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14 欲しいものと必要なもの
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しおりを挟むゴールデンウイークの三日前。
私と宮野さんは駅前の居酒屋にいた。安定期に入り、悪阻も治まった彼女は、少しふっくらしてきた。
「今日もお疲れ様でした!」
宮野さんのグレープフルーツジュースのグラスと、私の黒ウーロン茶のグラスが、カシャンと音を立てて擦れた。
「すみません。急に誘っちゃって。お子さんは大丈夫でした?」
「大丈夫」
宮野さんが出産を決意して以来、時々ランチに誘ってくれたりして、親睦を深めてきた。
京本さんとの一件を見られていることもあって、智也、千堂課長とのことも話した。全てではないけれど。
「慣れました? 課長補佐」
「まだまだ、憶えることが多くて。それに、営業って人が相手だから、私には難しくて」
「確かに。でも、だからこそのやりがいもありますから」
「まだ、やりがいを感じられるほど、何も出来てないですけど」
正社員となって一か月。
今はまだ、取引先に同行して、挨拶をして回るくらいしかしていない。
自社開発していないスーパーや飲食店を相手に、オリジナル商品を提案する。
オープン〇周年記念の饅頭に店名を入れたり、そのパッケージを考えたり。饅頭に限ったことではない。クッキーの焼き印のデザイン、マグカップのデザインなど、要するに取引相手が飲食に関わるというだけで、何でもあり。食品以外に関しては、二課、三課と協力することもある。
「最近、溝口課長とは会っていないんですか?」と、宮野さんが大根サラダを噛みながら、聞いた。
「うん。忙しくて、ね」と、私は鶏串を皿に取る。
「仕事でトラブってるの、知ってます?」
「え?」
「近藤さんがやらかしたみたいで、課長と谷さんでフォローに入ってるんですけど、部長まで引っ張り出されてるみたいです」
知らなかった。
外勤が増え、同じ階とはいえ、智也と顔を合わせることもあまりなくなっていた。自分のことで精いっぱいだったのも、ある。
部下の不始末だから課長がフォローするのは当然だろうけれど、主任である谷さんまでとなると、余程だ。その上、部長までとは。
そういえば、最近近藤さんを見ていない……?
「そんな大事になるなんて、何をしたんですか?」
「枕営業」
「は!?」
「ざっくり言うと、そうらしいです」
「近藤さんが!? まさか――」
仕事に対して真面目とは言えない彼女が、枕営業してまで仕事を取ろうとするなんて、信じられない。それ以前に、近藤さんは担当を持っていないはず。
『独り立ちには、まだまだだ。何より、本人にその気がない。提携企業を何社覚えているかも怪しいくらいだ』と、智也が言っていた。
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