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20 最後の男
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しおりを挟む翌日。
俺たちは釧路市内から一時間半ほど車を走らせ、阿寒湖温泉に来ていた。急な予約だったが、別館の露天風呂付きの和室が取れた。
「ここ、高いよね!?」
もう、三度目だ。
ホテルに到着した時、別館に案内された時、部屋に通された時。
行き先を告げずに、半ば強引に連れて来た。
「お前の誕生日だし、初めての旅行なんだから、いいだろ」
俺は窓の前に立ち、大きく伸びをした。露天風呂の奥には阿寒湖が望める。
「恋人、らしいだろ?」
「それにしたって……」
「彩、おいで」
俺が手を差し出すと、彩は少し照れ臭そうにその手を取った。
昨夜、想いが通じた俺たちは、ウィークリーマンションの狭いベッドで抱き合って眠った。もちろん、俺はソノ気だったが、彩が断固として許さなかった。
理由は、マンションの壁が薄いことと、ベッドが狭いこと。
しつこく求めてみたけれど、一喝されて諦めた。
思い出すと、笑ってしまう。
「なに?」
彩が俺の顔を見上げて、聞いた。
「いや」
「気になるでしょ」
「気にすんな」
「あ、そ。じゃ、気にしない」と言って、彩がツンッとそっぽを向いた。
ほんの少し、口を尖らせて。
可愛いな、と思った。
言ったらきっと、『可愛いって年じゃない』とか言ってむくれそうだから、言わなかった。
「ここなら、あずましくデキるな?」
俺は、彩の頬にチュッとキスをした。
「もうっ! それ、忘れて!」
昨夜、しつこく求める俺に、彩が言った。
『ここじゃあずましくないからイヤ!』
最近では滅多に聞かないこてこての北海道弁に、俺は大爆笑した。その結果、隣の部屋から壁を叩かれ、俺は断念した。
「別に、いつも使ってるわけじゃないから!」
昨夜も、そう言った。両親が時々使うから、不意に出てしまったのだと。
で、気兼ねなくデキる場所に強制連行したというわけだ。
「彩」
俺は彩の手を引き、ベッドに向かった。畳の上に分厚いマットレスが敷かれているのをベッドというのかはわからないが、座り心地は良かった。
「せっかくだし、お風呂入らない?」
彩が言った。
「どうせ汗かくんだし、後でいいだろ」
俺は握った彩の手の甲に、キスをした。
「まだ、明るいし……」
「いっぱいデキるな」
「そういうことじゃなくて――」
「ちゃんとゴムも買ったし、安心しろ」
「だから……」
昨夜、しつこくせがんでみたものの、コンドームを用意していなかった。
温泉に来る途中、ドラッグストアで買って来た。
彩が呆れ顔でため息をついた。
言いたいことは、わかる。
お互いにがっつく年でもないんだから、せめて夜まで待てと言いたいのだろう。
だが、俺は俺で、待てない理由がある。
それに、がっつきたくなるだけ、まだ若いのだと考えて欲しい。
俺は彩の腰を抱き寄せ、首を伸ばしてキスをせがんだ。
彩は諦めて、俺の首に腕を回し、キスをくれた。
そっと触れて、軽く下唇を銜えられた。
唇が離れて、ふと目を開けると、彩もまた目を開けていた。瞳の中の互いの姿が見えるほど、近く。
もう一度キスしようと目を閉じたけれど、彩の唇は降りてこなかった。彩の唇は俺の耳朶に触れ、甘噛みして、ペロッと舐めた。
「なんだかんだ言って、乗り気だろ」
俺は彩の首筋に舌を這わせ、彼女の服の裾に手を滑り込ませた。
「この柔らかさ、ホッとするわぁ」
彼女の胸に顔を埋め、呟いた。
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「そうか?」
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