最後の男

深冬 芽以

文字の大きさ
上 下
127 / 212
15 女の顔、母親の顔

しおりを挟む

 ぼんやりと頭から熱いシャワーを浴びていた。

 今週は目まぐるしい一週間だった。

 毎日ホームルームに出向き、謹慎中の京本たちに会って聞き取り調査をして、帰社してから通常業務をこなす。睡眠時間が平均三時間で何日も耐えられるほど、もう若くはないと思い知った。

 人は、こういう時に思うのだろうか。



 誰かが待つ家に帰りたい、と。



 実際、俺も思った。

 疲れて帰って、たとえ先に寝ていても、誰かがいてくれるだけで、手作りの食事がテーブルに置かれているだけで、何かが違うのではないかと。

 そして、その『誰か』は、一人しか思い浮かばなかった。

 シャワーを止めると、掃除機をかける音が聞こえた。

 数か月前は、自分の家に自分以外の誰かがいるなんて、想像もしなかった。

 長く一人暮らしをしていたから、自分の領域に他人を入れることに嫌悪感があったし、そういう意味では軽く潔癖症になりつつあったと思う。

 それが、真心と一緒にいる彩を見て、抵抗なく家に入れる気になった。むしろ、抵抗があったのは彩の方だったろう。

 彼氏の家に初めて遊びに行く、みたいに緊張気味だったのを覚えている。



 千堂の家に行った時も、あんな感じだったんだろうか?



 考えると、イラっとした。

 出かける準備をしてリビングに戻ると、大きなバッグが目に入った。

「今日、泊まれんの?」

「帰るよ?」と、彩が言った。

 答えになっていない。

「どうして?」

「仕事、持ち帰ってるんでしょう? 休み中に食べられるように、大目に作り置きして――」

「子供は父親のところか?」

「……うん」

「じゃあ、泊まれるんだな」

「……うん」

 彩の扱い方に、慣れてきたと思う。

 同じように、彩も俺の扱い方がわかってきただろう。



 だから、居心地がいい。



「買い物に行くか」

「ん。何が食べたい?」

「カツカレー」

「好きだね、おじちゃん」

「おじちゃん、言うな」

 彩が、ケラケラと笑う。

 つられて、俺も笑う。

 たったそれだけのことで、疲れを忘れられた。

 俺がカートを押し、彩が食材をカゴに入れて行く。はたから見れば夫婦。そう考えただけで、少し嬉しくなった。

 カゴいっぱいの食材を袋に詰めて、カートに乗せて出口まで転がして行き、袋を持ち上げようとした時、三つある袋全てを、彩が持とうとした。俺はギョッとして彩の手から大きな二つを取り上げ、パンなんかが入った軽い袋を彩に持たせた。



 また、だ。



 彩が驚いた顔をして、それからふっと笑う。

 何度か一緒に買い物をしたが、いつもそうだ。気のせいじゃない。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

絶体絶命!!天敵天才外科医と一夜限りの過ち犯したら猛烈求愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
絶体絶命!!天敵天才外科医と一夜限りの過ち犯したら猛烈求愛されちゃいました

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...