不満気に言った。
「次! どっちが最初に好きって言ったの?」
「……お母さんはなんて言った?」
「パスだって」
「じゃあ、お父さんも――」
「――ダメ!」
カチャカチャと、スプーンがカレー皿に当たる音がする。
「……お父さん」
「お父さんなの?」
「どっちかと言えば、な」
「ほんとにぃ……?」
ほら、嘘がつけない。
廊下で、私は思わずくすりと笑う。
友達に焚きつけられて、断れなくなったなんて言えるはずないか。
「お母さんのどこが好きで結婚したの?」
「親のそんなの聞いて楽しいか?」
「宿題だから、楽しいかどうかじゃないんですぅ」
完全に楽しんでいる娘に翻弄され、たじたじの夫が目に浮かぶ。
「はい! お母さんの好きなところ」
「んーーー…………」
悩み過ぎじゃない?
「悩み過ぎ!」
いつもの私と同じ口調で娘が言った。
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