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17 理想のかたち
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初めは杭のように豪快に突き刺さった言葉も、時間とともに劣化して、脆くなっていった。今では爪楊枝ほどに小さくなったけれど、それでも、ふとした時に急所に触れて、つんざくような痛みを与える。
杭は小さくなったのではなく、無数の爪楊枝に姿を変え、身体のあちこちに僅かな痛みを与え続けている。
離婚してもなお、私を蝕む、元夫の言葉。
私は、その呪縛から解放されたい。
私みたいな馬鹿な女でも、立派に子供を育てられるのだと、見返したい。
「そんなクソ野郎の言葉に縛られる必要なんか――」
「もう……逃げたくない……」
私はグイッと、手の甲で涙を拭った。大きく息を吸い、顔を上げる。
「私……離婚する時……逃げたの。元夫に言いたいことを一つも言えないまま、逃げたの。だから、もう……逃げたくない。怖がりたくない」
「俺と一緒にいることは、逃げることか?」
智也の表情や声が優しくて、涙が止まらない。
いっそ、鼻で笑って追い出してくれたら、楽なのに。
「わからない。けど……智也のそばは居心地が良くて……良すぎて……」
「どうして再婚しないんだ?」
「え?」
「彩に再婚の意思がないのは、子供のためか? 結婚に希望を持てないからか?」
私は、膝の上で両手を組み、強く握った。とても、強く。指先が赤くなり、爪が白くなるほど。
「私が再婚したら、きっと元夫は養育費を払わなくなる……から……」
「養育費……?」
智也の顔が、見れない。
お金目当てに再婚を渋っているように思われるのは、やはりいい気分じゃない。けれど、事実。
「離婚する時に決まった養育費の額は、私が独身であることが前提なの。再婚して、相手の収入が子供を育てるに十分だと計算されたら、減額かゼロになる可能性もある」
「そもそも、取り決めはどうやって?」
「……調停で……」
「その調停で、お前が再婚したら減額されるって決まっているのか?」
私は首を振った。
「取り決めを変更するには、変更の申し立てをする必要があるの」
「じゃあ、お前は、再婚したら元夫が養育費の減額を申し立てると思ってるのか?」
頷く。
「元夫は……自分のものを他人と共有したりしない……から……」
「自分のもの……って――」
「他人の戸籍に入った子供たちに、養育費を払い続けたりはしない」
「いや、さすがにないだろ。子供たちは元夫の所有物じゃないし、お前が再婚したからって共有とか――」
「そう言われたから!」
思い出したくもない記憶が、鮮明に浮かぶ。
調停が成立した日。それまでは別々に面談していた夫婦を同室に揃え、同意内容を確認した。
事前に知らされていたこととはいえ、怖かった。
人前でボロを出すような人ではないとわかっていたけれど、その姿を見ること自体が苦痛で、恐怖だった。
部屋に入った瞬間、吐きそうなほどの煙草の匂いがした。
調停なんてストレスの多い場所で、彼が煙草を我慢できるはずもなく、恐らく待機時間毎に喫煙場所に行っていたに違いない。
そういうことをわかってしまう自分が、嫌だった。
杭は小さくなったのではなく、無数の爪楊枝に姿を変え、身体のあちこちに僅かな痛みを与え続けている。
離婚してもなお、私を蝕む、元夫の言葉。
私は、その呪縛から解放されたい。
私みたいな馬鹿な女でも、立派に子供を育てられるのだと、見返したい。
「そんなクソ野郎の言葉に縛られる必要なんか――」
「もう……逃げたくない……」
私はグイッと、手の甲で涙を拭った。大きく息を吸い、顔を上げる。
「私……離婚する時……逃げたの。元夫に言いたいことを一つも言えないまま、逃げたの。だから、もう……逃げたくない。怖がりたくない」
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いっそ、鼻で笑って追い出してくれたら、楽なのに。
「わからない。けど……智也のそばは居心地が良くて……良すぎて……」
「どうして再婚しないんだ?」
「え?」
「彩に再婚の意思がないのは、子供のためか? 結婚に希望を持てないからか?」
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「私が再婚したら、きっと元夫は養育費を払わなくなる……から……」
「養育費……?」
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「離婚する時に決まった養育費の額は、私が独身であることが前提なの。再婚して、相手の収入が子供を育てるに十分だと計算されたら、減額かゼロになる可能性もある」
「そもそも、取り決めはどうやって?」
「……調停で……」
「その調停で、お前が再婚したら減額されるって決まっているのか?」
私は首を振った。
「取り決めを変更するには、変更の申し立てをする必要があるの」
「じゃあ、お前は、再婚したら元夫が養育費の減額を申し立てると思ってるのか?」
頷く。
「元夫は……自分のものを他人と共有したりしない……から……」
「自分のもの……って――」
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「いや、さすがにないだろ。子供たちは元夫の所有物じゃないし、お前が再婚したからって共有とか――」
「そう言われたから!」
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事前に知らされていたこととはいえ、怖かった。
人前でボロを出すような人ではないとわかっていたけれど、その姿を見ること自体が苦痛で、恐怖だった。
部屋に入った瞬間、吐きそうなほどの煙草の匂いがした。
調停なんてストレスの多い場所で、彼が煙草を我慢できるはずもなく、恐らく待機時間毎に喫煙場所に行っていたに違いない。
そういうことをわかってしまう自分が、嫌だった。
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